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地底に存在する世界    作者: 風鳥 紀乃
地底世界
14/23

寮

「じゃあ、始めるよ」

「はい」


 カワンが部屋を出たあと、寮をきめる儀式が始まる。


「寮の説明は受けたかい?」

「あ、あまり聞いていないので」

「そうかい。じゃあ始めから説明するよ!」


 カワンから聞いたのは、エルフの寮について少しと、いくつか寮があることだけだ。


「はい。お願いします」

「まず、寮は七つある。どれも妖精の名前だ」


 校長先生が水晶玉の上に手をかざすと、白く光を放つ。


「緑の巨人」


 緑色に色が変わる。


「青のマーメイド、水色のユニコーン、黄の竜、赤のこびと、黄緑のエルフ、そして最後にオレンジのケンタウロス」


 妖精の名前をいうたびにその妖精の色に光る。どれも、サジェスがおとぎ話などで知っている妖精だ。


「水晶玉に手を置き、力を押し込むようにするんだ。ほれ、やってみな」

「はい」


 サジェスは、水晶玉に上から手を置き力を押し込むようにする。エレベーターと同じだ。

 水晶玉は、クルクルと色が変わっていった。


「ほう」


 校長先生は、感心したように一息ついている。

 色は、青、水色、黄、オレンジの間で、変わっていく。しばらくすると、水色が消えた。続いて黄も消える。

 光は、迷うように青とオレンジに光る。きっと、どちらかがサジェスの寮の色になるのだろう。


「青はマーメイド、想像力や発想力。オレンジはケンタウロス、素早さ。さあ、どちらだ……」


 校長先生は、何やらつぶやいている。そして、身を乗り出した。青、オレンジ。どちらで止まるだろうか?


「あっ」


 白く光を発する。

 次に光ったのは、青だった。


「サジェス。あんたの寮は、マーメイド。想像力や発想力が豊かな者が集まる寮さ」


 もう、色は変わらない。終わったみたいだ。


「ああ、手を放していいよ。お疲れさん」


 サジェスが水晶玉から手を放すと、どっと疲れが押し寄せてくる。


「今日はこの後、ゆっくり休むといい。寮の場所は、カワンが知っている。これからあんたの家は、青い色のマーメイド寮だ。寮事に独自の決まりごとがあるから、よく寮母さんの話を聞くんだよ。あ、あとこれは一年生の教科書だ」


 後ろを指して、校長先生が言った。後ろには、どっしりと重たそうな量の教科書が見える。寮まで持てるだろうか。


「もし重たければ、カワンに渡せばいい」

「は、はい」


 校長先生に心を読まれているのだろうか?


「魔力の扱いはとても上手かった。今日初めてやったんだろう?」

「は、はい。さっきエレベーターで少し……」

「なら、きっと座学を学ぶとすぐに学年を上がることができるよ」


 座学かぁ、難しそう。 


「何か困ったことがあったら、周りの人にお聞き。丁寧に教えてくれるはずさ」


 にっこりと笑った校長先生と目が合った。


「じゃあ、カワンも待っていることだし、行くといいよ」

「はい。ありがとうございました」

「あと、これもだね」


 校長先生は、教科書を楽々運んでくる。


「あ、ありがとうございます」

「ベッドで読めるなら、軽く見ておきな」

「はい。あ……」


 教科書は、羽毛のように軽かった。


「ふふ、さあ、行きな」


 校長先生は、笑いながらドアを開けサジェスを送り出した。


「おっ! サジェス! 終わったのか? で、何の寮だった?」


 サジェスの背中で、バタンとドアが閉まる。


「マーメイドだって」


 そういえば、カワンはエルフだったはずだ。バラバラだ。


「そっか、じゃあ別々だ」


 そんな軽いものじゃない。

 どうしよう、友達出来るかな? 一人で寮に行くなんて……。寮母さんどんな人だろう? 怖い人だったらどうしよう。

 冷たい廊下の壁が体に当たる。


「カワン……」


 離れたくない。カワンと一緒の寮が良かった。目から涙がこぼれてくる。不安で胸がいっっぱいだ。


「大丈夫だって。マーメイドだろ? エルフに一番近い寮だよ。すぐ会えるし。それに、友達もすぐにできるよ。みんな想像力が豊かで、面白い子たちだよ。プラスに考えよう、プラスに。楽しい生活が送れるよ!」

