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バースデイーソング

昨日、33話を投稿をしたら、一気に20ポイントも入りました!評価をして頂いてどうもありがとうございました!、背筋を伸ばして感謝の気持ちを込めて歌いたい気分です(笑)今日も最新作34話を投稿致します。どうぞ宜しくお願い致します!


 レインは倒れている杉山や5人組の医者と、背広を着た10人の男たちの息の根を完全に止めた。

 

 まだ杉山を含めた男たちの体には温もりが残っていた。

 

 男たちは眠っているように見えた。


 今にも目を開けて体を起こすと再びレインたちを襲撃するように思えた。

 

 巻き込まれてしまった慎二は、全く慌てず微動だにしなかった。

 

 ようやく目を開けた慎二は立ち上がって倒れている杉山以外の男たちの側に行くと、一人一人の顔に手をかざした。


 次々と男たちの顔が蝋のように溶け出した。


 「やはりジュルガ族だったのか」レインは戸惑っていた。男たちの正体は、南方にある魔法国、ベグガラ国にいるジュルガ族だった。

 

 ジュルガ族とは、ベグガラ国で盗賊団としてマークされているタチの悪い手の焼く連中の事だった。

 族と名乗ってはいるが、先住民とは一切関係がなく、勝手に名乗っていた。

 

 ベグガラ国の警備の魔法使いが何度も取り締まりを強化しても、ジュルガ族は素早い身のこなしと、変幻自在に顔や姿を変えていく変わり身の早さで相手を煙に巻くため、実に厄介な存在だった。

 

 ジュルガ族は魔法が使えない分、変化能力と言語能力が優れていた。

 

 おそらく、倒れている奴等は、あれだけ日本語を巧みに使えたので、ベグガラ国から現世に偵察隊として送り込まれたのだろう。

 

 ベグガラ国は犯罪が多い魔法国だ。ベグガラ国は、長年、自国で紛争が繰り広げられてきた歴史がある。魔法使いとジュルガ族の争いだ。

 

 魔法使いたちは繁栄と平和のためにベグガラ国を守る戦いをしていたが、ジュルガ族はベグガラ国を支配するために戦っていた。

 

 隣国の魔法国が仲裁や停戦を呼び掛けても、何らかの小さな事が引き金となって、また戦火が上がっていた。今も魔法使いとジュルガ族の戦いは続いている。


 残念だが、杉山は人間だった。半分だけ、いや、3割だけ本物の人間だった。

 

 間違いなくジュリアの腰の手術を担当した医師の杉山張本人だった。

 

 杉山は何かの切っ掛けでジュルガ族に目を付けられて狙われてしまったのだろう。杉山の頬にある傷の血から、紛れもなくジュルガ族の濃い血の臭いがする。杉山はジュルガ族の血を飲んだに違いない。

 

 ジュルガ族には血液に強力なウィルスがあった。

 感染してしまうとジュルガ族と同じ細胞に変わってしまうのだ。

 

 現段階では非常に治療は難しく、魔法国でワクチンや治療方法が見つかっていない。現世ともなれば、尚更治療や回復の見込みは低いはずだ。

 

 杉山は欲望に負けて、肉体も精神も洗脳されたのかもしれない。

 確かな技術を持つ医者であっても、心が歪んでいたら、悪意ある本音を隠すことはできない。

 

 「慎二、どうして分かったんだ?」レインは杉山と話していた最初の段階では、全く男たちの正体を見抜けなかった。

 

 異変は感じ取っていた。

 

 杉山に情けを懸けたせいだ。ジュリアに対し良くしてくれたので、情が移ってしまったのだ。

 

 ジュリアの手術を成功させた杉山を疑いたくはなかったし、悪く思いたくもなかったし、最後まで杉山の容疑を否定して身の潔白を証明したいとさえ思っていた。悪い人間だとは考えたくもなかった。

 

 レインは杉山のある動作と違和感で、一変に正体がわかった。

 

 「慎二、教えてくれないか?」レインは慎二に同意、同感を求めて、既に分かりきっているが答を確かめたかった。

 レインは改めて慎二の感覚や力に畏敬の念を持った。

 

 「簡単なことさ」慎二は落ち着いていた。

 

