第13話 都の駅は凄かった!
ディンクへの到着時刻は20:15。
今は午後の六時なので、約二時間の旅になる。
それだけあれば流れる景色もいい加減飽きてくるだろう。なのでシヴァは、オルドと当たり障りのない会話へと切り替え、時間をつぶすことにした。
途中の二つの停車駅は代わり映えが無かったが、駅に停まる度に乗り込む客は増え、満員というほどではないが、最初の頃はガランとしていた車内も今はそれなりに混みつつあった。
皆、シヴァと同じく商業都市ディンクへ向かう客なのだろうから、混むのは仕方ないといえる。
そこで気付いたのが、乗り込む客は多いのに、どの駅でも降りる客が殆どいないという事だ。それも混む一因だろう。
とりあえず気になったのでオルドに聞いてみれば、返ってきたのは至極単純な答えだった。
「村に帰るヤツならともかく、商売人が田舎なんぞに立ち寄ったところで仕方ないだろう?」
オルドが言うには、ニアーツの路線から遠く離れた村と、路線の近くにある村や町とでは生活の水準にかなりの開きがあるらしい。
言われてみれば、最初に立ち寄った村と次に寄ったパス村とでは規模が違うのは、パス村が比較的ニアーツの路線に近いからか。
パス村を最初に見たときに抱いた感想が、『町になる一歩手前』だったことを思い出すシヴァ。
駅の近くの町や村が栄えるのは、どうやら地球も異世界も同じらしい。
交通と利便性と運搬の効率を上げるために造り出されたニアーツだが、それに伴って生まれたのが生活格差だ。
駅に近ければその恩恵――行商などの人の足――に与って発展し、駅から遠ければ必然的に人の足も遠のく。やりとりされる商品の数もまた然り。
これもまた、ニアーツが生み出した光と闇であろう。
「――ん? だがオルドは行商人なんだよな、そういった村などには立ち寄らないのか?」
ヤクザかマフィアと言われても納得する厳つい顔と、恵まれた体格のせいですぐに忘れそうになるが、こうみえてこの男、行商人なのである。
シヴァの指摘にオルドは、「良いとこに気付いたな、兄ちゃん」とニヤリと笑う。
「路線から外れた村に寄らないのは大きな店から出された商売人たちよ。俺たちみたいな個人でやってる商人や小さい店の商人は、そんな隙間を狙って行商するのさ」
大きな店を構える商売人がいる村や町に行っても儲けはないからな。と説明するオルド。他にも商人同士による縄張りや、暗黙のルールなどもあるらしい。
大きな店の行商人が寂れた村に寄らずにいるのは儲けの勘定もあるのだろうが、オルドたちのような行商人に譲っているのも、その辺りの暗黙のルールとやらなんだろう。
となれば、なるほど商いとは難しいものだと返すシヴァに、
「誰にでも簡単に出来りゃあ世話しねえよ。俺だって独り立ちするまでは十年近く都の店で下積みしたんだからよ」
オルドは苦笑を漏らすのだった。
この男が働く店。……客は逃げたんじゃないのか? と失礼な感想を抱くシヴァ。
「おい兄ちゃん、今絶対失礼なこと思ったろ?」
「……」
「目を逸らすなよ!?」
ちなみに、オルドが店で働いていた頃、彼の厳つい顔に驚いて逃げた客は『殆ど』いなかったという。
ニアーツに揺られること、更に一時間余り。
日は既にとっぷりと暮れ、昏い夜空には瞬く星々が宝石のように煌いていた。
遠くに見える光は町か村だろうか。
シヴァが何とはなしに窓から外を見ていると、細長い光が走っていくではないか。
最初は驚いたものの、よくよく見れば別の路線を走るニアーツの光だと分かった。
こうして別路線が見えてきたということは、そろそろ合流地点でもある商業都市ディンクに着くということだろうか。
シヴァの考えを裏付けるように、オルドが声を掛けてきたのはその時だった。
「おい兄ちゃん、窓を開けて前のほうを見てみろ。ディンクの防壁が見えるはずだぜ」
