第三話
「サーシリア、弁明はあるか」
リディアの判断は的確だった。
私をそう睨みつけるマイクは、完全にリディアのことを信頼し切っていた。
「私の幼馴染みを虐めた理由、それをいってもらおうか」
その言葉を聞きながら、私は思う。
……マイクはいつもこうだと。
以前まで、そんなマイクに傷ついていた時もあった。
ただ、今の私にはもうそんなかわいげは残っていなかった。
「理由など必要ですか?」
「何!」
「何せやっていないのですから。そこに理由があるなど言うことはできません!」
「貴様!」
その瞬間、一気にマイクが怒りを爆発させた。
「私の慈悲を無視するのか! 下位貴族である貴様を婚約者にしてやった恩も忘れよって!」
「恩? それを感じてもらうのは私の方だと思っていたのですが」
私の口から、自然とそんな言葉が出ていた。
「いったい何度私が貴方の不始末の後処理をしてきたか。貴方が伯爵家の当主になれたのだって、私がいたからでしょうに」
それは普通なら慢心ととられかねない言葉で、けれど事実だった。
私は今まで、マイクが事件を起こす度に方々に頭を下げにいっていた。
それがなければ、こんな風にマイクが伯爵家の当主になることはなかっただろう。
……不本意なことに。
そして、それを理解しているのかマイクが一瞬押し黙る。
しかし、それを許さない声が響いた。
「貴女がそんな風だから、マイク様に嫌われるんでしょう!」
その声の主はリディアだった。
私をにらみつけて、リディアは続ける。
「マイク様に嫌われるのを私のせいにして今まで貴女は私を虐めてきたわ。でも、わかっているんでしょう? マイク様に嫌われるのは自分のせいだと!」
その言葉を聞きながら私の胸に浮かぶのは、冷めた思いだった。
……このやりとりを見せられるのはいったい何度目だろうかという。
「リディア! 私にはお前しかいない!」
そう言いながら、リディアに抱きつくマイク。
抱きしめられたリディアが、その背中ごしに私の方へと目を向ける。
勝ち誇った気持ちを隠すことのない目を。
……その光景を見ながら、私の胸に浮かぶのはいい加減にしてほしいという冷めた思いだった。
どうして、私はこの光景を見ないといけないのか。
いったいいつまで見れば、私は自分の求めていた言葉を聞くことができるのか、その思いが私の胸によぎる。
もういっそ、全てを叩き潰してやろうか。
そんな思いが私の胸をよぎり。
「よし、私は決めたぞ」
待ちに待ったその瞬間が訪れたのは、その時だった。
「──私は貴様と婚約破棄をする、サーシリア!」




