天使学
遅くなってすみません
消しゴムで消すことがこんなに注目されるなんて。
「あの、やってみますか?」
「えっ、いいのかい」
「はい」
先生は、線が消えたあともじっと消しゴム見ていた。そして、少し上がった先生の顔には、大きくやりたいと書いてある。提案するしかないだろう。
消しゴムを受けとると、紙に当てそっと消し出す。
先程、紙を破いたのを見たからか、妙にゆっくりだ。
「あ、あの……そこまで弱く消そうとしなくても大丈夫です」
「なに!? 本当かい? こ、こうかい?」
今度はちょうどいい感じだ。
サジェスは首を縦に動かした。
「おお! なんだこれは! すごい! どうなっているのだ?」
消しゴムで消してるだけなのに。興味があるのは分かるけど、この食いつき様は怖い。
「あ……こ、これは、汚れを巻き取っているんです……けど……ユニコーンの粉の方が便利だと思います……」
「うん? そうか? まあ、確かに一瞬で消えるのは便利かもしれないが、魔力を使わずに消せることがすごいんだ」
「は、はあ」
この世界ではこういう考えがあるのか。アンヌも横で大きく頷いている。
「おっと、そろそろ時間だな。次の生徒たちが来たようだ。すまない、引き止めてしまって」
「い、いえ」
少女たちも次の教室へ移動しなければならない。
「サジェス、いくのじゃ」
「うん」
先生から、消しゴムを受け取り二人は、教室を後にした。
「次ってなんの授業?」
「ん? 天使学じゃ。ちょっと急ぐのじゃ。もうすぐ始まるのじゃ」
天使学? いったいどんな授業だろうか。名前からは想像できない。
アンヌのペースが上がった。小走りで二人は移動していく。
「ここじゃ」
教室は魔法薬学の隣だった。しかし、教室と言えるかは分からない。広くて体育館みたいだ。
「これから、天使学を始める。今日は実際に動くので、怪我に気を付けてくれ」
ドアを潜ると、ワンピースから動きやすいズボンに変わる。もう、いちいち驚いていられない。こういう世界だ。
アンヌとサジェスは、列の最後に並んでいた。
「はい!」
「は、はい」
ここに来て分かった。
この授業は、体育だ。
「ではまず、ランニング十週! 始め!」
よくいる体育会系の先生が指示を出す。
ただ、普通の体育と違うのは、ここが開けた運動場ではないということ。木が何本か生えていて、走るところを横切っている。はっきり言って邪魔だ。なんでこんな、運動するところに木があるのか分からない。
「ラストー!」
「はい!」
ペースは少し速い。だが、山をいつも走っているサジェスには余裕がある。
「次、倒立いきます!」
「はい!」
倒立!?
「サジェス、一緒にやるのじゃ」
「う、うん」
できるだろうか? 倒立は、もう何年もやっていない。
それになぜかアンヌは斜め前に立っている。普通、真ん前に立って、両手で掴むと思う。小学校の時、組体操ではそうだった。
「横から補助するから、思いっきり足をあげるのじゃ」
「う、うん」
なんか、余計難しそうだ。補助の向きが思っていたのと違う。サジェスの前にはアンヌはいない。すなわち、思いっきり上に足を上げたら、アンヌの補助を通り越して、前に倒れそうだ。
「大丈夫。支えるのじゃ。思いっきり来ていいのじゃ」
不安なのが伝わったのか、アンヌは腕を壁のように前に出してくれた。これならさっきより安心できる。
けど、少し怖い。
思いっきり蹴る、思いっきり……。
「皆、準備できたな。では始め!」
「お、お願いします!」
とりあえずやってみなくては。
手を前について、足を思いっきり振り上げて……。
「あっ」
上がらない。足が上がらない。蹴っても上まで行かずに落ちてくる。
「もう一度やるのじゃ」
「うっ、うん」
足、足を上に、足を上に蹴る。
「んっーーあっ……」
ガシッと足が掴まれ、足が上に上がっていく。同時に体も上に引っ張られ肩の上に体重がかかる。
アンヌだ。
アンヌのお陰で倒立ができた。
体がまっすぐになるように、支えてくれている。
「腹筋にもっと力をいれるのじゃ」
「んっ」
言葉は出せない。意識はしてみるが、できているか分からない。腕が痛くなってきた。
「そうっ、そんな感じなのじゃ! あと、床を押す感じじゃ! 胸を含んで上に押しあげるのじゃ」
とりあえず、さっき言われたことができているのは分かった。だが、後半にいっていることが分からない。胸を含むってなに? 上に押すって、どうやって押せばいいの?