 「なんだ?」レインは慎二の返事に期待をした。


 「杉山の汗と血さ。臭いが異常だった。それに右側の頬だが、3センチほど肌が溶けて茶色くなった皮膚が飛び出ていた。明らかに人間の肌が侵食されたように思えたんだ。杉山は既に人間として死にかけていたんだ」慎二は瞑想で高めた無意識を、優れた感性に変換させて目覚めさせたというのが正解かも知れない。慎二自身の超能力は自由とカオスだ。つまり、底が知れないという事になる。

 

 慎二が周りから脅威的な存在に見られたとしても、本人はどこ吹く風のように無頓着に振る舞うはずだ。 

 

 「その通りだよ、慎二」レインはジュリアの着替えを手伝うことにした。あまり時間はない。外は陽が上っていても廃墟と化した街では、風が強く感じて寒さが身に染みる。

 レインは、ジュリアが着ている病院専用のパジャマの上から、私服を重ね着させることにした。レインは無理強いさせないで優しくジュリアの服を着せていく。

 

 慎二はその様子を黙って見つめていた。妹を想う優しい兄の姿。

 

 銀次がトイレから戻ってきて驚くと、慌てて病室の扉を閉めた。

 

 「これはこれは、また随分と暴れたみたいで」銀次は足の踏み場を確保しながらゆっくり前に進むと、慎二が座っていたパイプ椅子に腰を下ろした。

 

 「で、この騒ぎは一体なんだい?」銀次は革ジャンからガムを取り出すと口の中に放り投げた。

 

 慎二は銀次に僅か25分間に起こった緊急事態を事細かに説明した。

 

 「わかった。そのジュルガ族の始末は俺に任せな。杉山医師だけは残しておくべきだ。看護師や医療スタッフに、杉山本人だと確認させるためにも遺体を残した方が後のためにも良いだろう」銀次が立ち上がった時だった。

 

 ジュルガ族の亡骸はガスが漏れているような音を立てて煙を噴き出すと萎むように蒸発していった。

 一瞬にしてミイラにまでなると、水溜まりのような水分を辺り一面に残して消滅していった。

 

 杉山の亡骸は消滅せずに横たわっていた。


 レインはジュリアの着替えを終わらせると、慎二と銀次に「瞬間移動をして紋絽病院から脱出する」と言った。

 

 銀次がその意見に反対した。

 

 「担当医の杉山が消えたりジュリアが消えたとなれば、他の医者や看護師たちが俺たちを怪しむぞ」銀次は病室の扉を睨みながら言った。

 

 「その心配はいらない」慎二は病室から出ていくとナースステーションまで歩いていった。

 驚いて顔を見合わせたレインと銀次は、慎二の後に続いて歩いた。

 

 「すみません」慎二はナースステーションの前に着くと、ファイルに何かを書き込んでいる若い看護師に話しかけた。

 

 「はい。何か御用でしょうか?」若い看護師は笑顔を見せて元気よく返事をした。

 

 「あれ? あの、ひょっとしたら、あの、俳優の三杉慎二さんじゃないでしょうか?」若い看護師は色めき立って目を潤ませると、両手を組んで興奮気味に立ち上がった。

 

 「よく周りから、似ているって言われるんですよ。残念ながら違います」と慎二は話すと肩を竦めてから落胆する素振りを見せた。

 

 「あっ、やっぱりね。こんなところにいるはずなんかないわよね」笑顔の消えた若い看護師は諦めて椅子に座り直した。

 

 「それで御用件は?」

 

 「今日、他の看護師と医療関係者は何人くらい来ていますか?」

 

 「すみません。お答えできかねます」

 

 「わかりました」

 

 「なぜ、そんなことを聞くのですか?」


 「909号室のジュリアさんの友達なんですが、実は今日、ジュリアさんの誕生日なんです」

 

 「あらまあ!」

 

 「こちらの方でケーキを用意しましたので、9階の看護師さん全員に御願いして、サプライズでバースデーソングをジュリアさんに歌って欲しいのです」

 

 「あらまあ! 素敵! わかったわよ。それなら御安い御用です。9階の看護師は、本当は内緒だけど、今日は7人もいますので、今から全員を呼んで話してみますね」看護師は立ち上がってピースをした。

 

 「どうもありがとうございます。あのう看護師さんのお名前は?」

 

 「るみです」

 

 「るみさん。7人をすぐにジュリアさんの病室に呼んでもらえますか?」


 「昼食後のお昼休みには呼べます」

 

