寮
「じゃあ、始めるよ」
「はい」
カワンが部屋を出たあと、寮をきめる儀式が始まる。
「寮の説明は受けたかい?」
「あ、あまり聞いていないので」
「そうかい。じゃあ始めから説明するよ!」
カワンから聞いたのは、エルフの寮について少しと、いくつか寮があることだけだ。
「はい。お願いします」
「まず、寮は七つある。どれも妖精の名前だ」
校長先生が水晶玉の上に手をかざすと、白く光を放つ。
「緑の巨人」
緑色に色が変わる。
「青のマーメイド、水色のユニコーン、黄の竜、赤のこびと、黄緑のエルフ、そして最後にオレンジのケンタウロス」
妖精の名前をいうたびにその妖精の色に光る。どれも、サジェスがおとぎ話などで知っている妖精だ。
「水晶玉に手を置き、力を押し込むようにするんだ。ほれ、やってみな」
「はい」
サジェスは、水晶玉に上から手を置き力を押し込むようにする。エレベーターと同じだ。
水晶玉は、クルクルと色が変わっていった。
「ほう」
校長先生は、感心したように一息ついている。
色は、青、水色、黄、オレンジの間で、変わっていく。しばらくすると、水色が消えた。続いて黄も消える。
光は、迷うように青とオレンジに光る。きっと、どちらかがサジェスの寮の色になるのだろう。
「青はマーメイド、想像力や発想力。オレンジはケンタウロス、素早さ。さあ、どちらだ……」
校長先生は、何やらつぶやいている。そして、身を乗り出した。青、オレンジ。どちらで止まるだろうか?
「あっ」
白く光を発する。
次に光ったのは、青だった。
「サジェス。あんたの寮は、マーメイド。想像力や発想力が豊かな者が集まる寮さ」
もう、色は変わらない。終わったみたいだ。
「ああ、手を放していいよ。お疲れさん」
サジェスが水晶玉から手を放すと、どっと疲れが押し寄せてくる。
「今日はこの後、ゆっくり休むといい。寮の場所は、カワンが知っている。これからあんたの家は、青い色のマーメイド寮だ。寮事に独自の決まりごとがあるから、よく寮母さんの話を聞くんだよ。あ、あとこれは一年生の教科書だ」
後ろを指して、校長先生が言った。後ろには、どっしりと重たそうな量の教科書が見える。寮まで持てるだろうか。
「もし重たければ、カワンに渡せばいい」
「は、はい」
校長先生に心を読まれているのだろうか?
「魔力の扱いはとても上手かった。今日初めてやったんだろう?」
「は、はい。さっきエレベーターで少し……」
「なら、きっと座学を学ぶとすぐに学年を上がることができるよ」
座学かぁ、難しそう。
「何か困ったことがあったら、周りの人にお聞き。丁寧に教えてくれるはずさ」
にっこりと笑った校長先生と目が合った。
「じゃあ、カワンも待っていることだし、行くといいよ」
「はい。ありがとうございました」
「あと、これもだね」
校長先生は、教科書を楽々運んでくる。
「あ、ありがとうございます」
「ベッドで読めるなら、軽く見ておきな」
「はい。あ……」
教科書は、羽毛のように軽かった。
「ふふ、さあ、行きな」
校長先生は、笑いながらドアを開けサジェスを送り出した。
「おっ! サジェス! 終わったのか? で、何の寮だった?」
サジェスの背中で、バタンとドアが閉まる。
「マーメイドだって」
そういえば、カワンはエルフだったはずだ。バラバラだ。
「そっか、じゃあ別々だ」
そんな軽いものじゃない。
どうしよう、友達出来るかな? 一人で寮に行くなんて……。寮母さんどんな人だろう? 怖い人だったらどうしよう。
冷たい廊下の壁が体に当たる。
「カワン……」
離れたくない。カワンと一緒の寮が良かった。目から涙がこぼれてくる。不安で胸がいっっぱいだ。
「大丈夫だって。マーメイドだろ? エルフに一番近い寮だよ。すぐ会えるし。それに、友達もすぐにできるよ。みんな想像力が豊かで、面白い子たちだよ。プラスに考えよう、プラスに。楽しい生活が送れるよ!」
