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『東方仙影譚』第五十話 最終回(多分後日談か第二章出ると思います)

最終回かぁ、後日談とか二章とか出るかもだけどさ

「慧音! コイツの頭おかしくなったから直してくれ!」

「え? え?」

 客間のど真ん中で、初登場したばかりの慧音先生を巻き込んで俺が『母子家庭』だの生々しい単語でしりとりを続けていると、騒ぎを聞きつけたリビングの連中が、ガラリと引き戸を開けて全員で客間へと合流してきた。そこには、俺を心配してずっと廊下で待っていたルクス(いつもの大きいキメラ姿)や、輝夜、魔理沙、霊夢の姿もある。

 みんなの顔を見た瞬間、俺の脳内のコメディ回路は完全に復活を遂げた。外の世界の父親に殴られて傷ついて、一人で勝手に悪役になろうとして逃げ回っていたのがバカバカしくなるくらい、目の前にはおそろしく愛おしい、イカれた仲間たちが揃っている。

 だったら、やることは一つだけだ。俺は布団からガバッと立ち上がると、魔理沙からひったくったオレンジ色の転移装置を掲げ、みんなに向かって不敵に笑ってみせた。

「よし! みんな! アイツ(父さん)に話つけんぞ!」

あるじ? え? 主?』

 俺の隣で人間の私服姿からいつもの大きなキメラ姿に戻っていたルクス(望月ルクス)が、軍帽を被ったアカギツネの大きな耳をパタパタさせながら、おそろしく困惑した声を漏らした。おい相棒、そんな信じられないものを見るような紅い瞳を向けるな。さっき47話の里の路地裏で『我輩にも分けてくれよ、責任』ってガチのシリアスな名言を吐いて俺を救ってくれたくせに、俺が秒速で「ブラジルの人ー!」って復活してカチコミの号令をかけ始めた途端、置いてけぼりを喰らって素でパニックになるんじゃねぇよ!

「よし霊夢と魔理沙と輝夜と永琳、妹紅、ルクス、慧音、俺で行くか〜!」

「え? え? え?」

「なになになになになに!?」

 突然カチコミメンバーとして指名された博麗霊夢が、お祓い棒を持ったまま、さっきの慧音先生のセリフを完璧に天丼して「え? え? え?」と混乱し、輝夜も楽しそうにゲーム機を放り出して「なになに!?」と身を乗り出す。おいお姫様!!! さっき39話で外の世界行くって言った時は『いきなりすぎでしょ』ってガチの正論を吐いてハローワークの職業探しをボイコットしたくせに、今度はオールスター大移動って聞いてウキウキで遠足の準備を始めるんじゃねぇよ!

「私は?」

 そんなお祭り騒ぎのリビングの隅で、26話の永琳さんの実験の時と同じように、長い兎耳うさみみをシュンと寝かせた鈴仙が、これ以上ないほど不安そうな声で尋ねてきた。

「よし、早く行こう」

「私は!?」

 俺は哀れなイナバの叫びを1ミリも合わさずに完全スルーすると、オレンジ色のボールの突起へと指をかけ、これ以上ないほど勢いよく押し込んだ。

 

 ――カチッ。

 

 おそろしく小気味良い、ただのスイッチの作動音が客間に響き渡る。次の瞬間、客間のど真ん中で爆発的な白い光の渦が吹き荒れ、鈴仙以外の全員の身体を優しく包み込んでいった。

 

「置いてかないで!?」

 

 次元の壁がズルズルと引き裂かれる激しい浮遊感のなか、光の向こうから、涙目で両手を伸ばしてくるウサギの悲痛な絶叫が遠くの方で聞こえた気がした。なんか聞こえたけど、まぁいっか。

 キィィィィン!!!

 まばゆい光が収まると、排気ガスと、どこかの飲食店から漂う油のニオイが鼻を突いた。40話の時のように一話目のコンビニの裏をわざわざ経由して歩くなんていう、移動の文字数の無駄遣いは一切しない。魔理沙の転移装置の最大出力をナメるんじゃねぇよ。俺はマントのフードをパサァッと脱ぎ捨て、ゆっくりと目を開けた。目の前には、あの重厚な、だけど俺の心を激しく傷つけた冷酷なドア。

