謁見の終了
「サジェスさん。安心してください。僕がきっと、虹石のありかを探します。だから、もう泣かないでください」
ルイスの声にサジェスが顔を上げると、ルイスはにこりと笑った。
探してくれると言ってくれるのは嬉しいが、見つかる可能性は低い。もう、前の世界には、帰れないのだ。
「父上は、こう、空気が読めませんが、いちおう人の良い方です」
「おい、ルイス……」
王は、感極まったように声を発したが、サジェスはルイスの言葉に不安になった。
「たぶん、サジェスさんのためを思ってティエラの様子を聞きたかったのでしょう」
パテラも、カワンも頭に疑問符を浮かべたのか、ルイスの方を見た。ルイスは、王のことを無視して、話を続ける。
「きっと、サジェスさんにティエラでの楽しい記憶を心に留め、今を過ごしてほしいと思ったのだと思います。記憶は徐々に薄れる物ですから時には思い出すことも大切です。それにしても、今のタイミングで言うのはおかしいと思いましたが……」
「しかしだな……」
「あんた、ルイスが今話しているんだ。今は黙るのがいいだろ?」
王はパテラの目線から逃れようと、ドアの方に顔を向ける。そんな王に一度目をやるとルイスはサジェスの目をまっすぐに見てきた。
「サジェスさん、この世界もティエラと同じように良いところが沢山あります。せっかくこの世界に来たのですから、精一杯楽しんでください。それに、過去を悲しむ暇があるなら、今は努力をするべきです。サジェスさんなら、虹石も見つかると思います!」
最後は、自信たっぷりに言い切った。
「そうだぞ、この世界にしかないものも沢山ある。今を楽しめ。そして、一緒に学ぼう。プラスに考えよう」
ルイスとカワンの言う通りだ。この世界で経験できることは沢山ある。今は楽しみ学ぶのがいいのだ。そもそも、学校に行くための住民登録をしに王宮まで来た。
「うん」
サジェスは、涙を拭いて笑った。
「その……すまなかったサジェ――」
「お話し中のところ失礼します!」
王が口を開いたとたん、ノックとともに入ってきたのは、アレンだった。
「隣国西方ラフェイ王国より緊急要請がありました」
王は先ほどまでの表情が嘘のように、きりっと立ち上がった。
「分かったすぐ向かう」
王はパテラの方を向き、軽くうなずいた。
「すまぬ、先に退出する。サジェス!」
「は、はい!」
びくつく体を押さえて、少女は、王の近くへ行った。
「これを持っていなさい。この国の住民だという証明になる」
王は、小さな石の付いたネックレスをサジェスの首にかけた。
「ありがとうございます」
「うむ」
王は満足そうに頷き、ルイスに後を頼むとアレンに続いて、部屋を出て行った。
バタンとドアが閉まる音がしてカワンがパテラの方に目をやった。。
「今の時期に呼び出しなんて、いったい何があったんだ?」
「分からないけど、あの人が行ったから大丈夫でしょ」
「ああ、そうだな」
「父上はすごいですからね」
王はやるときはやる男なのだ。部屋を出たときの姿は、サジェスに謝ろうとしていたときと別人だった。
「あっそうだ、お菓子をだすの忘れていたよ。みんなで食べないか?」
パテラが途中で食べるように持ってきたお菓子の袋を取り出す。白い袋だ。
パテラが袋を開くと、白いものが舞った。
「粉……?」
中身はただの粉に見えた。黄色、白、緑、茶色など様々な色の粉だ。
パテラはその粉の上に卵を割ると手を粉の上に持ってきた。
「なんのお菓子でしょうか。楽しみです」
パテラの手から白い光が出てきて、白い袋ごと包み込む。たまに、手を回すようにして動かしていた。これで、お菓子ができるのだろうか?
