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     恋愛SLGな日々 ~シャシカノ編~・二日目



   6月16日[木] 朝



 チュンチュン。


 シヴァ

「秘殺! 大鳥(オオドリ)尾羽爆炎波(ヘプバーン)! ……はッ!? ……なんだ、夢か」


 ってか、俺は一体どんな夢を見てたんだ?


 シヴァ

「さあ、今日こそミアを探してみせるぞ!」


 まずはギルドに行ってみようか。

 ギルドへ向かった。


 ???

「よう! 久しぶりだな!」


 シヴァ

「ジョニー!? 本当に久方ぶりじゃないか!」


 その道中、顔なじみと会った。

 この背中に大剣を背負った大男はジョニー。俺と同じく冒険者で、オッサンやカリストフらとは古い付き合いらしくよく一緒に依頼を受けているのだが、最近は大きな依頼で街を空けていた。


 シヴァ

「街にいるってことは、もう依頼は終わったのか?」


 ジョニー

「おうよ、しっかりと終わらせてきたぜ! 報酬もたんまりで笑いが止まらねえっての! あ、そうだっ、あとで驕ってやっからよ!」


 シヴァ

「なにやら急いでいるようだが?」


 ジョニー

「それがさっきそこでエライ美人さんを見つけてよぉ! ギルドへの報告がまだだったから声をかけそびれたんだが、今ならまだ間に合うはず! いや間に合わせてみせる! んじゃあな!」


 言うやいなや、ジョニーは風のように走り去っていった。騒がしい男だ。

 それにしてもエライ美人さんか。どんな人だったんだろ?


 ギルドへと到着。ロビーをぐるっと一回りするが……やはりミアの姿は見えないな。


 ???

「やや、シヴァ殿でござらんか」


 シヴァ

「ん? なんだキースか」


 キース

「なんだとは酷いでござるなあ」


 そう言って苦笑するこの男はキースといって、やはり俺と同じ冒険者だ。

 着物めいた服、腰に佩く刀のような片刃の剣に特徴的な喋り方とあって、侍もどきという言葉がピッタリな男。それがキースだ。


 シヴァ

「そうだ、ミアを見なかったか?」


 キース

「ミア殿? いや、某(それがし)は二時間ほど前からここにいるが、とんと見てないでござるよ」


 やっぱりまだ来てないか。


 シヴァ

「分かった、ありがとな」


 キース

「よいでござるよ、では」


 キースと別れた俺は、ギルドをあとにした。



   6月16日[木] 昼



 シヴァ

(さて、今度はミアが泊まる宿に行ってみるか)


 目の前に現れたマップから、『憩いのまたたび』の宿がある繁華街をタップ。


   繁華街へ移動しますか?

    はい   いいえ


 確認メッセージが出たので『はい』を選択。すると、繁華街を中心にマップが拡大され――

 次の瞬間には繁華街に立っていた。

 これが『シャシカノ』仕様の時の移動方だ。最初の頃は戸惑ったものだが、すっかり慣れてしまった。


 シヴァ

(『憩いのまたたび』へ行くか)


 なんともファンシーな名前の宿に向かった俺なのだが――


 受付嬢

「申し訳ありません、シヴァ様。ミア様は昨夜からまだお戻りになっておりません」


 シヴァ

「……マジか」


 アイツは極度の方向音痴だから十分にありえる話だ。


 シヴァ

「分かった。探してみるよ」


 宿をあとにした。



   6月16日[木] 午後1



 シヴァ

(さて、迷子の猫娘を探すとしますか)


 とはいえ、どこを探すかな……とりあえず人が多いところから探すか。見た人がいるかもしれないし。

 ってことは、このまま繁華街を探そう。



 通りを歩くこと数時間。いまだミアの姿は見つからない。


 シヴァ

(本当にどこをほっつき歩いてるんだ、あいつは――ん? あれはオィンガスじゃないか)


 ・声を掛ける

 ・無視する


 シヴァ

(ミアを見かけたかもしれないし、声を掛けてみよう)


 シヴァ

「おーい、オィンガス!」


 オィンガス

「あれ、シヴァさんじゃないッスか。こんな時間に珍しいッスね、今日は休みッスか?」


 シヴァ

「まあな。実は昨日、工業区のほうでお前を見かけていたんだが、あの時は店の人と話し込んでいたようだから声を掛けなかったんだ」


 オィンガス

「そうだったんスか? いやー、使っていた剣が大分ガタついてきたもんで、焼き直すか新しいのを買ったほうがいいか相談してたんスよ」


 まあ、結局買うことになったんスけどね。肩を竦めるオィンガス。


 シヴァ

「そうだったのか」


 だったら昨日は声をかけなくて正解だったな。


 シヴァ

「おっと、そういえばミアを見なかったか?」


 オィンガス

「ミアの姉御を探してるんス? ならちょうどタイミングが良かったッスね。ミアの姉御なら俺様の後ろに居……ないッス!?」


 シヴァ

「もしかして一緒だったのか?」


 オィンガス

「はいッス! 十分ほど前に迷子になってたミアの姉御を見かけたんで、声をかけたんスよ。そしたら姉御がギルドに行きたいって言うんで案内してたんスけど……目を離した瞬間、このとおりッス」


