第二十一話 (国王陛下視点)
前話間違えて前の話を投稿しておりました
申し訳ありません
もし未読でしたら、前話からお願いいたします
──お兄さんは、本当に優しいですね。
夢を、見ていた。
かつての、もう見ることのない景色。
その中には一人の少女の姿があった。
ぼろぼろのドレスに身を包んだ一人の少女。
──私、いつか。……お兄さんの婚約者になりたいな。
はかなげに笑うその少女の姿を、私は今も覚えている。
──お兄さん、この国を変えてね。私も、お兄さんの役に立ってあげるから!
そういって、力こぶのない腕を曲げる少女。
彼女はどうしようもなくかわいかった。
その彼女が私の脳裏に焼き付く。
自然と、その時私は理解していた。
……もう、彼女を忘れることなどありえないのだろうと。
当然だ。
だって、私は彼女を殺したのだから。
◇◆◇
「……夢か」
目を開く。
私の視界の端、よく見ていた金髪が消えていくのが見えたのはその時だった。
自分の身体を見下ろすと、椅子の上で寝ていた自分の身体には毛布が掛けられていて、俺は思わず笑う。
「サーシリアか」
実のところ、こうしてサーシリアが俺の世話を焼くのは一度や二度ではなかった。
そんな中、俺は思わずにはいられない。
……本当に、どうしてサーシリアは俺を恨んでいいくらいであるのに、なぜ好意をここまで見せるのかと。
「馬鹿な奴だ。──俺はお前を尊重することなどないのに」
侯爵家では事実上の囮にして時間を稼がせ、その他俺は躊躇なくサーシリアの命が危険にさらされる命令をくだしてきた。
そして、俺はこれからも躊躇しない。
俺は誰にも慈悲を見せない。
必要が有れば、どんな手を使っても俺は覇道を進み、この王国を変える。
その為に、命がなくなり、後世で簒奪王と罵られても。
「……そうでなければ、あいつが死んだ意味がない」
そういいながら、俺の頭に浮かぶのは一人の少女だった。
魔剣の主、王国の初代国王が持っていた、魔剣に愛される権能。
妾の子でありながら、俺はその権能を持っていた。
そしてそれは、現国王含めた兄弟全員が許せることではなかった。
故に俺は命をねらわれて過ごすことになった。
その少女と会ったのは、その逃亡中のさなかだった。
純粋な少女だった。
彼女は平民の生まれだと語った。
そして、両親から逃げてきたのだと語った。
……思い出す。
長い逃亡生活の中、彼女と過ごしたあの日々だけは楽しかったと。
だが、その生活はすぐに終わることになった。
俺をねらった暗殺者に少女が殺されたことで。
俺が簒奪王になる、そう誓ったのはその時だった。
今まで腐った国だと知りながら、俺は何も為す気などなかった。
──こんな国じゃなければ、私達はもう少し生きやすかったのかな?
けれど、最後に過ごした日々の中、少女が告げたあの言葉が俺の中に残っていた。
「まあ、単純に俺がこの王国が嫌いだっただけだがな」
そう、その少女の言葉は俺が人を殺す理由にはならない。
……だって、自分のせいだと知れば、あの少女は困ってしまうだろうから。
だから俺はただ、自分の為にこの国を変える。
ただ、俺が死んだ後あんな少女がいなければいい。
その理由の為に、俺はどれだけでも非道になれる。
「その、はずなんだがな」
そういいながら、俺はかすかにうつむく。
頭に浮かぶのは、どれだけ非道な姿を見せても、ひたむきについてくる一人の近衛。
……その、サーシリアの笑顔が俺の記憶の少女を呼び起こす。
「やめてくれよ」
あり得ないくせに希望を持とうとする自分を、俺はあざ笑う。
そんな希望なんてありはしなくて、ただ自分が苦しむだけなのだから。
「サリサはもう居ない」
俺の目の前で死んだあの少女の顔は、今も俺の頭に焼き付いていた。




