第十二話 (国王視点)
「……馬鹿な女だ」
サーシリアが去った王宮の中、俺、国王シウーダの声が響く。
そのつぶやきが向けられているのは、一人の女性。
先ほどまでここにいたサーシリアだった。
「散々俺に利用されてきたくせに」
魔剣を与えたのも、俺の懐刀と称したのもサーシリアの為ではない。
簒奪王とおそれられる俺に味方がいないからしたことだ。
そこにサーシリアから恩を感じられる要素などない。
実際、そのせいでサーシリアは何度も不幸な目に遭っている。
死にかけたのも、一度や二度ではない。
当然だ。
今、ほとんどの近衛は俺に敵対するか、中立なのだから。
それでもあの女は毎度のことのように告げる。
……こんな俺を慕っていると。
「本当に馬鹿な女だ」
その言葉を聞く度に思う。
この言葉は、俺がサーシリアにしてきたことに対して見合っていないと。
婚約破棄に協力したのも、実家からの干渉から守っているのも、今までサーシリアがしたことを考えれば礼にもならないだろう。
なのにあいつは、どんな危険な目に遭っても俺が好きだと一途にやってくる。
……サーシリア様を妃にはしないのですか?
実のところ、そういう話を出されることは何度もあった。
何せ、簒奪王である俺はおそれられている。
そして、自分の身さえ危険であるこの状況、跡継ぎの問題は避けては通れない。
それを考えれば、多少身分の差があってもサーシリアを妃にと言う話がでるのは当然のことだった。
しかし、その話を俺は何度もつぶしてきた。
……なぜなら、俺の妃になってしまえば、今度こそサーシリアが逃げられなくなることを俺は知っていたから。
近衛騎士でいる間なら、剣を返せさえすればやめることはできる。
しかし、妃となれば。
跡継ぎを生むことがあれば、そうはいかない。
そうなれば、サーシリアは一生俺に尽くすことになる。
……王国であらゆる人間におそれられるこの、簒奪王に。
──私が陛下を裏切ることはありません。
「本当に馬鹿な奴だよ」
まっすぐな目をして、忠誠を誓うサーシリアを思い出しながら、俺は呟く。
「……犬呼ばわりする人間くらい、きちんと嫌うべきだろうが」
知っているのだ。
妃にするともう離れられなくなるといいながら、サーシリアを近衛として地獄に巻き込んだのは俺自身だ。
今更、俺の覇道につきあわせたくないというのは、どうしようもないエゴだと。
それでも。
……まっすぐなあの目が曇る瞬間を、俺は見たくないと思ってしまうから。
「猟犬、サーシリア」
だから、俺は願うように告げる。
「……これ以上、俺を誘惑してくれるなよ」
自分に言い聞かせるように告げたその願いが、かなうわけがないと俺は知っていた。
次話から、リディア視点で侯爵家に場面変更になります!




