ダンジョン・魔女の推測
レビューを頂きました! ありがとうございます!
そのお陰でしょうか、前回の話を読んでくれた方の数が自己最高を記録しました!
レビューを書いて下さった方、本作を読んでくれた方々、本当にありがとうございます!
1
迷宮主が消滅した場所に落ちている大鎌と魔石を拾い上げるシヴァ。
ダンジョンにこもって三日、初の戦利品である。
しかし――
「大鎌かあ……」
身の丈ほどもある大鎌を、片手で難なく何度か振り回すが、しっくりとこない。
EFⅩⅥでは、武器は剣、斧、槍、弓の四種類のカテゴリーに分けられ、それぞれ熟練度が設けられているのだが、そのカテゴリーには鎌が存在しない。
何度振り回しても、しっくりとこないのはその為である。
大抵の武器は熟練度に支えられて達人のように扱えるが、カテゴリーにない武器はシヴァ本人の実力で振るわなければならない。だからといって、武術に明るくないシヴァに扱えるわけもなく。
とはいえ、仮にも迷宮主が使っていた物である。
上等な得物であることはわざわざ『コンフィグ』で鑑定するまでもないだろうから、売却するという選択はない。ないのだが、シヴァには使い道がないのも確か。
さてどうしたものかと頭を悩ます。
(うぅ~ん……しばらくはインベントリでこやし、だな。誰か適正がある人が見つかったら、売るなり譲るなりしよう)
悩んだ挙句、そう結論付けた。
大鎌をインベントリに放り込んでから、もう一つの戦利品である魔石に目を向けると、シヴァの目がだらしなく垂れた。
迷宮主の魔石は他の魔石と違って独特の色合いをしていた。
禍々しいまでの黒である。しかも、その黒がまるで生きているかのように流動していた。
どこまでも禍々しい一品であったが、シヴァにとって迷宮主の魔石が手に入ったことは望外の喜びであった。なぜなら――
(これで魔石仕掛けの置物が作れる!)
――からだ。
シヴァが作ろうとしているのは、既存の機能を全て盛り込んだ特注製である。その為に必要と言われたのが、キメラやグリフォンといった上位種の魔物から取れる魔石だったのだが、シヴァが身を置いている商業都市ディンクの周辺には上位の魔物などいない。
いつか遠出でもして狩りにいこうと計画していたのだが、思わぬ形でそれ以上の物を手に入ってしまった。
迷宮主の魔石なのだ。キメラから取れる魔石などよりも上等なのは明白である。
シヴァは小躍りしたい気分で魔石をインベントリに仕舞った。帰ったらすぐに魔道具屋『夢の園』へ受注しに行こうと決めながら。
2
「他に取るものは……ないよな?」
ぐるりと室内を見渡してみても何もないので、シヴァはベアーチェに聞いたのだが、
「…………」
当の彼女はなにやら思案中であるらしく、シヴァの声が耳に届いていないようだった。
ベアーチェへと近寄り、彼女の肩を叩くことで注意を向ける。
「どうかしたのか?」
「ええ、少し迷宮主の言葉で気になることがあってね」
気になること? シヴァが言うと、ベアーチェは頷いたのち、しばし考えを纏める様子をみせてから、表情を引き締めて語り出した。
「シヴァは人間や亜人がどうやって魔法を得たか知っているかしら?」
「大まかにならな。確かこうだ――」
遥かな昔、二人の人間と二人のエルフが神々が住まう、空と大地と冥府と宇宙に存在する『知恵の炎』を盗もうと画策した。
四人は枝を持ってそれぞれの領域に忍び込んだ。
数年後、空と大地と冥府から三人が炎を盗んで戻ってきたが、宇宙へ行ったエルフはついぞ帰ってこなかった。
宇宙へ行ったエルフのことは諦め、三人は持ち帰った炎を一つにし、そこから様々な知恵を取り出した。
その中に、目当ての魔法を見つけた。
三人は他の人間やエルフにも魔法や知恵を教えた。
だが、それを知った神々は怒り、三人を昏い洞窟へと放り込んだ。
「――長い時が流れ、二人の人間はドワーフとなり、エルフはダークエルフとなった……だっけか」
「ええ。そこで思い出して、シヴァ。あの迷宮主は自分の事を遥かな昔に神々によって産み出され、遥かな昔に忘れ去れたと言ってたわ」
