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『東方仙影譚』第四十九話

あー、うん。学校嫌だ

「…….ブラジルの人ー! 聞こえますかあ゛ぁ゛ぁ゛ぁ゛ぁ゛ぁ゛ぁ゛!」

 静まり返る永遠亭の客間のど真ん中で、俺は布団から撥ね起きた勢いのまま、地球の裏側に向かって全力の一発奇声をぶっ放した。40話から丸々4話分もガチの超重厚シリアスな心の闇に縛られ続けていた反動が、最高の安堵感と共に、ここで一気にギャグとして大爆発しちまったのだ。

 が、そんな俺の生存報告の直後だった。

 ガラバシャァァァン!!!!!

 おそろしく凄まじい勢いで客間の引き戸が蹴り破られ、白髪にお札まみれの服を揺らした白髪ヤンキーが、血相を変えて室内に飛び込んできた。

「なんだぁ!? なにごとだぁ!?」

 妹紅が、おそろしく切羽詰まった表情で大音量の声を響かせた。そりゃそうだ。さっきまで里の路地裏で「俺もう汚れてるんだよ……」ってガチの涙を流して気絶したはずの俺が、静かに目覚めた客間で急に床に手を突いて地球の裏側の住民に向かって叫び声をあげていたのだから、事件以外の何物でもない。

 ヤベェ。あまりの妹紅の突入の早さに、俺の脳内のコメディ回路が一瞬にしてショートした。パニックになった俺の口から飛び出したのは、これ以上ないほどガバガバな謎の奇声だった。

「アバ、アバババハババババババハハ……!」

 おい俺!!! なに文字化け(バグ)を起こしてんだよ!!! 気まずさを誤魔化そうとした結果、16話や22話の時みたいな「しゅ☆%¥〒☆」レベルの完全な滑舌崩壊を起こして、ただの不審な生命体ボケと化してんじゃねぇよ!

「え? え……? 警察? 医者? え? 精神科医? え? 救急車? 慧音? どれを呼べばいい!?」

(※この場合は精神科医だと思います)

「慧音、慧音呼んでこよう!?」

 妹紅は頭をガシガシと掻きむしりながら、里の寺子屋で先生をやっているはずの親友の名前を叫び、そのまま光の速さで部屋を飛び出していった。

 あ、初登場か。今更。

 

 この物語の第1話から今の49話に至るまで、名前すら一言も触れられていなかった妹紅の相棒が、物語の完結直前のこんなグダグダなタイミングで、ただの「精神科医(代用)」として突発的に引っ張り出されるとは思わなかったわ。

 ――そして数分後。

「どうも上白沢慧音です」

 本当に数分で里から永遠亭までハイスピードで連れてこられた上白沢慧音かみしらさわけいね)が、まるで台本をそのまま読み上げるかのような、おそろしく雑で直球すぎる自己紹介の挨拶と共に客間へと入ってきた。

 だが、俺のコメディ回路のバグは未だに治っちゃいねぇ。俺は布団の上に体育座りをしたまま、34話でルクスがやっていたあの孤独なボケを、今度は俺自身の手で完璧に天丼(被せ)して、虚空を見つめながら重低音でボソボソと呟き始めた。

「りす、すずめ、メス、すすき、キス、すり傷、ずんだもち、ちり、律儀、義母、母子家庭、家、遠近法……」

「ん? え?」

 慧音は帽子を少し傾げながら、初対面の十二歳少女の口から飛び出した『母子家庭』だの『義母』だのという、さっきの家出の闇を絶妙に引きずった生々しい単語のしりとりに、おそろしく引いた真顔で「え? え?」と戸惑いの声を漏らした。

「慧音! コイツの頭おかしくなったから直してくれ!」

「え? え?」

 妹紅が慧音の服の袖をグイグイと引っ張りながら、涙目で必死に懇願こんがんする。

 おいもこたん!!! 慧音の『歴史を食べる(消す)程度の能力』を使って、俺の脳内のバグを強引に外科手術みたいに初期化させようとするな!

 そして連れてこられた側の慧音先生も、初登場した数秒後に「頭のおかしくなった家出少女のしりとり」と「テンパり狂った親友の無茶振り」の板挟みに遭って、ただただロボットみたいに「え? え?」とバグるの最高にシュールすぎるだろ!

 実の父親からの暴力を乗り越え、相棒のイカれた優しさに救われて目覚めた直後、新キャラの自己紹介を雑に処理して、客間の住人たちを新しい恐怖で震え上がらせる俺。

 俺と望月ルクスの物語は、やっぱりタイトル以上の大渋滞と新キャラの無駄遣いと共に、かつてないほど「え? え?」という困惑のハモりが響き渡る中で、これ以上ないほど平和でグダグダな日常へと、完全に戻ってくるのだった。

慧音の初登場が間抜け(?)すぎるんだよなぁ

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