 ……アイツは人に案内されながらでも迷子になるのか。


 シヴァ

「分かった。もう少しここら辺を探してみるよ。じゃあな」


 オィンガス

「すみません、俺様も探してみるッス!」


 ありがとうと礼を言って、オィンガスと別れた。

 その後、散々探してみたが結局ミアを見つけることはできなかった。


 シヴァ

(もう繁華街にはいないのかもな。別の場所を探してみよう)



   6月16日[木] 午後2



 シヴァ

(次はどこを探すか……ん?)


 マップ上をくまなく見ていると、ハート型のアイコンを見つけた。

 ハート型のアイコンは特定のキャラのイベントを示すものだ。大抵はそのキャラのアイコンとセットになっているのだが……肝心の人物アイコンが他のアイコンに隠れて見えない。


 シヴァ

(場所はギルド街か)


   ギルド街へ移動しますか?

    はい   いいえ


 ギルド街へと急いで向かった。



 さて、どこから探そう。ギルド街といってもかなり広いからな。

 足を踏み出した瞬間、どこからともなく男の野太い悲鳴が聞こえてきた。


 ???

「うぎゃあああ~~~!!!!!!」


 シヴァ

(イベントの予感! 向こうか!)


 俺は悲鳴のした方へと駆け出した。

 割と近かったようで、一分とかからずにさきほど悲鳴をあげたと思われる男性が地面に倒れているのを見つけた。予感的中っぽいな!


 シヴァ

「おい、大丈夫か!」


 助け起こしてみれば――


 シヴァ

「ジョニー!?」


 倒れていたのはジョニーだった。見れば左頬がひどく腫れあがっているじゃないか。


 シヴァ

「おいしっかりしろ!」


 ジョニー

「う、ううん。……おう、シヴァか。どうせ抱き起こされるんなら、女性のほうが好みだったんだがな」


 シヴァ

「下らん冗談を言えるのなら大丈夫そうだな。それにしてもお前ほどの実力の男がこうもやられるとは。何があった?」


 ジョニーを地べたに座らせると、この大柄な男は腰のポーチからポーションを取り出すとガブリと一息に飲んでから「ああ。実はな」と話した。


 ジョニー

「ほれ、今朝にえらい美人さんを見かけたって言っただろ? あれから散々探し回って、さっきようやく見つけたのよ。それで『へい、お嬢さん! 一緒に食事でもどうだい! そのあとは……ぐぇへへへ』ってしつこく声をかけてたら、いい張り手を貰ったってわけさ」


 遠い目をしていうジョニー。馬鹿だ、馬鹿がここにいる。


 シヴァ

「ってナンパに失敗しただけかよ! しかも最後のぐぇへへへって笑いはなんだっ、まるで犯罪者じゃないか!?」


 ジョニー

「ふっ、つい妄想がたぎってしまってな」


 何カッコつけて言ってるんだろう、こいつは。やっぱ馬鹿だ。


 ジョニー

「いやあ、それにしてもなかなかにやる猫人族(キャッツ)の姉ちゃんだったぜ。まさか張り手一発で意識が飛ぶとは思いもしなかったぜ! ダッハッハ!」


 猫人族!?


 シヴァ

「おいジョニー、もしかしてその猫人族の女性ってのは、銀髪に青い目をした美人で、猫型の魔石仕掛けの置物(リビングスタチュー)を連れてなかったか?」


 ジョニー

「おう、よく知ってるな。……はは~ん、さてはお前も狙っているクチだな?」


 シヴァ

「それよりもミアは――その娘はどこに行った!?」


 ジョニー

「あ、ああ、あの子なら向こうの方に――」


 ???

