素敵な二人・下①
夕暮れ時。のどかな田舎の、どこにでもある農村。
そんな村の外れで惚れた女が、人知れず泣いている。
ただでさえ小柄な体を一層丸めて小さくなり、自分の膝に顔を埋めるようにして、声を殺して泣いている。
悲しければ、声を上げて泣けばいいものを、この女は、こんな時まで強がろうとする。強くあろうとしやがる。
だから俺は、だからこそ俺は、無遠慮に一歩を踏み出し、いつもの調子でグレーテルの背中に声をかけた。
「どうしたグレーテル。そんなしょぼくれた顔してよ」
「……オルドかい。知ってるだろう? この間、両親が亡くなったんだよ」
彼女はのろのろとした動作で膝に埋めていた顔を起こすと、その顔だけをこっちに向けて言った。泣きはらした目は、とても赤かったっけか。
「ああ。さっき村の者から聞いたよ」
グレーテルの両親は、山菜取りに行った近くの山で運悪く牙兎にやられたらしい。彼女は家に残っていて無事だったそうだ。
「そうかい。……はぁ、これからどうしようかねえ」
「どうって?」
「あたしのこの体さ。こんなんで、まともに暮らしていけると思うかい?」
立ち上がったグレーテルは、顔だけでなく体ごとオルドの方に向き直り、自身の体を見下ろしながら彼に尋ねた。
「それは……」
「満足に仕事もできない。かといって、体を売ろうにもこんな体じゃあ、誰も買ってはくれないだろうし」
自嘲気味に笑うグレーテル。
そんな顔が見たくなくて、俺ぁ……。つい、言っちまったんだ。自分の本音って奴を。
「だ、だったらよ!」
「オルド?」
「だったら、俺がお前を貰ってやる! よ、嫁にしてやるよ!」
二人の間を、風が優しくそよいでいく。その間、グレーテルは何も言わなかった。そのことがオルドを不安にさせたが――
「……ぷっ!」
「グ、グレーテル?」
「アハハ! アーッハッハッハッハ!」
「て、てめ! 男の一世一代の告白を笑うたあ、どういう神経してんだこのアマ!」
「これが笑わずにいられるかってんだい! 全く、あんたは本っっ当に面白いことをいう商人だよ、オルド! こんな体のあたしを嫁に欲しいだなんてね!」
そう言って、赤い目のまま笑うグレーテルは、とても美しかった。
――オ……ド。
誰かが呼んでいる。
誰だ、俺は今グレーテルと楽しい一時を過ごしてるんだ。邪魔すんじゃねえよ。
――……ルド。
うるせえな。
誰かに体を揺さぶられる。
――オルド。おい。オルド!
黙ってろ。あと揺さぶるのを止めろ。
オルドは苛立たしげに自分の体を揺さぶる誰とも知れぬ手を払いのけた。
「いい加減に起きろっ、このへぼ商人!」
「誰がへぼ商人だ、ゴラアァ!」
聞き捨てならない言葉に反応したオルドは目をクワッ! と見開き、ガバリと勢いよく跳ね起きる。
「お前のことだってのこのスットコドッコイ!」
そんな彼の脳天に、手刀が勢い良く振り下ろされた。ゴスッ! と良い音を響かせて、オルドの頭蓋骨を盛大に揺らした。ついでに星も飛んだ。
「あ痛っ! ……って、兄ちゃん?」
瞳の中に星を泳がせ、ジンジンと痛む頭を擦りつつ、己に手刀を叩き込んでくれた人物を見やる。オルドの目の前で仁王立ちするは――シヴァだ。
「ったく、ようやく起きたか」
「……ああ、そっか。昔の夢か」
オルドはようやく、さっきまでのことが夢だと認識した。
――それにしてまあ、随分と懐かしい夢を見たもんだ。オルドはフッと笑みを浮かべる。
「ほう、良い夢を見ていたようでなによりだ」
呆れ顔にジト目で見てくるシヴァに、オルドは爽やかな笑顔でこう返した。
「ああ、最っ高に良い夢だったぜ!」
「皮肉だよ分かれよこの馬っ鹿野郎! 起きなかった罰として朝食を作ってもらおうか!」
ちなみに、一昨日の夜と昨日の昼は駅構内の食堂で、昨夜は駅構内にあった売店で買っていた出来合いのもので済ませていた。
