部屋の中
しばらくすると授業に行っていた生徒たちが戻ってきた。
「午後の授業が終わったみたいなのじゃ」
「うん」
その頃にはサジェスも普通に話せるようになっていた。
「明日は、七時半にここ集合じゃ」
「わかった」
「今日はもう寝る。くたくたなのじゃ」
今は夕方。寝るにはまだ早いと思うが、アンヌはとても疲れているように見える。
「あっ」
立ち上がるとアンヌは少しふらついていた。
「大丈夫?」
「ああ、大丈夫じゃ」
アンヌの部屋は、珊瑚の扉。無事たどり着き、ドアはバタンと閉められた。
「どうしよう……」
このあと、どうしよう……。
一人でここにいて、誰かに話しかけるか? いや、そんな勇気ない。
話しかけてくれるまで待つ? どれくらい一人でいれば話しかけてくれるだろうか。そもそも、ここに見たことがない子がいることに気づいてくれるだろうか。
「よし」
部屋に戻ろう。みんなグループで話しているみたいだし……。
「荷物、全然ないけど、整理とかしておこうかな」
立ち上がり、亀のドアへ急ぐ。変な人だと思われるのは嫌だから、できるだけ他の人を見ないようにして。
「金色のところにさして、回すっと」
小さく呟きながらドアを開ける。
「よし! 完璧」
スッとなかに入る。
「ふぅ」
鍵を閉めた。もう自分だけだ。
ドアを閉める直前、顔を上げるとばっとみんなに顔を逸らされた。
やっぱり、この世界でもぼっちになるはずだったのかな。アンヌがいてくれてよかった。
「うわっ」
あぶない! 入り口近くにある銀色の台にぶつかりそうになった。何だろうこれ? 鞄置き場かな? とにかく邪魔だ。確か、アンヌの部屋にもあった気がする。
この部屋の窓は二つ。外から見ると亀に見えるのだろう。甲羅の模様がついている。
窓から外を見ると、多くの生徒が歩いているのが見える。明日からは、サジェスもあの中に入るのだ。どんなことを学ぶのだろうか。
「よいしょ」
リュックの中身を、ベッドの上に広げていく。以前来ていた洋服。ノート、筆記用具。カワンから借りた本。タオル。懐中電灯。そして、小さいポケットには、時計が入っていた。
この時計は、やはりこの世界の物だったみたいで、何人かつけている人がいた。それに、カワンから借りた本にも載っている。何年も使っているが、目覚まし機能があることは初めて知った。
「えーと、服はクローゼットに入れて……」
クローゼットは、たぶんここ。右奥の大きなドアを開ける。
「うわぁ!」
正解だ。この世界の服が、何着も入っていた。全部、今日来ているような、しっかりとした服だ。刺繍もかわいい。ワンピースだけでなく、ズボンもシャツも入っている。
「すごい! 用意してくれたんだぁ」
下にある、タオルのかかった籠の中には、下着も入っていた。タオルの上に上が一枚載っている。
「あっ、パテラさんからだ」
勉強頑張れ。学校生活、楽しんでね。 パテラ
じゃあ、この洋服などを用意してくれたのは、パテラさんだ。
大事に使おう、と心に決めた。
「えっと、次はタオル。タオルは洗面所だよね」
洗面所は、ベッドの奥の所にある。ここはもう、暗くて電気をつけないと見えない。
「これかな?」
曲がってすぐの所にあるボタンを押すと、光があふれた。
「すごい! きれい」
洗面台には、貝が埋め込まれており、光を反射して所々光っている。
「こっちのドアは? あっ、トイレだ! じゃあ、こっちは?」
洗面台の横のドアを開けたあと、もう一つ奥にある、ドアを開ける。
「お風呂だ! 広い!」
お風呂場も洗面所と同じく貝が埋め込まれており、青系の色彩の壁で、海の中を連想させる。それに、広い! 足を楽々伸ばせるし、浮き輪を使って入れそうだ。
「片付けたら、お風呂入ろう!」
先に、片付けなくては。タオルは、洗面台の横にある棚に入れる。
「あっ、これもパテラさんが用意してくれたんだ」
パテラは、生活に必要な物を一通り用意してくれたみたいだ。 棚の中には、タオルがいっぱい入っていた。じゃあ、いま、持っているタオルはここの物と混ぜない方がいい。今持っているタオルは、ティエラから持ってきたものだ。机の棚に入れて、思い出の品として大事にしておこう。