 光が収まると、俺の実家の前に立っていた。

 表札には、いつも通り『望月』の二文字。40話の時は、父さんに「出来損ないが」と殴り飛ばされて、コンクリートの上で一人で泣き喚いていた最悪な場所。だけど、今の俺の背後には、大きなキメラ姿(軍帽マント付き)のルクスを筆頭に、和風な浮いた格好の妹紅や輝夜、お札を構えた霊夢に魔理沙、そして直前に初登場したばかりの慧音先生までが、おそろしく強固な壁のように実家の玄関先を完全包囲してやがった。

 俺は少しだけ傷の滲む右の拳を突き出し、玄関の横にあるインターホンを静かに押し込んだ。

 

 ピンポーン……。

 

 そのときの俺の顔は、二話目でおにぎり渡した後のときの、あの妹紅の『圧の強い笑顔』と全く同じだった。おい俺!!! 何ちゅう不穏で不敵な満面の笑みをインターホンのカメラに映し出してんだよ! 40話でボロボロにされた家出少女が、数話後に幻想郷の化け物たちを総出で引き連れて、笑顔でカチコミに戻ってきたんだから、お父さんの視点から見たらガチのホラーじゃねぇか!

『はい、どなたですか……?』

 スピーカーの向こうから聞こえてきたのは、あの冷酷に俺を拒絶した父さんの声だ。俺はあえて、40話の時と一言一句まったく同じトーンで、カメラに向かって声を返した。

「俺だよ。仙」

『お前、まだ懲りずに……っ!?』

 ガチャガチャガチャッ!!! バァァァン!!!

 おそろしく猛烈な勢いで鍵が解錠され、勢いよくドアが開いた。そこには、40話の時とまったく同じように、怒りで血眼になって目を見開いた父さんの姿があった。あのときと同じ展開。お父さんは俺を再び地面に殴り飛ばそうと、その冷酷な右手を大きく振り上げ――そして、俺の背後に直立不動で並ぶ『幻想郷のオールスター(※170cmオーバーのデカいキツネ含む)』という、文字通り大渋滞を起こしている圧倒的な光景を目撃した瞬間、その腕を上げた姿勢のまま、まるで見事な彫刻のようにガチガチにフリーズした。

 でも、今度は違う。俺は、お父さんの目の前でこれ以上ないほど圧の強い笑顔をバチバチに輝かせながら、不敵に言い放った。

「やってるよ」

 お父さんは一瞬のフリーズからハッと我に返ると、俺の背後の大渋滞から必死に目を逸らし、声を荒らげた。

「もう来るなと言っただろう!」

「へぇ〜。そんなこと言うんだ」

「はぁ?」

 俺は腕を組んだまま、おそろしく小馬鹿にしたような笑みを浮かべて、お父さんの顔を見上げて鼻で笑った。おいお父さん。40話の時みたいに、俺がまた「出来損ない」って言葉に怯えて、その場で片腕引きずって泣き喚くような十二歳の子供のままだと思ったら大間違いだぞ。今の俺には、魂の根源を共有した最強の相棒と、イカれた最高の仲間たちがついてるんだわ。

「俺のこと、殴り飛ばした証拠はもちろん。今まで俺にやってきた証拠も揃ってるよ? 警察に突き出そっか?」

「……っ!?」

 お父さんの顔が、一瞬にしておそろしく引き攣り、絶望の青白色へと染まっていく。外の世界の法律を舐めるんじゃないわよ。40話で俺が殴り倒された右頬の腫れや、アスファルトに打ち付けられた背中の打撲の痕跡。そして、これまで俺を『出来損ない』と否定して傷つけてきた全ての家庭環境の闇(証拠)は、永琳さんの医療魔術や、文屋から強奪したカメラの現像写真によって、これ以上ないほど完璧にデータ化されて揃ってんだよ。今すぐ110番通報して外の世界の警察官に突きつけてもいいんだぞ?

「それとも、今ここで殺られる方がいいかな?」

 俺は親指で、自分のすぐ背後の大通りの方をくいっと指し示した。俺の後ろには、お札を構えた白髪ヤンキー(妹紅)と、無言のローキックの紅白の巫女(霊夢)。いつでも八卦炉をぶっ放せる魔法使い(魔理沙)。ゲーム機の角を両手でガッチリ握りしめた怪力姫(輝夜)。怪しい処方箋を持ったマッドサイエンティスト(永琳)。初登場したばかりのワーハクタク(慧音)。それに、頭に軍帽を被ったキツネとドラゴンのキメラ(ルクス)までいる。