「でも……」


 一人は、不安だ。


「サジェス、大丈夫だ」


 サジェスの目に、不安の色が写る。カワンは、目をまっすぐ覗き込み言った。


「大丈夫だよ、サジェス。けど、もし本当に僕に会いたくなったら、エルフの寮までくればいい。寮母さんに言えば、僕を呼んでくれるはずだよ。そしたら、話せるだろう?」

「うん」

「だから、不安に思うことはない。一歩踏み出せ!」


 そうだ、家族みたいにもう会えないわけじゃない。いつでも会えるのだ。


「分かった。マーメイド寮に行く」


 顔を上げて、サジェスが言うと、カワンは頷いた。


「うん。頑張れ。マーメイド寮まで一緒に行くよ。寮母さんには、話が伝わっているはずだ」

「ありがと」


 サジェスの顔に、笑顔が戻った。


「サジェス、教科書持とうか? 多くて前が見えないだろう?」

「けど、っ軽いよ」


 石につまずきながら言っても、説得力はない。


「あっ……」


 サジェスの教科書はカワンに半分ほど持っていかれた。


「大変でしょ? 悪いよ」

「いいから、持たせろって。僕何も持ってないし。教科書軽いんだったら、大変なこと何もないだろ? それに、全部持ってるとサジェス、転ぶぞ」

「転ばないよ」


 気をつければ大丈夫だ。


「さっきも躓いていたじゃんか」

「あれは、たまたまで……」

「山でもよく転んでいただろ?」

「あれは、走っていたからで……」


 サジェスは、カワンの目線から、逃れていく。


「サジェス、いっそう、全部僕が持ってもいいんだぞ」


 カワンがいい笑顔で笑ってきた。この笑顔は、本気で全部持つ気だ。


「う――もう! わかったよ! じゃあ、今カワンの持っている教科書を寮までお願いします!」

「はーい」


 結局、サジェスとカワン、半分つつ持つことになった。

 緑のエルフの塔の後ろに、青い塔が見える。あそこが、マーメイド寮らしい。煙の形は、魚だ。


「カワン、寮母さんってどんな人?」

「髪が長くて、マーメイドで優しい人」

「マーメイド!?」


 本物!?


「そんなに驚くこと? 各寮にはその寮の妖精が寮母をやってるんだ。僕の寮はエルフだし。学校の裏には、妖精たちの住んでいるところもあるよ」


 まさか、実際に妖精を見ることができるなんて。


「サジェス、そもそもティエラの伝説の生き物とか妖精とかは、ラフェイから出ていった妖精がもとになっているんだよ」

「そうなの?!」


 じゃあ、羽が生えた小さな人もいるのかな? ドワーフとかも?

 なんか、わくわくしてきた。この世界ラフェイでどんな妖精と会えるのか楽しみだ。


「カワン、早くいこ」

「おい、ゆっくり行くぞ。転ぶだろ」

「だって、妖精だよ! 妖精!」

「いいから、落ち着け」


 落ち着いていられないと思う。物語の中にしかいなかった妖精と会えるのだ。それも、寮母さんはマーメイドなんて!


「早く、早く」


 足が、早足になっていく。


「待てったら」


 カワンはため息をつくと、サジェスを追いかける。

 ここら辺の道は、舗装されていない。草の中に石がよく隠れている。だから、足元の見えない今の状態で早足になるのは、危険なのだ。


「あっ!」

「サジェス!」


 カワンの言ったとおりだ。サジェスは転んだ。


「いったぁ」

「だから言っただろう?」

「だって……」


 カワンは急いでサジェスのところへ行き、助け起こす。サジェスに特に大きなけがは見つからなかったので、教科書をすべてまとめて持ち上げた。

 

「あっ、いいよ、サジェスも持つよ。サジェスの教科書だし」

「いいから。サジェスに渡すとまた転びそうだから、僕が持つよ」

「あ……」


 カワンはそういうと、スタスタ寮へ歩いていく。


「ぼーっと突っ立ってないで早く来い」


 気が付いたら、カワンはもうマーメイド寮の前に立っていた。

次は、寮母さんです。

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