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第28話 恋愛SLGな日々 ~シャシカノ編~・一日目



   序



 ここは群馬県のとある町に建つ、とあるアパートの一室。

 そう広くもない室内には、二人の男性が各々好き勝手に本を読んでだらりとしていた。

 シヴァこと柴崎(しばさき)相馬(そうま)と、その友人でありこの部屋の主でもある奥田(おくた)満(みつる)である。

 満の借りている部屋に、シヴァは遊びに来ていたのだ。


「それにしても、久しぶりに来てみればまた本が増えたんじゃないのか? オタル」


 読んでいた本から顔を上げ、室内を見渡す。棚に納められた本のほかにも、床に積まれた本の塔が何本か存在していた。前に来たときはもう少し大人しかったような気がするのだが。


「まあな。電子書籍も良いが、紙でできた本も良い」


 二十一世末現在、書籍の主流は電子書籍である。が、主流の座を数十年前に電子書籍へと明け渡したとはいえ、本もまだまだ人気が根強く、あえて本を購入するファンも多い。

 ちなみに、オタルとは満の渾名である。オタクと彼の名字である奥田をかけて、オタル。


「というか、昔のラノベは電子化されていないからな。どうしても本が増えてしまうのさ」


「それもそうか」


「かくいうお前が今読んでいるラノベも、相当昔のやつだぞ」


「そうなん?」


「ああ。奥付を確認してみろ」


 言われて奥付を確認してみれば、そこには『2015年1月○日 初版発行』とあった。この本はどうやら第8刷版らしいが、今から八十年も前の作品だという事に驚く。


 シヴァが今読んでいるのは、空に浮かぶ島々を飛空挺で冒険しながら『最果ての島』と呼ばれる場所を目指すファンタジー作品だった。元は当時のソーシャルゲームをノベライズしたものらしいが、元ネタを知らなくとも(八十年も昔の作品だから当然だが)楽しめる。良い作品には時間も時代も関係ないということということか。この作品よりもさらに古い芥川作品なども現役なわけであるし。


「こうして見ると、ラノベの歴史も長いんだなあ」


 しみじみと頷くシヴァに、オタルも同意を示す。


「まあな。まあ、そいつは当時から電子化されて販売されていたから今でも普通に買えるが。気に入ったんなら買ったらどうだ? どうせ著作権が切れたやつだ。シリーズまとめて買っても百円にもならんよ」


「マジか」


 著作権が切れた作品の電子書籍であれば、大抵のネットショップは一冊十円ほどで売っている。

 試しに調べてみると、シリーズ全巻購入セットで五十円で売っているショップがあった。そろそろ一巻が読み終わるところだったので、シヴァはそのまま購入ボタンを押したのだった。

 シヴァは紙よりも電子書籍派だ。なにせ部屋にいてもすぐに購入できるし、届くのを待たずにすぐに読めるのが良い。

 それに、タブレットであれば何百冊と入る上にかさばらないし、重さも変わらない。


(まさにタブレットは現代のアイテム袋だと言っても過言ではないのかもなあ。入るのはデータオンリーだけど)


 などと考えてしまうのは、シヴァの脳がゲーム脳だからだろうか。


「それにしても、お前がラノベに興味を持つとは。どういう心境の変化だ?」


「まあ、色々とな」


 オタルの言うとおり、シヴァはこれまでラノベに興味がなかった。変化があったとすれば、それはまさしく異世界バニイップへ行けるようになったことが原因だろう。

 参考までに読んだWEb小説が思いのほか役に立ったからだ。であれば、ラノベも役に立つのでは。そう思い、最近はオタルから様々なジャンルのラノベを借りるようになっていたのだが、これが思いのほか面白く、気が付けば普通に楽しんで読むようになっていた。


(思えば最近は随分とオタルに世話になってるなあ……なにか礼でもするか?)


