第十三話 (リディア視点)
サーシリアが去った後から数日。
……そのたった短い時間だけで私、リディアの生活は大きく変化し始めていた。
というのも、今まで通っていた無理が明らかに通らなくなり始めたのだ。
今まで、私達の子爵家は高位貴族の社交界に通うことを許されていた。
そのおかげで、私達は同じ子爵家や男爵家の中で特別視されている部分があった。
……しかし今、この数日でその社交界の誘いは全て白紙となったのだ。
社交界の誘いがなくなる。
それはこの子爵家において致命的な話だった。
もちろん、これまでの私達が下位貴族達の間で築き上げていた立場が消えるのも一大事だ。
しかし何より、もっと重大なことがあった。
……というのも、社交界がなければ今まで援助を受けていた高位貴族に挨拶に行く場がなくなるのだ。
そして、その援助は子爵家の収入の中でも大きかった。
故に私とマイクは今、今まで支援してくれていた侯爵家に赴いていた。
「いいから通せといっておるだろうが!」
……そして、その前で私もマイクも侯爵家の衛兵に止められていた。
「申し訳ありませんが、招待の名簿にない方は通すことができません」
「ふざけるな! 私はカロライン子爵家のマイクだぞ!」
「招待の名簿にカロライン子爵家の名前はありませんので」
必死にマイクが怒声をあげても、その衛兵は眉一つ動かすことはなかった。
その姿に、私は忌々しさを覚えながら、思わずにはいられない。
確かに、侯爵家の衛兵は訓練されている、と。
侯爵家は影の森と接する辺境を守る大貴族で、その衛兵は戦闘経験も豊富だ。
……それでも子爵家の衛兵とここまで違うものか、そう思いながら私は忌々しげに衛兵をにらむ。
どれだけカロライン子爵家の名前を出しても動かないその衛兵に、マイクはしびれを切らしたように舌打ちをする。
それでも、衛兵はいっさい動かない。
そんな衛兵にマイクは打つ手がないと言わんばかりに顔をゆがめ、私が前に出たのはその時だった。
「ねえ、衛兵さんお話くらい聞いてくれない?」
そう言いながら、私はあえて前屈みの姿勢をとる。
「私達は決して怪しいものではないわ。今までもずっと侯爵家の当主、アズバラン様に支援いただいてきた家のものなんだから」
そういいながら、私は衛兵にすり寄る。
途中、マイクがおもしろくなさそうな顔をしていたのが見えたが、もちろん無視する。
……誰のせいで、私が前に出ることになったと思っているのか。
「だから、お願い。私達を通してほしいの」
そういいながら、私は潤んだ瞳で衛兵にすり寄る。
マイクにこれをして、今まで駄目だったことはなかった。
これで全てが大丈夫だと確信して。
「いえ、結構です。お引き取りください」
故に、どこか嫌そうな表情をしつつそう吐き捨てた衛兵の姿に、私は固まることになった。




