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『東方仙影譚』第三話

どうも炙りサーモンです!この作品は東方projectの二次創作です。作者の勝手な解釈などもあります。できるだけ原作の設定や要素入れています。それでも大丈夫という方は次に進んでください

危機が去ったあとの小屋の中には、なんとも言えない奇妙な空気が流れていた。

五メートル先でカタコトになって警戒している妹紅。そして俺の足元で、緑色のドラゴンの羽をパタパタさせながら、「きゅ~ん」と喉を鳴らして甘えてくる謎のキツネ。

「……おい」

俺が恐る恐る声をかけると、そのキツネは嬉しそうに「ギィッ!」と鳴いて、長いドラゴンの尻尾をブンブンと振った。どうやら本当に、俺を襲う気は一切ないらしい。

助けてもらったのは事実だ。それに、これからこの世界で生きていくなら、このわけのわからない異形と付き合っていくしかない。

「……いつまでも『ナニソレ』とか『アレ』って呼ぶのもアレだしな。名前、つけるか」

俺がポツリと呟くと、キツネは不思議そうに首を傾げた。

こう見えても俺はネーミングセンスがいいのだ。

「えー、ドラゴン…キツネ…さっき攻撃したときに光ってたような…よし、ラテン語で光って、確かルクスだったよな。うん、語呂いい。ルクスだ!」

俺がそう呼んだ瞬間、ルクスは満足したように「ギィッ!」と一際大きく吠えた。

すると次の瞬間、ルクスの足元の影がぐにゃりと広がり、その巨体が吸い込まれるようにして、俺の影の中へとパッと消えてしまったのだ。

「……は?」

あまりの出来事に、俺はぽかんと口を開けたまま自分の足元の影を見つめた。ただの真っ黒な床だ。どこにも異形の気配なんてない。

「へー、影に入るのかぁ……」

俺はしばらく影を凝視しながら、ふと思いついてポツリと呟いた。

「これって、呼び出せるんかな? ――ルクス、出てこい」

半分ダメ元で、影に向かってルクスの名前を呼んでみた。

すると、俺の言葉に応じるように足元の影が再びぐにゃりと波打ち、

「ギィッ!」

と、さっきと全く同じ元気な鳴き声と共に、緑の羽を持った異形がパッと飛び出してきた。

「あ、召喚……できるのか」

自分の意思でこの異形を出し入れできるのだと気づき、俺はなるほどと納得する。これならどこへ行くにも邪魔にならないし、何より便利だ。

「あ、ルクス、戻っていいぞ」

俺がそう言うと、ルクスはまた嬉しそうに影の中へとすり抜けるように入っていった。

妹紅はずっと、俺のことを棒立ちで見ている。

完全にかかし状態だ。ピクリとも動かない。

さっきまで格好よく炎を出して「お前はそこにいろ」とか言ってた大妖怪はどこ行ったんだよ。

「……あのー、藤原さん? 妹紅さん?」

俺がひらひらと手を振ると、妹紅はビクゥッ!と跳ね上がった。

「――な、ななな,ナニソレ!! 影からなんか出たり入ったりしたんだけど!?」

「いや、だから俺が一番知りてぇっつってんだろ! 叫ぶなよ!」

カタコトから急に大音量でパニックになった妹紅に、俺はすかさず怒鳴り返した。喉に詰まりかけたおにぎりが出そうになった。

妹紅は頭をガシガシと掻き毟りながら、俺と足元の影を何度も交互に見ている。

「はぁ……駄目だ、頭痛くなってきた。外の世界の人間って全員影からキツネドラゴン出すわけ?」

「出すわけねぇだろ! 出すなら街でもっと無双しとるわ!」

俺がサバサバとツッコむと、妹紅はハァーと深いため息をついて肩の力を抜いた。ようやくいつものぶっきらぼうな空気に戻っていく。

「……まぁいいや。あの化け物を一撃でやったんだ、そいつはお前の味方なんだろ。それよりお前、足、まだ動かないんだろ」

言われてみれば、挫いた左足がじんじんと主張を始めていた。おにぎりで元気は出たけれど、立ち上がろうとすると激痛が走る。

「……痛っ。クソ、動けねぇ……」

さっきまでルクスを出し入れして遊んでいたツケが回ってきた。

「ケガが治るまで、ここにいろよ。焼き鳥くらいなら毎日焼いてやるからさ」

妹紅はそう言って、ぶっきらぼうに奥の囲炉裏いろりへと向かった。

ギャグみたいなやり取りのあとに、急に差し出された無骨な優しさ。

外の世界で人間に裏切られ、居場所をなくして「消えちまえばいい」と本気で思っていた俺にとって、この白い髪の女のぶっきらぼうな温かさは、なんだか少し、胸の奥が痒くなるものだった。