 考え込むシヴァに、横から割って入ったのは当のオタルであった。


「フッ、これも俺の普段からの布教の成果だな」


「抜かせ――おっ」


 読んでいた場面に新しいキャラが登場したのだが、その人物が獣人だったのでシヴァは思わず声をあげてしまった。先日出会った猫人族(キャッツ)のミアを思い出したのだ。

 ふとあることを思いつき、シヴァはオタルに訊ねた。


「そういやお前、ネコミミ娘は好きか?」


「好きか、だと? フンッ、愚問だな。もちろん好きに決まっている」


「決まっているのか」


「むしろ愛しているな!」


「愛しちゃっているのか」


 そんなことを公言できるとはどれだけオタクなのだろうか、この男は。友人として少し心配になるシヴァであった。

 まあ、とりあえず聞きたいことも確認できたし、今の返答でオタルへの礼を思いついたと、シヴァはちょうど読み終えたラノベを閉じて立ち上がって帰り支度を始めた。


「なんだ、もう帰るのか?」


 気付いたオタルが声を掛けたきた。


「ああ、続きは自分家で読むよ。邪魔したな」


「気にするな、また適当に来るといい。その時までにお前が好きそうな作品を用意しておこう」


「おうよー」


 手をひらひらとさせながら、オタル宅をあとにした。



 さて、家に帰ってきたシヴァは、さっそく自室にあるテレビの電源を入れてから異世界へと繋がるPZ(ピーズ)5を起動させた。

 それからネット経由で姉妹機である携帯ゲーム機PZ Bidama(ビーダマ)(通称Pダマ)を繋ぎ、最後にホームメニューにある【ゲーム】の項目からデータ化した一本のタイトルを選んだ。

 選択したのは『写真彼女~Deep Kiss~』。通称シャシカノと呼ばれる恋愛シミュレーションゲームである。

 このソフトこそが今回、オタルへの礼をするための要となるのだ。


「さてっと、行きますか」


 Pダマのスタートボタンを押し、シヴァは異世界バニイップへと旅立つのであった。



   6月15日[水] 朝



 視界が暗転したと思えば、次の瞬間には異世界にある自分の家の自室に立っていた。

 自分の姿を見下ろす。

 白いシャツに黒のスラックスという服装には見覚えがある。確か『シャシカノ』の主人公が通う高校の制服だったはず。

 腰のベルトにはポーチがあり、開けてみれば、やはり見覚えのある一眼レフ仕様のデジカメが納められていた。これも主人公の持ち物である。

 機種名はなく、ゲーム中では、ただ『高性能カメラ』としか説明されない不遇なカメラだ。

 ゲームの物語は、このデジカメを通して主人公が様々なタイプのヒロイン達と約一ヵ月交流し、やがては恋に落ちるという恋愛モノ。

 俺はこの手のものが苦手なので、少しやっただけで放置していたのだが……まさか異世界で使用することになろうとはね。


 いやまあ、実際には異世界に最初に来たときにもこの姿になったけどさ。


 シヴァ

「ふぅ。とりあえず、姿を見る限り問題なさそうだな」


 良かった良かった。……って、今俺の台詞、なんだか変だったような? 自分の台詞の前に自分の名前があったような、そんな違和感。確かにゲーム中は台詞の前に喋っているキャラの名前が表示されていたけども。


 シヴァ

「ハハ、まさかな」


 ……まさかだよな?

