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地底に存在する世界    作者: 風鳥 紀乃
地底世界
13/23

東方ラフェイ魔法学校

 視界がはっきりしてきた。前にカワンの影が見える。

 足元は芝生のようで少しくすぐったい。 建物も見えてきた。真ん中に大きな建物があり、その周辺にいくつかの棟がある。


「ここは?」


 視界がはっきりしたとき、サジェスはカワンに話しかけた。


「樹の中だよ。上を向いてごらん」


 上はドーム状に木が編まれているようだ。光が間から漏れてきている。


「授業は真ん中にある、中央柱でやるんだ。今は授業中だから、大体の生徒はそこに居る。で、周りにある塔は寮だ」


 中央柱はドームの天井のさらに上まで延びているように見える。

 塔は上の三角屋根に旗が揺れ、それぞれ、デザインが違った。それに、塔から出ている煙まで形が違う!


「まずは校長室に行って、入る寮を決めなきゃな」


 二人は中央柱に向かい歩き始めた。

 道は街灯に照らされており、上からの光が届かないところを補っている。


「なんでこんなに広いの? 樹の中だよね?」

「うん。樹の中だよ。魔法で広がってるんだ。ほら、僕のうちも樹だったでしょ?」

「うん」

「あそこと一緒」


 カワンはそう言うけれど、規模が違う。こんなに広いと別世界に来たみたいだ。

 カワンの家は確かに樹だったけど、中は家の中みたいだった。それに比べて、ここは土もあるし、草も生えている。建物もある。

 魔法って何でもありなの?


「サジェスはなんの寮に入るかな? 僕は、エルフ。コツコツ努力する者の住む寮だ。あそこに見える、黄緑色の寮が、エルフの場所だよ」

「へぇー」


 カワンが指したのは、葉をモチーフとしている寮だ。煙の形が葉の形で、窓も葉の形をしている。旗には、木と葉の絵が描いてある。

 中央柱までの道の途中には、道のすぐそばに大きな塔がある。

 大きな塔、大きな足跡の描いてある寮の前を通り過ぎた時は、唸り声のようなものが聞こえた。


「何の音?」

「巨人のいびきだと思う。今の時間は、寮に生徒がいないから寝ているんじゃない?」

「中にいるの?」

「うん。だから、他の寮より大きいだろ?」


 うん。と首を縦に振りながら、通り過ぎる。

 二階の窓のところで動く大きなものが見えた気がした。

 どうやって、中に入ったのだろうか。巨人と言うからには、人間よりはるかに大きいのだろう。そもそも、なんで寮の中にいるのだろうか?


「あのさ、サジェス、学年とかはバラバラになっちゃうけど、心配はいらないからね。基礎からしっかり学ぶと良いと思う」


 唐突に、カワンが言い放った。


「えっ! 一緒のクラスじゃないの?」


 ずっとカワンとは、一緒に行動するのだと思っていた。


「何言ってるんだ? だって、サジェスは魔法のことや、この世界のこと何もって言っていいほど、知らないだろ? どうやって同じ教室で学ぶんだ? たぶんついてこれないぞ。それに、寮も違う可能性がある」

「え……」


 一人で、知らない人だらけの所に行くの?


