東方ラフェイ魔法学校
視界がはっきりしてきた。前にカワンの影が見える。
足元は芝生のようで少しくすぐったい。 建物も見えてきた。真ん中に大きな建物があり、その周辺にいくつかの棟がある。
「ここは?」
視界がはっきりしたとき、サジェスはカワンに話しかけた。
「樹の中だよ。上を向いてごらん」
上はドーム状に木が編まれているようだ。光が間から漏れてきている。
「授業は真ん中にある、中央柱でやるんだ。今は授業中だから、大体の生徒はそこに居る。で、周りにある塔は寮だ」
中央柱はドームの天井のさらに上まで延びているように見える。
塔は上の三角屋根に旗が揺れ、それぞれ、デザインが違った。それに、塔から出ている煙まで形が違う!
「まずは校長室に行って、入る寮を決めなきゃな」
二人は中央柱に向かい歩き始めた。
道は街灯に照らされており、上からの光が届かないところを補っている。
「なんでこんなに広いの? 樹の中だよね?」
「うん。樹の中だよ。魔法で広がってるんだ。ほら、僕のうちも樹だったでしょ?」
「うん」
「あそこと一緒」
カワンはそう言うけれど、規模が違う。こんなに広いと別世界に来たみたいだ。
カワンの家は確かに樹だったけど、中は家の中みたいだった。それに比べて、ここは土もあるし、草も生えている。建物もある。
魔法って何でもありなの?
「サジェスはなんの寮に入るかな? 僕は、エルフ。コツコツ努力する者の住む寮だ。あそこに見える、黄緑色の寮が、エルフの場所だよ」
「へぇー」
カワンが指したのは、葉をモチーフとしている寮だ。煙の形が葉の形で、窓も葉の形をしている。旗には、木と葉の絵が描いてある。
中央柱までの道の途中には、道のすぐそばに大きな塔がある。
大きな塔、大きな足跡の描いてある寮の前を通り過ぎた時は、唸り声のようなものが聞こえた。
「何の音?」
「巨人のいびきだと思う。今の時間は、寮に生徒がいないから寝ているんじゃない?」
「中にいるの?」
「うん。だから、他の寮より大きいだろ?」
うん。と首を縦に振りながら、通り過ぎる。
二階の窓のところで動く大きなものが見えた気がした。
どうやって、中に入ったのだろうか。巨人と言うからには、人間よりはるかに大きいのだろう。そもそも、なんで寮の中にいるのだろうか?
「あのさ、サジェス、学年とかはバラバラになっちゃうけど、心配はいらないからね。基礎からしっかり学ぶと良いと思う」
唐突に、カワンが言い放った。
「えっ! 一緒のクラスじゃないの?」
ずっとカワンとは、一緒に行動するのだと思っていた。
「何言ってるんだ? だって、サジェスは魔法のことや、この世界のこと何もって言っていいほど、知らないだろ? どうやって同じ教室で学ぶんだ? たぶんついてこれないぞ。それに、寮も違う可能性がある」
「え……」
一人で、知らない人だらけの所に行くの?
「ひ、一人……?」
「大丈夫だよ。サジェスならすぐに僕たちのクラスまでこれるって」
「けど、違う寮になったら、寮で一人でしょ? それにクラスが上がるのは、一年に一回じゃないの?」
「先生にお願いすれば、試験が受けられる。合格すれば、次の学年に進めるんだ」
じゃあ、頑張ればカワンと同じクラスになれる。一人で過ごすことがなくなるんだ。もうぼっちはやだ。
「寮は気の合う子もいるはずさ。友達もすぐにできるよ」
カワンの声がサジェスを通り越していく。
サジェスは不安な気持ちを押し込めた。
「う、うん、分かった。一人でも平気だよ」
カワンを心配させてはいけない。今までもなんとかなった。だからきっと、なんとかなる。
サジェスは無理やり笑顔を作った。
「大きいね」
中央柱は、下から見るとより大きく見えた。樹の中にある建物だと思うと不思議だ。
「入るぞ」
カワンは、上を見上げているサジェスに声をかけると、中央柱へ入っていく。
「まって」
サジェスは小走りでカワンのあとに続いた。
「校長室は五階にある。右の教室の奥にあるエレベーターだ」
中央柱の中に入っても生徒たちの声はしない。本当にここが、学校なのか。
「今は授業中だから、声が聞こえないだけさ。授業に集中できるように、防音の魔法が使われているんだ」
カワンはサジェスの心を読んだようにいうと、エレベーターへ向かった。
「ここがエレベーターだよ」
そこに行くとあったのは、四角の中に文字が書かれている魔方陣のようなものだ。
「これでどうやって上に行くの?」
「『上』って書いてある方の四角の中に入って、線や文字に力を込めるようにして。すると上に上がるから」
