ダンジョン・探索のはずが……
1
キャンプを後にしてから十時間ほどが過ぎていた。
シヴァとベアーチェはあれからさらに階層を降り続け、現在の階層は十六階層。
ベアーチェが持つ自己記録にして最高到達階層記録の十五階層をあっさりと越える辺り、シヴァのずば抜けた高い能力が窺い知れる。
その元記録保持者は現在、朝から歩き通しで疲労が溜まったためにシヴァから譲り受けた『浮遊の指輪』で地上から三十センチほど浮いた状態で、彼に牽引される形で迷宮を進んでいた。
「……私が七日以上かけて来た苦労はなんだったのかしらね」
「まあ、その、何だ……ドンマイ」
過去の苦労を偲んで溜め息を吐くベアーチェに、なんと言葉をかけたら良いのか分からなかったシヴァは、適当な慰めの言葉をかけるに終わった。
「ああ、それとそろそろ休憩を挟もう。かれこれ十時間は経っているからな」
露骨な話題逸らしだが、事実でもある。
時刻は午後の五時と少し。夕刻である。だが、それを風景から読み取ることはできない。
分厚い壁に囲まれたダンジョンに潜るものにとっては、午前も午後もない。時間の経過を知らせるのは太陽や月などではなく、時計が内蔵された魔石仕掛けの置物か、己の体内時計のみである。そのため、休憩を挟むタイミングが重要となってくる。空腹や眠気、疲労に襲われてから休憩を取るのでは遅いのだ。
「……そうね、休憩を挟むというのは賛成。また甘いものが食べたいわ? シヴァ」
「了解だ。また適当な場所に『家』を作るから、そのときは警戒を頼むぞ?」
「ええ、心得てるわ」
それからしばらくして、適当な広間をマップで見つけたシヴァは、昨日と同じく『テラ・リア充』仕様でダンジョンの壁をくり抜き、その中に『家』を作って即席のキャンプとした。まあ、即席をいうには室内があまりにも充実しすぎているが。
こうして、時折り休憩を挟みながら探索を続けること三日目。
特に脅威になる魔物が現れないままシヴァたちはついに二十階層に足を踏み入れたのだった。
2
「知ってるかしら、シヴァ」
「何をだ?」
「これまでに攻略されたダンジョンは五つ。一番浅かったもので二一階、一番深かったものでも二五階なの。で、私たちは今何階層にいるのかしら?」
二十階層だな。とシヴァが答えると、「そう、二十階層に私たちはいるの」とベアーチェが反芻し、続ける。
「分かる? 私たちはあと一つ階層を降りたら、一番浅いとはいえ攻略されたダンジョンの主の部屋と同じ階層に到達するのよ? しかも実質あなた一人でっ、過去の攻略に動員された人員はいずれも五千を越えたにも関わらず、あなた一人でここまで来てるのよ?」
「……って言われてもなあ」
この世界に来てまだ数ヶ月のシヴァに、ダンジョン攻略の難しさは実感としてない。
その上、今のところシヴァの脅威となる魔物も現れていない。未だ魔物たちはシヴァの魔法一撃で沈む程度の強さしかないし、ダンジョンもトラップなどがないただの迷宮で、その迷路もシヴァのマップがあれば迷うことなく次の階層へ至れるとあれば、実感など湧くはずもなかった。
「はぁ……強すぎるというのも、時には罪ね。私の語彙では、君が為しえた事を、正しく君に認識させることは無理みたい」
「……どことなく馬鹿にされている気がするんだが」
「実際にしてるのよ」
お分かり? と首を傾げてくる魔女に、シヴァは口をへの字に曲げてムッツリと黙ったのだった。
ベアーチェにシヴァの偉業を正しく認識させる語彙がないのであれば、シヴァにはベアーチェを言い負かせるほどの語彙がなかったからだ。
ともあれ、探索は続いていく。
さすがにここまで来ると、シヴァたち以外に人の姿はない。というよりも、十階層を越えた辺りからマップに人の存在を確認できていなかったのだが。
思った以上にダンジョンの攻略は進んでいないのかもしれない。
「……さて、ここの魔物の強さも測っておくか」
「そうね」
魔物のレベルは一八階層でようやく六〇だった。
二階層降りただけではそう変わりはないだろうが、話題を変えたかったのであえて口にする。
