第十七話 リディア視点
スミスに案内されながら、私達は侯爵家の屋敷の中を歩く。
「これでもう大丈夫だ、リディア! 侯爵家当主アズバラン様と先代当主、私の父は懇意の仲だった!」
その言葉に、私は曖昧にうなずく。
けれど、心の中では思わずにはいられない。
……本当に、マイクの言うとおりうまく行くのだろうかと。
今の今まで、私はマイクの言葉を信じてずっと素直に行動してきた。
けれど、その行動は今のところ、すべて逆効果になっている。
そんな状況に私は思う。
侯爵家当主にあえても安心など、絶対にいえないのではないかと。
その私の想像は正解だった。
部屋の中に入った瞬間、圧倒的な威圧感を感じる。
それに私は理解する。
……この部屋の主は私達に対する圧倒的な敵意を抱いていると。
しかし、マイクは一切気づいていなかった。
得意げな表情のまま、小声で私に告げる。
「うるさく意見の合わない父だったが、アズバラン様との縁を残しておいてくれたことに対しては褒めていいな」
そう告げ、前に進んでいくマイク。
その背中が何より雄弁に部屋の空気に気づいていないことを物語っていた。
想像もしないその姿勢に一瞬私は固まるが、すぐに声を張り上げる。
「ま、マイク様!」
「お久しぶりです。アズバラン様!」
しかし遅かった。
その時すでに、マイクは部屋の真ん中に立つ人間へと、声をかけていた。
「よくこの場に顔を出せたな、マイク」
……その瞬間響いたのは、底冷えするような低い声だった。
その時になって、ようやく現状に気づいたのかマイクが固まる。
部屋の奥にある人影がゆっくりと立ち上がったのは、その瞬間だった。
立ち上がったおかげで、がっしりとした声の主の身体がはっきりとわかる。
筋肉質かつ、戦場に出ていたことを物語る大柄な身体。
その身体には、あちらこちらに傷跡が残っていた。
その身体を引きずり、その男性――
……侯爵家当主が近づいてきた。
「相変わらずの考えなしだな、マイク」
「おじ、上」
「貴様にはもうそう呼ぶ資格はない」
この瞬間、私ははっきりと理解していた。
私達がこの場所に呼ばれたのは、好意的な理由じゃない。
むしろその逆。
……とどめを刺すために、私達はこの場所に呼び出されたのだと。
「儂が貴様をこの場に呼んだ理由は一つ。貴様に警告するためだ」
そう告げるアズバランの目には、隠す気のない嫌悪が浮かんでいた。
「儂等の恩人であるサーシリアにもう手を出すな」