腕、腕が痛い。頭に血が上る。これっていつまでだろうか。
真っ直ぐに体を支えていた腕が曲がってくる。すると、余計きつくなり、つぶれそうになる。
時間はまだか?
「がんばなのじゃ」
ふっと体が上に引っ張られ、腕が伸びる。
アンヌが上に引っ張ってくれたのだ。
しかし、楽になったのも一瞬で、また体重が腕にかかり、腕が曲がる。さらにはぷるぷる震え出す。
もう、ムリ!
「十秒前!」
十秒! なら、あと少し。十秒なら……。
「がんばなのじゃ!」
アンヌが上に引っ張って、倒立の形を直してくれる。
ていうか、もうアンヌが引っ張って、倒立になっている感じだ。けど、腕に体重はかかる。
「3、2、1……終わり!」
アンヌは、サジェスのお腹に手を添え、ゆっくり体を下ろしてくれた。
もう手が上がらない。上げたくない。
「次、交代!」
終わった気持ちでいたが、アンヌもやるのだ。さっき支えてもらったから、次はサジェスが支えなければならない。
さっき、アンヌがやっていたように横からやるのだろうか。
「手を真っ直ぐ伸ばして壁みたいにしてくれたら自分でやるのじゃ」
アンヌは、さっきサジェスを支えていたときのように、手を床と平行に伸ばした。もちろん、横からやるらしい。
「うん、分かった」
腕が痛い。上げると腕が熱を持っている感じだ。けど、少しよくなってきた。痛みは、さっきほどではない。
「よーい、始め!」
「お願いするのじゃ」
「うん」
アンヌは、スッと足を振り上げ逆さになる。
「うわぁーー」
はっきり言って、サジェスの腕にあまりアンヌの体重はかかっていない。アンヌの体は、カチッと力が入っているのが分かる。足の先まで伸び、きれいな倒立の形をしている。
「すごい!」
周りの子はさっきのサジェスみたいにきつそうにしている。
しかし、アンヌは余裕がありそうだ。ずっと最初の位置からふらつかない。サジェスが押さえていなくても、倒立で立っていそうだ。
「あと十秒!」
先生の声が、降りかかる。
グッとアンヌが体に力を入れ直したのが分かった。
「3、2、1……終わり!」
皆が潰れるように降りるなか、アンヌは普通に立ち上がった。
「ありがとなのじゃ」
「うん。アンヌすごいね。ずっとピッてなってた」
「倒立は基礎じゃから、練習していればできるようになるのじゃ。それにまだまだできてると言えないのじゃ。本当は一人でやるのじゃ」
一人って補助なしでってことだろうか?
倒立が基礎ってことはできるようにならなきゃいけないということだろうか?
「次は、足の補強に入るぞ」
「はい!」
なんで皆こんなに元気なのだろうか? 回復が早いと思う。
「サジェス、移動するのじゃ」
「どこ行くの?」
「あの、マットのところじゃ。足の補強はあそこでいつもするのじゃ」
補強?
なにそれ?
「アンヌ、補強ってなに?」
「あ、そうじゃな、筋トレのことじゃ。例えば、さっきの倒立は腕の補強とも言えるのじゃ」
「ふぅーん。……えっ、て言うことは、今度は足の筋トレをするってこと!?」
「そうなるのじゃ」
倒立あんな頑張って、終わりだと思ったのに……、まだあったなんて。
「今度は足じゃから、またさっきとは違うのじゃ」
「うん……」
アンヌはそういうが、きっとまた辛いだろう。どんなやつだろうか?
「じゃあ、始めるぞ! さっきのペアで、どっちが始めにやるか決めて、やる人はマットに乗るように!」
どんなのか分からないのに、最初にやりたくない。
「サジェスは分からないんじゃろ? 最初見てるといいのじゃ」
「うん」
「これはすぐに交代だから、準備しておくのじゃ」
「分かった」
準備ができたところを見計らい、先生が手をたたく。
「まずは抱え込みジャンプ。始め!」
足にとって地獄の始まりだ。
次は、もっと、体操関係を出していきたいです。
時間が……時間が欲しい