「ひ、一人……?」

「大丈夫だよ。サジェスならすぐに僕たちのクラスまでこれるって」

「けど、違う寮になったら、寮で一人でしょ? それにクラスが上がるのは、一年に一回じゃないの?」

「先生にお願いすれば、試験が受けられる。合格すれば、次の学年に進めるんだ」


 じゃあ、頑張ればカワンと同じクラスになれる。一人で過ごすことがなくなるんだ。もうぼっちはやだ。


「寮は気の合う子もいるはずさ。友達もすぐにできるよ」


 カワンの声がサジェスを通り越していく。

 サジェスは不安な気持ちを押し込めた。


「う、うん、分かった。一人でも平気だよ」


 カワンを心配させてはいけない。今までもなんとかなった。だからきっと、なんとかなる。

 サジェスは無理やり笑顔を作った。


「大きいね」


 中央柱は、下から見るとより大きく見えた。樹の中にある建物だと思うと不思議だ。


「入るぞ」


 カワンは、上を見上げているサジェスに声をかけると、中央柱へ入っていく。


「まって」


 サジェスは小走りでカワンのあとに続いた。


「校長室は五階にある。右の教室の奥にあるエレベーターだ」


 中央柱の中に入っても生徒たちの声はしない。本当にここが、学校なのか。


「今は授業中だから、声が聞こえないだけさ。授業に集中できるように、防音の魔法が使われているんだ」


 カワンはサジェスの心を読んだようにいうと、エレベーターへ向かった。


「ここがエレベーターだよ」


 そこに行くとあったのは、四角の中に文字が書かれている魔方陣のようなものだ。


「これでどうやって上に行くの?」

「『上』って書いてある方の四角の中に入って、線や文字に力を込めるようにして。すると上に上がるから」

「分かった」


 文字は、とても細かい。なんと書いてあるのかは分からないが、遠目で見ると点にしか見えない。


「サジェスが最初な。ずっと力を込めておけば、一気に五階に行ける。力を込めるのを止めると上昇するのが止まるよ」


 頷いて、カワンが指した方の床に立つと、四角や文字が赤く光始めた。


「サジェス、力を込めて」


 手のひらに力を込め、その力を線に押し出すようにイメージする。力が線に入っていくにつれ体が線と一緒に浮いていく。さらに線の下は、白い膜のようなものができた。


「うわぁ」


 ぐんぐん上がっていく。

 目線が変わっていくのは面白い。ただ、持ち手がなく、上がっていくのが少し怖い。バランスがとれない。


「うわっ!」

「ははっ、座って平気だよ」


 カワンは笑いながら言うが、笑い事ではない。このままだと落ちる。

 少女は、すぐに座り込んだ。


「あっ」


 力を込めなくては当然エレベーターは止まる。


「力を込めて」

「う、うん」


 再び力を込めると、ゆっくり上がり始める。


「よし、僕も」


 サジェスが、しっかり上がれることが分かると、カワンもエレベーターを使い上に上がる。同様に文字や四角が赤く光り、カワンの体と上がってきた。

 二階、三階と上がっていく。階の区切れめは、一度ガタンと揺れる。


「サジェス、そろそろスピードを落とせ」

「うん」


 四階を過ぎた辺りで、カワンから声がかかった。

 スピードを落とすには、力を弱めていけばいい。だんだん弱くしていく。


「よし」


 ガタンと揺れると同時にサジェスは手の力を抜いた。

 我ながら上手く止まれたと思う。ぴったしだ。


「カワン、できたよ!」


 下を覗くとあきれた顔でカワンがサジェスを見た。


「ああ、分かったから早くどいてくれ。僕が五階に行けない」

「あっ、ごめん」


 すぐ下にはカワンがいる。四角から出ないと、カワンが上がってこれない。すぐに立ち上がり四角の外に出る。

 立った所は、待合室のようだ。広い空間にいくつかの椅子や机が置いてある。ドアは奥の壁の左右に一つずつある。


「サジェス、行くぞ」


 カワンは五階に着くと、サジェスの半歩前に立ち、右側のドアへ向かう。


「なかなか、上手かったよ。力のコントロール。初めてだとは思えなかった」


 サジェスの耳にカワンの声が届く。カワンの方を見ると、前を向いているので目は合わなかったが、照れたように笑っていることが分かった。


「失礼します。カワンです」


 緊張した面持ちで、ドアをノックするカワン。

 緊張感が、サジェスにも伝わってくる。


「どうぞ」


 おばあさんの声がする。威厳を感じさせる、重たい声だ。


「失礼します」


 カワンに続き、サジェスも部屋の中に入った。


「待っていたよ。あんたがサジェスだねぇ」


 入ったとたん、おばあさんの目がギョロリとサジェスを見る。


「う……は、はい」


 思わず、後ろに一歩引く。


「校長先生、本日はお時間を作ってくださりありがとうございます」

「カワン。パテラからの指示や王からの勅命を受けていたからって、練習を怠けてたんじゃないだろうね? 魔法の練習や、勉強もやっていたんだろう?」

「大丈夫です。ティエラでも自分なりにやっていました」

「そうかい。ならいい」


 このおばあさんが、校長先生のようだ。


「二人とも座りなさい」


 カワンと目を合わせる。

 サジェスは背中を伸ばし、二人は、ゆっくり腰掛ける。


「さて」


 校長先生は言いながら、椅子に座り、大きい水晶玉を机においた。


「これより寮分けの儀を行う」

「はい。お願いします」


 頷いた校長先生は、次にカワンの方を見て口を開く。


「カワン、あんたはもう外で待っていな。儀式は見てはいけないよ。あんたのときもそうだったろう?」

「はい……、しかし、母がついていたので大丈夫かと思ってました」

「パテラはあんたの母親だからねぇ。けどあんたはサジェスの親じゃないだろう?」


 親じゃないと儀式は見てはいけないらしい。サジェスはラフェイに親がいないから、校長先生と二人きりだ。


「はい。分かりました。部屋の外で待っています」


 カワンは立ち上がり校長先生に一礼する。


「サジェスをお願いします」

「ああ」


 本当は、カワンにこの部屋に残って欲しい。行かないでって言いたい。

 カワンは立ち去る前にサジェスの肩に手を置いた。


「サジェス、がんばれ」

「う、うん」


 校長先生と、二人きり。カワンに残ってほしい。


「失礼しました」


 サジェスの思い空(むな)しく、カワンはそのまま部屋の外に出ていった。

次は、寮です。

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