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地底に存在する世界    作者: 風鳥 紀乃
地底世界
16/23

寮の説明

「青い紙は持っておろうな」

「うん」


 青い紙には、寮の説明が書いてあるはずだ。


「まず、一つ目じゃ」


 二人は、サジェスの部屋のすぐ外にある、ソファーで向き合い、話し始めた。


「寮母さんに、分からないことがあったら電話をしてって言われたじゃろう? 電話のかけ方じゃが聞いたか?」


 聞いてない。ティアラと同じじゃないのか。


「ちょいと、わしの部屋へ来るのじゃ」


 アンヌはスタスタと珊瑚の絵の部屋へ歩いていく。


「この電話はマーメイド寮だけで使えるのじゃ。なにも押さないで受話器を取ると、下の受付につながる。電話したい相手の魔力を登録すれば、その相手とも電話できるようになるのじゃ」


 アンヌの部屋の電話は、数字がなかった。代わりにいくつかの海の生き物のボタンがあった。あとは、透明のボタンが沢山ある。内線のような電話らしい。


「試しに、わしの電話機にサジェスの魔力を登録してみるのじゃ」

「え……」


 どうしたら、いいのだろうか? 電話機全体に力を籠めるようにしたらいいのか?


「ん? あ、ここじゃ。この透明のボタンに力を籠めるのじゃ」


 海の生き物のボタンじゃない方に力を籠めればいいらしい。

 指をボタンに触れて、サジェスは力を籠める。


「その調子じゃ」


 だんだん亀の形になっていく。

 カチッとなり、それ以上力が籠められなくなった。


「これでいいの?」

「うむ。それで、次はサジェスの部屋へ行くのじゃ」

「うん」


 もう、ドアの開け方は覚えた。

 亀のドアの前に立つ。真ん中の金色の泡のようなところに鍵を挿す。そして、回す。

 開いた。ばっちりだ。


「あっ、いいよ。入って」


 アンヌは、律儀にも部屋の外で待っててくれた。

 まだ部屋は見事に殺風景だ。私物は、持ってきたリュックのみ。見られてはダメなものなんて一つもない。


「失礼するのじゃ」


 二人は机にポツンと乗っている、電話機へ向かう。

 サジェスの電話機は、アンヌと同じようだ。しかし、電話機のボタンの色が違う。


「どこ?」


 力をどこに籠めればいいのだろうか?