「開くのか、コレ?」
「言ってなかったか? 窓枠の両端に取っ手があるだろ、それを持って上にあげれば良いんだよ」
なるほど確かに取っ手がある。オルドに言われたとおりにしてみれば、窓は簡単に開いた。
びゅうびゅうと外から風が舞い込み、シヴァの前髪を乱れさせる。
髪を押さえながら、ふと他の乗客の迷惑になっていないだろうかと思い、周りを見渡してみれば、誰も嫌な顔をしておらず、他の客のなかにもシヴァと同じく窓を開けて外を見ている者もいた。
同類を見つけてホッとしてしまうのは、引っ込み思案な日本人の性だろう。
ともあれ、迷惑になっていないのならば遠慮は無用と、シヴァは窓から頭を出して前方を見た。
(時速四十キロほどだからこそ、できることだよなあ)
新幹線では自殺行為だろう。
ともあれ――
びゅうびゅうと鼓膜を揺らし、乱暴に顔面を撫でていく風の中、シヴァが目にしたのは、暗闇に浮かぶ巨大な壁だった。
高さは優に二十メートル以上はあるだろう。横幅はどれくらいあるのか分からない。なにせ視界の端から端まであるのだから。恐らくはキロ単位だろう。
だが、一番驚くのは、防壁が多くの魔石灯でライトアップされていることと、どうやらこのニアーツがあの防壁に向かっていることだ。
それが分かったのは、地上から十メートル上を走る線路が防壁に開いた、いくつかの穴の先に伸びているからだ。
どうやらあの防壁自体が駅を兼ねているらしい。
防壁表面から突き出すように設けられた線路を走るニアーツが見えることからも間違いはないだろう。
ライトアップされた防壁を走る異世界産モノレール。なんともファンタジーな光景である。
(鉄道マニアが見たら、どんな反応するのかねぇ)
益体のないことを考えながら防壁を流れるニアーツの光を見ていると、防壁の上部になにか巨大なものが幾つも鎮座しているのに気が付いた。
「壁の上にあるアレは何だ? かなり大きいようだが」
窓から出していた顔を引っ込め、隣で欠伸を漏らしていたオルドに訊ねる。
「ん? ああ、『砲台』のことか」
「……砲台?」
「おうよ。あの筒……って言ってもこの暗さじゃ分かんねえか。まあとにかく、筒状の本体からでっかい金属の弾を圧縮した魔素で撃ち出して、敵を木っ端微塵にしちまう兵器さ」
おー恐い恐い。と冗談めかして笑うオルド。
オルドの説明を聞く限り、弾を撃ち出すのが火薬ではなく魔素という違いはあるが、シヴァの知っている大砲とそう違いはないようだ。
ただ、異世界の大砲は、シヴァの知っている大砲の数倍はデカイ。なにせ全長が五メートルほどはあるように見える。
あの図体から撃ち出される砲弾の威力とはいかほどなものであろうか。
ただ、さらなるオルドの説明では、あの図体のせいで移動させるのは困難らしく、戦争が起こったから持って行く――というのは無理のようだ。
だからこそ、名前が砲台なのだろう。文字通り固定砲台だ。
「魔素で撃ち出すと言っていたが、どのような仕組みなのだろうな」
「さてね。砲台は軍、しいては国のものだからな。仕組みや製造などは全てが機密事項だから、俺たちに知る術はねえよ」
「そうなのか。もしも知ってしまったら?」
「これじゃね?」
オルドが喉を掻っ切る真似をする。つまりは死罪である。軍事機密を知ったのだから相応の罪ではあるのだろうが。
「おっかないな」
「おっかねえ、おっかねえ。触らぬ神に祟りなしってな」
オルドの口から出た地球と同じ諺に驚くも、そもそも翻訳機能が働いているのだから、似たようなこちらの諺が、シヴァに分かりやすい物へと変換されたのだろう。
ともあれ、砲台の仕組みに興味はあったが、そのような事情があるのであれば仕方ない。
シヴァが諦めようとした時、ふと思いついた。
(……多機能ゴーグルに付いているスキャン機能を使えば、あるいは?)