「シヴァー!」


 シヴァ

「うおぁっ!?」


 俺の後ろから誰かが抱きついてきた。

 ってかこの聞き覚えのある声は――


 シヴァ

「ミア!?」


 ミア

「せいかーい!」


 顔だけ振り向いてみれば、これまで散々探していたミアの顔が視界一杯に映った。


 ミア

「あー、シヴァに会えて良かったよー! 昨日の朝にギルドへ行こうとしたら道に迷っちゃって! 宿に帰ろうにも迷って帰れないし! チャムは相変わらず明後日の方向に私を連れてくし!」


 チャム

「ミュ~……」


 ミアの言葉に、魔石仕掛けの置物(リビングスタチュー)のチャムが彼女の肩の上で申し訳なさそうに鳴いた。


 ミア

「繁華街で途方に暮れてたら、運良くオィンガス君が声を掛けてくれてね? ギルドまで連れてって貰うはずだったんだけど、余所見してる間にはぐれちゃってさ! どうしようって困ってるところにしつこく言い寄ってくる暑苦しい男が来て、こっちはそれどころじゃないってのにー! って思ったら頭にきちゃって、思わずうるさーい! って張り手しちゃったよー!」


 アッハッハーと猫耳をピコピコさせながら無邪気に笑うミア。

 それにしてもしつこく言い寄ってきた男って――


 ジョニー

「……もしかして俺のことか?」


 ミア

「あー! さっきのしつこい男! なんでまだいるの!」


 どうやらジョニーのことで合っているようだ。


 ジョニー

「なんでって、姉ちゃんが俺を伸したんだろうが! さっき! ここで!!」


 ミア

「しつこかったんだもん!!」


 俺の背中越しにフシャーッっと威嚇するミア。さっきまで嬉しそうにピコピコさせていた耳も、今では不機嫌さを示すようにピンと立っている。

 獣人は尻尾がないかわりに耳で感情を表すのか?


 ミア

「――んで、シヴァはどうしてこんな奴と一緒にいるの?」


 シヴァ

「こんな奴でも、一応は俺の友人なんだよ」


 ミア

「えっ、そうだったの!?」


 シヴァ

「ああ、こいつはジョニーといってな。簡単に紹介すると、女が好きで、大好きで、いつも女の尻を追いかけたり遠くからナメクジが這うような視線で眺めるのが唯一の趣味で、仕事をしてない時は娼館に通うのが俺のフィールドワークさと笑顔で言ってのけるような漢(へんたい)だ」


 ミア

「うわぁ……」


 ミアがゴミ虫を見るような目をジョニーへ向けた。


 ジョニー

「おい、シヴァア! どういう紹介だよ!? その姉ちゃん完全に引いちまってんじゃねえか! おまっ、それでもホントに俺の友達ィ!?」


 シヴァ

「もちろんだ」


 ジョニー

「なにいい笑顔で言ってんのお前!? だったらまともに紹介しろよ!」


 シヴァ

「まあ冗談だ。それくらいミアも分かってるさ、なあ?」


 ミア

「……え、ああ、うん。ソウダネ」


 ジョニー

「全然分かってなさそうなんだけど!? 未だに俺を見る目が冷たいんだけど!」


 シヴァ・ミア

「アッハッハッハー」


 ジョニー

「息ピッタリに笑ってんじゃねええええええええええ!!!!」


 可愛そうなのでからかうのはこれ位にして、ちゃんとジョニーのことを紹介し、また、ミアのことも紹介した。おっと、もちろんチャムのこともな。


 ジョニー

「――まあ、そのミアって姉ちゃんがシヴァの知り合いってことは分かったけどよ……」


 シヴァ

「けど、なんだ?」


 ジョニー

「なんで手前(てめえ)ばっか綺麗どころが集まるんだよっ、その姉ちゃんといいリリス嬢といいよぉ! 不公平だろ!!」


 そんなこと言われてもなぁ。


 ジョニー

「けっ、それじゃ、お邪魔虫の俺はどっかに行きますかねえ。あとはお二人で好きなようにどうぞ」


 シヴァ

「ジョニー……」


 立ち去ろうとするジョニーの背中に、俺は声を掛けた。


 ジョニー

「気にすんなよ。俺が好きで去るんだからさ」


 振り返らず、フッと笑みを零すジョニー。


 シヴァ

「いや、こんな昼間からじゃまだ娼館は開いてないと思うぞ?」


 ジョニー

「違(ちげ)ぇよ! 俺が行こうとしてたのは酒場だよ! お前は俺をどんな人間だと思ってるわけ!?」


 シヴァ

「……淫獣?」


 ミア

「うっわぁ……」


 ジョニー

「ミアの姉ちゃんも真に受けてんじゃねええええええええ!!」


 ギルド街にジョニーの叫びが轟いた。

 うん、やっぱ愉快な男だ。



   6月16日[木] 夕方



 ミア

「――んで、シヴァはなんで私を探してたの?」


 シヴァ

「おっとそうだった。ジョニーをからかうので忘れてた」


 ちなみにジョニーはこの場にはもういない。


「実は頼みたいことがあるんだよ……これなんだけどさ」


 俺は腰のポーチからカメラを取り出し、ミアに見せた。


 ミア

「それは?」


 シヴァ

「魔道具の一種で……なんて言ったらいいのかな」


 ・写真を見せる

 ・ごまかす


 シヴァ

(今から撮影に協力してもらうんだし、実際に写真を見てもらったほうがいいのかもな)