 「それじゃ遅い。ジュリアさんは、今日の午前11時20分に生まれたので、その時間に間に合わせたいのです」

 

 「あらやだ! あと10分しかないじゃない! ちょっと、ここでお待ちくださいね。すぐに戻りますからね」看護師るみは早足でナースステーションの奥にある部屋に行った。

 

 慎二は後ろを向いた。

 

 レインと銀次は慎二を見守っていて、何も声を掛けずにいた。

 

 るみは部屋から看護師を4人連れ出してきた。

 皆、サプライズに協力してくれるとの事だった。

 

 「あとの2人はナースコールで呼ばれて仕事をしています。私を含めて5人ですか大丈夫ですか?」るみは時計を見ながら落ち着かないでいた。

 

 「大丈夫ですよ。構いません。では今から病室に行きましょう。静かにしてください。ジュリアさんは、うたた寝をしていますからね」慎二は看護師たちを手招きで呼び寄せると慎二の後ろに並ばせた。

 

 看護師たちの後ろにレインと銀次が並んでいた。

 

 慎二はジュリアの病室の扉を静かに開けると、ジュリアは眠ったふりをしていた。

 

 ジュリアはレインと意識のダイブをし合っていて、既に状況を理解していた。

 

 杉山の姿は跡形もなく消えていた。ジュリアが本調子ではない魔法を使って遺体を移動させたのたろう。

 

 「今、眠っています」慎二は自分の口に指を当てながらジュリアの傍まで行くと、先に病室に入ってきた看護師の、るみと共に、扉から顔を覗かせている4人の看護師を手招きで呼び寄せた。


 レインと銀次も静かに入ってきた。

 

 慎二は看護師たちをベッドの周りに囲むように移動させると、両手を上に挙げてバースデイーソングを歌うまでのカウントを10秒前から指おり数えていった。

 

 「5」

 

 「4」

 

 「3」

 

 「2」

 

 「1」

 

 「0!」

 

 「ジュリアさ~ん! 誕生日、おめでと~う! ♪ ハッピーバースデイー・トゥ・ユー♪」看護師たちは嬉しそうに拍手をして歌った。

 

 ジュリアは体を起こしてバースデイーソングを聞いている。

 

 歌い終わると盛大な拍手が巻き起こった。

 

 「ケーキはどこかしら? ねぇケーキは?」るみは辺りを見てから慎二に聞いた。

 

 慎二は何も答えずに微笑むと、両手を看護師5人の前に差し出して掌を閉じたり開いたりを2、3回ほど繰り返した。

 

 看護師たち全員が、気を失うように目を閉じると、ジュリアのベッドに倒れて、そのまま眠ってしまった。

 

 慎二は超能力で看護師たちに、自分達の存在を消す催眠を掛けた。

 

 看護師たちが30分後に無事に目覚めても、慎二たちの事は何も覚えてはいない。

 

 慎二は看護師たちに、杉山の存在を消す催眠もしていた。確実に効果のある催眠で超能力だ。

 慎二は看護師たちを、誰1人、傷つけてはいない。

 

 残り2人の看護師を探さなければならない。慎二は目を閉じると心眼を使って居場所の特定を図った。

 

 どうやらナースステーションに戻っていて、居なくなった看護師、るみの心配をしているようだ。

 

 「慎二、銀次のマンションに行くぞ。あと、手術に掛かった費用、お金を全部渡しておくから、俺の代わりに看護師に支払っておいてくれないか? 頼むぞ」レインはジュリアを抱き抱えると瞬間移動をしようとした。

 

 「わかった。レイン、待て! 待ってくれ! ジュリアに1つ聞きたい事があるんだ。ジュリア、誕生日は何時(いつ)だ?」

 

 ジュリアはレインに安心しきって強く抱きついた。

 

 「私の誕生日はとっくに終わったわよ」ジュリアは素っ気なく言うと、レインと共に瞬間移動をして消え去った。

 

 銀次は苦笑いをすると慎二に向かって手を振った。

 銀次は瞬間移動をする間際に新しいガムを慎二に投げた。

 

 慎二は右手でガムを受け取ると、そのままガムを口に入れて、ナースステーションまでゆっくりと歩いていった。

 

 

 

 

つづく

どうもありがとうございました!

また頑張ります!

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