――それから数日後。

俺の足がようやく少し動かせるようになった頃のことだ。

突然、妹紅がぴたりと手を止め、黙って小屋の扉をじっと見つめ始めた。まとう空気が一瞬でピリつく。

身構える俺たちの前で、引き戸が勢いよく開け放たれた。

すると、信じられないくらい綺麗な長い黒髪の美少女が、満面の笑みで両手を広げて入ってきたのだ。

「テッテレ〜! 蓬莱山輝夜ほうらいさんかぐや〜!」

――あー、どっかで聞いたことあるわこのイントロ。青い猫型ロボットが秘密道具出すときのやつや。

え? こっちの世界でもあのロボット有名なんかな?

俺がそんな場違いな疑問を頭の中に浮かべてポカンとしていると、隣にいた妹紅が般若のような顔で凄んだ。

「帰れやテメェコラ」

開口一番、これである。

凄いなんか、うん……なんか……うん。

二人の間の温度差というか、一瞬で治安が悪くなった空気というか、なんて言っていいかマジでわからない。

俺がそんな風に圧倒されていると、

――ガシッ。

「……え?」

するとその、なんか蓬莱山輝夜? と言っていた綺麗な人が、俺のワイシャツの襟元をガッチリと掴んできた。

そしてそのまま、俺をズルズルと引きずりながら、黙って小屋から出て行こうとしたのだ。

もちろん、妹紅は「おい待てコラ輝夜ァ!」と止めようとする。するんだけどさ。

なんで無言なの? ねぇ? 怖いよ?

輝夜の顔を見ると、おにぎりを渡されたときの妹紅と同じ、あの「目の奥が笑っていない怖い方の笑顔」を浮かべている。

あと、この蓬莱山輝夜? なのかな? って人、見た目に反して怪力すぎでしょ。

線の細いお姫様みたいな見た目のくせに、小学生くらいの女の子の体を、まるでお菓子の袋でも持つみたいに片手で軽々と持ち上げてズルズルと引きずっていく。

「首…首絞まる…死ぬ、死んじまう……」

俺は必死に声を絞り出した。

襟元だからさ。洋服の襟元をそんなゴリラみたいな怪力で掴まれたら、人間普通に窒息して死ぬよ。

「待て輝夜! その子をどこに連れていく気だ!」

もちろん妹紅は俺を助けようとしてくれる。してくれるんだけどさ。

「あと妹紅、俺の腕を引っ張らないでくれ、腕千切れる!!」

輝夜の手から俺を引っこ抜こうと、妹紅が俺の腕をグイグイと全力で引っ張り始めた。

前からは輝夜の怪力、後ろからは妹紅の怪力。二人の不老不死に挟まれてギチギチと音を立てる俺の体。助けてくれ。妖怪に襲われたときより今の方が確実に命の危機を感じている。

――その時だった。

面倒くさそうにため息をついた、あの、もう輝夜さん? でいいか、いいよね。

輝夜さんが、ぽつりと静かに呟いた。

「……仕方ないわね」

――刹那せつな

カチ、と頭の奥で、世界の時間が一瞬だけ奇妙にズレたような音がした。

視界が一瞬で真っ白に染まり、次の瞬間、俺を引っ張っていた妹紅の手の感触が、綺麗さっぱり消え失せていたのだ。

「……え?」

慌てて辺りを見回した俺は、開いた口が塞がらなかった。

さっきまでいたはずの、妹紅のボロい小屋はどこにもない。

目の前にそびえ立っていたのは、見たこともないほどに巨大で、静まり返った和風の大きなお屋敷だった。

認識すらできない、一瞬にも満たないほんのわずかな時間――『須臾しゅゆ』。

その隙間の時間を操って、このお姫様は俺を連れたまま、一瞬で別の場所に移動してみせたのだ。

「ようこそ、永遠亭えいえんていへ」

俺の襟元を掴んだまま、輝夜さんは何事もなかったかのように、不敵に微笑んで見せた。

読んでいただきありがとうございました!次回はなるべく早く出しますので、お待ちください

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