 ま、まあいいや。今回の目的を改めて確認しておこう。

 今回の俺の目的は、ネコミミ娘を愛してるとまで言ったオタルのために、猫人族(キャッツ)のミアの写真をこの『高性能カメラ』に納める事だ。

 撮った写真を奴にあげれば、最近ラノベの件で世話になっている礼にはなるだろう。

 渡す予定の写真も、偶然見かけたコスプレイヤーだと言えば誤魔化せると思う。


 シヴァ

「だけど慣れていないカメラでいきなり人を撮るってのも、ハードルが高いか」


 カメラの使い方は例によってなぜか分かるが、それでも適当な所で試し撮りしたほうが良いかもしれない。


 シヴァ

「適当な場所、ね……無難にギルドでいいか」


 そうと決まれば移動だな。

 俺はポーチにカメラを仕舞うと、ギルドへと向かう。


 俺が所属する冒険者ギルドは、この町の中心近くにある区画、通称『ギルド街』の一角にある、大きな建物だ。

 ほぼ毎日通っているだけあって、今日も特に代わり映えしない光景が広がっていた。

 違う点があるとすれば、俺の格好くらいか。


 シヴァ

(さて、今日は依頼を受けないで、ロビー内を撮ってみよう)


 受けないというか、受けれないといったほうが正しいな。『シャシカノ』に戦闘(バトル)要素は皆無だからだ。今の俺はそこらの一般人と変わらない。ゴブリンにだって負ける自信がある。

 ギルドへ足を踏み入れようとしたとき、後ろから声を掛けられた。


 ???

「おう、誰かと思ったらシヴァじゃねえか!」


 大きな声に振り向いてみると、そこにいたのは――


 シヴァ

「なんだ、オッサンか」


 オッサン

「なんだとは失礼だな! ってか、今日はやけにラフな格好じゃねえか」


 シヴァ

「今日は依頼を受けるつもりはないからな」


 オッサン

「なんだ、ひやかしかよ」


 そう言ってダッハッハ! と豪快に笑うこのオッサンの名前は、ガイ。ドワーフ族の男だ。

 子どもと見間違うほどに身長は低いが、体つきは筋骨隆々としており、厳つい顔には種族の誇りでもある長い髭があごの輪郭を覆い隠しているのが特徴。

 ちなみにオッサンと言うのは俺がつけた渾名だが、最近はギルド内でも浸透してきているようで、名付け親としては嬉しい限りだ。

 オッサンとは何度か一緒に依頼を受けたことのある、冒険者仲間の一人でもある。ようはこの世界の友人だ。


 オッサンと話しながらギルド内へ。


 オッサン

「じゃあ、俺ぁ掲示板を見に行ってくらあ。あばよ!」


 オッサンと別れた俺は、ポーチからデジカメを取り出し、適当にロビー内をうろつく。

 ロビー内には、大小いくつもの集団ができていた。

 これから依頼に出るのだろう。持ち物や装備の最終確認をしているパーティーやクランの面々。

 達成した依頼を受付嬢や女性冒険者相手に自慢げに語り、彼女たちの気を惹こうとしている男性冒険者たち。

 それを営業的な笑顔で聞きながら、受け取った書類にサインやら判子を押す受付嬢や、あからさまに面倒くさそうに聞き流す女性冒険者たち。

 ギルドは今日も平常運転のようだ。


 と、それまで面倒くさそうに男性冒険者の話を聞いていた女性たちが色めきたった。

 誰かが来たようだ。


 女性冒険者A

「カリストフ、おはよー!」


 女性冒険者B

「あとで一緒に食事に行かない?」


 カリストフ

「いいですね。是非ご一緒させてください、レディ」


 女性冒険者B

「やった! 絶対だからね!」


 爽やかな笑みを振りまきながら、さっそうとロビーに現れたのはエルフ族のイケメン、カリストフその人だった。俺の顔なじみでもあり、オッサンとはよくパーティーを組んでいる男だ。