スキャン機能は、プロテクトアーマーの襟部分に分割収納されている多機能ゴーグルが持つ機能の一つだが、ゴーグルを装着せずともこのまま使えたりもする。
多機能ゴーグルを装着しないことで望遠機能が使えず、あまり遠くのものはスキャンできないのだが、今も近づきつつある防壁ならびに砲台の距離はそう離れていない。十分スキャンできる範囲だ。
それに、今ここで多機能ゴーグルを装着すれば注目の的だろう。
とはいえ、先ほど聞いたオルドの話――死罪の件――を思い出すと、少し躊躇はするが、
(……まだスキャンできると決まったわけではないし、できたらできたで黙っていればいいか)
取りあえず軽い気持ちでやってみることにしたシヴァ。どうやら不安よりも好奇心の方が勝ったらしい。
もう一度窓から顔を出し、砲台を視界に納めながら脳内コントローラーを操作してスキャン機能に割り当てられたショートカットボタンを押すと、何本もの走査線が砲台を走り――
【砲台】
・本体素材:ミスリルとアダマンタイトの合金製。
・内部素材:大型の魔石×3、ミスリル板×15。
―概要―
・全長6メートル。
・全高3メートル。
・最大俯仰角―8度~+45度。
・俯仰速度8度/秒。
・旋回速度2度/秒。
・重量1.4トン/最大重量1.6トン。
・最高到達速度 :360メートル/秒。
・最大射程 :1200メートル。
・砲弾最大装填数:5発。
・魔素集積回路:大型の魔石×1、魔素を集めるための魔法陣が刻まれたミスリル板×5。
・魔素圧縮炉 :大型の魔石×1、集めた魔素を圧縮するための魔法陣が刻まれたミスリル板×5。
・高速射出器 :大型の魔石×1、圧縮した魔素を本体内部で爆発させるための魔法陣が刻まれたミスリル板×5。
―用途―
主に防衛に使われる固定砲台。
一升瓶のようなかたちをしており、細くなっているほうが砲身である。
ターレット式台座に固定されており、旋回も可能。
三つからなる回路で魔素を収束、圧縮、爆策させて砲弾を撃ちだす仕組みとなっている。
絶大な威力を誇るが、膨大な魔素を消費するためと圧縮に時間が掛かるため、次弾の発射までには約30秒の空きが出てしまう。
砲弾は本体後部側面にある給弾口から装填される。
また、給弾口にはボックス型のマガジンが装着されており、砲弾を5発詰めることが可能となっている。
【砲弾】
・素材:ウーツ鋼。
―概要―
・全長80センチ。
・重量40キロ。
―用途―
砲台に装填して使う弾。
(……)
網膜投影で表示される情報に一通り目を通したシヴァは、無言で窓から引っ込めた頭を内心で抱えた。
あっさりとスキャンできてしまったからだ。
しかも素材だけでなく、機密と思われる魔石回路までも判明。
その事実に、シヴァの背中を大量の冷たい汗が流れる。
脳裏をよぎる『死罪』の二文字。
「どうかしたのか兄ちゃん?」
「い、いや、何でもない。ちょっと眠くなっただけだ」
オルドの声に驚いたシヴァだったが、まさか砲台の仕組みが分かったなどと言えるはずもないので、冷静を装って適当に誤魔化した。
「そうか。まあ座っているだけだしなあ」
シヴァの答えに納得したのか、またもや欠伸を漏らすオルド。
そんな彼の横顔を見ながら、
(よしっ、見なかったことにしよう!)
