2.帰り道
前回に引き続き、ありがとうございます!
今回の話から、難しい単語はフリーメモの方で、意味を書いていこうと思います!
ではどうぞ!
授業が終わり、転校生の物珍しさにクラスの中の陽キャとされる男女がにこにこと、ゆいの席のまわりを囲んで、話を始めた。いや、一方的に話しているといったほうが正確だ。
「朝比奈さんってどこから来たんだ?」
「髪の毛、めちゃ綺麗だねー」
「なぁ、唯香って呼んでもいい?」
「連絡先の交換しようよ!」
とか何とか…。
ゆいに質問攻めをしているようだ。困ったようにゆいは、こちらをちらりと見て『助けて』と目で訴えている。
俺は小さくため息をついて、そいつらに話しかける。
「お前ら、ゆいが困ってるし、そこら辺にしとけば?」
クラスの人とは基本、話さないから、そいつらは驚いたのだろう。だが、それに『驚いた』というより、俺が発した単語に『当惑している』らしかった。
「え、今、朝比奈さんのことゆいって…呼んだ?二人ってどういう関係?」
周りが少しざわつく。
あ、つい癖で呼んでしまった。こういう場合は幼馴染だからと言えばいいのだろうか。もし言ったとしても質問攻めにされそうで面倒くさいと思っていた矢先、ゆいがそれを察知したかのように「気のせいじゃないかな。」とフォローしてくれた。
その後、ゆいとはゆっくり話せるようなタイミングが来ることもなく、学校が終わった。
帰る準備をしていると、机の上に一枚の紙きれが置かれていることに気づいた。その紙切れにはこう書かれていた。
『柊翔へ バス停で待ってるね! 唯香』
その文字を見て、俺は気が付いたらバス停までの道のりを走っていた。いつも、下校の時間になると、バス停までの道のりが憂鬱で、できるだけゆっくりと歩いていたが、今はそんな気持ちとは反対に、バス停に早く着きたいという一心だった。
バス停に着く頃には、久しぶりに全力疾走したせいで、息が上がり、へとへとになっていた。先に着いていたゆいは、おかしそうに俺を見て、「なんで、そんな…ふっ、息切れしてるの?」と今にも吹き出しそうなくらい面白がっていた。早くゆいと喋りたかったから、とは流石に恥ずかしくて言えそうになかったため、「べ、別に…」とゆいから顔をそらしてごまかした。
バスが来るまでの間、俺とゆいは何の変哲もない会話を展開していた。例えば、小学生の頃の思い出とか中学校はどうだったかなどのどうでもいい内容だ。そうこうしている間に時間はどんどん過ぎていった。バス停に着いた頃は、まだ顔を出していた太陽が、今にも隠れようとしている。夕日に染まりかけているバスがようやく到着し、バスに二人で乗り込んだ。
バス内には、人が二人か三人いる程度で、太陽の赤くて柔らかい光が差し込み、俺たちを照らしている。
俺とゆいは三段しかない階段を上がり、後ろのほうの席に、ゆいが窓際、俺が廊下側で、並んで腰を下ろした。俺はゆいに「学校では極力、話しかけないっていう方針でいいか?」と聞いた。すると「…そうだね。わざわざ質問に答えるのも面倒だしね。」と言った。今日、久しぶりにゆいに会って、一つだけ分かったことがある。それは、ゆいが今まで話したことがない大人のように感じる瞬間があることだ。
…やはり、人というものは、長い時間会えていないと、その人の成長に、より敏感になるのだろうか。
ゆいが、窓の外を眺めながらゆっくりと返事をしたとき、今日久しぶりに会った時の言動と大分かけ離れていたため、より大人っぽく俺の目に映った。
まあ、そう感じるのもずいぶん長い間、会っていなかったからだろうけど…。
そう心の中で一つ付け足した。ゆいはバスに乗って、そこから何も喋らなかった。俺はだんだんと眠たくなってしまい、無意識に目を閉じていた。
『しゅうと~、あそぼ!』
幼いゆいが俺に向かって手を振っている。足元に水たまりができていて、そこには黄色いレインコートを着た幼い自分が立っている。もう一度顔を上げるとゆいが公園のブランコに乗り、『しゅうとー押してー』と大きな声で僕を呼んでいる。『ま、まって!今行くから。』と返事をして走って行くと、ゆいは八重歯をのぞかせて『もう!遅いよ!』と満面の笑みで僕に向かってそう言った。
次に目を開けると、僕の手に涙がぽたりと落ちた。驚いて顔を上げるとそこには涙を流したゆいが立っていた。
『しゅ、しゅうと、ごめんね。や、約束、ま、守れなくて。ごめんね。…ふっ、っ。』
そう言うとゆいは顔を下に向け、そこから、大粒の涙が落ちる。僕は目の淵が熱くなった。下を向きそうになると、手に温かい何かの感触があることに、ようやく気が付く。ゆいと僕の小さな手は離れないように、力を込めて繋がれていた。
『ゆい、僕は大丈夫だよ。だから、笑って。』
僕は下を見ずに、ゆいに向かって言った。自分で大丈夫と言った癖に声は震えてしまい、頼りなくて歯を食いしばる。ゆいはそれを聞いて顔をゆっくり上げ、わざとらしく『しゅうとがそう言うなら、大丈夫なのかなぁ』と今にも泣きだしてしまいそうな顔で、笑ってみせた。
ゆいが誰かに呼ばれて、繋がれて、離したくない手をゆっくり離す。
『またね!』とゆいが振り向いて僕に告げる。
僕も『…っ!うん、またね!』
そうだ、この時、僕は『またね』と言ってもらえて、一生会えない訳じゃないんだ、と思ったんだっけ。
「…と、…うと、柊翔ってば!」
目を開けるとそこには、バスの窓から注がれる光に照らされたゆいの顔があった。
「あれ?ゆい…いなくなったんじゃ…。」
ゆいが少し呆れたような、困ったような顔をして、「もう、何言ってるの?私はここにいるでしょ。」と言った。
バスの中には、もう人は乗っておらず、運転手が「そろそろ降りないと暗くなりますよ。」と優しく伝えてくれる。
俺は、やっと今の状況を理解し始めた。「すいません!今、降ります!」と慌てて言うと「ゆっくりで大丈夫ですよ。」と返事をしてくれた。
「…それで、柊翔は何の夢見てたの?」
ゆいが俺の顔を覗き込んでくる。
「…あんま覚えてないんだよね。でも懐かしい夢だった気がする。」
「そっか。」と短く返された。
バスに乗り込んだ時はまだ明るかった空が、今はもう、うす暗くなってしまっている。
ゆいをちらりと横目に見ると、遠くを見つめていて大人っぽく見える。
『ゆいってこんなに静かだったっけ』という考えが不意に頭をよぎる。
しばらく歩くと、ゆいが「私はこっちだから」と言ったため、俺たちは別れた。
二話目をご覧いただき、ありがとうございました!
今回のお話は、柊翔と唯香の過去が少し垣間見える話だったかなと思います!
また、柊翔は唯香が戻ってくる前の帰り道は憂鬱だったとありますが…
何故なんでしょう?(-ω-;)ウーン
次回の話は、柊翔が昔と今で性格ががらりと変化してしまった理由、それがわかるようなストーリーになっております!ぜひ、ご覧ください!