シヴァはマップで適当に近い魔物を探し始めたのだが、あることに気付いた。
迷路がかなり複雑になっているのだ。
「二〇階層は随分とまた、入り組んでいるなあ」
「そうなの?」
「ああ、特に袋小路なっている通路が多いな」
「……詳しく話して?」
マップを見ることができないベアーチェが、詳細な情報をシヴァに求めた。
それをうけて、できるだけ詳細に階層の構造を説明する。
入り組んだ通路はひたすら分岐を繰り返し、時には他の通路と交わっていたり。
とある通路は螺旋階段のように高低差を作り、また、とある通路は道幅が段々と狭くなっていたりする。
そして殆どの通路は、先が行き止まりになっていた。
「……おそらく、複雑怪奇な作りになっているは訪れた人間の方向感覚を狂わせるためね」
「方向感覚を?」
「ええ、高低差や螺旋まである通路を進んでいれば、疲弊が溜まると共に方向感覚を失っても不思議じゃないでしょ?」
「……確かに」
「通路が狭まってたりするのも、その一環だと思うわ。実際に見てみないことにはわからないけど、天井も低くなっていくはずよ」
「だまし絵のように、距離感を狂わそうってわけだ」
正解。とベアーチェが肯定する。
「それでも進み続けた結果、行き止まりだったとしたら?」
「俺だったらその場で大の字になって寝っ転がるね」
「ええ、大抵の人間は心が折れるでしょう。それに、これは魔物に追われている時にも脅威となるわ」
「追われている状況じゃ、正しい道の確認なんてできないからな。対して相手はダンジョンから産まれた魔物。階層の構造なんて把握してるだろうし。袋小路に誘い込まれれば詰みだな」
良くできている。改めてダンジョンが生きていると認識したシヴァであった。
「まあ、こんなに良くできた階層でも、これまでにここまで降りてこられた人間がいたかどうか妖しいもんだがな。もしかしたら一度も使われてないかもしれん」
「私たちが初めてというわけね。だけど、君には階層全体が見れる魔法があるから、どんなに複雑怪奇な迷路も意味を為さないわね」
「だな」
可愛そうなダンジョンさん。と薄く微笑んで、同情の言葉を床に落とすベアーチェ。
さて、肝心の魔物の強さだが、やはりまだレベル六〇台ではあったものの、後半ではあった。
つまり、二階層降りただけで敵のレベルが五つ以上あがったのである。これまでの緩やかな上昇と比べれば、早い。
やはり二〇階層からは別物だということか。ただ、やはりシヴァの敵ではなかったが。
「う~ん……強くはなってるが、まだまだ一撃だな」
「のようね。素材も取れないし、普通なら赤字だわ」
「だよなぁ。まあ、消費してるのは買い溜めといた食料くらいだから良いんだけどさ」
「私は大事な研究時間も消費してるわ?」
「いや、この探索、もとはベアーチェが画策したもんだからな?」
消し炭になった哀れな魔物たちを素通りしながら呑気に二人。
それからは、これまで同様のペースで階層を降りていく。いや、これまで以上の速度かもしれない。
体力のないベアーチェに『浮遊の指輪』を渡したことで、彼女の疲労をあまり考えないですむようになったのは大きい。
体力のパラメータがカンストしているシヴァはほぼ疲れ知らずなので、変わらずにペースを維持できる。
できるのだが、階層を重ねる度に複雑になっていく迷宮を歩くというのは、マップがあってもやはりしんどい。精神的に。
そんな中、二六階層まで降りてきたシヴァがとった行動は、ベアーチェを驚かせるものであった。
「よし、壁をぶちぬこう。ぶっちゃけ路順通りに歩くのが面倒臭くなってきた」
「簡単にいうけど、あの変な筒で壁を掘りぬくの?」
ベアーチェの言う変な筒とは、キャンプを作るときに壁を掘るのに使っている『テラ・リア充』の『アダマドリル』のことだろう。
「いや、あれだと時間がかかるからな。使わない」
シヴァは下層へ至る道がある方角の、手近な壁へと歩きながら答えた。
「ではどうやって?」
「ベアーチェ、こんな言葉を知ってるか?」
うん? と首を傾げるベアーチェに、
「物理最強」
シヴァはニヤリと笑って壁をぶん殴った。
ドゴンッ!!!!