 俺はカメラを起動し、これまでに撮った写真をミアに見せた。


 ミア

「わっ、なにこれ!? ギルドのロビーに、リリィ!? すっごい緻密な絵だね、これ!」


 お、緻密な絵か。たしかに写真を見た事がなければ絵と勘違いしてもおかしくはないな。

 今度からカメラの説明はこれでいこう。


 シヴァ

「そう、この魔道具は一瞬にして緻密な絵を描けるんだよ。だけどまだ試作の段階でさ。ミアには被写体(モデル)になって欲しいんだ」


 ミア

「それは別にいいんだけど……その魔道具、危なくない?」


 シヴァ

「ないない、大丈夫大丈夫」


 やっぱ心配になるのか。


 ミア

「や~、昔村にいた頃、私に気を寄せていた男の一人がさ、魔道具を使って私を意のままにしようとしたことがあって。まあ、魔法抵抗値が低い獣人の私でも十分に抵抗(レジスト)できたくらい強制力が低かったから、返り討ちにしてやったけどね」


 そんなことがあったのか。女性を意のままにしようだなんて随分と性根の腐った男だな。

 ……あれ、もしかしてカリストフとリリィも似たような経験があるのか? それであんな風に警戒してたんだろうか?


 シヴァ

「まあ、この魔道具は見ての通りただ絵を自動で描くだけだから大丈夫だよ」


 ミア

「ん~……分かった。やるよ、モデル」


 少しの間、逡巡(しゅんじゅん)するミアだったが、最後には頷いてくれた。


 シヴァ

「助かるよ。ありがとう、ミア」


 ミア

「で、どこでやるの?」


 シヴァ

「そうだな。天気もいいし、せっかくだからこのまま外で……」


 と思ったが、今のミアは皮鎧装備。腰には双剣。なかなかに物々しい雰囲気が漂っている。


 シヴァ

(オタルには街で偶然会ったレイヤーさんの写真として渡すつもりなんだけど、さすがにこの格好はなあ)


 現代社会でこの格好で街を練り歩いてたら、速攻で警察に捕まる。


 シヴァ

「悪いけどミア、普段着に着替えてもらえないかな?」


 ミア

「いいよー。それじゃあ、まずは私の泊まっている宿に戻ろっか! チャム、宿はどっち? ……ん、分かった。こっちだよ、シヴァ!」


 シヴァ

「自信満々に歩き出したところ悪いけど、そっちは行政区に行く道だからな?」


 ミア

「チャムー!?」


 チャム

「みゅ~~!!」


 相変わらずポンコツな一人と一機だった。

 宿へは俺が案内した。



 ミア

「や~、ようやく自分の部屋に帰ってこれたよ~。これもシヴァのおかげだねっ、ホントにありがとう!」


 チャム

「みゅー!」


 シヴァ

「どう致しまして、だ」


 ミア

「それじゃ、ちゃっちゃと着替えちゃうから、ちょっと待ってて」


 俺が頷くと、ミアは隣の部屋へと移動した――かと思ったら、一度閉じた扉を少し開けると、頭だけをひょっこり出してきた。


 ミア

「覗いちゃ駄目だよ?」


 シヴァ

「覗くか!」


 ミア

「アハハハハ♪」


 笑い声を残し、再びバタンと閉まる扉。

 全く、人を何だと思っているのか、あいつは。……それにしてもこの扉の向こうではミアが…………って、俺は思春期まっ盛りの中学生か!


 シヴァ

(煩悩退散っ、煩悩退散!)


 心を無にして大人しく待った。


 それから十分後――


 ミア

「お待たせー。どうかな? 変じゃない?」


「おー、全然変じゃないよ」


 俺の言葉に「ホントにー?」と、その場でクルリと回転(ターン)して見せた。

 ミアが着ているのは、体にピッタリとフィットした麻の服に、ローライズパンツという組み合わせだった。

 活発的な印象を与える服装は、ミアの小麦色をした肌と相まって、賑やかな彼女の性格にとても似合っている。


 シヴァ

「うん、本当に似合ってる」


 ミア

「えっへっへー♪」


 回るのを止め、両手を後ろに組んで笑うミア。褒められたのが嬉しいのか、彼女の耳はピコピコと忙しなく上下に跳ねていた。

 その仕草はぶっちゃけ可愛い。


 ミア

「着替えも終わったし、外に行く?」


 シヴァ

「そうだな――」


 って、ちょっと待てよ? これから撮る写真はオタルに渡す予定なんだよな。

 んでもって、ミアのことを聞かれた場合は、『街で偶然見かけたコスプレイヤーの、MIAさん』で押し通すつもりだ。

 となれば、外で撮った場合、これどこよ? となるのでは……。

 俺が住んでいる街の付近に、西洋めいた風景はどこにもない。下手にどこそこと答えるとボロが出そうだな。

 となれば――



 シヴァ

(よし、外で撮るのは止めよう)