「おいおい兄ちゃん、そいつは横暴ってもんだろ! 誰が飯を作るかはちゃんと決めようぜ!」
まだ太陽も昇りきらないというのに、ぎゃーぎゃーとやかましく言い合う二人。
騒がしい早朝の一幕であった。
「兄ちゃんのその収納魔法、マジで便利すぎだろ」
結局、朝食はシヴァのアイテム欄から取り出した料理で済ませた。今は食後のティーブレイクである。
「まあ、便利というのは否定しない。俺も重宝してるからな」
アイテム欄に入れたものは、それが何であれ入れた時の状態のまま保存される。時間経過による温度の低下が起きないのはもちろん、劣化や腐食、腐敗などといったことも起きない。
これを知ったのは、もはやシヴァのバイブルと化しているWEB小説に出てくるアイテム袋などを見て、もしや自分のアイテム欄も同じようなことが起きているのでは? と思い、以前に試したところ判明した。まさにWEB小説さまさまである。
それからは、ちょくちょく出来合いの料理を買ってはアイテム欄に放り込んでいたシヴァであった。
今飲んでいる異世界版紅茶であるアエットも、前に自分で淹れておいたものだ。
「さて、膨れた腹も落ち着いた頃だし、そろそろ出発するかい? 兄ちゃん」
「だな」
この分だとトッケル村には夕方前には着けそうだと言うオルドに頷き、ティーセットをアイテム欄に仕舞いつつ腰を上げるシヴァ。オルドは昨夜から見張りモードにしたままだった戦闘用のイタチ型魔石仕掛けの置物であるライを呼び寄せ肩に乗せる。
「そういや、昨夜は一度も魔物が現れなかったみたいだな」
「……いや、そうでもなかったようだぞ」
呟くオルドに、一番に目覚めていたシヴァは今朝の惨状を思い出した。
「あん? どういうこった、兄ちゃん」
今朝方、シヴァが目撃したのは辺りに転がる魔物の死体の山であった。
内訳は牙兎が六体にモブゴブリンが同じく六体、コボルトが三体の合計十五体。結構な数である。
目覚めたら辺りはスプラッターだった……なんて、安っぽいホラー映画のキャッチコピーを思いつくほどの惨状に、シヴァは目眩を覚えたほどだ。
見張りモードのライが反応しなかったことを鑑みるに、どうやらライの警戒範囲に入る前に、全てシヴァのドローンが殲滅してしまったらしい。
その後、剥ぎ取りをするべく、一度オルドを起こしたのだが全然目覚める様子が無かったので、シヴァは泣く泣く早朝から一人で剥ぎ取りを済ませたあと、改めてオルドを叩き起こしたのだった。
「……そいつぁ済まなかったな、兄ちゃん」
シヴァからあらましを聞き、ばつが悪そうに頭を掻きながら謝るオルドだったが、ふと、疑問に思ったことを口にした。
「それにしたって魔物の数が多すぎやしねえか? ここらは魔物が出るったって、そんなに数は多くねえはずなんだがなあ?」
「恐らくだが、ドローンが最初に倒した魔物の血の匂いに誘われたか死骸を狙ったかで現れた別の魔物をまたドローンが倒して――」
「――またその死骸を狙って現れた魔物を、兄ちゃんのそのドローンとかいうスタチューが倒したってわけだな」
「あとはその繰り返しだったんだろうな」
オルドの言葉に、肩を竦めるシヴァ。
「頼りにはなるが、おっかねえスタチューだなオイ。今も俺たちの周りを?」
「飛んでるよ、ホレ」
言って、一機のドローンの光学迷彩を解いてオルドに見せたあと、再び光学迷彩を起動させて姿を隠させる。
「ハ、ハハ……ホント、頼りにしてるぜ」
乾いた笑いをシヴァに向けるオルドであった。
それからの道中も順調であった。なにせドローンの索敵範囲が広い上にレーザー砲が強力、且つ、射程距離も長い。魔物が近づく前に一方的に狩ってしまう。たまにシヴァも愛用のM4A1-M320アサルトライフルを撃っていたが、それも遠・中距離からなので今まで一度も接近戦をしていない。
「なあオルド」
「なんだ?」
