天使学ってきついよ
ずっと更新できてなくてすみません。
「ふぅ、サジェス、交代なのじゃ」
「う、うん」
順番はすぐに回ってくる。
「始め!」
両足で蹴り、足をお腹に抱える。空中で、膝が前に来なければならない。
「はぁ、はぁ」
足は痛くなり、息もあがる。
「交代!」
マットから降りると、足がブルブルなる。
「その場、駆け足、始め!」
前半組が始まる。今度は、その場で走るみたいだ。腕を振り、足をあげている。
「そこ、前を向け!」
「は、はい!」
どうやら、横や下を向いてはいけないらしい。
「足、上げて! 腕振って! ――終わり!」
やっと回復してきたと思ったら、すぐに自分の番になる。
「サジェス、ガンバなのじゃ」
「うん」
アンヌはすごい。前半組が疲れて交代するなか、一人だけ、息も乱れていない。
「始め!」
ふくらはぎや、腿が痛くなってくる。
けど、さっきの抱え込みジャンプよりは辛くない。息があがるのは走っているから仕方ないと思う。
「もっと速く! 走ってないぞ、それじゃあランニングだ」
「っはい!」
速く走ることを意識する。
いつまで走ればいいのだろうか? もうやめたい。けど、やめられない。
「足上げろ! 前見て!」
「はい」
やっぱり訂正。抱え込みと同じくらい、これも辛い。
「終わり!」
終わったー!
これで、筋トレは終わりだろう。こんなに動いたし……。
「サジェス、お疲れなのじゃ。次が一番つらいのじゃ。頑張るのじゃ」
「う、うん?」
終わりじゃないの!?
見るとアンヌは、マットの上にすでに乗っている。
「早く準備しろ! 次行くぞ!」
「は、はい!」
もう終わりかと思っていたみたいで、先生の声に飛び跳ねた生徒がいた。みんな、疲れ果てている顔をしていて、動きも遅い。アンヌとは、正反対だ。
「ラーロ跳び、始め!」
ラーロは、カワンの家にいた、ウサギみたいなやつだ。
「しっかり膝曲げろよ、上に伸びきれ」
「はい」
ラーロ跳びとは、しゃがんだあとに、上に伸びる動きみたいだ。手はしゃがんだ時には下に付け、ジャンプする時には上に真っ直ぐ伸ばす。
時間がたつにつれ、潰れるように下にしゃがんだり、ジャンプが跳ねていなかったりしてくる。皆ヘロヘロだ。
「3,2,1……終わり! 次!」
次は、サジェスの番だ。
「はぁ、はぁっ」
「サジェス、がんばなのじゃ!」
「きっつ!」
本当に、アンヌはすごい。疲れている声に混じって、はっきりアンヌの声は聞こえてくる。
「よーい、始め!」
しゃがんで跳ぶ、しゃがんで跳ぶ。
足はもうすでに痛い。膝は、かくかくとした曲げ伸ばしになる。
「上にしっかり伸びろ!」
「は、はい」
伸びるってどう伸びればいいのだろう? 上に引っ張るように、いっぱい跳べばいいのだろうか?
跳び方を変えてみて、先生の方を見ると頷いてくれる。どうやらこれでいいらしい。
だんだん、蹴れなくなってくる。上に跳べなくて、下にいくときも潰れるようになってきた。もう、体は重たい。気力でやっているような感じだ。
跳ねていない気がしてくる。
「3,2,1……終わり!」
はぁ、はぁ……、やっと終わった。
「お疲れなのじゃ」
ほんと、疲れたぁ。
「今日の補強はここまで。次の授業は、2セット行くからな。心の準備をしとけよ」
「は、はい」
「じゃあ、休憩! 水、飲んどけ」
返事をすると、一斉にコップを鞄からだし、口にコップを当てる。蛇口に行ってないし水も入ってないはずだ。
プハァーってアンヌも言っているが、どうなっているんだろう? 水が飲めているのだろうか?
「ん? どうしたのじゃ?」
「えっと、水、飲めてるの?」
「あっ、そうじゃった! サジェスの水作らなくてはな」
ん? 作る?