「まず、電話自体にサジェスの魔力を登録するのじゃ。そうしたら、次にわしの魔力をサジェスの電話に登録するのじゃ」


 サジェスは首を縦に振り頷いた。

 電話機へ手を当て力を籠める。押し込むように、押し込むように力を入れていく。


「あっ」


 力の流れが遅くなった頃、ボタンの色が代わり始めた。

 白から透(す)けるような透明に。

 またまたカチッと音がして、全ての色が変わり、力が籠められなくなる。


「できた」

「うむ。サジェスの電話機の登録は終了じゃ。次は、わしじゃな」


 次はアンヌが、サジェスの電話機のボタンに魔力を流す。アンヌもドアと同じで、珊瑚のボタンになっていた。色もついていてかわいい。


「は、早い……」


 そして、何より一瞬で終わっていた。


「ふぅ、久しぶりに本気出したのじゃ! どうじゃ、サジェス。早かったじゃろ?」

「うん!」


 サジェスとは比べ物にならないくらい早い。早すぎる。

 みんな、アンヌみたいに魔法が使えるのだろうか? サジェスは授業についていけるだろうか? さまざまな不安が心に浮かぶ。


「サジェス、わしの部屋に電話をかけてみるのじゃ。まず、受話器を外してボタンを押す。そしたら繋がるのじゃ」


 ここの受話器は細いただの棒だ。細いから、落としそうで少し怖い。それに、受話器はコードでつながっていなかった。


「えっと……次は、ボタンを押すんだよね」


 アンヌはいつの間にか、部屋に戻ったみたいだった。

 ボタンを押すと、サンゴが光り出した。アンヌの部屋の方から、ベルが聞こえてくる。


「はーい! もしもしなのじゃ」


 アンヌだ。もしもしって全世界共通なのか? 頭に、アンヌの声が響く。


「もしもし」

「あ、サジェス、声に出さなくてもいいのじゃ。頭の中で、強く思うのじゃ。そうしたら、他の人に聞かれる心配がないのじゃ」


 なるほど。頭の中に強く思い浮かべて……。


「わかった」


 頭から、その言葉が、飛んで行った気がした。


「できたのじゃ。これで電話は、完璧じゃ。次の説明に行くのじゃ。ソファーとかあるとこで集合じゃ」

「うん」


 がたんと部屋の外で音がした。それに、頭の中で声が聞こえなくなる。


「サジェス、早くするのじゃ」


 開け放した、ドアの向こうから、アンヌの声がした。

 早い。もう部屋を出てるなんて。


「今行く」


 電話を一目見ると、サジェスも部屋を出た。


「次は、この建物の造りについてじゃ」

「うん」

「一階は、受付とあの人、寮母の部屋じゃ。あと、奥の方に倉庫がある」


 倉庫なんてどこにあるのだろうか、受付の他はエレベーターしか見えなかった。寮母さんの部屋は、あの女の子、寮母さんが下りて来たところだろう。受付の横のところだ。


「二階は会議室やコミュニティーホールじゃ。会議室はいくつかあるから何でも使っていいのじゃ。コミュニティーホールはここみたいな感じじゃ。」


 いっぺんに聞いて覚えられるだろうか?

 まぁ、忘れたらまた聞けばいいかな。


「三階は男子の階じゃ。で、四階は女子の階じゃ。どっちも同じような造りのはずなのじゃ。わしは、三階で降りれないけど男子から聞く限り同じじゃ」


 次にいっていいか目で尋ねるアンヌに向かい頷く。


「そして、五階、六階は屋根のところじゃ。中は物置っていうか……、まあ、みんな滅多にいかないのじゃ」


 サジェスが使うのは、この四階と二階、そして、一階の所だけみたいだ。


「寮についての説明は、そうくらいなのじゃ。決まりは、普通に過ごしていれば、破ることはないのじゃ。だから、説明は後で青い紙を見るのじゃ」

「分かった」


 青い紙、見ないなら部屋に置いてきても良かったかも。


「明日は学校じゃな?」


 何か言いたそうに、アンヌは切り出した。


「うん。寮母さんに八時くらいに下に来てって言われた」


 受付の所で、さっき言われた。


「な……」


 一度目を見開いたアンヌは、目線を下げ、口を開く。


「……そ、そうか、ならわしは必要ないのじゃ」

「え……」


 アンヌはソファーに横になって、顔をそむける。なんで……。


「一緒に学校、行かないの?」

「わしは、ごろごろしたいのじゃ。久しぶりにこんなに話したのじゃ。お休みなのじゃ」


 え……。

 急にそっけなくなってしまった。

 どうしよう……、一緒に学校に来てくれると思ってた。おんなじ一年生。クラスでも一緒にいられると思ったのに。

 それにもっと、もっと話したい。


「ま、まだね、聞きたいことがあるの」

「もう終わりじゃ。早く部屋に戻るといいのじゃ」


 アンヌは、顔を見せてくれない。声もくぐもって聞こえた。


「アンヌさん」

「……邪魔しないでほしいのじゃ……」


 けど、これは、聞いておきたいのだ。


「わ、私の、と、友達に、な、なってくれますか?」

「……」


 沈黙が二人を包む。

 そっと、顔を見せたアンヌの顔は濡れていた。


「わしでいいのか? ほかにもっといい友達ができるじゃろ?」


 何を言っているのだろう? 友達になりたいから言っているのに。


「アンヌさんと、ううん、アンヌと友達になりたいの」


 優しく、いろいろ教えてくれたから。一緒の一年生だから。一緒にいると楽しいから。過ごしやすいから。

 友達になりたい。


「ほんとにいいんじゃ? わしは、わがままで、不愛想で、それに……」

「いいの」


 それ以上言わなくてもいい。友達になりたいのには変わりはないのだから。


「分かったのじゃ――っよろしくなのじゃ――」


 アンヌの目から、涙がこぼれる。次から次へと、溢れている。

 そんなに泣くことだろうか。


「こちらこそ、よろしくアンヌ」


 サジェスは、精一杯の笑顔を作り、アンヌに笑いかけた。

次は、部屋の中です。

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