「ライの戦闘力を見せてもらっていいか?」
何度か目の魔物との遭遇戦のおり、シヴァがそんなことを言ってきたので、オルドはこちらに向かってくる遠くの魔物に目をやった。
相手は牙兎が三匹。
オルドは、ライでも十分に対応可能であると判断し、シヴァに頷いた。
「いいぜ兄ちゃん。行けっ、ライ! 牙兎を殲滅しろ!」
『キュイ!』
オルドの肩に止まっていたイタチ型のスタチューであるライが命令に応えるように一鳴きすると、素早くオルドの肩から飛び降り、颯爽と牙兎に向かって駆けていく。なかなかの俊足だ。
あっという間に接近したライは、搭載されている機能の一つ【雷魔法】を一匹の牙兎に見舞う。ライの背中から発せられた雷が牙兎を打った。
『ピュアッ!?』
短い断末魔を上げ、どうと倒れる牙兎。
『ピュウ!』
仲間をやられた他の二匹が、一斉にライへと牙を剥いて襲い掛かるも、ライはそれを軽快な身のこなしで躱すと、お返しとばかりに一匹の牙兎の両目をミスリル製の爪で潰してみせた。
『ピャッ!』
目を潰され、地面をのたうつ牙兎を放って、残る一匹に再びサンダーを放つライ。いくら身軽さが売りの牙兎とて、音速で迫る雷を躱すほどの速度はない。全身を感電させ、絶命した。
ライは未だ地面をのたうつ最後の牙兎にもサンダーを放って止めを刺すと、オルドの元へと戻って来た。
「へー、なかなかやるもんだな」
オルドの肩にとまるライを見る。雷魔法を扱うイタチ型。所有者の命令で戦うその姿に、以前オタクな友人であるオタルに見せられた百年ほど前に流行ったというアニメを思い出したシヴァであった。あれは黄色いネズミみたいな動物だったが。
「まあ、そこそこ値が張ったからこれくらいはできて当然よ。とはいえ、充填していた魔素はほぼ使いきったみたいだから、魔法はしばらく使えねえな」
戦闘用のスタチューの弱点は、その点にあるだろう。確かに内蔵している魔法を使えるのは魅力的だが、充填しておける魔素の量は魔石の大きさによって変わる。まあ、魔素は空気中にいくらでもあるので、時間が経てば自然と魔石に充填されるので問題は無いが、充填中、魔法が使えないというのは痛い。
「それに比べれば、兄ちゃんのスタチューはばかすかと魔法を撃ちまくってるが、魔素切れを起こす様子はねえよな。どんな魔石を使ってるんだよ」
「……秘密だ」
そもそも、ドローンが撃っているのは魔法ではなくレーザーであるし、動力源も魔石ではない上に燃料も魔素ではなく電気だ。とはいえ、それを説明するわけにもいかない。説明できる自信もない。
「まあいいけどよ。兄ちゃんの出鱈目な性能のスタチューと比べるほうが間違ってらぁな」
元より説明してもらえることに期待していなかったようで、オルドはあっさりと諦めると自身のスタチューが倒した牙兎たちを解体すべく歩き出した。
それからさらに数時間後。
「お、見えてきたな。兄ちゃん、あれがトッケル村だ。いやあ、それにしても兄ちゃんのお陰で随分と早く着いたな、感謝感謝だぜ」
日が大分西に傾いた頃、ようやく遠くに目的のトッケル村が見えてきた。この分であればあと半時間ほどで着きそうだ。
「ん? そういや、村には数日いるんだよな?」
「ああ、そのつもりだ」
「宿とかはあるのか?」
「問題ない。訊ねる時にいつも借りている空き家があるからな。……ってか兄ちゃんよぅ、こういうのって最初に確認しないか? 普通」
「……うっさい」
相変わらず、どこか抜けているシヴァであった。
それから半時間後。
「おう、オルドじゃねえか。そうか、もうそんな時期か」
トッケル村に着くと、すぐに近くにいた初老の村人がオルドに話しかけてきたので足を止める。
「来たぜじいさん。なんだなんだぁ? 俺が来る時期も忘れるなんて、もう耄碌が始まったのか?」
「人をジジィ呼ばわりすんじゃねえオルド!」