シヴァは脳内から先ほどの情報を封印したのだった。まあ、端末にはしっかりと情報が残っているのだが。
ともあれ――
冷や汗を掻くシヴァや他の乗客を乗せて、遂にニアーツは商業都市ディンクの防壁内部へと入っていくのだった。
――トンネルを抜けたそこは雪国だった。という有名な一文がある。
暗い場所から一転して見えた銀世界は、作者の心境を綴ったとも聞くが、今のシヴァはまさしく同じ心境だろう。
防壁の内部は、魔石灯の光で満ち溢れていた。
いや、光だけではない。音も溢れている。
雑踏に話し声、笑い声。
ホームが近づき、ニアーツが速度を落としていくのと反比例するかのように、もしくは聞こえてくる雑踏に触発されるかのように、比較的静かだった車内も活気付いてくる。
もちろん、シヴァもその内の一人だ。
そして遂にニアーツが停車する。
駅のホームドアのバーが下り、駅員によって車両の扉が開かれると、一斉に乗客がホームへと降り始めた。
シヴァとオルドも、背中を押されるようにしてディンク駅に降り立つ。
「っはぁー……」
駅の内部を見渡し、シヴァは感嘆の息を漏らした。
天井から注がれる光に照らされて輝く大理石調のタイルが敷かれた床には汚れが一切なく。
壁には様々な絵画が飾られているばかりか、適度な間隔で置かれた台座の上には、美しく飾られた花々が花瓶の中で咲き誇っているではないか。
今まで見てきた三つの駅と比べるのもおこがましいほどに、ディンク駅は美しかった。
「駅構内は複雑だから、しっかり俺についてこいよ? 慣れない内は冗談抜きで迷子になるからな」
「分かった。案内を頼む」
シヴァは頷く。
迷子になるほど複雑な駅は日本にも存在するのだ。シヴァもその駅では目的の出口にたどり着くまでに、何度も駅員に尋ねたものだった。
ましてやここは異世界。しかも数キロはあるだろう防壁内部。シヴァが知っているあの複雑な駅とは規模が違いすぎる。一人で歩くのは、『バイオ・ハワード』の難易度をナイトメアに設定するようなものだろう。
「お、兄ちゃんは物分りが良いな。大抵のヤツは冗談だと思ったりするんだよ。中には一人で大丈夫だと言って、後日迷子になって大変だったと聞かされたりもするんだが」
「この規模を見れば広大な駅だとは予想が付くからな。恐らく多層構造なんだろ?」
「そうだけどよ……路線図のときといい、ホント飲みこみが早いっていうか、理解力がずば抜けているというか……まあいいや。んじゃ、行こうぜ」
オルドに従い、持っていた切符を窓口に引き渡してホームを出る。
この強面の行商人が言うように、ディンク駅は確かに広大なようだ。
なにせ、ホームを出た途端、待っていたのは様々な店が立ち並ぶモールのような空間が広がっていたのだから。
左右を見渡してもずっと奥まで続いているらしく、ともすれば、ここが防壁内部だという事を忘れてしまいそうな光景である。
「こっちだ、兄ちゃん」
ほけっと突っ立っていたシヴァの背中を、オルドがぽんと叩いて先を促す。
多少の恥ずかしさを感じながらオルドと並んで歩き出したは良いものの、やはりどうしても目があちらこちらを彷徨ってしまう。
途切れない人の波、絶えない喧騒、あちこちからは店の呼び子が通りを歩く人目掛けて声を張っている。
その声にいちいち顔を向ければ、今度は店に意識が行ってしまう。
食堂、宝飾店、服店、中には異世界らしく武器を取り扱っている店もあり、シヴァの目を飽きさせない。
半ばオルドに背中を押されるようにしながら通路を右に左に曲がり、階段を降りていく。その間もシヴァの目は周りに釘付けだ。
何度もオルドから注意されているが、大して効き目はないらしい。
それもそのはず、ある階層の壁では一部が透明のブロックでできており、その一つ一つに造花が埋め込まれていたり、またある階層では通路の一区画に芸術家が作ったオブジェが展示されていたりと、シヴァの目を掴んで放さないのだ。
今のシヴァを見れば、きっと駅構内をデザインした者も満足であろう。
引き連れているオルドからしてみれば堪ったもんではないが。
とはいえ、オルドからして見ても、今のシヴァの様子は微笑ましいものがある反面、不思議な男だとも感じていた。