「言ってたな」
「神話の中で語られる、魔法を盗んだ三人が罰のために放り込まれた場所はどこ?」
「どこって、どうく……っ!?」
そこまで言って、シヴァもベアーチェが言わんとする事に思い至った。
「そう、洞窟。ここみたいに昏い洞窟よ」
ダンジョン――今でこそ迷宮という意味合いが強いが、本来の意味は地下牢のことを指す言葉である。
そして地下牢とは、罪を犯した者が入る所である。
知恵の炎を盗んだあの三人が入れられ、長い長い時間を過ごした場所こそ、洞窟という名の地下牢ともいえる。
「つまりお前は、神話の三人が入れられていた洞窟こそが」
「始まりの迷宮――ダンジョンだったのかもね」
確かに、罪を許された三人が洞窟から出たあと、その洞窟がどうなったかは神話では語られておらず場所もはっきりとはしていない。
つまりは、歴史から忘れられた存在。
その洞窟が長い時を経てここまで成長し、かつ、枝分かれして同胞を増やしてきたと、ベアーチェは言うのだ。
「むぅ……そう言われればそうも捉えることができるが」
いくらなんでも、こじつけに過ぎるのではないか。シヴァの表情がそう語るも、ベアーチェの持論は続く。
「神話では他にこうあるわ。洞窟で暮らす内、ドワーフは鉱物に詳しくなったと」
「うん? ……ああ、そういやあったな」
「話は変わるけど、シヴァはダンジョンでしか採れない魔鉱石の錬成の仕方を知ってるかしら」
「いや、知らないな。普通に高温の炉に放り込むんじゃないのか?」
「いいえ、それだけじゃ魔鉱石は錬成できない。魔鉱石は魔石と同じく、空中にある魔素を取り込んで放出する性質を持っているの。その性質のせいで炉の熱が伝わらない」
なせなら魔素が熱を遮断してしまうかららしい。
「その問題を解決するためには、まず最初に魔鉱石に『マナゼロス』の魔法をかけるのよ」
「『マナぜロス』……確か魔石に魔素を取り込ませないようにする魔法だったか」
「ええ、そうやって魔素を遮断してから、炉で錬成するの」
これが魔鉱石の錬成の仕方。と説明を終えるベアーチェ。なるほど、とシヴァは納得するも、この話がどうさっきの神話に繋がるのかはさっぱりだった。
「そしてこの練成法を編み出したのが、ドワーフよ。どの国の研究者が頭を悩ませていたにも関わらず、彼らは魔鉱石が発見されて数年という短い時間で、解決策を見つけ出したの」
「そいつぁ……」
いくらなんでも話が上手すぎる。
「彼らは生まれつき知っていたのかもしれないわ。魔鉱石の練成法を。彼らは生まれつき覚えていたのかもしれない。遥かな昔、祖先が地下牢というなの洞窟で暮らしていたころの事を。そこで掘り出した数々の鉱物の中に、魔鉱石があった事を」
「…………」
言われれば言われるほど、ベアーチェの言うとおり、神話に語られる三人が入れられた洞窟こそがダンジョンの始祖であったように思え、シヴァは考え込んでしまう。
「まあ、今話したことは全て私の推測なのだけれど」
「だが、考えさせられる話ではあったな。報告する価値があるくらいに」
「そうね、報告はしましょう。そのあとの研究は、考古学者がしてくれるでしょうし」
話はこれでお終い。と、ベアーチェは息を吐いて言った。
「ベアーチェはしないのか?」
「私は魔女よ? 畑が違うわ。それに、研究したいことが山ほどできたもの」
言って、クスリと笑いながらシヴァを見るベアーチェだった。
3
「よし、それじゃあダンジョンを出るか」
「また三日かけて地上に戻るのね……面倒だわ」
ベアーチェが溜め息を吐く。
行きも歩きなら帰りも歩き。だからこそ、ダンジョンに潜る際は入念な準備と食糧消費の計画・計算が必要となる。のだが……ここにそれを無視する規格外がいることを、ベアーチェは失念していた。
「ああ、それなんだが試したい魔法があるんだ」
「魔法? 許可するわ」
「いや、すぐに認めてくれるのはありがたいんだが、何の魔法か尋ねろよ」
「危険な魔法なのかしら?」
「いや、違うが」
「なら問題ないわ。それに、効果なら使えば分かるもの。時間の無駄だわ。さ、分かったのなら使ってみて?」