「分かった」
文字は、とても細かい。なんと書いてあるのかは分からないが、遠目で見ると点にしか見えない。
「サジェスが最初な。ずっと力を込めておけば、一気に五階に行ける。力を込めるのを止めると上昇するのが止まるよ」
頷いて、カワンが指した方の床に立つと、四角や文字が赤く光始めた。
「サジェス、力を込めて」
手のひらに力を込め、その力を線に押し出すようにイメージする。力が線に入っていくにつれ体が線と一緒に浮いていく。さらに線の下は、白い膜のようなものができた。
「うわぁ」
ぐんぐん上がっていく。
目線が変わっていくのは面白い。ただ、持ち手がなく、上がっていくのが少し怖い。バランスがとれない。
「うわっ!」
「ははっ、座って平気だよ」
カワンは笑いながら言うが、笑い事ではない。このままだと落ちる。
少女は、すぐに座り込んだ。
「あっ」
力を込めなくては当然エレベーターは止まる。
「力を込めて」
「う、うん」
再び力を込めると、ゆっくり上がり始める。
「よし、僕も」
サジェスが、しっかり上がれることが分かると、カワンもエレベーターを使い上に上がる。同様に文字や四角が赤く光り、カワンの体と上がってきた。
二階、三階と上がっていく。階の区切れめは、一度ガタンと揺れる。
「サジェス、そろそろスピードを落とせ」
「うん」
四階を過ぎた辺りで、カワンから声がかかった。
スピードを落とすには、力を弱めていけばいい。だんだん弱くしていく。
「よし」
ガタンと揺れると同時にサジェスは手の力を抜いた。
我ながら上手く止まれたと思う。ぴったしだ。
「カワン、できたよ!」
下を覗くとあきれた顔でカワンがサジェスを見た。
「ああ、分かったから早くどいてくれ。僕が五階に行けない」
「あっ、ごめん」
すぐ下にはカワンがいる。四角から出ないと、カワンが上がってこれない。すぐに立ち上がり四角の外に出る。
立った所は、待合室のようだ。広い空間にいくつかの椅子や机が置いてある。ドアは奥の壁の左右に一つずつある。
「サジェス、行くぞ」
カワンは五階に着くと、サジェスの半歩前に立ち、右側のドアへ向かう。
「なかなか、上手かったよ。力のコントロール。初めてだとは思えなかった」
サジェスの耳にカワンの声が届く。カワンの方を見ると、前を向いているので目は合わなかったが、照れたように笑っていることが分かった。
「失礼します。カワンです」
緊張した面持ちで、ドアをノックするカワン。
緊張感が、サジェスにも伝わってくる。
「どうぞ」
おばあさんの声がする。威厳を感じさせる、重たい声だ。
「失礼します」
カワンに続き、サジェスも部屋の中に入った。
「待っていたよ。あんたがサジェスだねぇ」
入ったとたん、おばあさんの目がギョロリとサジェスを見る。
「う……は、はい」
思わず、後ろに一歩引く。
「校長先生、本日はお時間を作ってくださりありがとうございます」
「カワン。パテラからの指示や王からの勅命を受けていたからって、練習を怠けてたんじゃないだろうね? 魔法の練習や、勉強もやっていたんだろう?」
「大丈夫です。ティエラでも自分なりにやっていました」
「そうかい。ならいい」
このおばあさんが、校長先生のようだ。
「二人とも座りなさい」
カワンと目を合わせる。
サジェスは背中を伸ばし、二人は、ゆっくり腰掛ける。
「さて」
校長先生は言いながら、椅子に座り、大きい水晶玉を机においた。
「これより寮分けの儀を行う」
「はい。お願いします」
頷いた校長先生は、次にカワンの方を見て口を開く。
「カワン、あんたはもう外で待っていな。儀式は見てはいけないよ。あんたのときもそうだったろう?」
「はい……、しかし、母がついていたので大丈夫かと思ってました」
「パテラはあんたの母親だからねぇ。けどあんたはサジェスの親じゃないだろう?」
親じゃないと儀式は見てはいけないらしい。サジェスはラフェイに親がいないから、校長先生と二人きりだ。
「はい。分かりました。部屋の外で待っています」
カワンは立ち上がり校長先生に一礼する。
「サジェスをお願いします」
「ああ」
本当は、カワンにこの部屋に残って欲しい。行かないでって言いたい。
カワンは立ち去る前にサジェスの肩に手を置いた。
「サジェス、がんばれ」
「う、うん」
校長先生と、二人きり。カワンに残ってほしい。
「失礼しました」
サジェスの思い空しく、カワンはそのまま部屋の外に出ていった。
次は、寮です。