 見ての通り、非常にモテる。

 面倒見の良い性格にくわえ、眉目秀麗。

 女性冒険者どころか、受付嬢にも人気が高い。


 カリストフ

「おや、シヴァさんじゃないですか。おはようございます。今日はオフですか?」


 目敏く俺を見つけたカリストフがわざわざ女性の輪の中から抜け出し、あいさつをしにきてくれた。

 こういうマメなことを出来るからこそ、コイツはモテるんだろうなあ。

 イケメンと言うだけでモテているわけではないのだ。……まあ、その殆どが女性に良く見られるための計算だと知っているから、ありがたみは少ないのだが。


 シヴァ

「ああ、今日は見ての通りオフだよ。そっちは?」


 カリストフ

「私も今日は休みです。先ほど食事の約束もしてしまいましたしね。おや、その手に持っている物はなんです?」


 シヴァ

「これか? これは……まあ、魔法具の一種だ」


 適当な説明が思いつかなかったので、適当に誤魔化した。


 カリストフ

「魔法具ですか……危険な物ではないんですよね?」


 シヴァ

「もちろんだ。危険なものだったら持ち歩かないよ」


 俺が笑ってそう言うと、エルフのイケメンも「それもそうですよね」と笑って返した。


 カリストフ

「それじゃ、私はこの辺で。ガイたちに見つかると厄介ですから」


 シヴァ

「ああ、それじゃあな」


 俺と別れたあとも、彼は他の者たち(主に女性)に声を掛けていた。


 シヴァ

(さて、俺もそろそろ写真を撮ってみるか)


 ロビーの片隅に移動し、デジカメのファインダーを覗く。

 ファインダー越しに見るロビーというのは、なんだか新鮮だ。


 シヴァ

(シャッターボタンは……これか)


 カシャリ。小気味良い音が鳴った。

 デジカメの液晶に今撮ったばかりの画像が映し出された。

 ギルドのロビーを行き交う冒険者達の一コマが切り取られている。

 うん、自画自賛ではあるが、中々いい感じに撮れたんじゃないだろうか。とりあえず保存っと。


 シヴァ

(写真って、意外と面白いな)


 シャシカノ仕様の俺はこの日、何かに目覚めたような気がした。

 たぶん、しただけだろうけど。



   6月15日[水] 昼



 さて、試し撮りも終えたし、いよいよ今回の目的であるミアを撮ろうか。

 そう思ったのだが――


 シヴァ

「……あいつはどこにいるんだ?」


 当然、分かるわけもなく。仕方なく俺は、ロビーにいる冒険者たちや受付嬢にミアを見なかったか訊ねて回ったのだが、あいにく彼女は今日はまだギルドに姿を見せていないらしい。

 冒険者は基本、好きな時に依頼を受ける。もしかしたら今日は来ないかもしれない。


 シヴァ

(しょうがない、適当に街をぶらつくか。運が良ければ会えるだろう)


 幸い、彼女が根城にしている宿は知っているので、あとで訪ねてみても良い。

 俺はギルドをあとにした。


 ギルドの玄関を出ると、突然視界が暗転。

 そして目の前に現れたのは、デフォルトされたディンクの街の鳥瞰図(ちょうかんず)だ。


 シヴァ

(これってもしかして、移動マップか?)


 そう思ったのは、ゲームでは移動する際、今と似たような感じのマップが表示されていたからだ。

 実際、今見えているディンクのマップの上にも、ゲームで見慣れた何種類ものアイコンがあちこちにあるのが見えているので、これが移動マップなのは間違いないだろう。

 ちなみにアイコンの種類は全部で三種類ある。


 デフォルメされた攻略可能な人物。

 ハートの形をしたイベントアイコン。

 クエスチョンマークのフリーイベントアイコン。


 この三つだ。

 大抵は攻略可能な人物のアイコンに、イベントやフリーイベントのアイコンが付いている。

 今見ているマップもそんな感じで表示されている。


 ただ、表示されている人物のアイコンの数が半端じゃない。ざっと見ただけで百人以上はいるだろう。しかも男女関係なく表示されている。

 考えてみれば当然で、ゲームでは七人のヒロインしか攻略できないが、現実はそうじゃない。誰かと付き合おうと思えば、成否はともかくとして、それこそ人の数だけ攻略対象になるのだから。

 とはいえ、街の住民全員が表示されているわけでもなさそうだ。でないと数が少なすぎる。もしかしたら俺が知っている、もしくは向こうが俺の事を一方的に知っている人物だけが表示されているのかも。

