第十話
婚約破棄を終えた私、サーシリアは浮かれる足で、ある場所に向かっていた。
それは婚約破棄にあたり、一番親身かつ的確なアドバイスをもらった恩人のところ。
──婚約破棄を自分から申し出ても成立しなかった? 当然だろうが。相手からするようにし向けろ。
──絶対に近衛騎士であることは明かすなよ。
──婚約破棄さえ成立すれば、後は全て俺が何とかしてやる。
数々のアドバイスを思い出す。
そのことばがなければ、今も私は婚約破棄を成功させられていなかっただろう。
何せマイクは、自身はリディアと浮気をしておきながら、私が婚約破棄をにおわせることさえ拒否するような人間だったのだから。
あの方の言葉は、私にとって正に金言で、私は決めていた。
婚約破棄が成立すれば、真っ先にあの方に報告に行こうと。
「我が主、ようやく婚約破棄をすることができました」
……故に自身の主たる、恩人のあの方。
「やっとか。苦労したな、サーシリア」
いと尊き方、国王陛下にそう言われた時、私は感激の心を抑えるのに必死だった。
頭を下げていてその表情は見えない。
ただいつになく優しい声で、陛下が告げる。
「ここは私的な場だ。気にせず近くに寄れ」
「……はい」
その言葉に従い、顔をあげるとそこにいたのは野生じみた圧倒的な威圧感を身にまとう銀髪の男性だった。
その身体は決して大きくはない。
ただ、服をまくり上げた裾からのぞく腕は鍛えられている。
胸を張って堂々といすに腰を下ろしている陛下、シウーダ様は近くにきた私に告げる。
「よくやったな、サーシリア」
それは優しくとろけるような声だった。
……ああ、本当にこの人は。
その声を耳元で聞いた、私はうめく。
国王として、自分の見え方を徹底的に理解しているくせに、こういう時だけは自分の見え方に無頓着なのか。
こんな声を聞いて、私の中に理性はもう残っていなかった。
「本当に全て陛下のおかげです。心からお慕い申し上げております、陛下」