焼きたての匂いが漂ってくる。しばらくして、白い光は消えていった。
「これでよし」
「うわー、おいしそうです!」
「うわぁ」
パテラの手の中には、お菓子が載っている。焼き色も綺麗についていてとても美味しそうだ。
「さすが母さん。何でこんなに綺麗にできるのさ?」
「集中力と経験だよ。あんたも努力するといい」
そう言うと袋を机の真ん中において、クッキーを一つ口に運んだ。
「うん。美味しい。ルイスもサジェスも食べていいわよ」
「はい。ありがとうございます」
「はい!」
大きな声で、返事をしたのは、ルイスだ。
ルイスは大きな声で返事をすると、すぐにクッキーを食べた。
「ん~! 美味しいです。何が入っているのですか? 緑色の葉のようなものが入っているようですが」
「ああ、それか。薬草だよ。疲れがとれる効果があるのさ」
「そうなんですか。とても美味しいです。ありがとうございます!」
ルイスはとても美味しそうに食べている。サジェスも一つ、口に入れた。
「あっ、これ……」
母さんが作ってくれた蓬クッキーと似ている。サクサクしていてとても美味しい。
「サジェス、もう、くよくよしちゃダメだ。先をみなくては何も変わらないのだから。だけど、ティエラのことを思い出したかったら、私のところに来るといい。このクッキーは母から教わったものだ。いつでもご馳走しよう」
パテラの母は、祖母の姉だったはずだ。だから、母のクッキーと似ているのだ。
「パテラさん……あの……ありがとうございます」
「はいよ」
母の味を思い出しながらサジェスはクッキーを食べた。パテラの言葉がすっと胸に染み込んでいく、サジェスだった。
「では、そろそろお開きといたしましょうか」
ゆっくり話しをしお腹もふくれた頃、お開きとなった。パテラとルイスは他人行儀な挨拶を交わしている。
「本日は、面会を許可していただき感謝をしておりますと王にお伝えください」
「はい。かしこまりました」
ルイスは幼く見えるけど、とてもしっかりとしている皇子だ。
「ルイス様も本日はありがとうございました」
「皆さま、おきをつけてお帰りください」
「失礼します」
三人はルイスに頭を下げ、部屋をあとにした。
廊下に出ると、パテラが先頭にたち歩いていく。
「さあ、次は学校だよ。サジェス、授業は明日からで良いからね。今日は寮母さんと話しをしてゆっくり過ごすといいよ」
「はい」
もう、お昼になるのに授業は受けたくない。パテラの指示はありがたかった。
「カワン、後は頼んだよ。私は、イルが待っているから帰る」
「ああ」
カワンは、あきれた顔で返事をすると、パテラを送り出した。
「じゃあ」
「うん」
サジェスも、頭を軽く下げ、パテラを送った。
パテラの姿が見えなくなり二人は学校に向かう。学校はどこにあるのか。
黙々と足を進めていく。
パテラがいなくなると、急に静かになってしまった。カワンは、サジェスの半歩前に立ち、後ろを気にしながら歩いてくれる。
「あ、あの、学校ってどこにあるの?」
王宮の中庭に差し掛かったとき、静けさに耐えられなくなったのは、サジェスだった。話せる相手がいるのに、話さないのは好まない。
「このまま歩いていくの?」
「うーん、なんて説明すればいいんだろう、一応ここはもう学校。さっき通ったところが校門」
「えっ?」
振り返ってみても、校門らしきものは見えない。それに、ここは王宮のはずだ。
「ここ、王宮じゃないの?」
「ここはもう、学校だよ。生徒以外は、許可がないと入れない。許可証は、今首に下げているだろ?」
首に下げているのは、さっき王にもらったネックレスだ。
「これが……?」
「うん」
それにしても、どこから学校だったのだろうか?
「ねえ、どこから学校だったの?」
「さっき通ったとこだって。ほら、あそこの柱とそこの柱のとこだよ」
カワンが指したのは、中庭に入った時に通った、二つの柱だった。
「え――」
もう、学校にいたなんて。ここはどう見ても、学校には見えない。中庭だ。
真ん中に大きな樹があり、周りには花壇やベンチが置いてある。入ってきたのと反対側にも、王宮の廊下らしきものが見える。
どう見ても中庭だ。
「とりあえず、ついてくれば分かるよ」
校舎は見えないが、カワンがそういうので、ついていく。カワンは樹に向かって足を進めた。
「ここが校舎への入り口だよ」
カワンが立ったのは、中庭の真ん中にある、大きな樹の前だった。
「え?」
カワンとパテラの家みたいな感じだろうか? しかし、入口がないように見える。
「まあ、見てて」
カワンは樹の幹に両手を当て、三角の形を作った。
サジェスの顔に風が吹き付け、二人の体が緑色に光り始める。その光は、徐々に強くなっていき、目の前は、光しか見えなくなった。さらに、周りの音が遠のいていく。
何が起きたのだろう?
「カワン?」
前にいるはずのカワンに向けて、片手を延ばす。
「サジェス、大丈夫だ。じきに視界がはっきりする」
手がカワンの服に触れたとたん、頭の中にカワンの声が響いた。
ブックマークありがとうございます!
次は、学校です。