 であれば、この数にも納得できる。

 ただ、マップに表示されている人物のアイコンは全員がデフォルトされていて、パッと見ただけでは誰なのか判別できないのは困りものだ。

 探しているミアは猫人族(キャッツ)という種族の獣人なので、ネコミミと目立つ銀髪が特徴の娘だから比較的分かりやすいかなあと思っていたのだが……こうやってみると結構いるな、銀髪の猫人族って。

 どれがミアなのかさっぱり分からん。


 シヴァ

(……まあいいや。どうせ街をぶらつきながら探そうと思ってたんだし。猫人族が表示されている場所を適当に行くか)


 猫人族が多く表示されているのは……繁華街か。俺は繁華街をタップした。


   繁華街へ移動しますか?

    はい   いいえ


 まさかの確認メッセージが現れた。こんなところまで再現されるのか。

 とりあえず、はいを選択。


 すると繁華街を中心に、マップが一気にズームされていき――


 気が付けば繁華街に立っていた。


 シヴァ

(……マジか……マジだな)


 辺りを見渡すも、やはり繁華街。

 俺は一体どうやってここまで来たんだろうか。試しにPダマのホームメニューを開いて時刻を確認したところ、十五分は経過している。ギルドから繁華街までは大体十五分の距離だ。計算は合っている。

 本当に俺はどうやってここにきたんだ?


 ???

「あれ、シヴァさん? こんにちわー」


 シヴァ

(もしかしてワープ移動……いや、だったら時間経過の説明が……ブツブツ)


 ???

「あれ、聞こえてない? おーい!」


 シヴァ

(それとも夢遊病のようにふらふらと……ブツブツ)


 ???

「もう、シヴァさんってば!!」


 シヴァ

「ぉわっっ!!!?」


 耳元で怒鳴られ、ハッと我に返った。

 目の前にいたのは――


 シヴァ

「リリィじゃないか、驚かすなよ」


 リリィ

「何度も呼んだのに、聞いてないシヴァさんが悪いんですよーっだ」


 シヴァ

「む、それは悪かった」


 考え事にのめりすぎてたか。移動方法に関してはどうせ分からないのだし、これ以上考えるのは止めよう。


 リリィ

「ふふっ、許します♪」


 ひまわりが咲いたような笑みを見せてくれるこの娘は名前はリリス。リリィというのは彼女の愛称だ。

 彼女は冒険者ギルドで働いている受付嬢でもあり、冒険者からなかなかに人気が高い。

 俺が冒険者として登録した時からの縁でなにかと世話になっており、特に夕食は毎日のように作りにきてくれるので助かっていたりする。

 そういえば今日は夜勤って昨日言ってたっけ。


 リリィ

「それで、何やら随分と考え込んでいたみたいですけど、どうかしました?」


 シヴァ

「いや、なんでもない。それよりも――」


 ミアを見なかったかと聞こうとしたのだが、そう言えばこの二人、微妙に対立しているだっけかと思い出し、言葉を飲み込む。

 自分で言うのも恥ずかしいが、リリィもミアも、俺に好意を寄せてくれているのだ。

 それが原因で初対面の時は互いに牽制しあっていたのが、あれから一週間、本人同士でなにか話し合いをしたのか、今のところは穏やかになっている。


 シヴァ

(ここでミアを探している、なんて言ったら……不機嫌になりそうだよなあ)


 リリィ

「それよりも――なんです?」


 ・一緒に食事でもどうだ?

