第四話
その瞬間、私は笑いを隠すのに必死だった。
いってやったという様子で私をみるマイクと、勝ち誇った態度を隠す気もないリディア。
その二人は知る由もないだろう。
──婚約破棄を、私がどれだけ待ち望んでいたかを。
いったい何年このときを待っていたか。
本来であれば実家から婚約破棄をしてほしかったが、それを許してくれる実家ではない。
故に今の今まで、私はマイクが婚約破棄をする瞬間をずっと待っていて。
「待たせてすまないな、リディア」
「そんなことありません! でも、私。うれしいです……!」
「リディア!」
感極まった様子で抱き合う二人の姿を前に私は笑いを隠すのに必死だった。
しかし、まだ笑うわけにはいかない。
まだ何も終わってはいないのだから。
私は必死に表情を保ちながら告げる。
「本当に残念ですわ」
「今更すがってきたとしても無意味だぞ」
そういいながら、マイクが醜悪な笑みを浮かべる。
「まあ、貴様は顔がいい。妾になら」
「死んでもごめんですわ」
「ん?」
「いえ、丁重にお断りしますわ。残念ですけど、婚約破棄された私がこの場にいるのは不自然ですもの」
「それもそうだな!」
そういって笑うマイクに、私は内心安堵の息をつく。
やばい。
もう少しで本心を告げるところだった。
……というか、後ろのリディアがとんでもない目でにらんでいるが、それに気づいてくれないだろうか。
これ以上ぼろが出る前に、そう私は自身の用事を終わらせることにした。
「それでは早く婚約破棄をいたしましょう。ここにちょうどよく書類がございますので」
「おお! 気が利くではないか!」
「国王陛下からのサインもすでにいただいております」
「こういうときの貴様は気が利くな」
「……国王陛下のサイン?」
私の言葉に、リディアの顔にいぶかしげな表情が浮かんだのはその時だった。
……やはり、リディアは気づくか。
しかし、それを無視して私は続ける。
「はい。是非サインをお願いします」
「あ、ああ」
私の勢いに、マイクは私の書類にサインをした。
「ありがとうございます」
その書類を私は素早く回収する。
その時すでに、私の口元には隠す気のない笑顔が浮かんでいた。
許されるのであれば、私は高笑いしたい気分だった。
──いや、もうしてよいのだ。
そのことに私の中で、圧倒的な幸福感があふれ出す。
そんな衝動をつぶし、私は呆然と立ち尽くしているマイクとリディアの方へと目をやる。
「それでは改めて話をいたしましょうか、リディア嬢」
「……え?」
「私が貴女を虐めたというのに、嘘はありませんね?」




