最終話
「……今日も、起きるまでに去れたか」
そう私、サーシリアが呟いたのは陛下の部屋の前だった。
起きるそぶりを感じて急いででたのだが、ぎりぎりだった。
「もう少し遅ければ、陛下に気づかれるところだったな」
実のところ、私だってわかっている。
陛下の世話を焼くのは侍従の役目で近衛である私がしていいことではない。
本来であれば、私の行為は越権行為に当たるだろう。
故に、もし私が世話を焼いていると判明した際は、私も全力で陛下に謝罪する覚悟がある。
……その上で、私はぎりぎりまで世話を焼くのをやめる気はなかった。
「お疲れ、だったからな」
そういいながら、私の頭に浮かぶのは疲れた様子で眠る陛下の姿。
「……あれから、もう何年経っただろうか」
そう呟いた私の脳裏によみがえるのは、かつての陛下の姿。
──私が陛下と初めて会ったときの記憶だった。
その時は陛下は国王ではなく、そして私はサーシリアという名前さえ名乗らなかった。
その当時、私は実家で放置されるようになっていた。
今まで私をしかり、育ててくれた乳母が実家を去り、私は一人家から抜け出した。
──君は、誰だ? 私を殺しにきた暗殺者ではないね。
そして、その時の陛下は今とは全く違った。
思い出す。
それから私が陛下と過ごした日々は忘れられない黄金の日々だった。
……私を見てくれたのは乳母に続いて、二人目だった。
あのまま、実家に帰ることがなければ私はどれだけ幸せだっただろうか。
何度だって、私はそう思う。
あの日、陛下をねらった暗殺者が来なければ、と。
しかし、無慈悲にあの黄金の日々は終わりを迎えた。
陛下の行方はわからなくなり、私は実家に戻らざるを得なくなった。
戻ってきた私に対し、実家の家族は激怒していた。
……私を無視していたのは、彼らの方であったのに。
それからの日々は地獄だった。
なまじ、陛下と会ってしまったが故にその地獄の実家での苦しみは私の心を押しつぶした。
それでもこうして必死にあがけた理由は一つ。
いつか、あのときの人に会えるかもしれないという思いだった。
故に、私は陛下と再会したとき。
そのことに気づいた時、泣きたくなった。
けれど、泣くわけにも、あの時の過去を打ち明ける訳にもいかなかった。
──貴様が近衛になりたいと豪語する人間か。
……なぜなら、その時の陛下は変わり果てていたのだから。
狂犬王子、簒奪王になる前の陛下に会った時。
その時のことを私は今でも覚えている。
あのときの優しい目をする陛下はもういなかった。
その時の絶望を私は覚えている。
私は、陛下がそうなる肝心な時にそばにいることができなかった。
同時に、私は理解しているのだ。
陛下は変わったように見えながら、その本質の優しさは変わっていないことに。
……だって、陛下が時々私に向ける目には、かつての優しさが宿っていることに私は気づいていたから。
そう、陛下は決して変わってなどいない。
今までと同じ、優しいシウーダで。
──その優しさ故に、簒奪王にならなければならない何かがあったのだ。
「いつか絶対に」
そう知ったときから、私には決めていることがあった。
「……陛下を、シウーダに戻してやる」
国王という重責から、誰よりも優しいあの人を簒奪王にした何かから、私はあの人を解放するのだ。
そして、その時に私は告げるのだ。
──私はあの時、シウーダとともにいたサリサだと。
だから、その時まで私は陛下に言い続けるのだ。
私は陛下を慕っていると。
……これからは貴方をずっと見ていると。
短い間でしたがお付き合いありがとうございました!
こちらで完結になります!
よければ同時更新している作品もよろしくお願いいたします!




