『東方仙影譚』第三十九話
あとちょっとで終わるわ
「永遠亭のみんなと行くかな。いや妹紅だけ連れてくか。あの姫がいたらなにが起こるかわからん」
『うんうん』
俺の至極冷静な判断(消去法)に対し、隣で直立していたデカいモフモフの従者――望月ルクス(大きいキメラ姿)が、軍帽を被ったアカギツネの大きな耳をコクコクと激しく縦に揺らし、これ以上ないほど魂の籠もった重低音ボイスで深く同意した。
あの輝夜を外の世界のコンビニとかに連れ出してみろ。自動ドアに向かって大はしゃぎするだけならまだしも、気に入らないことがあったら一般人の前でガバガバなプロレスの寝技(十字固め)を披露して、あっちの警察に一瞬で御用される未来しか見えねぇわ。十二歳の少女(俺)の実家の話し合いの席が、お姫様のボケのせいで秒速でニュース沙汰になるわ!
というわけで、俺とルクスは魔理沙からオレンジ色の転移装置をひったくると、すぐさま霧雨魔法店を飛び出した。
――そして数分後。
ガラララララァァァン!!!!
俺たちは、本日何度目か分からない凄まじい勢いで永遠亭のリビングの引き戸を蹴破って舞い戻った。
食卓の和室の中では、さっき35話のラストで輝夜にガバガバな十字固めを極められていた妹紅が、未だに床の上でプルプルと震えていた。俺はダッシュでその目の前まで歩み寄ると、大音量で提案した。
「妹紅! 一緒外の世界いこう!」
「あ、はい」
おいもこたん!!! さっき俺が『家出』っていうリアルな過去をカミングアウトした時の気まずい余韻を、まだガッツリ引きずったまま床の上で敬語になって承諾してんじゃねぇよ!
普段のあの「表出ろ」とか言っていた反抗期のヤンキーの威勢の良さはどこへ行ったんだよ!
「ちゃんと戻ってこれるから、ね? 今から行こう!」
「お、おう」
俺の圧倒的な勢いに気圧され、妹紅はガタガタと両肩を震わせながら、完全に言われるがままにコクコクと頷いた。よし、外の世界への同行者(生贄)は確保した。
俺は懐から魔理沙の転移装置を取り出し、スイッチに指をかけながら、リビングの奥からやれやれと顔を出したマッドサイエンティスト(永琳さん)と、おそろしく楽しそうにゲーム機を弄っていたニート姫(輝夜)に向かって、出発の挨拶をぶっ放した。
「あ、永琳さん行ってきます! 姫、職業探しといたほうがいいよ」
「いきなりすぎでしょ!!!」
輝夜がゲーム機を畳に放り出し、光の速さで食卓のベンチから総ツッコミを叩き込んできた。
おいお姫様! いきなりすぎでしょ、じゃねぇよ! これから外の世界の実家に話し付けにいくっていう超重要な完結へのカウントダウンイベントが始まろうかっていう時に、俺から『ニートやってないでハローワーク(外の世界)でも行って仕事探しときなよ』っていうガチの現実的なトドメの正論を突きつけられるとは思わなかったよな!
「いってらっしゃー」
「永琳……?」
白衣を翻してリビングに入ってきた八意永琳さんは、まるで近所のスーパーに買い物にでも出かける娘を見送るかのような、おそろしく軽いお母さんトーンでパタパタと手を振って俺たちを見送った。
お姫様は、自分の一番の味方であるはずの賢者(永琳さん)からすら、秒速で「早く仕事探しなさい」とばかりにスルーされ、完全に置いてけぼりを喰らった絶望の顔で『永琳……?』と震え声で呟いていた。ドンマイお姫様、俺が戻ってくるまでに良い求人が見つかるといいな。
キィィィィン!!!
俺がボールの突起をグッと押し込んだ瞬間、リビングのど真ん中でおそるべき光の渦が爆発的に吹き荒れ、俺と、デカいモフモフのルクス、そして完全に巻き添えを喰らった妹紅の三人の身体を包み込んでいく。
朝一番に不法侵入に脅かされ、魔王を撃退し、キメラを吸いまくって、挙げ句の果てにはニートに職業選択の自由(現実の闇)を突きつけて、ついに外の世界へのゲートへと飛び込む俺たち。
俺と望月ルクスの幻想郷での居候生活は、やっぱりタイトル以上の大渋滞と急展開と共に、これ以上ないほど唐突に、ついに物語の最終決戦(?)、【外の世界への一時帰還編】へと、光の向こうへ出荷されるのだった。
外の世界に妹紅がいたら作者発狂してしまうかも