「ハッハッハ! 実際ジジイじゃねえかよ」
「おや、オルドじゃないか! 元気にしてたかい!?」
「おう、見てのとおり元気だ! モッカさんも元気そうだな!」
「わー! おるどー! おるどー!」
「おっ、ガリク、俺の名前覚えてたか! 偉いぞー!」
次々と現れる村人たち一人一人と挨拶がてら軽く会話をするオルド。関係は良好のようだ。
――盛り上がっているようだし、オルドが紹介してくれるまでは立ち入らないようにしたほうが良いか。
和やかに談笑するオルドと村人たちをよそに、シヴァは村を見渡す。
農村と言うだけあって、村の周囲には幾いくつもの畑が広がっているが、どこも収穫が終わったばかりなのか、土がむき出しのままであった。
見える範囲だけで家は十数軒。全て木造で平屋だが、何軒かは二階建てもある。
道は土がむき出しで、石などで舗装された所は一つもないことから、それほど裕福ではないようだ。
だが、とシヴァはオルドと談笑を交わす村人たちの顔を盗み見る。
どの人の表情もとても明るい。
裕福ではないにせよ、それなりに満ち足りた生活を送っている証拠だろう。
「――ところでオルド、そこの御仁はお前の知り合いか?」
最初にオルドに話しかけてきた初老の村人が、シヴァに水を向ける。
「おっとそうだった。兄ちゃんの紹介をするのを忘れてたぜ」
「おいおい。俺はお前が紹介してくれるのを待ってたってのに」
シヴァは嘆息すると、村人たちに向き直って挨拶する。
「冒険者ギルドに所属するシヴァと言う。このオルドとは友人であるが、今回は護衛として付いて来た次第だ。数日滞在するというオルドと同じく自分もやっかいさせてもらうが、両方の邪魔にならぬよう心がける」
一息に言い終え、最後に軽く頭を下げると、初老の村人が感心したようにあごを撫でた。
「ほう、どこぞの餓鬼と違って礼儀正しいじゃねえか。うむうむ。シヴァ殿といったか。オルドの友人とあらば歓迎させてもらおう」
「ありがたい。それにしてもご老人は中々の目利きであるようだ。俺がどこぞの餓鬼よりも礼儀正しいと見抜くとは」
まさかシヴァが乗ってくるとは思っていなかった初老の村人は、虚を突かれたように目をパチクリさせたあとで大笑いした。
「ひゃっひゃっひゃ! シヴァ殿、それは年の功だよ、年の功!」
「なるほど、年の功か。自分もそのように目が肥える人生を歩んでみたいもんだ」
「ひゃっひゃっひゃ!」
「……おい、お二人さんよぅ。餓鬼ってのは誰だよ、餓鬼ってのは」
「んん? 儂らは誰もお前さんとは言ってないぞ? なあ、シヴァ殿」
「うむ、言ってないな、ご老人」
「こんの野郎ども! ってか何で会ったばかりなのに息が合ってるんだよお前ら!?」
「年の功だな」
「だ、そうだぞ。オルド」
「なんじゃそりゃあ!?」
シヴァたちのやりとりを見ていた他の村人たちからも笑いが漏れるのを見て、シヴァは内心でホッと息をついた。
(どうやら無事に受け入れられたか。田舎は排他的って言うからなあ)
「なあなあ」
ぺしぺし。
「ん?」
太もも辺りを叩かれる感触に下を向けば、十にも満たないような子どもがいた。シヴァはしゃがみ込んで視線を合わせると、恐がらせないよう笑顔でどうした? と訊ねた。
「おにいちゃんって冒険者なのかあ?」
「ああ、そうだ」
「ふぅん。だけど、あんまり強そうに見えないぞ。商人のオルドにも負けそう!」
「………………」
子どもの正直な感想に心を抉られ、笑顔で固まるシヴァ。
村人たちも、シヴァとは違う意味で固まった。村人たちが固まったのは、魔法やスキルを扱うことのできる冒険者を怒らせたのではないかという危惧からだ。
冒険者や傭兵を怒らせるな。
それは、この世界に生きる者の不文律であった。
一種の緊張した空気を破ったのは、オルドであった。