最初に興味を持ったのは、パス村の近くでゴブリンの集団が出たのをシヴァが独りで倒したと知ったときである。
その時はただ、どんな男かどれ見てみようという軽い気持ちだった。
村で会うことは叶わなかったが、急いで後を追ってみれば、アマン街道で独り、間抜け顔で頭上を走るニアーツを見上げるシヴァを見つけることができた。
遠くから見てみれば、身に着けている装備はどれも見慣れないモノばかりだが、それを除けば、シヴァはどこにでもいそうな男だった。
とても独りでゴブリンの集団を壊滅させられるようには見えなかったが、その立ち居振る舞いには一分の隙もない、確かなものだった。
でなければ、あんな無防備に独り上を向いて突っ立っていれば、良からぬ輩に荷物を奪われていただろう。……まあ、荷物を持っているようにも見えないのだが。
それも不思議なところである。都を目指して旅をしているという割には、あまりにも軽装すぎるのだ。
ともあれ、声をかけて話してみれば、存外に抜けているところもあるし、どれほどの田舎から出てきたのか、ニアーツを見た事がないという。
その割りにというか、それ故になのか、知識には貪欲なようで、ニアーツのことばかりか、砲台のことまで聞いてきた時は驚いたものだ。
冒険者になりたいという話だが、案外、学者向きなのかもしれない。
(……いや、やはり冒険者向きだよな、この兄ちゃん)
オルドと話している間も、ニアーツに乗っている間も、どんな時でも、今の今までにシヴァに隙ができた事は一度もなかった。
それはすなわち、常に周りに注意を払っているという証拠。
もちろん、今もあちこちに顔を向けている間も、だ。
これはもはや、無意識の行動だろう。
(こんな芸当、一流の冒険者がすることだぞ。どんな所から来やがったのかねえ)
実際には、シヴァが隙のないように見えるのは、今のシヴァがWGⅢの装備をしているからである。
プロテクトアーマーを兼ねるパワードスーツには、姿勢を矯正する機能があり、何かあったとき即座に対応できるような姿勢を常時保つことができる上、プレイヤーが咄嗟に対応できない場合は、簡単な回避行動を自動で取る機能も備わっていたりする。
なので凄いのはシヴァではなく、シヴァが装着しているプロテクトアーマーなのだが、オルドにそんなことがわかるはずもない。
ともあれ、オルドの勘違いは続く。
全くの無名の男、されど中身は一流の冒険者に匹敵する実力を持つ男が新米冒険者になる、か。
オルドの見立てどおりの実力をシヴァが持っているのであれば、商業都市ディンクの冒険者ギルドは大当たりを引いたことなる。
伴って、色々なことも起こるだろう。シヴァという男を中心に。
(こりゃあ面白くなってきやがったなあ、オイ!)
商人は縁を大事にするもの。この言葉をこんなにも噛み締めたのは初めてかもしれない。
シヴァという男に巡り会えたことと、友人と呼んで貰えるほどに親しくなったかは分からないが、少なくとも縁を結べたことに感謝するオルドであった。
だが、シヴァの実力が一流冒険者に匹敵するというオルドの予想は、見当違いと言わざるを得ない。
ではもっと下か?
否、その逆だ。
一流どころの話ではなく、並び立てる者がいないほどの天下無双の実力を持っているのだから。
シヴァに自覚はないが、自分が育てたゲームのキャラが持つ能力や装備を扱えるということと、幾つものゲームソフトを入れ替えるだけで能力や装備を全くの別物に変えられるということは、そういうことなのだ。
この世界に生きる者全てがいずれ知るだろう。
シヴァという男の名前を。
彼の持つ非常識なまでの力を、能力を、魔法を、
彼がいずれ築く伝説の山とともに、垣間見ることとなる。
そしてその時、シヴァは尊敬と畏怖の念をもってこう呼ばれることとなる。
――千のスキルを持つ魔王、と。
「オイ兄ちゃん! そっちじゃねえよ、勝手に動くんじゃねえ!」
ふらふらと歩いていくシヴァを、オルドが慌てて呼び止め、彼の背中を押して歩き出していった。
……今はこんなだが、いずれ、きっと、恐らく、多分、シヴァは千のスキルを持つ魔王、と呼ばれることとなる…………はずだ。