 シヴァ

「悪いけど外は止めて、ここで撮ってもいいかな?」


 ミア

「うん、私は構わないよ」


 シヴァ

「ありがと。それじゃ、始めよう」


 ミア

「うん、シヴァのためだったら私、ちょっとは大胆なポーズも頑張っちゃうよ! だからどんどん指示を出してね!」


 胸の前で両手の拳を固めるミア。


 【プライベートセッションが可能になりました】


 目の前にそんなアナウンスが現れた。


 シヴァ

(プライベートセッション?)


 聞きなれない単語だったが、そう言えばゲームでは好感度が一定以上になると、少し大胆なポーズを取ってくれるようになるんだったかと思い出した。

 確かそれがプライベートセッションだったはずだ。


 シヴァ

(つまり、ミアの好感度はかなり高いってことか)


 思わぬところで情報を得てしまったが……まあいいか。

 アナウンスを閉じると、今度はポーズ選択の画面が現れた。これはゲームで見慣れたものだ。

 ポーズは全部で四種類。

 【立ったままで】・【壁にもたれて】・【座って】・【横になってくれ】――だ。

 基本はこの四種類だが、種類によっては何パターンか存在する。

 例えば今だと、【立ったままで】のポーズには1と2が存在するといった具合。

 この他にも、ポーズは四種類一纏めで難易度ごとに区分けされている。

 一番易しいのが緑、次に青、赤、オレンジの順に難しくなっていき、難易度が上がる度にポーズが大胆になっていく仕様だ。が、難易度が高いものは拒否される場合もある。

 先ほどアナウンスで可能になったプライベートセッションは、赤とオレンジになる。


 さらに、ポーズにはそれぞれ撮る場所も一緒に付随する。例えば難易度【緑】の【立ったままで・1】は、入口付近で、【立ったままで・2】は、テーブルの横となっている。

 場所は同じポーズでも、難易度によって変わったりもするので注意だ。

 ちなみに、【横になってくれ】の場所は、どの難易度でも一緒だ。今の場合だと……ベットの上とあるな。


 シヴァ

(まあ、今(・)回(・)は(・)健全な写真が目的なんだし、セクシー系は全て除外だな)


 撮れる枚数は四枚。これもゲームと一緒か。

 さて、どのポーズを撮ろう。場所も念頭に置いて考えないとな。


 シヴァ

(う~ん……やっぱ立ちは基本だし、一枚くらいは抑えておきたいな。となると、これだな)


 俺が選んだのは、難易度緑の【立ったままで・2】だ。場所はテーブルの横。


 シヴァ

「ミア、テーブルの横に立ってくれるかな」


 ミア

「分かった。えっと……こんな感じ?」


 ミアはテーブルの左横に立つと、右足に重心を傾けながら、右手をテーブルに付けた。

 窓から差し込む夕陽を背中に受ける姿は、地球のモデルも裸足で逃げ出すほどに可愛らしい。

 ……だけど、もう一押し何か欲しいな。


 シヴァ

(そういえば、指示って出せるんだっけ)


 シャシカノではフォトセッションの時、ヒロインに色々と指示が出せる。

 目線を向けたり外させたり、顔を横に向けさせたりだ。


 シヴァ

(やってみるか)


 シヴァ

「ミア、視線をこっちに向けて、軽く笑ってくれる?」


 ミア

「分かったー。これでどう?」


 ポーズはそのまま。けれど、ファインダーに向けて微笑むだけで一段と輝いて見えた。


 シヴァ

「おー、完璧!」


 カメラを横に構え、全身が入るようにズーム機能を使ったり、自らも動いて調整。

 背後から差し込む夕陽がちょいキツイように感じたので、カメラに備わる『被写体深度機能』を使い、背景だけをボカすことで夕陽を柔らかくすると同時に、人物(ミア)を際立たせることにした。


 シヴァ

(おっし、これで――)


 カシャッ!


