『東方仙影譚』第九話
どうも作者の炙りサーモンです。この作品は東方projectの二次創作です。作者の勝手な解釈などもあります。そしてメタいネタが入っています。それでも大丈夫という方は次に進んでください。
カードが裏返しのまま、全員の手元に配られた。
ここにいるのは、月の超天才医師に、波長を操る元・社畜兎、嘘とハッタリの詐欺師兎、そして壁をブチ破る不死の脳筋。
誰も彼もが一癖も二癖もある連中だ。
「……ふぅ」
じわりと手のひらに嫌な汗がにじむ。
俺は息を呑みながら、自分のカードの端をそっとめくった。
そこに描かれていた役職は――。
【市民】
――え?
市民?
ただの何の能力もない、一番普通の市民だって?
いやいやいや! 普通こういうゲームの始まりって、主人公が『人狼』とかの面白い役職を引いて冷や汗をかくのがお約束でしょ!? なんで自分から提案しておいてモブ役職引いてんだよ俺!
おい作者ァ!! 配役ミスってんぞ!!
(※注:この作品には、たまに主人公がメタいツッコミを入れる不具合(?)が含まれています)
「ふふ、全員カードは確認したかしら?」
俺が心の中で作者への抗議文を書き連ねていると、輝夜さんがニヤニヤしながら場を見回した。
肩の上のルクスが、俺のガッカリした気配を察して『きゅ、きゅ~う……』と慰めるように頬をすり寄せてくる。
さあ、騙し合いの夜の幕開けだ――と思った、その瞬間。
「あら、仙。あなたカードを見た瞬間に、一瞬だけものすごく顔が引きつったわね?」
鋭い。鋭すぎる。
卓の向こうから、月の頭脳こと永琳さんが、すべてを見透かすような冷徹な瞳で俺をじっと見つめていた。
しまった、メタツッコミに全力を出しすぎて表情に出ていたらしい。
初手から最強の医師にロックオンされ、俺の背中にドッと冷や汗が流れる。ここで怪しまれたら一発で処刑だ。
俺はすかさず、自分のガッカリ感の理由を(半分は本音で)必死に言い訳した。
「ち、違いますよ! 顔が引きつったのは、役職のせいです!」
「ほう? 役職のせい、ねぇ……?」
「そうですよ! せっかくこんな天才たちがたくさん揃ってるゲームなのに……なんで俺、無職のニート(市民)なんですか!? せめて霊媒師とか、占い師とか、騎士とかのカッコいい役職が良かったなって思っただけです!」
勢い余って、目の前にいる永遠亭のお姫様のアイデンティティを思いっきり抉るような暴言をぶちまけてしまった。
――あ。
自分で言ってから気づく。
部屋の空気が、一瞬でピキリと凍りついた。
チラリと正面を見ると、輝夜さんがピキピキと青筋を立てながら、それはそれは綺麗な満面の笑みを浮かべてこちらを睨みつけていた。
「……ねえ、仙? 今、誰が、何なんですって?」
やばい。また頭蓋骨が折れる5秒前だ、これ。
だが、ここで怯んだら市民である俺の負けだ。俺はあえて、外の世界の実家でよく言われていた言葉を思い出しながら、飄々(ひょうひょう)とした態度で反論した。
「いや、俺は俺の役職(市民)がニートみたいだって言っただけだよ!? そんなムキになんなって。短気は損気だよ? 家族によく言われたよ……」
「なっ……!?」
煽り性能の高すぎる12歳の正論(?)に、お姫様の顔が真っ赤に染まる。
輝夜さんはワナワナと震えながら、隣に座る最高頭脳を振り返って叫んだ。
「永琳! このガキを真っ先に吊りましょう!!」
(※注:これは二次創作です。原作の輝夜様は決して、決して! こんな言葉遣いはなさいません! 全国のお姫様ファンの方、怒らないでください!)