たったそれだけで壁が陥没し、まるでハンマーで叩いたかのような音が鳴り響いたかと思った次の瞬間には、陥没した部分が木っ端となって吹き飛んだ。
「よっし、いけるな!」
シヴァはぽっかりと穴が開いた壁を見て満足げに頷いたが、反対にベアーチェは唖然と壁を見ていた。
「…………大概のことにはもう驚かないと思っていたけど、これはいくらなんでも……」
シヴァの拳で叩き壊された壁の厚みはどう見ても三〇センチはあった。それを拳の一撃で破壊してしまった。魔法もスキルも一切使わずに、だ。
何度も言うが、ダンジョンの壁と言うのは本来人間の拳でどうこうできるものではない。
では、それをどうこうできてしまうこの男は本当に人間なのだろうか?
人間の皮を被った何かではないのか。
――ゾクリ。
その考えに至ったとき、ベアーチェの背中に冷たいものが走った。
「ベアーチェ、ボーっとしてないでさっさと通り抜けるぞ。もたもたしてると穴が塞がってしまう」
ほれ。と手を差し出してきたのは、自分がどんなことをしでかしたのか全く理解していない、のほほんとした男であった。
そんなシヴァの顔を見た瞬間、先ほどの自分の考えが馬鹿馬鹿しく思えてきた。
(こんな間の抜けた男に、私は何を考えているのかしら)
差し出された手を苦笑をもって取る。
「さぁて、どんどん壁をぶちぬくか。これからはもっと早く下層に行けるようになるぞ」
「それは楽しみね」
それからは、魔物を消し炭にする魔法の攻撃音や断末魔に加え、ダンジョンの壁を破壊する破砕音が迷宮に鳴り響くようになった。
3
「……はぁ。壁を殴るのも飽きてきた」
「贅沢な悩みね」
「いやだって、一階層につき二〇枚近くの壁をぶち抜いてるんだぞ? 疲れはしなくとも飽きはするさ」
「だけどそのお陰で私たちは前人未到の三〇階層まで来れたわ?」
そりゃそうだが……。と歯切れ悪く答えるシヴァ。
ベアーチェが言ったように、二人は今しがた遂に三〇階層にまで足を踏み入れていた。
「それでも飽きるもんは飽きるしなあ」
なおも愚痴るシヴァ。力がカンストしている彼をもってしても、壁をぶち抜くという行為は面倒らしい。いや、簡単に壊せるからこそかもしれない。
そんなシヴァに、ベアーチェが言う。
「なんなら魔法で壊せば?」
それはただの冗談であったのだが――
「魔法。魔法かぁ……」
当のシヴァは真剣に考え始めてしまった。
「ただ、威力がありすぎて床を抜きそうで恐いんだよなあ」
その言い草に、笑いそうになるベアーチェだったが、これまでシヴァが使ってきた魔法の数々が全て下級魔法だったことを思い出すと、笑みを引きつらせた。シヴァが中級以上の魔法を使えばもしかしたら床が抜けるかもしれないと思ったからである。
だが一方で、シヴァがもつ中級以上の魔法を見てみたいという思いもあった。
生粋の魔法使いという生き物は、程度の差こそあれ基本的に自分の知的欲求に忠実である。ベアーチェはそれを体現する典型的な魔女だ。
ダンジョンの床を抜けるかもしれないという魔法があるというのなら、見てみたい。
だから魔女は、焚きつけることにした。
「シヴァ、なにをためらっているのかしら?」
「ベアーチェ?」
「床が抜けるというのならやれば良いのよ」
「いやいや、もし階下に人がいでもしたらヤバイだろ?」
「……君は本当に肝心なところで抜けている人ね。こんな深層、私たち以外にいると思って?」
「…………あ」
ベアーチェの溜め息とともに語られた言葉に、シヴァもようやく気付く。
ここは三〇階層。
世界中の誰もが、どのダンジョンでも未だ辿り着けていない前人未到の深層なのだということを。
つまり、たとえ床をぶちぬいたとしても、シヴァが危惧しているような事態にはなりえない。
ことここに至って、シヴァの中で何かが吹っ切れた。
「ぃよっし! ならぶち抜くか! 床を!」
「素敵な考えだと思うわ。それで、なんの魔法を使うのかしら?」