 シャッターを押すと、視界の下に『Pure――――420P』と出た。


 シヴァ

(そういえば、シャシカノではフォトセッションの時に撮った写真には『Pure(ピュア)』か『Eros(エロス)』のポイントが付くんだっけか)


 Pureは健全な写真に、Erosは文字通りローアングルやハイアングル、もしくは胸などの局部を中心に撮った写真に付きやすい。

 ポイントはどちらも最高で1000。

 今撮った写真は自分では最高の一枚のつもりだったが、そうでもなかったらしい。

 ポイントとはつまり評価だ。

 そして俺の評価は420。半分にも届いていない。


 シヴァ

(これは……ゲーマー魂に火が付くな)


 評価をつけられ、俄然と盛り上がってきた。


 ミア

「次はどうする?」


 シヴァ

「そうだな……」


 次のポーズは――これだ!


 難易度青の【座って・2】。場所はソファー。


 シヴァ

「そこのソファーに座ってみて」


 ミア

「はーい」


 テーブルから離れ、壁際のソファーにゆったりと座るミア。


 シヴァ

(今度は全身が入るようにじゃなくて、上半身を主眼に置いて、今回夕陽は左からだから『被写体深度機能』も切って、と)


 シヴァ

「ミア、視線を外して少し顔を右に向けてくれる?」


 ミア

「こう、かな?」


 夕陽から顔を逸らしたことで影が落ち、雰囲気が出る。

 シャッターを切る。


 カシャッ!


 『Pure――――510P』


 シヴァ

(これでも500台!)


 なかなかに辛口評価だ。


 シヴァ

(残りはあと二枚か……)


 ミア

「次はどうする?」


 次のポーズは……これだな。


 難易度赤の【座って・1】。場所はテーブルチェア。


 シヴァ

「テーブルチェアに座ってみようか」


 ミア

「オッケー」


 ソファーからテーブルチェアに移るミア。


 シヴァ

(やっぱり何かが足りない……)


 移動しては構図に納得がいかず、また移動を繰り返す。


 ミア

「どうしたの? さっきから撮らないね。もしかして私、どっか変?」


 俺が移動を繰り返していたからか、ミアが不安げに聞いてくる。


 シヴァ

「いや、俺が構図を決めきれないだけで、ミアは十分可愛いよ」


 ミア

「か、可愛いって。えへへー! じゃあもっとがんばるね!」


 きらめく笑顔。それは、指示で出せる笑顔など霞むくらいの威力。


(そうだ、思い出したぞ!)


 確かシャシカノでは、相手を上手く褒めて気分を乗せることでヒロインの魅力を引き出せるんだったか!

 一番の文句は「好きだ」とか「愛してる」とかの言葉だったと思うが、さすがに自分に好意を向けてくれているミアにそれを言うのは、何と言うか……死亡フラグのような気がする。

 なのでここは無難に褒めるだけの方が良いだろう。

 とりあえずやってみるか。


 シヴァ

「さっきの笑顔、とっても良かったよ」


 ミア

「ホントにー?」


 満更でもなさそうなミア。


 シヴァ

「本当だよ」


 ミア

「えっへっへー♪」


 さっきとは違った、照れくさそうな笑み。

 上機嫌になったミアは少し腰を浮かすと、椅子をクルリと半回転させ、背もたれにあごを乗せた。

 作った感じのない、自然なポーズと笑顔。


 シヴァ

(ここだ!)


 カシャッ!


 『Pure――――814P』


 シヴァ

(ぃよっし!)


 なかなかの高得点に好感触を得る。

 相手を褒めて乗せる――方向性は間違っていないようだ。

 ただし、気分を乗せすぎると服を脱ぎ出すとオタルから聞いた覚えがあるから、さじ加減には気をつけないと。

 俺が撮りたいのはエロイ写真じゃなくて、健全(ピュア)な写真だからな。


 ミア

「――っぁふ……少し疲れてきちゃった」


 シヴァ

「昨日の朝からずっと迷子だったもんなあ。分かった、次で最後にしよう。大丈夫か?」


 ミア

「もちろん!」


 さあ、ラストチャンスだ。絶対に最高得点を撮ってみせる!

 最後に選ぶポーズは……これだ!


