第六話
「は?」
呆然と立ち尽くすマイクの目に浮かぶのは、信じられないという目だった。
それを見ながら、私は笑いをこらえるのに必死だった。
──ようやく、このことを言えたのだから。
ずっと、私はこうしてこの事実を突きつけたくてしかたがなかった。
だって、私が近衛騎士になったのはこの時のためなのだから。
婚約破棄を行う為、そして婚約破棄の後も自由に過ごす立場を得るため。
……ただ、同時に私は理解していた。
それでも、近衛騎士になっただけで私はマイクに婚約破棄させる為だけの力を持つことはできなかっただろうと。
そんな中、私が今のように婚約破棄に至る書類を得られた理由は一つ。
私の恩人であるあの人のおかげであると。
だから、私はもう決めていた。
私の後の人生は、あの人に捧げると。
……そう思いながら、私は気づく。
婚約破棄という長年の夢を叶えた今、自分の心にあるのが喜びではないことに。
ずっと、婚約破棄を成し遂げればもっと自分は喜ぶものだと思っていた。
ざまあみろ、そうマイクに言ってやる。
そう思いながら、私は努力してきたのだから。
けれど、今現に婚約破棄が成った今、私の心にあるのは未来に対する希望だった。
目の前で未だ私の言葉を受け取れないマイクに、呆然とこちらをみるリディア。
その全てが私にはどうだってよかった。
故に、その言葉は笑顔で口からでた。
「では、後は法廷で。さようなら」
今まで呆然としたマイクの顔に怒りが浮かんだのはその時だった。
「……ふざけるなよ、貴様!」
そう叫んだマイクの目は血走っていた。
「今までずっと私の顔色を窺っていた下位貴族の令嬢が近衛騎士? そんなでたらめを誰が信じるか!」
次の瞬間、マイクの顔に醜悪な笑みが浮かぶ。
「そうか、詐称か! この場を逃げるためだけに身分を偽ったか、サーシリア! それは犯罪だと知りもせず!」
今、マイクには異様な空気があった。
そのマイクの異様な空気に、リディアさえ何もいえない。
「暁のサリサと言えば、陛下の懐刀。そんな存在を詐称するなど許せんなあ! 衛兵!」
次の瞬間、マイクが金切り声をあげる。
「あの無礼な詐欺師をとらえろ!」
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