『東方仙影譚』第七話
どうも作者の炙りサーモンです。この作品は東方projectの二次創作です。作者の勝手な解釈などもあります。それでも大丈夫という方は次に進んでください。
ガラガラ、ピシャ。
壁をブチ破った脳筋(妹紅)がうさ耳にズルズルと引きずられていってから、さらに数分が経過した。
「……よし。脱出するの、やめよう」
俺は静かにそう決意し、再び畳の上に寝転がった。
ぶっちゃけ、ここから自力で逃げ出すのはもうめんどくさい。
下手に廊下をうろついて、あのデコピン怪力姫やデリカシー皆無の医者に遭遇してみろ。今度こそ命の保証がない。
常識を捨て去った俺の脳細胞が、『大人しく座ってろ』と全力で警鐘を鳴らしていた。
とはいえ、何もせずにこの広い和室で待つのは退屈すぎる。
「……ルクス、出ておいで」
退屈しのぎと、何よりさっきの恐怖で擦り切れた心を癒やすため、俺は影から相棒を呼び出した。
足元の影から、ずるりとルクスが姿を現す。
部屋の中に座ったルクスを、じっくりと観察することにした。
改めて、俺は目の前に座るルクスをまじまじと見つめる。
まず、ルクスの瞳は綺麗な赤色だ。
いや、よく見ると光の取り込み方や、見る角度によって微妙に色が違って見える。確か、外の世界の猫の目でもこういう不思議なグラデーションがあった気がする。宝石みたいで、見ているだけで吸い込まれそうだ。
――こんなにいかつくてカッコいいのに、中身はめちゃくちゃ健気なんだよな。
試しに、俺が畳の上にわざとらしく倒れ込んで、弱々しい声を出してみる。
「あー……ルクス、助けてー……」
言った瞬間、ルクスは『ハッ!』とした顔をして、すぐさま俺の元へ駆け寄ってきた。心配そうに大きな頭(といっても全体的にかなり小さいが)を擦りつけてくる。可愛い。本当に忠誠心がカンストしている。
あやしながら気づいたが、ルクスの鳴き声は本物のキツネそのものだ。
よく物語であるような「コンコン」なんて可愛いものじゃない。「ギィッ!」とか「ワンッ!」とか、時には「ギャッ!」という、かなりガチな野生の鳴き方をする。
……あ、でも、たまに喉の奥を鳴らすように、地響きみたいなドラゴンの鳴き声が混じることもあるな。ハイブリッドだからハイレゾ音質なんだろうか。
そういえば、外の世界の知識だとキツネって確かイヌ科だったはず。だからこんなに犬っぽい反応をするのだろうか。
――まぁ、今の俺にはどうでもいいことだけど。
弾みがついた俺は、見た目だけでなく、ルクスの仕草ももっと観察してみることにした。
とにかく、俺の動きに合わせてどこまでもついてくる。俺が右を向けば右を向き、一歩歩けばトコトコと後ろを歩く。生まれた直後に初めて見たものを親だと思い込む、まるでヒヨコのようだ。
「おっ、そうだ。お前、手足の先はよーく見るとドラゴンの爪になってるんだな」
今さらながら、その鋭いフックのような爪に気づいた。やっぱりパーツパーツはめちゃくちゃいかつい。
だが、そのドラゴンの爪を器用に使いながら、ルクスは顔の周りをぺしぺしと擦って毛繕いを始めた。一応、キツネ(というかネコ科っぽい?)ルーティンはあるらしい。
さらに俺が手を伸ばすと、待ってましたとばかりに、ペロペロと熱心に手のひらを舐めてくる。
――……うん、もう犬だろ。
極めつけには、ごろんと畳の上に転がって、完全に無防備な体制でピンク色のお腹を出してきた。
――犬じゃん。もうこれ、100パーセント犬じゃんコレ!!!
ああもう、可愛い。可愛すぎて語彙力が消失する。いかつい見た目との温度差で風邪引きそうだ。
必死に尾っぽを振る相棒を見つめているうちに、なんだか一つの感情が湧き上がってきた。
――こんなに可愛いルクスを、いちいち暗い影の中にしまおいておくの、なんだか勿体なくなってきたような気がする。
よくよく考えてみれば、ルクスのサイズは、あの有名な電気ネズミ――ピカ○ュウよりもちょっと小さいくらいだ。
「……なぁルクス。お前、ピカ○ュウみたいに、いつも俺の肩の上に乗って移動したりできるか?」
俺が肩をトントンと叩くと、ルクスは『きゅ~!』と嬉しそうに短く鳴き、俺の体にトコトコと登ってきた。
そして、誂えたかのように、俺の左肩の上にちょこんと収まる。ドラゴンの小さな羽をパタパタさせながら、俺の頬にすりすりと頭を寄せてきた。
「お、おお! いいじゃん、最高に収まりがいい!」
左耳に輝く謎のピアスと、左肩に乗る小さな最強の相形ルクス。
鏡はないから見えないけれど、客観的に見てもなかなか絵になっているんじゃないだろうか。
「よし、これからは影に戻さず、その特等席をお前の定位置にしてやるよ」
『きゅ〜っ!』
永遠亭の和室の一角。
置いてけぼりにされた俺と、肩の上の相棒は、これから始まる幻想郷でのドタバタに備えるように、静かに絆を深め合うのだった。
読んでいただきありがとうございました!次回はなるべく早く出しますので、お待ちください。