 ・またな。クールに去る

 ・それでも敢えてミアを見たかどうか訊ねる


 おっと、選択肢が現れたぞ。選べってことだよな? となると――


 シヴァ

(2番と3番はないな。特に3番は死亡フラグだろ。選ぶなら1番だな。ちょうどお昼時だし)


 シヴァ

「それよりも、一緒に食事でもどうだ?」


 リリィ

「もちろん行きます! ちょうどこの間美味しいお店見つけたんですよ、そこに行きましょう!」


 シヴァ

「お、おい。落ち着け、お店は逃げないぞ!」


 リリィ

「お店は逃げなくても、時間が逃げていきます!」


 上機嫌のリリィに手を引かれ、一軒のお店へと入った。


 カラン、カラ~ン。


 店員

「いらっしゃいませ、そちらの窓際の席へどうぞ」


 シヴァ

「へえ、雰囲気のいいお店だな。落ち着くっていうか。リリィが勧めるのも分かるよ」


 リリィ

「ふふっ、料理を食べればもっと気に入ると思いますよ」


 シヴァ

「お、そいつは期待してしまうな。じゃあ、料理もリリィのお勧めで頼むよ」


 リリィ

「ええ、期待してください♪ あ、すみませーん」


 店員

「ご注文はお決まりですか?」


 店員にメニューすら見ないでスラスラと注文していくリリィ。けっこうこの店には来ているようだ。

 注文を取り終えた店員が去っていく。


 窓際の席とあって、通りから入る光が眩しい。だからといって不快というほどでもなく。

 むしろ、陽光を浴びたリリィがとても美しく見えた。


 ・シャッターチャンス!

 ・撮らなくてもいいや


 シヴァ

「リリィ、ちょっといいかな」


 リリィ

「はい?」


 カシャッ!


 リリィ

「きゃっ!? な、なんですか今の音。それにその黒い箱は?」


 シヴァ

「ごめんごめん、これは魔道具の一種だよ」


 リリィ

「魔道具? ……危険なものじゃないんですよね?」


 シヴァ

「ないない。安全だから」


 カリストフといい、リリィといい……この世界の魔法具って危ないものの方が多いんだろうか?


 リリィ

「もう、いくら安全な魔道具だからっていきなり使わないで下さい。寿命が縮んじゃいますよ」


 シヴァ

「本当にごめんって」


 カメラをしまいながら謝っていると、ちょうどよく店員が料理をもって現れた。


 店員

「おまたせしました。こちらがご注文いただいた料理になります。ごゆっくりどうぞ」


 シヴァ

「ほら、料理もきたしさ。機嫌直して」


 リリィ

「む~……そうですね。今は料理を楽しみましょう」


 シヴァ

(ほっ、どうにかなったか)


 リリィ

「だけど、シヴァさんにはちゃんと埋め合わせしてもらいますからね!」


 シヴァ

(……どうにもなってなかったか。今度からは写真を撮る前に一言断ろう)


 シヴァ

「わかった。今度なにか考えとくよ」


 リリィ

「やった! それじゃ、いただきましょう♪」


 シヴァ

「お、本当に美味しいな」


 リリィ

「でしょう? これも美味しいですよ――」


 シヴァ

(ミアには会えなかったが、これはこれで)


 こうして、二人で昼食を楽しんだ。



   6月15日[水] 午後1



 シヴァ

(さて、次はどこに移動しようか)


 リリィと店の外で別れると、またもディンクの街のマップが現れた。

 猫人族(キャッツ)のアイコンが多いのは……商工業区だ。


   商工業区へ移動しますか?

    はい   いいえ


 はいを選択すると、商工業区を中心にマップが迫り――次の瞬間には商工業区に立っていた。やっぱ変な感じだな。

 周りを見渡せば鍛冶屋が目立つ。どうやらここは工業区の方らしい。

 そこら中から金属を叩く音が聞こえてくる。


 シヴァ

(さて、ミアはいるかな?)


 通りを歩く人や鍛冶屋を覗いている人を観察するも、ミアは見当たらなかった。


 シヴァ

(ん? 向こうにいるのは……オィンガスか?)


