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婚約者の幼馴染に冤罪をかけられました  作者: 影茸


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第十六話 (リディア視点)

「どうして、貴様が! こんなところに」


 スミスに向かって叫んだ、マイク。

 その声は隠しようのないほど震えていた。


 ……それも当然だろう。


 呆然と立ち尽くしながら、私は思う。


 スミスが子爵家を後にしてまだ数日しか経っていない。

 にもかかわらず、今スミスは目の前の衛兵より上の立場にいた。


「なぜ、貴様が侯爵家にいる!」


 その怒声に、スミスはうんざりした表情で告げる。


「そんなこと決まっているでしょう。侯爵家に勧誘を受けていたからですよ」


 ……聞いたこともない話に、私もマイクも絶句することしかできない。


「いつだ! いつ、そんな話が」


「子爵家の衛兵をしている時からですよ」


 侯爵家の兵士は、王国随一の精強な兵士として知られている。

 しかし、そこに勧誘されたと語るスミスの声には、一切の誇張も何もなかった。


「お忘れですか、かつて侯爵家からの援軍要請があったでしょうに。その際ですよ」


 ……その言葉に私は思い出す。


 かつて、侯爵家の影の森で大規模な災害が起きたことがあり、それを助けるよう要請を受けたことを。

 その際、マイクは何だかんだと理由を付けてスミスを含めた最低限の人員しか送らなかった。

 あげくの果てには、その交渉をサーシリアに投げたほどだ。


 なのになぜか、その時マイクは侯爵家に大いに感謝されていて、そのことは不思議に印象に残っていた。

 ……確かに、感謝状をもらうほどの活躍をしたのだ。

 それを考えれば、スミスがかの侯爵家に勧誘されたのもわかる。


「ふ、ふざけるな裏切り者!」


 そんな私の感心を中断したのは、マイクの甲高い叫び声だった。


「貴様は、高位の貴族に勧誘されただけでしっぽを振って元の家を裏切るのか!」


 ……その言いがかりには、さすがの私も呆然と立ち尽くすことしかできなかった。


 スミスを八つ当たり気味に解雇したのはマイク本人だ。

 その後、私がどれだけ説得してもマイクは解雇を取り消すことにうなずかなかった。

 それが今、どうしてこんな高圧的に話ができる?


 一瞬呆然としたものの、私はすぐに声を上げる。


「マイク様、落ち着いてください!」


 元衛兵長とはいえ、スミスは今や侯爵家の人間だ。

 そんな人間に高圧的にして、悪印象を抱かれるわけにはいかない。

 故に必死に、私はマイクに告げる。


「……どうか冷静になってください。スミスなら、私達のことも侯爵家当主に案内してくれるはずです!」


「そ、そうか!」


 私の言葉に何とか冷静さを取り戻すマイクを見ながら、私の心にあるのは異常な疲労感だった。

 いったい私は、何度こうしてマイクをいさめればいいのだろうか。


「スミス、今回の一件は許してやる。代わりに、私達を侯爵家当主様のもとへと案内しろ!」


 ……何も考えずに、命令するマイクの姿を見て、私の中の絶望がさらに広がっていく。

 よりにもよって、言い方があるだろうに、どうしてこんな命令しかできないのか。


 本当に。

 私はどこまで、この人間の尻拭いを続けないといけないのだろうか。


 スミスの冷たい目に、私の心の中に絶望が広がっていく。

 しかし、私の想像に反して事態が最悪の展開を迎えることはなかった。


「……いいでしょう。案内いたします」


「スミスさん!」


「いいんだ。当主様に案内するように言われて、私はこの場にいる」


 そう衛兵を手で制してスミスは告げた。


「では、こちらにどうぞ」

本日まで一日三話投稿になります。

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