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婚約者の幼馴染に冤罪をかけられました  作者: 影茸


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第九話

 サーシリアが去ってから、私リディアは何も言うことができなかった。

 心にあるのはある思い。

 もしかしたら私は、選択を間違えたのではないか、という。


「貴様、何を考えている!」


 ……私の想像を裏付けるような、マイクの怒声が響きわたる。


 振り向くと、そこにいたのは衛兵長スミスと、それをにらみつけるマイクの姿だった。


「貴様のせいで、サーシリアを逃したのがどうして理解できていないのだ!」


 そんな訳がない。

 あの時、スミスが場を納めていなければ、ただではすまなかっただろう。


 そもそも、サーシリアがいる間はマイクは黙りきっていた。

 にもかかわらず、なぜ今になってスミスに怒鳴るのか。


 ……どう考えても、それは悪手にしか見えず。


「お言葉ですが」


 それにマイクが気づいたのは、スミスが口を開いた瞬間だった。

 マイクを見るスミスの目は、冷え切っていた。


「私が取りなさなければ、あの場はどうなっておりましたか?」


「し、知るか! 今大事なのは貴様のせいで、サーシリアが去ったという事実だ!」


 ……スミスの目に、必死になってマイクが叫ぶ。

 しかし、それはどんどん状況を悪くしていくだけの言葉だった。

 たまらず、私は口を開く。


「ま、マイク様落ち着いてください!」


「うるさい!」


 しかし、それは火に油を注ぐだけの行為だった。


「スミス、貴様をクビにする! もう二度とこの屋敷に足を踏み入れるな!」


 ……どうして、こんな最悪の展開になるのだろうか。


 もう、私は何も言うことさえ出来なかった。

 少し前まで、理想の展開になったと私は喜んでいたはずだった。

 なのになぜ、今こんなことになっている?

 その問いの答えが出ることはなかった。


「かしこまりました」


 感情的に肩で息をするマイクに対し、スミスは冷静沈着だった。

 淡々と、マイクの顔を見て告げる。


「今まで、先代の恩を返すべき貴方にお仕えしてきましたが、もう許してくださるでしょう。今までお世話になりました」


 もう、マイクさえ口を開くことはなかった。

 そんな中、スミスは背中を見せて歩き出す。

 その途中で足を止めた。


「そうそう一つ。これ以上サーシリア様につきまとおうとするなら、私が命を懸けて止めますのでお忘れなく」


 その言葉を最後に、もうスミスが足を止めることはなかった。

 スミスが去った部屋の中、私の心にあるのはどうしようもない後悔だった。


 ……今まで魅力的に見えていたマイク、その力は全てまやかしであると今になって私は気づいた。


 いや、正確に言えば違う。

 私が魅力的に感じていた力、それはマイクじゃなくサーシリアの力で。


 その全てを、私は自らの手で捨てたのだ。


 私がそのことに気づいたのは、全てがなくなった後だった。

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