 難易度赤の【壁にもたれて・1】。場所は入口の扉だ。


 シヴァ

「ミア、入口の扉にもたれかけて」


 ミア

「やってみるね」


 扉に手と背中をつけるミア。足は少し開いているくらい。

 正面の窓から入りこむ夕陽と窓枠の影が、ミアに被さる。

 まさに夕暮れの一時って感じだな。

 さあ、ここからが本番だ。ミアを上手く乗せないと。


 シヴァ

「うん、なかなかいいよ」


 ミア

「そう?」


 シヴァ

「うん、いい感じ」


 ミア

「えへへー。それじゃ、こんなんは?」


 足を軽く交差させた。


 シヴァ

「もっと良くなった。ミア、才能あるんじゃないか?」


 さらに褒めるとミアは「えっへっへー」と笑みを浮かべる。よし、いい調子だ。


 シヴァ

「だけど、もう少し自然な感じがいいな」


 ミア

「そう言われてもな~。……自然な感じってどんなだろ?」


 おっと、構えさせてしまったか。ポーズが硬くなってしまった。


 シヴァ

「そうだなー……ミアはどんな時が一番リラックスできる?」


 ミア

「んん? リラックスかあ……やっぱぽかぽか陽気の中、だらけている時かなぁ」


 シヴァ

「……猫?」


 ミア

「猫じゃないよ!」


 シヴァ

「ごめんごめん。じゃあ、美味しい物を食べてる時はどうよ」


 ミア

「おー、いいね! 確かにリラックスしてるよ。あ~、お魚食べたい」


 シヴァ

「やっぱネ――」


 ミア

「猫じゃないです~ぅ」


 シヴァ

「なんだその言い方」


 ミア

「アハハ♪」


 お、少しづつ硬さが取れてきたな。


 シヴァ

「でもミアって魚が好きだったんだな」


 ミア

「うんっ、超好きだよ! 毎日でも食べたいくらいにね!」


 おし、どんどん表情が良くなってきた。


 シヴァ

「超までか。じゃあ、一番好きなのは?」


 ミア

「そんなの決まってるよ」


 シヴァ

「それは?」


 俺が尋ねると、ミアの目は優しく弧を描き――


 ミア

「それは――」


 ファインダー越しに見ている俺をしっかりと見ながら――


 ミア

「――――」


 口だけを動かした。

 言葉を発していなくても、確かに届いた、告白。


 ――シヴァだよ。


 不覚にも、ドキリとした。


 ミア

「えへへ~~!」


 自分の言葉が届いたのが分かったのだろう。ミアが笑う。

 恋する乙女のように――いや、恋をする乙女の顔で、

 屈託なく、

 満面の笑みを、

 俺に、

 俺だけに――向けてくれた。


 気が付けば俺は、シャッターを切っていた。

 この一瞬を切り取りたくて。

 この一瞬を残したくて。

 シャッターを切ったんだ。


 カシャッ!


 『Pure――――1000P』


 シヴァ

(キターーーーー! 最・高・得・点!!)


 最後の最後にヤッタぜ!

 評価を見た瞬間、先ほどまでの甘酸っぱい空気は、少なくとも俺の中から綺麗さっぱり消えていた。

 悲しいかな、ゲーマー魂。

 でもまっ、ゲーマーなんてこんなもんだよな。

 色恋よりゲームが大事。それがゲーマー。


 シヴァ

「ありがと、おかげでいい絵が撮れたよ」


 ミア

「ホントに? えっへっへー、良かったー」


 ・写真を見せる

 ・用は済んだ、帰ろう


 シヴァ

(もちろん見せるが、さて、どの写真を見せよう……うん、やっぱ一番ポイントが高かったやつだよな)


 俺は写真を選択すると、ミアに見せた。


 ミア

「わっわっ、すごい! これ私? なんだか私じゃないみたい!」


 ミアは興奮気味だ。さすがは1000ポイントの写真。


 ミア

「ありがと、シヴァ!」


 シヴァ

「こちらこそ。最高の被写体(モデル)だったよ、ミアは」


 ミア

「えへーー♪」


 こうしてフォトセッションは終わり、俺の目的も達成された。



   6月16日[木] 夕方



 シヴァ

「ただいまー」


 誰もいない真っ暗な部屋に、俺の声が虚しく響いた。

 そういや、リリィは今日も夜勤って言ってたな。

 パチンと明かりをつけながら思い出した。


 シヴァ

「お、夜食がある」


 テーブルの上には数枚の皿と手紙。見ればやはりリリィからだった。

 今日も出勤前に来て作ってくれたらしい。


 シヴァ

「本当に頭が上がらないな。……それじゃ、いただきまーす。美味い!」


 相変わらずリリィの作る料理は冷めてても美味しかった。


 さてと、ご飯も食べたし風呂も歯磨きも終わったし…………やることがないな。

 あれ? 俺っていつもどうやって時間を潰してたっけ?


 シヴァ

「……今日はもう寝るか」


 おやすみー……zzz…………―――



   6月17日[金] 朝



 シヴァ

「生麦生米生卵! 隣の客はよく柿食う客だ! よしっ、今日も絶好調だな! いってきまーす!」


 身支度を済ませ、玄関を飛び出す。

 さあ、今日はどんな写真を撮ろうか!