 外の世界の国家権力に実名報道されて社会的に終わるか、あるいは今この場で異世界の最強の怪物たちから物理的に消し飛ばされるか。おそろしく理不尽な究極の二択を玄関先で突きつけられ、さすがに怖気おじけづいたのか、父さんはワナワナと唇を震わせたあと、トーンダウンした声でボソッと呟いた。

「上がれ」

 そう言い残すと、お父さんは逃げるように背中を向け、家の中に入っていった。

 俺は「お邪魔しまーす」といつもの男勝りなトーンで、完璧な現代風のイケメン私服姿に化けたルクスや、不法侵入ヤンキーたちを引き連れて、実家のリビングへとゾロゾロと上がり込んだ。40話であれだけ俺を恐怖させたはずの家のリビングが、今は東方の超大物たちで文字通りすし詰め状態になり、生活感が一瞬で大渋滞を起こして完全にファンタジーの異界と化している。

 お父さんはソファに腰掛け、ワナワナと震えながら俺たちを睨みつけていた。俺はその正面に堂々と立ち塞がり、ずっと気になっていた質問をド直球にぶち込んだ。

「母さんは?」

「離婚した」

「へぇ〜。いつ?」

「お前が出ていってすぐ」

「だろうね。母さんは俺のこと溺愛してたからね。母さん『は』」

「……」

 お父さんはぐうの音も出ないといった様子で、気まずそうに視線を床へと落とした。そりゃそうだわ。俺が家出した直後に、俺のことを心から愛してくれていたお母さんからもソッポを向かれて、秒速で三行半みくだりはんを突きつけられて実家で一人寂しく孤立してたんだからな。自業自得だろクソ親父。

 完全にマウントを取り終えたところで、俺は背後に並ぶ最強の仲間たちを親指で指し示し、お父さんに向かって学校の出席確認のようなおそろしく平然としたトーンで告げた。

「それじゃ、まず紹介するね。左から順に、藤原妹紅。望月ルクス。蓬莱山輝夜。八意永琳。博麗霊夢。霧雨魔理沙。上白沢慧音」

「藤原……?」

 お父さんは、俺が最初に紹介した白髪のヤンキー(妹紅)の苗字を聞いた瞬間、外の世界の学校の歴史の教科書で誰もが一度は習う、あの日本の歴史上最高の権力者一族の響きに反応して、おそろしく困惑した顔で呟いた。

「あ、妹紅は藤原家の、子孫? なんて言えばいいのかな? 子孫ではないよなぁ……ま、いっか。とにかく、藤原家の血筋」

 俺が妹紅の設定を説明するのをメタ的に雑に諦めると、お父さんはソファの上でさらに眉間みけんにしわを寄せ、次に俺のすぐ隣に立つ超絶イケメン(ルクス)を睨みつけ、その苗字を反芻はんすうするように呟いた。

「望月……」

「あ、コイツは」

 俺が説明を補足しようとした――その瞬間だった。完璧な現代風の私服に化けていたルクスが、紅い瞳をきらりと妖しく輝かせ、軍帽のつばを直しながら、19話のあの地獄の底から響くようなおそろしく威厳のあるガチの魔王トーンで、低く、重厚な声をリビングの中に響かせた。

『我輩は七大悪魔の憤怒の悪魔。サタンことルクス。今はあるじと契約し、ファミリーネームを共有して対等な関係を築いている』

「無茶苦茶すぎだろ……」

 お父さんは頭を抱え、ソファの上でこれ以上ないほど真っ当な、ガチのトーンのツッコミを漏らした。そりゃそうだわ!!! 家出した自分の娘が、数日ぶりに戻ってきたと思ったら、隣にいる二次元から飛び出してきたような超絶イケメンが『我輩は魔王サタンだ。娘と同じ望月の苗字を共有して対等な魂の契約を結んでいる』とか大真面目に宣戦布告してきたんだからな。外の世界の常識の枠組みが一瞬で木っ端微塵に大爆発を起こしてるわ!