「でも……」
一人は、不安だ。
「サジェス、大丈夫だ」
サジェスの目に、不安の色が写る。カワンは、目をまっすぐ覗き込み言った。
「大丈夫だよ、サジェス。けど、もし本当に僕に会いたくなったら、エルフの寮までくればいい。寮母さんに言えば、僕を呼んでくれるはずだよ。そしたら、話せるだろう?」
「うん」
「だから、不安に思うことはない。一歩踏み出せ!」
そうだ、家族みたいにもう会えないわけじゃない。いつでも会えるのだ。
「分かった。マーメイド寮に行く」
顔を上げて、サジェスが言うと、カワンは頷いた。
「うん。頑張れ。マーメイド寮まで一緒に行くよ。寮母さんには、話が伝わっているはずだ」
「ありがと」
サジェスの顔に、笑顔が戻った。
「サジェス、教科書持とうか? 多くて前が見えないだろう?」
「けど、っ軽いよ」
石につまずきながら言っても、説得力はない。
「あっ……」
サジェスの教科書はカワンに半分ほど持っていかれた。
「大変でしょ? 悪いよ」
「いいから、持たせろって。僕何も持ってないし。教科書軽いんだったら、大変なこと何もないだろ? それに、全部持ってるとサジェス、転ぶぞ」
「転ばないよ」
気をつければ大丈夫だ。
「さっきも躓いていたじゃんか」
「あれは、たまたまで……」
「山でもよく転んでいただろ?」
「あれは、走っていたからで……」
サジェスは、カワンの目線から、逃れていく。
「サジェス、いっそう、全部僕が持ってもいいんだぞ」
カワンがいい笑顔で笑ってきた。この笑顔は、本気で全部持つ気だ。
「う――もう! わかったよ! じゃあ、今カワンの持っている教科書を寮までお願いします!」
「はーい」
結局、サジェスとカワン、半分つつ持つことになった。
緑のエルフの塔の後ろに、青い塔が見える。あそこが、マーメイド寮らしい。煙の形は、魚だ。
「カワン、寮母さんってどんな人?」
「髪が長くて、マーメイドで優しい人」
「マーメイド!?」
本物!?
「そんなに驚くこと? 各寮にはその寮の妖精が寮母をやってるんだ。僕の寮はエルフだし。学校の裏には、妖精たちの住んでいるところもあるよ」
まさか、実際に妖精を見ることができるなんて。
「サジェス、そもそもティエラの伝説の生き物とか妖精とかは、ラフェイから出ていった妖精がもとになっているんだよ」
「そうなの?!」
じゃあ、羽が生えた小さな人もいるのかな? ドワーフとかも?
なんか、わくわくしてきた。この世界ラフェイでどんな妖精と会えるのか楽しみだ。
「カワン、早くいこ」
「おい、ゆっくり行くぞ。転ぶだろ」
「だって、妖精だよ! 妖精!」
「いいから、落ち着け」
落ち着いていられないと思う。物語の中にしかいなかった妖精と会えるのだ。それも、寮母さんはマーメイドなんて!
「早く、早く」
足が、早足になっていく。
「待てったら」
カワンはため息をつくと、サジェスを追いかける。
ここら辺の道は、舗装されていない。草の中に石がよく隠れている。だから、足元の見えない今の状態で早足になるのは、危険なのだ。
「あっ!」
「サジェス!」
カワンの言ったとおりだ。サジェスは転んだ。
「いったぁ」
「だから言っただろう?」
「だって……」
カワンは急いでサジェスのところへ行き、助け起こす。サジェスに特に大きなけがは見つからなかったので、教科書をすべてまとめて持ち上げた。
「あっ、いいよ、サジェスも持つよ。サジェスの教科書だし」
「いいから。サジェスに渡すとまた転びそうだから、僕が持つよ」
「あ……」
カワンはそういうと、スタスタ寮へ歩いていく。
「ぼーっと突っ立ってないで早く来い」
気が付いたら、カワンはもうマーメイド寮の前に立っていた。
次は、寮母さんです。