どこまでも己の知的欲求に正直な魔女である。
「はいはい。それじゃ、失礼して」
シヴァは苦笑しながらベアーチェの腰に手を回し、魔法を唱えた。
「『テレポーン』」
二人の周囲の空間がぐにゃりと歪んだかと思うと、次の瞬間には迷宮主の間から掻き消えた。
一秒後、ダンジョン入口から程近い、とある人気の無い路地裏。その一角の空間が突如として歪み、次にはシヴァと彼に腰を抱かれた格好のベアーチェが現れたではないか。
「よしっ、成功!」
周囲を見渡し、路地の向こうから聞こえてくる喧騒を耳にして、魔法が成功したことにガッツポーズを取るシヴァ。
「……は? あ、え?」
対してベアーチェは、物事を正しく理解できずに目と口を丸くして呆然としており、何度も周りに首をめぐらせていた。
「…………あ! ここダンジョンの町だわ!?」
ようやく自分たちがどこに居るか理解したらしい魔女が驚きの声をあげた。
「私たち、さっきまでダンジョンの最下層にいなかったかしら?」
「そうだな、いたな」
「なのに今はダンジョンの町にいるわ?」
「魔法を使って戻ってきたからな」
「さきほど君が使った『テレポーン』なるものね……」
シヴァが使った魔法『テレポーン』は、言うまでもなくEFⅩⅥの魔法であり、ダンジョンから脱出する効果がある。
むろん、そんな便利な魔法はこの世界に存在しない。
存在しないからこそ、本来はダンジョンに潜る際は入念な準備と食糧消費の計画・計算が必要となるのが常識なのだが……このシヴァという男にかかればこれごらんの通り、この世界の常識などは非常識という地平線の彼方に飛んでいってしまうらしい。
「確かに効果を聞かなかったけど……。ない、これはないわ、シヴァ」
うわぁ……。といったかんじで見てくるベアーチェに、シヴァは苦笑するしかない。
「ドン引くなドン引くな。早く戻ってこれるのは良い事だろう? それとも何だ、三日かけて戻りたかったのか?」
「そんなことはないわ?」
「だったら細かいことは言いっこなしだ。それよりも宿を取って休むことを提案したいのだが」
「あの魔法が細かいことがどうかは議論の余地はあるけども、休むという提案には諸手をあげて賛成ね」
「決まりだ」
パチリと指を鳴らして大通りへ向かおうとしたシヴァだったが、ふとあることに気付いてベアーチェに向き直る。
「なにかしら?」
「いやさ、浮いたままだと歩けないだろ、お前」
「あら、そうだったわね」
迷宮主の部屋の床が棘だらけだったので、その対策として『浮遊の指輪』で体を浮かせたままのベアーチェ。それを思い出して指輪を外すと、足が地に付いた。
「それにフードも」
「それもだったわね」
人間離れした美貌を持つベアーチェ。彼女の美貌はもはや魅了の魔法に匹敵するほどである。
カンストしたステータスのお陰で普通に接しているシヴァであるが、ベアーチェが素顔を晒して通りを歩こうものなら理性を失くした男たちが何人と襲い掛かってくることだろう。実際、幼い頃はそういったことが何度とあったのだから。
ベアーチェは溜め息を吐きながらフードを目深に被る。
急に世界が狭くなった。
三日前までは当たり前の景色だったのに、今ではやたらと窮屈に思えた。
どうやらこの三日間、素顔を晒しながら誰かとともに過ごすというのは思いの外、ベアーチェにとって心地よいものであったようで。
それを自覚し、もう一度溜め息を漏らす魔女。
そんなベアーチェの内心を慮ってか、シヴァがついとフードの縁を持ち上げ、彼女の顔を覗きこむ。
「宿に入ればこんな物しなくて済むからさ、それまでは辛抱してくれよ?」
「……なまいき」
内心を見透かされた恥ずかしさに、フードをつまむシヴァの手を乱暴に叩き落とすベアーチェだったが、シヴァは笑うばかりで効いた様子はない。
(今度後ろから火炎魔法を当てよう)
シヴァなら問題ないだろうから絶対に当てよう、うん。
そう心に決めながら、前を歩くシヴァに小走りで追いかける魔女。フードで隠れたその顔には、歳相応の表情が浮かんでいた。