「これは、とりあえず、机の上に置いておこう」
筆記用具と、ノートは机の上に置いておく。まだベッドに載っているのは、本、懐中電灯、時計だ。
時計も、机の上で大丈夫だろう。懐中電灯は机の中にしまって、本は、本棚へ。本棚は、机の横とクローゼットの横の所にある。
「ん? これなんだろう?」
本棚にはすでに一冊本が入っていた。
「食事のメニュー表? なんでここに?」
ページをめくると、さっき邪魔だと思った台の絵がある。
「えっ、ここに料理が出てくるの!?」
ボタンを押して、台にメニューを言うと料理が出てくるらしい。
ちょうど、夕飯の時刻だ。試しにやってみよう。
「何のメニューにしようかな。えっ、ティエラの料理もある!!」
この世界で、ティエラの料理が食べれるなんて。もう食べれないと思っていたから嬉しい。どれにしよう。たくさんあって迷っちゃう。
「スパゲティー、オムライス、ドリア、ハンバーグ。うーん」
どうやら、和食は注文できないらしい。メニューに描いていない。
「よしっ、決めた」
ティエラで一番好きだった料理。
「オムライスにしよう」
母さんが作ってくれるオムライスは、本当に美味しかった。
まず、横についているボタンを押す。そして、料理名をいうんだっけ。
「オムライス、一つ」
チャラーン!
音が鳴って、ランプがつく。メニュー表にはだいたい五分くらいかかると書いてあった。
「そうだ、待っている間にお風呂入れちゃおう」
そうしたら、ご飯を食べた後、すぐにお風呂に入れる。靴を脱ぎ、風呂場に入った。
「え……」
どうしよう……。
どうやってお湯入れるんだろう? 蛇口がない。さっきは、お風呂の広さに夢中で気が付かなかった。ティエラのボタンを押せば、お湯が自動で入ってくれるやつと同じなのか? だけど、ボタンは見当たらない。
今日は、お風呂諦めるしかないのか?
チャラーン!
「あ……」
料理ができたらしい。
また後で、お風呂のことは考えよう。とりあえず、ご飯だ。オムライス。
「うわぁ、美味しそう!」
サジェスが、銀色の台の所に着いた時、青い魔法円が表れた。そして、真ん中にオムライスが載っている。
オムライスは、湯気が出ており、作り立てだとわかる。スプーンも近くに添えてあった。そして、お茶もお盆の上に乗っけてくれていた。
ここのお皿は、貝で、お盆は木でできている。魚の形だ。
「机の物どかさなきゃ」
机の上に載っているものは、とりあえず机の中に一時避難。
よし、きれいになった。
「いただきます」
お盆を机の上に置き、食べ始める。一人で食べる食事は寂しいが、とても美味しい。
「あっ、これ、チーズが入ってる。それに半熟だ! 美味しい」
ご飯も、ケチャップ以外にも何か入れているのだろうか? コクがあり美味しい。鶏肉も、ちょうどいい大きさで味もしっかりしている。
お茶は、少し苦いが、脂っこいこの料理とあっていた。
「ごちそうさまでした!」
オムライスは、あっという間になくなる。お腹が膨れて眠くなってきた。
窓の外を見るともう真っ暗。コルと空の遠くで、ぼんやりと光を発しているが、サジェスのいるところは、月明かりのようにしか届いてこない。
異世界にいる。
そんなことを改めて感じる。
これから、どうなるのだろうか? 明日からはどんな生活になるのか? 楽しみだが、ティエラにいた自分ではなくなってしまいそうで少し怖い。
チャラーン!
何も、注文していないのに、音が鳴る。
「うわぁ。すごい」
サービスです。というメモとともに、デザートのフルーツゼリーが届いた。マーメイド寮らしいデザインで、かわいらしく綺麗だ。
仕方ない。不安でも、進むしかないのだ。
サジェスは、目元に浮かんだ涙を拭いて、フルーツゼリーを机に運んだ。
「ごちそうさまでした」
さっぱりしていて美味しかった。
お盆にフルーツゼリーのお皿も載せ、一緒に銀の台に置く。
「ありがとうございました」
ボタンを押してそういうと、青い魔法円が浮かび、お盆ごと消えた。
次こそ、学校へ向かいます。




