学校
「あっ、カワン!」
サジェスがカワンの名前を言ったとたんに、アンヌは頭を下げた。
「おはよう、サジェス。そしてそちらは……、頭を上げてください。ここでは、ただの生徒です。しかし、あなたは……もしやアンヌ様で間違いないだろうか」
アンヌが顔をあげたとたん、今度はカワンが頭を下げる。
「あってるのじゃ」
苦々しげに、アンヌが言うが、なんだろう。そういえば、アンヌって何者だろう?
「西方ラフェイ王国の姫君と知らず、失礼いたしました、アンヌ様。お噂は常々、本国の姫君より聞いております。私は、カワンと申します。以後お見知りおきを」
姫君!? アンヌが!?
「どんな噂か気になるところじゃが……カワン殿。そんな堅苦しいのはなしじゃ。学校ではみんな対等なのじゃ。わしのこともアンヌと呼ぶのじゃ」
「アンヌ、では私のこともカワンとお呼びください」
「わかったのじゃ」
二人の緊張した雰囲気がフッと緩んだ。
そして、二人は話ながら中央柱へ歩き始める。やばい、置いていかれる。
「しかし、マーメイド寮でサジェスと仲良くなっているなんて、驚きました」
「たまたまじゃ。わしが寝てたら、入ってきたのじゃ。それに、カワン、敬語はやめるのじゃ」
しばらく考えた後、カワンは目を伏せていった。
「分かりました」
「分かりました。じゃなくて、違う言い方があるじゃろう?」
「分かった」
「ふむ、それでよいのじゃ」
敬語ではなくなり、満足したようでアンヌはスタスタと歩き始める。
「おい、サジェス、アン、ヌ? ってどんなこだ?」
前にいるアンヌに聞こえないよう、カワンが小声で聞いてきた。
「ん? 優しい子だよ。いろいろ教えてくれたんだ」
「ふーん。そうなんだぁ」
一応、小声で話しているが、全部聞こえている気がする。後ろを一度も確かめず歩いていくし、耳も赤くなっているのが見える。それに、上機嫌に、鼻歌を歌い始めた。どこの国の物か分からないけど不思議なメロディーだ。
「ねぇ、アンヌ、その曲何の歌?」
サジェスは、アンヌの横に入り込む。もう、カワンの話は終わったようだから、アンヌと三人で話したい。
「ふむ、これはの、友情を歌う歌なのじゃ。カワンは知っておるじゃろう?」
「うん。けど、歌詞までしっかり覚えてないかな」
「なら、今度教えるのじゃ」
「あ、ああ」
二人が仲良くなれたようでなによりだ。
「もちろん、サジェスにも教えるのじゃ」
「えっ、いいの?」
「うむ。もちろんじゃ」
いつ教えてくれるのだろうか? 今から楽しみだ。
「やっぱり、ここって大きいね」
「当り前だよ。中央柱は木の上まで続いているからね」
話しているうちに、中央柱にたどり着いた。昨日は、校長室に行ったが今日は、そのまま教室に行くらしい。
アンヌと一緒に、一年生の教室に向かう。
「では、またなのじゃ」
「ああ、また後でな。授業が終わった後に会おう」
「うん。じゃあ」
一、二年生の教室は一階にある。カワンは、最上級生の十年生なので、五階に教室があるらしい。
校舎に入り、左に曲がるとすぐが、一年生の教室だった。
「あ、あのサジェス、先に入って欲しいのじゃ……」
教室に着くと、アンヌに背中を押された。
「え__?」
まだ、心の準備ができていないのに……。
気が付いたら、パタンとドアが開き二人は中に入っていた。
「ちょっと、ア__」
アンヌに文句を言おうとした途端、懐かしの学校の雰囲気に包まれる。アンヌは目に不安の色合いを漂わせ、サジェスの後ろからそっと覗いていた。
「あら、お久しぶりね。アンヌさん。そして……新しい生徒のサジェスさんよね」
「は、はい」
教室でみんなの前に立っている人が言ったとたん、私語が消えた。この人がきっと先生なのだろう。
「今日からよろしくね」
「は、はい。よ、よろしくお願いします」
「座っていいわよ」
「は、はい」
座ってもいいって、どこに座ればいいのだろう。アンヌはどこに座るのだろうか。
「ねぇ、アンヌ……」