「ダッハッハ! 言われちまったなぁ兄ちゃん! だけどよ、ミズン。その兄ちゃんは見た目は強そうに見えないが、俺の何倍、いや、何百倍も強いんだぜ!」
「え~? 本当にぃ?」
「本当だとも。ここに来るまでの間に出くわした魔物の殆どを兄ちゃん一人で倒しちまったからな! 兄ちゃん、良ければこの子に見せてやってくれねえか」
ぱんと肩を叩かれ、ハッと我に変えるシヴァ。
「あ、ああ。まあ構わないが――出すぞ」
アイテム欄から牙兎の毛皮やモブゴブリンの右犬歯、各魔物の魔石などを取り出して見せた。
「「「おおっ!?」」」
何も無い空間から次々と素材を取り出すシヴァを見て、村人たちから驚嘆の声が上がる。
「シヴァ殿は魔法使いであったか!」
「まあ、そんなところだ」
「すげー! おにいちゃんすげー!」
シヴァを疑いの目で見ていたミズンは興奮し、シヴァの周りをピョンピョン飛び跳ねた。
「な、ミズン。俺の言ったとおりだろ?」
オルドの言葉にミズンは「うん!」と元気良く頷いた。
「それとな、この兄ちゃんは基本的に優しいから怒らないけどよ、他の冒険者とかにさっきみたいな事を言っちゃ駄目だぜ? 下手すりゃ殺されて、この牙兎みたいに皮を剥ぎ取られるぞ」
「ひぃっ!?」
オルドの脅しに、顔を青ざめさせたミズンが涙目でシヴァを見やる。その目は「殺さない? 殺さない?」といっているようだ。
シヴァは苦笑しつつ、
「殺さないから安心しろ。でも、オルドが言ったように気をつけろよ? 冒険者の中にはホントにやりかねない奴がいるからな」
ミズンの頭をくしゃくしゃと撫でながら言うと、ミズンはこくこくと頷き、ピューッと母親のほうにとんでいってしまった。
冒険者に気性が荒い者が多いことは、同業者のシヴァが良く知っている。早くから釘を刺しておくことは決して悪いことではないだろう。
「シヴァ殿、先ほどは村の子どもが失礼した」
出した素材を仕舞っていると、初老の村人が謝罪を申し出てきた。
「構わないさ。俺の見た目が頼りないことは事実だからな。それに、子どもの言う事は可愛いもんだろ、ご老人」
――せっかく受け入れてもらえたのに、こんなつまらないことでギクシャクしたくないからな。というのも、シヴァの本音である。
飾らないシヴァを見て、村人たちはほぅっと安堵の息を漏らすと同時に、感心もしていた。
冒険者に限らず、武を心得る者たちには馬鹿が付くほど自尊心が高い者が非常に多い。子どもとはいえ、そんな自尊心を傷つける物言いされたというのに、シヴァは笑って許したのである。
現代日本で育ち、生来、自尊心というものが希薄なシヴァにしてみれば、さっきのミズンの言葉は心を抉られこそすれ、怒るようなことではないのだが、村人からすれば「なんと器量の大きい男よ」となる。
従って、村人たちのシヴァに対する好感度はうなぎ上りだった。特に若い女性からは熱い視線を送られていた。強く、包容力のある男がモテるのがこの世界の常識であるからして。
「そういやオルド、あんた、もうグレーテルには会ったのかい?」
「さっき着いたばかりだから、まだだ。これから会いに行くところだよ」
「何してんだい、あんた! こんな所で油を売っている暇があったらさっさと行っておやりなよっ、可愛そうなグレーテル!」
中年の女性が言うと、周りの村人たちからもブーブーと非難の声が上がる。
「呼び止めたのあんたらだろうが!」
「男が小さいことを気にするんじゃないよ! 図体ばっかデカイくせして! ほら、さっさとグレーテルの所へお行き!」
村人たちから、しっしとハエを追い払うかのように背中を押されるオルド。
「俺の扱い酷くね!?」
「よし、さっさと行くぞオルド。グレーテルさんの家はお前しかしらないんだからさっさとしろ」
「……何で兄ちゃんが仕切ってるんだよ」
無駄にキリッとした顔で急かすシヴァに、オルドは脱力しながらつっこんだ。