アンヌはコップを取り出すと、手のひらを縁に当てる。一瞬光ったと思うと、アンヌは手のひらを引っ込めた。
「ほれ」
「あ、ありがとう」
ひんやりと冷たいコップを受けとると、中には水が入っている。物体生成の魔法だろうか。
「次! 種目に入る! 男女別れて、それぞれ2グループ作れ!」
「はい!」
大急ぎで飲むと、再び授業が始まる。コップはアンヌがしまってくれた。アンヌがコップを手にするとどこかに消えてしまったのだ。
もういちいち驚いていられない。ここはこういう世界だ。
グループを決めるため、女子だけで集まる。
「女子全員いるよね?」
「うん、いるんじゃない?」
「もう、ここで分けちゃっていいでしょ?」
どこの世界にも、こうやってまとめてくれる子たちはいるみたいだ。
なにもしないで、決まっていく。
「え? どこで、分けるの?」
「ざっくり、半分のとこで。あっ、サジェスちゃんは、初めてだから、話せるアンヌさんがいるところがいいよね?」
「あ、はい」
もちろん、アンヌと一緒がいい。
「じゃあ、サジェスちゃんの横で切ればいっか」
「そうだね」
いきなり、尋ねられたからビックリした。
けど、アンヌと離れなくてよかった。
「決まったら、種目に移動しろ」
「はい!」
先生の声がかかった。もう男子は決まったみたいで、種目に移動している。
「どうする?」
「うーん、みんなどっちからでもいいよね?」
「うん」
「じゃあ、こっちが平均台で、そっちがダンチね」
頷くと、それぞれ移動し始める。平均台は聞いたことあるが、ダンチとは何だろう。
サジェスはダンチからやることになった。
「ダンチって?」
「見ればわかるのじゃ。ラフェイでいう、段違い平行棒のことじゃが……」
移動するとそこにあったのは、木の鉄棒のようなものだ。木と木の間に、形成された枝が渡っている。二段になっており、上の棒は、ジャンプして届くか届かないか位のところにあった。
「これが、ダンチじゃ」
なんか、テレビで見たことあるような気もする。体操選手がクルクル回っているやつだ。
「気を付け、礼!」
「お願いします!」
ここからは、各自がやることがあるようで、みんなやっていることが違う。端から順にバーを掴んでいく。
「うわぁー」
みんなすごい!
バーをつかんだら、スイッと体を浮かせ、前回りや後ろ回りなどをやっている。足の先まで真っ直ぐ伸びていて、力が入っていることがわかった。
やっていることは、小学校の頃やった鉄棒に似ているが、上のバーに移ったり、宙返りで降りたりしているので、全然違う。
「次はアンヌだね」
「ああ」
サジェスが言ったとたんに、みんなの視線がアンヌに集まる。
「えっ、アンヌ様の練習が見れるの!?」
「あのアンヌさんの!」
「これはよく見ておかなければ!」
アンヌの演技はどうやらすごいらしい。隣にいるサジェスにも視線が刺さって来る。
「ア、アンヌ?」
みんなの反応を呆れたように見回すと、アンヌは息を吐いた。
「やるのじゃ」
アンヌの纏う空気が変わった。
バーを持ち、体を浮かせ、倒立になる。あんな細い棒の上で倒立になるなんて、考えられない。今までやっていた子達とは、レベルが違うことがサジェスでもわかる。
「すごい……」
次に足先をバーに当て、後ろにくるりと回った。その勢いで体を浮かせ、上のバーをつかむ。一瞬、アンヌの背中に羽が見えた気がする。
上のバーに移るとまた倒立をしていた。今度は倒立の姿勢のまま、風車のようにくるくる回っている。テレビで、体操選手がやってるやつだ。途中で体の向きを変え、反対回りもやっている。
一回、回りながら手を離し、宙返りをしてまたつかんでいた。
もうこれは、人間ができるものではない気がする。すごいとしか言いようがない。
「さすが、アンヌ様……素晴らしいです」
後ろの子の声が、耳にはいる。同感だ。アンヌはすごい!
いよいよ最後みたいだ。回るスピードが速くなっていく。
「あっ」
気づいたらアンヌは空中にいて、二回宙返りをしていた。
着地もピタリと止める。
すごい! 圧倒された。もう一回みたい。
アンヌがポーズを決め、一瞬間ができると、拍手が鳴り響いた。
「アンヌ! すごーい! 体操選手みたいだった!」
「あ、ありがとなのじゃ」
照れてるアンヌも可愛い。
「さすがだな。アンヌの演技は素晴らしい」
先生がいつの間にか側に来ていた。
「小さい頃からやってるからなのじゃ」
「それでも、努力があってこそだ」
先生の言葉にアンヌは嬉しそうに笑うと、サジェスの方を見た。
「次はサジェスの番なのじゃ」
何をすればいいのだろう? アンヌの演技を見たあとだと、何もできる気がしない。