横を見ると、アンヌはすでにいない。空いているところに座っていた。サジェスの方を見て手招きしている。そして椅子を指す。
サジェスは、アンヌのとなりに腰を下ろした。
「今日は久しぶりに、一年生全員揃うことができました! 今日も一日頑張っていきましょう! で、皆が気になっていると思うけど、新入生がいます!」
周りの人からの目線を感じる。そんなに見ないで欲しい! もう教室に入ったときに見たでしょ。お願いだから、前見てて……。
「自己紹介をしてもらいましょう。サジェスさんお願いします」
え……。自己紹介……? なに言えばいいの? てか、やりたくない。
「名前、出身とかなんでも好きなことを言えばいいのじゃ」
アンヌが小声でいってくれたけど、自己紹介自体が苦手だ。
「大丈夫なのじゃ。頑張るのじゃ」
「サジェスさん、ちょっと前に来てくれる?」
聞かれたら、断れない。
「は、はい」
アンヌは、ポンと背中を押してくれた。
前に出ると、クラスの人数が思ったより少ないことが分かった。これなら、頑張れる。高校のクラスの人数より少ない。
担任の先生が頷くのを見て、サジェスは口を開いた。
「は、始めまして。ティエラから来ました、サジェスです。しゅ、趣味は、読書です。よ、よろしくお願いします」
頭を下げると、場がざわめいた。「ティエラだって?」「ほんとかな?」と、言う声が聞こえてくる。
「はーい、注目! サジェスさんは事情があって、この世界で学ぶことになりました。分からないこともあると思うので、その時は教えてあげて下さい」
先生が話している間、アンヌと目が合い笑い合った。
「サジェスさん、ありがとう。もう席に戻ってもいいですよ」
「は、はい」
クラスメイトの視線から逃れたく、急ぎ足で席に戻る。
チャイムがなると、教室移動らしい。バタバタとして教室を出ていく。サジェスのことを見ている人もいたが、話しかけては来なかった。様子を見ているいる感じだ。
「サジェス、行くのじゃ。遅れるのじゃ」
「う、うん」
アンヌはいつも誰と一緒にいるのだろう? ずっとサジェス解いて平気なのか?
アンヌはいつ出してきたのか、手に教科書と、筆記用具を抱えていた。
「どこに行くの?」
「ついてくるのじゃ。荷物は休み時間にロッカーにいれるのじゃ。とりあえず今は急ぐのじゃ」
「うん」
アンヌは、教室を出て廊下を進む。
着いたのは、日が入らない暗い教室だった。中央柱に入ってすぐにあったドアのところだ。二人でひとつの机を使うようになっている。
「今から始まるのは薬学の授業なのじゃ」
「やくがく?」
薬の種類を学ぶのだろうか。
「教科書を開いて見るのじゃ。あぁ、そうじゃったな。教科書はこのビンの絵の教科書じゃ」
席につくと、リュックから小さい教科書を出す。ビンの絵が描いてあるのは一つしかない。
「ちょっと借りるのじゃ。小さくしてたの忘れてたのじゃ」
スッと、手から教科書がなくなりアンヌの手に収まる。
「ん」
アンヌが手を触れたとたん、赤く光、もとのサイズに戻った。
何度見ても魔法はすごい!
「ハイなのじゃ」
「ありがとう」
教科書を開くと、薬学は作るのが主らしいことが分かった。面白そうだ。
教科書、筆記用具を出して準備は完了! あとは先生を待つのみ。
「おや、新しい生徒がいますねー」
「えっ!」
突然、声が響き草の臭いが強くなる。
声はするのに人の姿は見えない。それも声は頭の中に響いてくる。
「サジェス、どうしたんじゃ?」
「あ、声が……」
「声?」
どうやら、サジェス以外の人には聞こえていないらしい。
「ここですよ、ここ机の上」
「えっ、えっ、カエル!?」
可愛い! 背中に星の模様がある。手で持ち上げると、ゲコゲコ鳴く。
頭には「む、なぜ逃げないのです? ティエラの女の子は悲鳴をあげて逃げると本で読んだのですが……」と、カエルの声が響く。
「先生、何しとるのじゃ?」
アンヌの声が横から聞こえた。
間が空いてすみません。最近忙しくて……。
次は、授業に入ります!




