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『東方仙影譚』第四話

どうも作者の炙りサーモンです!この作品は東方projectの二次創作です。作者の勝手な解釈などもあります。それでも大丈夫という方は次に進んでください。

「ようこそ、永遠亭えいえんていへ」

輝夜さんに襟元を掴まれたまま一瞬で連れてこられたのは、広大な敷地を持つ不気味なほど静かなお屋敷だった。

そのまま中に引きずり込まれ、俺はいま、怪しげな薬品や医療器具がズラリと並ぶ診察室の椅子に座らされている。

目の前に立つのは、白と紺の不思議な服を着た、大人の色気と知性を漂わせる絶世の美女――八意永琳やごころえいりん

「なるほど、結界の向こうから来た迷い人ね。それに、影に未知の異形を棲まわせていると……。非常に興味深いわ。とりあえず、体の状態と能力の成分を調べるために、血液採取をしましょうか」

永琳さんがフッと美しく微笑みながら、手慣れた手つきで鋭く光る注射針を準備し始めた。

その瞬間、俺の脳内に最大の警報が鳴り響いた。

――終わった。まじで終わった。

ぶっちゃけ言うと、俺は血液採取が死ぬほど苦手だ。大嫌いだ。妖怪に襲われたときよりも、二日の飢えよりも、今が一番の絶望だった。

「……ほら、左手を出してちょうだい?」

永琳さんにうなが)され、俺は観念した。

暴れて注射針が折れたらもっと痛い目に遭うことくらい、バカじゃないから分かっている。

俺は無言のまま、スッと左手だけを永琳さんの方へと差し出した。

――ただし、顔は限界まで右側にそむけ、体全体を椅子の背もたれの向こう側へとのけぞらせて、全力で逃げようとする体勢で。

まるで、爪切りをされるのが嫌すぎて、手だけ捕まりながらも顔を背けて必死に遠ざかろうとしているゴールデンレトリバーのポーズそのものである。男勝りな俺のプライドは、白い注射針の前に完全崩壊していた。

「ちょ、ちょっとあなた、手だけ出して体ごと逃げようとしないでちょうだい? 針が届かないわよ」

呆れたように言う永琳さんの横で、様子を見ていた輝夜さんがお腹を抱えてケタケタと笑い出した。

「ウケるわね! 永琳、後ろから私がこの子を押さえててあげましょうか?」

その言葉に、俺の頭にカチッと何かが入った。恐怖が限界を超えて、怒りに変わったのだ。

「やれるもんならやってみろやテメェの体に俺の頭ぶっけたるぞ!!」

俺は顔を背けた姿勢のまま、輝夜さんに向かって全力で怒鳴り散らした。

――殺す度胸はないが、ぶつける度胸はある。

こちとら本気なんだ。これ以上俺をガチガチにホールドしようとしたら、この石頭でテメェの自慢の顔面を粉砕してやるからな。

「あら怖い。でも、頭突きをしようとして体ごと前に行ったら、永琳の注射針に近づいちゃうわよ?」

「あ、……クソっ!!」

輝夜さんに冷静に矛盾を突かれ、俺はぐうの音も出なくなる。悔しいがその通りだ。

だけど、それがなんか無性にムカついた。

顔を背けたままじっと耐えていた俺の視界に、面白がってニヤニヤと間近まで寄ってきた輝夜さんの顔が映る。至近距離すぎる。人の弱みにつけ込んでいい笑顔しやがって、このインテリ妖怪め。

――パチンッ!!

「――いてっ!?」

自分の意志とは完全に無関係に(いや、少しだけ意思はあった)、俺の右手が勝手に――いや、全力で振り抜かれ、輝夜さんの完璧なおでこを盛大に弾き飛ばしていた。

綺麗な澄んだ乾いた音が、静まり返った採血室に響き渡る。

痛がって自分の額を押さえる永遠亭のあるじ。それを呆然と見つめる天才医師・永琳さん。そしてガクガクと小刻みに震え始めるうさぎ耳の鈴仙。

……あれ? 俺、今不老不死の怪力大妖怪におもいっきりデコピンかましたよね?

楽しかった(!?)

いや待て、なんでちょっとスカッとしてんだよ俺! 次の瞬間にはこのお屋敷の床に埋め立てられるか、あるいは謎の劇薬でスライムにされる未来しか見えねぇぞ!!

「……あなた」

囲炉裏の火が消えたような、冷たすぎる永琳さんの声が背後から降ってきた。

終わった。デコピンの代償はあまりにもデカい。ガチギレされる、そう身構えた瞬間だった。

――ぐにゃり。

俺の意思とは関係なく、足元の影が波打って、緑の羽を持ったあいつ――ルクスが「キュ!」と気の抜けた鳴き声と共にパッと飛び出してきた。

「あ、ルクス! 助け――」

助けてくれる、そう思った俺がバカだった。

ルクスは部屋の状況を完全に理解しているようで、あろうことか、俺が逃げないようにその強靭な前足で俺の体をガチッと椅子に押さえつけてきたのだ。

――チクッ。

「あ、痛っ!?」

ルクスに完全にホールドされた一瞬の隙を、天才医師・永琳さんが見逃すはずもなかった。目にも留まぬ速さで注射針が左腕に刺さる。

そこからの俺の頭の中は、完全にパニックだった。

胸元を押さえてくるルクスの肉球がプニプニしてて、可愛い。

でも、注射されてる腕がめちゃくちゃ、痛い。

可愛い! 腕痛い!

可愛い! 腕痛い!

可愛い! 腕痛い!

可愛い……けど、やっぱ腕痛いってぇぇぇ!!!

「ふふ、お利口なキツネさんね。助かったわ」

俺が心の中で絶叫のループを繰り返している間に、永琳さんはすまし顔で採血を終わらせていた。

役目を終えたルクスは、また「キュ!」と満足そうに鳴くと、俺の足元の影の中へとスッと消えていく。おい待て、主人を売り飛ばして自分だけ先にセーフティエリアに避難するんじゃねぇ。

腕の痛みが引き、ようやくハッと我に返った俺の前に、人影が影を落とした。

ゆっくりと顔を上げると、そこには、さっき俺が思いっきりデコピンをかました張本人――輝夜さんが立っていた。

赤くなった自分のおでこを手のひらで押さえながら、彼女は満面の、本日一番の綺麗な笑みを浮かべている。

「よし、ちょっとこっち来い」

「あ、オワタ」

俺の口から、乾いた本音の呟きがポロリと漏れた。

抵抗する間もなかった。

俺は再び、線の細いお姫様(※ただしゴリラ並みの怪力)によって白ワイシャツの襟元をガシッと掴み上げられる。

「ちょっと輝夜、診察室で暴れないでちょうだい?」という永琳さんの呆れた声が遠ざかる中、俺はなすすべもなく輝夜に引きずられて、お屋敷のどこかへと連れて行かれるのであった……。

読んでいただきありがとうございます!次回はなるべく早く出しますので、お待ちください

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