    ・

    ・

    ・


 シヴァ

「――って違うし!」


 危うくこのままシャシカノ路線で行くところだったわ!



   結び



「おおおおおおおお!!!!!!」


 地球に帰ってきたシヴァは、写真の入ったメモリーを携えて、オタルのアパートを訪ねていた。先ほどの雄叫びはオタルのものである。


「なんだこのクオリティの高いレイヤーさんは!? おいシヴァ、こんな人とどこで出会った!? というか何故その場で俺に連絡せん!」


 メモリーを挿したタブレットの画面を見ながら、オタルが絶叫しながらシヴァを質問攻めにする。

 オタルが見ているのは、シヴァが撮ってきたミアの写真だ。


「その人はMIAさん。街で偶然見かけて、適当な場所で写真を撮らせてもらった。連絡は……MIAさんが嫌がった」


 オタルのベットに寝転んで、そこらに転がっていたラノベの一冊を読みながら、予め決めていた設定をシヴァが聞かせると、


「む。そうか、嫌がったのならば仕方ないな」


 オタルは意外なほどあっさりと納得したのだった。

 不審に思ったシヴァは、ラノベを読むのを止めて友人のほうに顔を向ける。


「やけにあっさりと退いたな。もっと突っかかってくると思ったのに」


「たわけ! レイヤーさんが嫌がることはしない。それがカメコのルールだ」


「カメコってのは、カメラ小僧の略だっけ? そんなルールがあったのか」


「当たり前だ。コスプレをしてくれるレイヤーさん達は謂わば神だからな! 嫌がることをしてコスプレしてくれなくなったらどうする!」


 ぬぬん! と力説するオタルに、「そ、そうか」と引き気味に答える。


「まあ、とりあえず喜んでもらえて良かったよ」


「うむ! これだけの写真はなかなかお目にかかれんからな、ありがたく頂戴しよう――ちなみにネットへのアップは……」


「もちろん不許可だ」


「くっ!」


 心底残念がるオタルにシヴァは苦笑を漏らす。


「ここ最近――否! 近年稀にみるネコミミ娘コスだというのに、これを同志と分かち合えないとは!」


「そんなにか」


 ってか何だ、同志ってのは。


「当たり前だ! この……MIAさんだっけか? 彼女はまさにネコミミっ娘のコスをするために生まれてきたようなお人だぞ!?」


 まあ、本物の猫娘だからな。と納得するシヴァ。


「ネットにあげれば我々同志一同はあと三十年は闘えるはずだ!」


「なんと闘うつもりだよ、お前は」


「もちろん決まっている! リア充どもとだ!!」


 硬く拳を握り締めて宣言するオタルに、シヴァは「はいはい」と流す。

 その側ではオタルがなおも喚いていたが、それも聞き流しながら、シヴァは自分のタブレットでミアの写真を眺めていた。

 画面に映し出されているのは、最後に撮ったミアの写真である。

 これだけは、オタルに渡したメモリーに入っていない。


「ふんっ、それにしてもこんな逸材と偶然街で出会うだと? さすがはギャルゲーの主人公なみに特徴がない顔をしているだけあるな、シヴァよ」


「……俺は褒められているのか?」


「むろん、褒め言葉だ。俺たちオタクからすれば、それは勝ち組も同然だからな! 色んなタイプのヒロイン達に出会えること請け合い! ――って、お前はもうとっくに出会ってるな」


 オタルが言っているのは、もちろん異世界で出会った女性たちのことではなく、こちらの世界で出会った女性たち――シヴァの元カノたちだ。

 確かに異世界に限らずこっちでシヴァが出会った女性(元カノ)たちも少なからず個性的だったが、シヴァの女性遍歴の話はまたいずれ。


「さてシヴァよ。このままMIAさんの写真を眺めるのも良いが、折角来たのだ。久しぶりにスト5でもやるか!」


 訊ねておきながら、すでにテレビとPZ(ピーズ)5の電源を入れているあたり、シヴァが断るとは思っていないようだが、実際にシヴァは乗り気だ。


「お、いいね。最近調子いいんだよ俺。今日はお前をコテンパンにしてやるよ」


「抜かせ中級者が。その調子の良さが通じるほど、上級者が甘くないという事を教えてやろう!」


 シヴァは上半身を起こし、オタルが投げ寄こしてきたPZ5のコントローラーを受け取った。


「そん時はデッドライブ5と交換な。あっちの方は俺が強いし」


「ぬぬぅ! そう来たか!」


 タブレットの電源を落とす前にもう一度、シヴァは画面を眺める。

 自分だけに向けたミアの弾けるような笑顔が、そこにあった。



      第28話・了


      第28.5話 相馬(シヴァ)の周りの女性たちに続く

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