 一軒の店の前で、鍛冶師と思われる男性と話し込んでいるオィンガスを発見した。

 彼も冒険者で、初めて会った時には絡まれもしたが今は良好な関係を築けている。

 どうやらオッサンやカリストフたちに憧れているようで、よくオッサンたちと一緒にパーティーを組んで依頼を受けているようだ。

 こんな時間に工業区にいるってことは、オィンガスも今日は休みのようだな。


 ・話しかける

 ・立ち去る


 シヴァ

(なにやら真剣に話し込んでいるようだし、話しかけて邪魔しちゃ悪いか)


 声を掛けず、その場から立ち去った。


 シヴァ

(ここにもミアはいなかったか)



   6月15日[水] 午後2



 シヴァ

(さて、次はどこに移動しようか)


 マップを見ながら考える。


 シヴァ

(冒険者ギルドもけっこう猫人族の人が多いな……朝に行ったばかりだけど、もう一度行ってみるか)


 ……ん? よく見ると大勢の人物アイコンの中に黒いシルエットが一体混ざってるな。しかも『???』のアイコン付き。どっちもゲームでは見たことがないアイコンなんだが。

 まあ、行けば分かるか。


   ギルドへ移動しますか?

    はい   いいえ


 俺はギルドへ足を運んだ。

 ギルド内は相変わらず賑やかだ。だが――


 シヴァ

(肝心のミアが見当たらない、か……ん?)


 ミアを探しながらロビー内をうろついていると、二階へと続く階段を昇る一人の女性に目を奪われた。

 膝ほどもある長い髪は、限りなく黒に近い深紫色で、まるで濡れているかのような艶を帯びており。

 全身を覆うのは、ゆったりとした漆黒のローブ。そのせいで体つきは分かりにくいが、ローブを押し上げるほどに豊かな胸を見るに、プロポーションは恐らくはそう悪くはなさそうだ。

 小さな顔の輪郭は卵型。そこに収まるのは、眠たそうな、気だるげな金色(こんじき)の瞳。目を縁取るのは長い睫毛だ。筋の通った鼻の下には、白桃を思わせる唇。


 シヴァ

(もの凄い美人だな)


 だが、全てのパーツが整いすぎているがゆえに、まるで精巧に造られた人形のようにも見えた。その印象を後押ししているのは、ローブから覗く女性の肌が陶磁器めいた白さをしていたからだろう。

 それらを含め、彼女を言い表すのならば、妖艶。これしかないだろう。

 女性の一挙手一投足、ただ階段を昇っているだけであるのに、全ての動作がいちいち艶(なま)かしく感じられるのだ。

 目が離せず、惹きこまれる。

 これを妖艶といわずに何というのか。


 シヴァ

(……まるで魔女みたいだ)


 俺は知らず知らずのうち、カメラを女性に向けてシャッターを切った。

 パシャッ!


 ???

「……」


 雑多な中での小さなシャッター音が聞こえたわけではないだろうが、見知らぬ女性が一瞬こちらに視線をやったかのように見えたが、女性が足を止めることはなく、そのまま階段を昇っていってしまった。


 シヴァ

(……誰だったんだろ?)


 あっ、もしかしてあの女性がマップで見た『???』アイコン付きの黒いシルエットの人だったんだろうか?

 もの凄い綺麗な人だったけど、誰も見向きもしていなかったのが不思議だ。まるで俺以外の誰も、あの女性に気づいていなかったみたいに。……まさかね。


 シヴァ

(結局、ミアには会えなかったか)



   6月15日[水] 夕方



 シヴァ

(そろそろミアが泊まっている宿に行ってみるか)


 確か、繁華街にあるって言ってたな。


   繁華街へ移動しますか?