「そうだな。とりあえず最初は雷系の中級……いや、抜けなかったら面倒だ、最初から上級を使おう」
上級魔法。その言葉にベアーチェの胸が躍る。下級魔法の『サンダー』でさえ魔物を消し炭にする威力なのだ。
彼の上級魔法ともなれば、一体どのような威力になるというのか。
「それじゃ、使うぞ」
シヴァの言葉に、ベアーチェは全神経を集中する。シヴァの一挙手一投足を見逃さないように、彼の呪文詠唱を聞き逃さないようにと。
だが、それは無意味に終わる。
シヴァが前方に腕を向け、魔法名を発する。
「ライオット!!」
前方三〇〇メートルほど先に、小さなプラズマが産まれたかと思うと、
瞬間――三〇階層が震えた。
小さなプラズマは弾けるようにして直径二〇〇メートル以上はあろうかという巨大な雷球へと一瞬で成長し、その爆風と超々高温の熱でもって周囲の壁や床を吹き飛ばし、蒸発させた。
それは下層も同じであった。天井が突如吹き飛んだかと思うと、膨れ上がった雷球が、壁を、魔物たちを、蒸発させていく。
雷球から発せられる高周波に鼓膜を揺さぶられ、声にならぬ悲鳴をあげるベアーチェだが、その知的探求欲でもって恐怖心をねじふせ、目の前で起こっている階層破壊という馬鹿げた現象をつぶさに観察していたのは流石は魔女と褒めるべきか。
数秒ほどのあと、暴虐の限りを尽くした巨大な雷球は消滅した。空気中にはイオン臭が漂い、静電気があちこちで弾けている。
あとに残るはすり鉢状に抉られた床である。範囲内にあった壁は跡形もなく蒸発している。範囲内にいた魔物がどうなったかなどは、言うまでもない。
直径二〇〇メートル以上はある穴を覗き込めば下の階層が見えた。
「……おー、ぶちぬいてるなあ」
「見事なまでにね」
二人ともどこか棒読みである。
シヴァからすれば『ライオット』の現象がゲームと同じだったため驚きは少なかったが、上級魔法がここまで威力があるとは思わなかったからだ。
ベアーチェからすれば、シヴァが使った『ライオット』なる魔法は初めて見るオリジナルのもので。階層を抜くにしてももっと小範囲でのことと思いきや、まさかこんな大穴を空けるような魔法とは思いもよらず。こんなモノを上級に納めていいものかと頭を悩ませ。そも、こんな大威力の上級魔法ですら無詠唱で行えるこの男は脅威を通り越してもはやただの馬鹿なのではないかと真剣に思い始めていた。
人類初の『階層抜き』は、こうして達成されたのであった。
「うん、よし。とりあえず床を抜けることも分かったし、降りるか」
「そうね……でも、どうやって?」
「うん? 飛び降りるんだよ?」
平然と言うシヴァ。どうみても下の階までは三〇メートルは下らない。ここから飛び降りればさぞや綺麗なひき肉になれるだろう。
「……君に自殺願望があったなんて知らなかったわ」
半眼を向けるベアーチェに、シヴァは「いやいや」と首を振って彼女の間違いを質す。
「お前に渡したその『浮遊の指輪』があれば、ゆっくりと下降できるよ」
実際、EFⅩⅥではそのような使い方をするイベントもあったのだ。
シヴァの答えに納得を示すベアーチェ。シヴァは自らに『レビテト』の魔法をかけて体を浮かせてみせた。
もちろん、この世界に物体を浮かせる魔法など存在しない。
「……そのオリジナル魔法があるから、この指輪がいらなくなったのね?」
シヴァは今のベアーチェの発言からこの世界に浮遊魔法が存在しないことを知るのだが、気にした様子はない。特に能力や魔法を隠して生きていくつもりがないからだ。
「正解。ほれ、いくぞ。少しずつだが、床が再生を始めてる。それとも飛び降りるのが恐いか?」
「まさか」
意地の悪い笑みを浮かべるシヴァを、鼻で笑うベアーチェ。
「私は生粋の魔女よ? 魔法使いって言うのはね、魔術が絡めばどこまでも貪欲になれるの。浮遊魔法がどのような効果があるのか身をもって知ることができるのなら、私は喜んで地獄にでも飛び込んで見せるわ?」
「上等。気の強い女性は素敵だと思うぞ」
「奇遇ね、私もそう思うわ」