いきなり初手の朝が来る前に私怨で処刑されそうになる俺。
だが、ゲームの進行役を名乗り出た永琳さんが、冷徹な声でそれをピシャリと制した。
「姫様、ゲームが始まる前から私怨で動くのはルール違反です。まずは最初の『夜』、役職の確認から始めましょう。さあ、全員目を閉じて」
永琳さんの仕切りには逆らえないらしく、輝夜さんは「ちぇっ」と不満げに頬を膨らませながら目を閉じた。俺も慌てて瞼を閉じる。
『最初の夜が来ました。人狼のカードを引いた人は、静かに目をあけてお互いを確認してください……』
永琳さんの厳かなナレーションが静まり返った和室に響く。
もちろん、普通の市民である俺は目を閉じたまだ。
暗闇の中、聴覚だけが異常に研ぎ澄まされていく。
誰の服が擦れる音がしただろうか。誰が息を呑んだだろうか。
もし、さっきあんなにブチ切れていた輝夜さんが『人狼』のカードを引いていたとしたら。
役職確認のために目を開けた輝夜さんが、暗闇の中でニヤリと笑いながら、目を閉じている俺を睨みつけているのだとしたら。
――想像しただけで、背中にじっとりとした嫌な汗が流れた。
ゲームの体を借りて、ガチで俺の命(首)を獲りにくるんじゃないだろうか。
肩の上のルクスも、俺のリアルな緊張が伝わったのか『きゅ、きゅ~う……』と、鼻先を俺の頬に押し当てて小さく怯えるように鳴いている。
『……はい、人狼は目を閉じて。次は占い師、騎士……』
淡々と進んでいく、最初の役職確認の夜。
誰も傷つかない、静寂のターン。
だが俺にとっては、下手にモンスターと対峙するよりも遥かに心臓に悪い、地獄のような数分間だった。
『――朝が来ました。全員、目をあけてください』
永琳さんの声で、俺は弾かれたように目を開けた。
ここからが人狼ゲームの本当の始まりだ。
ぶっちゃけ、俺は外の世界にいた頃から人狼ゲームがかなり得意だった。プレイスタイル的に人一倍恨まれやすいのが玉にキズだが、今の俺の役職はただの『市民』――つまり無職だ。最悪、初手で吊られたって陣営としては特に支障はない。
覚悟を決めた俺は、一気にゲーム脳へと切り替えて、この場を引っ張るために口を開いた。
「はい、じゃあ議論開始! まず、占い師は誰? 出てきて!」
俺が全員を見回しながら聞くと、少しの間を置いて、二つの手がスッと上がった。
手を挙げたのは、てゐと――まさかの、妹紅だった。
占い師が二人。人狼ゲームのセオリー通りなら、この二人のうちどちらか一方が『本物の占い師』で、もう一方は俺たちを騙しようとしている『人狼(あるいは狂人)』だ。
――てゐか、妹紅。どっちかが人狼。
俺は二人の顔をじっと睨みつける。
正直、てゐが怪しい。怪しすぎる。あいつの顔には最初から『私は嘘つきです』って書いてあるようなもんだ。
エンド、もしかしたらそれすらも計算に入れた裏の裏をかいて、実は妹紅が人狼という可能性もあるのか……?
いや待て、あの白髪の脳筋にそんな高度な騙しの技術があるか?
……いや、いやいや。
ああいう直情型の奴に限って、こういうゲームの騙し合いの時だけ、直感で謎の強さを発揮したりする気がするんだよな。
「……さて、どっちが本物だ?」
肩の上のルクスが『きゅるり……』と喉を鳴らす中、俺の脳内コンピュータがフル回転を始める。
月の都の天才たちの目の前で、12歳の俺の、命(?)をかけた本格的な心理戦の火蓋が切って落とされた。
読んでいただきありがとうございました!輝夜様のキャラ崩壊で不快にさせてしまったかもしれませんが、どうか怒らないでください。次回はなるべく早く出しますので、お待ちください