    はい   いいえ


 繁華街へと向かった。


 シヴァ

(結構暗くなってきたなあ)


 繁華街へと戻って来る頃には、空は綺麗な茜色に染まっていた。

 ディンクの街は高い防壁に囲まれているので夕陽が差し込みにくく、この時間帯ともなれば街はすでに夜のような暗さだ。

 すでに魔石仕掛けの街灯は灯り、通りを連ねる各店からも魔石灯(ライト)の光が漏れ、道行く人々を照らしていく。


 シヴァ

(ミアが泊まっている宿は……ここか)


 小洒落たデザインの木造三階建ての宿『憩いのまたたび』。ここに泊まっているはずだ。


 シヴァ

(事前に聞いてはいたが……猫まっしぐらって感じの名前だよなあ。とりあえず、中に入ろう)


 中に入ると、そこはこじんまりとしたロビーになっており、奥にはカウンターが見えた。


 受付嬢

「いらっしゃいませ、どのようなご用件でしょうか?」


 猫人族(キャッツ)の女性従業員が対応してくれた。見れば他の従業員(スタッフ)もみんな猫人族だ。もしかして、だからこその宿名なのだろうか?


 シヴァ

「ここに宿泊している猫人族のミアっていう娘を呼んで欲しいんだけど。……え? ああ、はい。友人です」


 不審者と思われないためにも、一応ギルドカードを提示しておく。


 受付嬢

「少々お待ち下さい…………申し訳ありません、シヴァ様。ミア様は今朝ギルドへ出かけたまま、まだ戻ってないようです」


 シヴァ

「今朝から?」


 受付嬢

「はい。帳簿では十時過ぎに出たとありますね」


 ここからギルドまで約半時間ほど。その時間なら、俺もまだギルドにいたはずなんだが……。すれ違ったか? そう思ったのだが、ある事に気付いた。


 シヴァ

(……そういえば、ミアは極度の方向音痴だったっけか)


 そう、彼女は自他共に認める方向音痴。この街に来てからの一週間も、よく迷子になっていた。

 なんせギルドの開けたロビーでも、玄関の場所に迷うほどだからな。

 ミアの方向音痴は、この一週間の間にギルドの名物になっているほどだ。

 一応、彼女の相棒でもある魔石仕掛けの猫(リビングスタチュー)のチャムには【道先案内(ナビ)】の機能が付いているのだが、なぜかチャムもよく道を間違えている。

 恐らく二人とも、今日も道に迷っているに違いない。

 ミアは一度道に迷うとそこからが長い。この一週間でそのことが身に染みて分かっている俺は、恐らく今日はもう会えないだろうと結論付けた。

 受付嬢にお礼を言ってから、『憩いのまたたび』をあとにしたのだった。


 シヴァ

(仕方ない、今日はもう帰るか)



   6月15日[水] 夕方



 シヴァ

「ただいまー」


 誰もいないリビングに、俺の声が虚しく響いた。


 シヴァ

「うん?」


 室内の魔石灯(ライト)をつけると、テーブルの上には小皿が数枚と一枚の紙切れ。拾い上げてみると、リリィからの伝言があった。


 『夕食、作っておきました。ちゃんと食べてくださいね』


 どうやら仕事に行く前にご飯を作っていってくれたらしい。ありがたいことだ。さっそくいただこう。


 シヴァ

「うまい!」


 リリィの料理は冷めてても美味しかった。



 さて、どうしよう。ゲームだったら自宅に帰ると妹が各ヒロインの好感度を教えてくれたりするもんだが……いないしなあ。

 いなければ好感度の確かめようもないし。

 まあ、考えようによってはこれでいいのかもしれない。人の好感度なんて簡単な気持ちで見るもんじゃないだろうし。


 シヴァ

(これでもし、オッサンの好感度が異常に高かったりしたら恐いもんがあるからな)


 自分の想像にちょっと鳥肌が立ってしまった。

 寝るにも早いし、ちょっとカメラでもイジッてようか。


 カチャカチャ。


 シヴァ

(むっ、ここはこんな風になってたのか)


 カチャカチャ。


 シヴァ

(むむっ、結構ズームできるな)


 カチャカチャ。


 シヴァ

(ん? んん?)


 カチャカチャカチャカチャカチャカチャカチャカチャカチャ。


 …………………………ハッ!?


 気付けば結構な時間が経っていた。

 もう寝るか。室内の魔石灯を落とし、ベットへと潜り込む。


 シヴァ

(明日こそミアに会えるといい、な……zzz)

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