二人は笑い合いながら、空中に身を躍らせる。
重力に引かれて落ちていくが、すぐにその速度は緩やかなものへと変わり、一〇を数える間に下層へと足をつけた。
「便利な魔道具ね」
「だな。ああ、指輪はそのまま嵌めてていいぞ。すぐに次の階へ行くからな」
指輪を外そうとしていたベアーチェにシヴァが待ったをかけた。それを聞いて、彼の考えを読み取るベアーチェ。
「……まさか、上級魔法を連発する気?」
「そのまさかさ」
この世界において、個人が扱える上級魔法の使用回数は、大凡一日に一回か二日に一回。MPの総量が20000を越えるベアーチェでもってしても連続で使える回数は三回ほどが限度。
これはMPだけの問題ではなく、この世界の魔法が体力や精神力といったものまで著しく消耗させるからだ。
上級魔法の全ては呪文が長く、詠唱をとちることは許されない。また、使う場面はいうまでもなく戦闘時だ。そんな中で長文を唱えるというのは精神を消耗することにほかならない。それはひいては疲労――体力の消耗にも繋がる。
以上の事から、連発はできないのだが、シヴァはそれをやるという。
(たしかにあの威力の魔法を無詠唱で使えるのならアリなんでしょうけど)
ここまでくると、嫉妬すら湧いてこない。代わりに湧いてくるのは、純粋な興味である。
とはいえ、以上の全てはベアーチェの感想である。
これも何度もいうが、シヴァの魔法は全てEFⅩⅥというゲームのものだ。だから詠唱などなく、あるのは魔法が発動するまでのウェイトタイムのみで、その間も普通に動いたり会話することもできる。自分でキャンセルするか、敵のスキルや魔法などでキャンセルされない限りは、魔法は必ず発動する。
使用されるMPも八千万オーバーのMP量を誇るシヴァからすれば微々たるものなので、MPに気を使う必要はない。
「ベアーチェ、側に来てくれ……って浮いてるから移動できないか。よっと」
使う魔法を決めたシヴァが浮いた状態のままのベアーチェへと近づき、その細腰に腕を回した。
「これからダンスでも?」
「それも素敵だが、残念ながら違う。直接足下に大穴を空けるから、落っこちないようにな」
「直接足下にって……大丈夫なの?」
「多分な」
魔法に巻き込まれないかと問うベアーチェにあっけらかんと言って、シヴァは足元の床に指を付きつけ、魔法名を発した。
「バスター・レイ!」
指先から放たれたのは、極大の光線。光属性の上級魔法。
極大のレーザーが硬いはずのダンジョンの床をあっさりと貫通する様は、もはや愉快だ。
これも数秒ほどで終わり、あとに残るはやはり大穴。さきほどの『ライオット』ほどの大きさではないが、人が二人通るには余裕がありすぎる。
しかもこの大穴、貫通力はずば抜けていたようで、深さが先ほどの比ではない。
「……これ、どう見ても二階層分は抜いてるよな」
「みたいね」
ゆっくりと降下しながら、意見を交わすシヴァとベアーチェ。
「どう? 人類初の階層抜きどころか、二層抜きを達成した感想は?」
冗談めかして言うベアーチェに対し、
「やれやれだ」
と大げさに肩を竦めたのだった。
上級魔法でも種類によってはこれである。
その上、実はEFⅩⅥには、上級魔法の上にまだ究極魔法というカテゴリーがあるとしったら、ベアーチェはどんな顔をするだろうか。
(まあ、今んとこ使うことはないだろうけど)
ともあれ、まだ五分も経たない内に三三階層まで降り立った二人。
こうなるともはや二人の間に自重という言葉はなく。床を抜くことが楽しくなってきたまである。
「よぅし、この調子でどんどん抜いていこう! 今日はいけるとこまで行くぞ!」
「素敵な考えだと思うわ? あ、次は炎系が見たいのだけど」
「任せろ!」
ベアーチェの要望に答え、次々と様々な属性の上級魔法を放っては床を打ち抜いていくシヴァ。
そのたびにダンジョンが揺れる。
探索目的のはずが、いつのまにか進行速度が攻略の体になっていることに、この時の二人はまだ気付いていなかった。




