第八話
持ち主さえ選ぶ気むずかしい魔法の剣。
それは刃さえ、見るものを選別しようとする。
……その剣に、この場にいる衛兵達は価値なしと判断されたらしい。
呆然と立ち尽くす衛兵達。
中には腰を抜かすもの達を目にし、私は鼻をならす。
いくら元チンピラといえども、ここまで恐怖するのは訓練が足りなすぎると。
こんな人間達の前で刃を抜くなと言いたげに、私の手の中にある剣がわずかに振動する。
「相変わらず面倒くさい剣だ」
そのサリサに、私は思わず眉をひそめる。
「命を懸けて契約を成し遂げたんだぞ、少しくらいは言うことを聞け」
それにしても。
と、私は内心で思う。
とるに足らない雑魚を相手にする時の魔剣ほど、便利なものもないと。
何せ、抜くだけで相手が実力差を理解してくれるのだから。
ただ、その衛兵の中で一人だけまっすぐに剣を向けている人間がいた。
「ほう。さすが衛兵長だな」
誰もが剣を手放している中、その衛兵長だけはまっすぐ私に剣を向けていた。
その顔には、サリサに対する恐怖はいっさいない。
それはその衛兵長が戦いなれていることを物語っていて、私は感心する。
衛兵長が自身の手に持った剣を投げ捨てたのは、その瞬間だった。
「我が主の無礼をどうか、お許しください」
「ほう。襲いかかられてなお、不問にしろと?」
「はい」
堂々と、そう告げる衛兵長に私は思わず笑みを浮かべる。
「そこまでいうのだ。条件はあるのだな」
「はい。この私、スミスがなんとしても婚約破棄を撤回させないようにいたします」
その言葉を聞きながら、私は思う。
今まで、毛嫌いして衛兵には近づいていなかった。
しかし、衛兵の中にもこんな男がいたのだと。
「わかった。その言葉を信じよう」
そういいながら、私は自分の手の中にあったサリサを消す。
「はい。たとえ、この立場を捨てることになったとしても必ず」
その言葉を聞いて、私は周囲を見渡す。
もう、その時には私に敵意を向けている人間の姿はなかった。
……それはマイクとリディアも含めて。
今度こそもう誰も止めないと確信して、私は告げる。
「では、これまでありがとうございました。マイク様」
そういって、返事を待たずに私は歩き出す。
私の想像通り、別れの挨拶さえ返ってくることはなかった。




