『東方仙影譚』第四十八話
うわぁ、もう四十八話かぁ
深い眠りの底で、俺は夢を見た。
一寸の先も見えないくらいの暗闇をずっと歩き続ける夢。どこまで歩いても足元は真っ暗で、ゴールなんてどこにも無い。ただ、その暗闇の向こうから、誰かの呼ぶ声が遠くの方でずっと聞こえていた。……だけど、その声は分厚い『蓋』でもされているようで、こもってしまってよく聞こえなかった。それだけ。変な夢だ。
そんな暗闇の世界から、俺の意識はじわじわと光の差す現実へと浮上していった。
ゆっくりとまぶたを開ける。過呼吸の息苦しさも、激しい頭痛や吐き気も、眠っている間に綺麗に引いてくれたらしい。
目が覚めると見慣れたいつもの部屋だった。
居候生活の数日間、俺がずっと使わせてもらっていた永遠亭のあの客間だ。
ふと視線を左右に巡らせてみるけれど、枕元にも、和室の隅にも、誰の姿も無い。周りには誰もいない。
今思うと、俺のことを気遣ってくれたのだろう。
目が覚めた瞬間、またみんなに泣きそうな顔で囲まれていたら、俺の歪んだプライドはまた逃げ出したくなっちまってたはずだ。だからあいつらは、俺の心が落ち着くまで、一人で静かに頭を整理できるように、あえて誰もこの部屋に入らずにそっとしておいてくれたんだ。
静かな部屋の畳の上で、俺は布団から起き上がり、自分の胸にそっと手を当てた。
外の世界で親に殴られて傷ついた右の頬は、永琳さんの医療のおかげか、もう不思議なくらいに痛みが消え去っていた。心臓のバグだらけのパニックも、すっかり綺麗に収まっている。
あぁ、完全にいつもの元気な俺に戻ったわ。
そう確信した瞬間、俺は静まり返る客間のど真ん中で、思いっきり両手を床(畳)へと突き、あっちの世界の有名な一発ギャグ芸人のポーズをバシィィィンと決めて、喉がちぎれんばかりの大音量で地球の裏側に向かって絶叫した。
「……。ブラジルの人ー! 聞こえますかあ゛ぁ゛ぁ゛ぁ゛ぁ゛ぁ゛ぁ゛!」
(※頭おかしくなった?)
おい作者!!! 注釈で「頭おかしくなった?」とかメタい冷静なツッコミを入れてんじゃねぇよ!
おかしくなってねぇわ! 40話から数日間もガチの超重厚ダークシリアスな闇(家出・暴力・馬乗り連打・感覚麻痺・孤独の夢)に心を縛られ続けてた反動が、最高の安堵感と共に、ここで一気に一発ギャグとして大爆発しちまっただけなんだよ! これぞ『東方仙影譚』の看板である【グダグダのメタボケ日常コメディ】の完全復活の開幕宣言なんだよ!
実の父親に殴られ、傷ついた心を相棒のイカれた優しさに救われて、静かな部屋の中で地球の裏側へ全力で生存報告をぶっ放す俺。
俺と望月ルクスの物語は、やっぱりタイトル以上の大渋滞とシリアス即死と共に、これ以上ないほどお騒がせな大音量の奇声と共に、俺たちの本当のホーム(永遠亭)での、いつものグダグダ日常へと、秒速で帰ってくるのだった。
なんか、急に思いついた