 俺はルクスの隣で、これ以上ないほど誇らしげに胸を張り、お父さんを真っ直ぐに見据えて言い放った。

「これが今からの俺の居場所だ」

 勉強ができなくたって、外の世界であんたに『出来損ない』だって殴り飛ばされたって、関係ねぇ。俺にはもう、この俺の心臓と脳に名前を刻み合って、傷だらけの拳の責任すら半分分けてくれって言ってくれる、イカれた最高の相棒がいるんだ。そして、不法侵入してきて、ゲーム機の角で魔王をボコボコにして、一緒にしりとりをやって笑い合える、温かい永遠亭の家族があるんだよ。

「……そうか、もう勝手にしろ」

 お父さんはガックリと両肩を落とし、完全に俺の気迫と背後の大渋滞の武力に敗北を認め、力なくそう呟いて視線を逸らした。よし、完全勝利だ。

「言いたいことも言ったし、帰るわ。せいぜい頑張って生きろ。クソ親父。ま、死のうがなんだろうがもう関係ねぇけど。絶縁切り出したのそっちだし」

 俺はそう言い残すると、未練なんか1ミリも残っていない懐かしい我が家のリビングにパサァッと背を向け、ルクスたちを引き連れて、堂々と正面玄関から実家を出た。

 ――ガチャン、と小気味良い音を立てて閉まった、あの実家のドア。40話であれほど俺を絶望させたあの冷酷な金属音は、今度こそ、俺の最悪な過去の記憶しがらみを綺麗にシャットアウトする完璧な勝利の鐘の音へと変わっていた。

 実家の敷地を出て、1話目のあのコンビニの前に戻ってきたところで、俺は傷だらけの右手をポケットに突っ込み、いつもの口調に戻って、みんなを振り返った。

「お土産買ってこうぜ」

「なに買うんだ?」

 隣を歩くマント姿の妹紅が、不思議そうに尋ねてくる。永遠亭でお留守番をさせられている、あの哀れな因幡のウサギの顔が脳裏をよぎったが、俺は考えるのを一瞬で放棄してテキトーに答えた。

「ジュースでいっか」

「テキトーだなぁ」

 輝夜が、あきれたように笑いながらツッコミを入れてくる。お前には言われたくねぇよ! ニートのお姫様にテキトー呼ばわりされる筋合いはねぇわ!

「仙のおごり?」

「それなら一番高いの買おうぜ」

 紅白の巫女(霊夢)が、おそろしくがめつい守銭奴の目を光らせて俺の顔を覗き込み、金髪の魔法使い(魔理沙)がこれ幸いとばかりに高いジュースをねだり始める。おい、れいまり!!! お前ら、他人の実家のガチの修羅場に付き合わせたからって、俺の数少ない手持ちの金(外の世界の円)から容赦なく搾取しようとするんじゃねぇよ!

 そんながめつい二人の背後に、おそろしく静かに、だけど圧倒的な歴史の半獣のプレッシャー(殺気)を纏った慧音先生が、ぬっと影のように立ち塞がった。

「魔理沙? 霊夢?」

「「あ」」

 ドガァァァンッ!!!!

 次の瞬間、外の世界のコンビニの自動ドアの前で、おそろしく乾いた生々しい打撃音が響き渡り、霊夢と魔理沙の二人は頭をガチッと抱えながら、アスファルトの上へと無様にひっくり返った。おい上白沢慧音先生!!! 初登場したばかりの数分後に、外の世界の令和の路上で、博麗の巫女と霧雨の魔法使いにガチの教育的指導(頭突き)をぶっ放すんじゃねぇよ! 完全にただの治安の悪いストリートファイトになってんじゃねぇか!

 そんな、頭を抑えてのたうち回る二人を、ルクスは軍帽を直しながら、またしても感情ゼロの死んだ魚の目で完全にスルーしていた。

 俺は懐からオレンジ色のボールを取り出し、ニカッと、これ以上ないほど圧の強い笑顔を輝かせながら、その突起をグッと押し込んだ。

「帰るぞ、みんな! 俺たちの居場所へ!」

 キィィィィン!!! と、コンビニの前でおそるべき白い光の渦が三度爆発的に吹き荒れ、俺たち最強でイカれた全員の身体を優しく包み込んでいく。

 朝一番から不法侵入に脅かされ、魔王をゲーム機の角で撃退し、キメラを吸いまくり、実家で父親に殴り飛ばされて、最後はイカれた相棒の優しさに救われて、最強の仲間たち全員で実家へカチコミを仕掛けて完全勝利を収める俺。

 俺と望月ルクスの幻想郷での生活は、やっぱりタイトル通り【シリアス?大違い。グダグダのメタボケ日常コメディ】の看板を120%地で行く大渋滞と共に、これ以上ないほど温かい涙と、ブラジルの人にまで届くような大爆笑に包まれながら、俺たちの永遠亭での終わらないグダグダ日常へと、光の向こうへ、出荷されるのだった。

ご愛読、ありがとうございました!次回にご期待ください!

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