『東方仙影譚』第三十八話
どのくらい痛いんだろう
『もう変なものには触らん……』
「それがいい」
俺は腕を組んだまま、ゴミ屋敷のど真ん中で、これ以上ないほど冷え切ったスンッの真顔のままルクスを見下ろして深く同意した。
だが、俺たちがここに連行されてきたのは、ただルクスを物理トラップの餌食にしてお笑いコンビ『ドラゴン・ルーツ』の耐久テスト(仮)をするためではない。35話で俺が言った、「外の世界の両親に話し付けに行きたい」という望みを叶えるためだ。
魔理沙は床に山積みになったおそろしく怪しい古文書やガラクタの山を両手でガサゴソと豪快に掻き分けながら、顔をニヤニヤと輝かせた。
「確か外の世界に行ける道具が……ここら辺に……」
「ゴキ○リ出てきそう……」
俺は一歩後ろに下がりながら、心底嫌そうな引いた顔でボソッと呟いた。おい魔法使い!!! 外の世界に行ける超重要設定のアイテムを、何でそんな足の踏み場もない汚部屋のガラクタの底に埋め込んでんだよ! そんなジメジメした暗い本の隙間をノーガードでガサガサやったら、外の世界のあの最凶の黒い害虫がカサカサカサッと凄まじいスピードで飛び出してくるに決まってるだろ! 25話の朝ご飯の席でのあの最悪な雑学のせいで、俺の脳内は今その黒いフォルムの恐怖でいっぱいなんだよ!
だが、そんな俺のリアルな悲鳴などどこ吹く風で、魔理沙はさらに深くガラクタの山の奥底へと手を突っ込んで、何かを引っ張り出そうと悪戦苦闘し始めた。
「あれ……? これ違うな、ここじゃなかったっけ?」
「絶対ゴキ○リ出てくる……」
俺はさらに二歩後ろに下がり、ルクス(大きいキメラ姿)の深緑色のマントの裾をガシッと掴みながら、ガチのトーンで冷や汗を流して確信を込めて呟いた。おい探す場所を間違えるな!!! 間違えて別の引き出しとか開けた瞬間に、数年間その暗闇で繁殖し続けた黒いアイツがバルスの勢いで飛び出してくるだろ! 外の世界に行ける前に俺の心臓が恐怖でショック死しちゃうわ!
「あった!」
ホラー映画さながらの恐怖に俺がガタガタと震えていると、魔理沙がガラクタの山から、オレンジ色に怪しく輝く「謎の丸い球体」を誇らしげに掲げた。
「……なにこれ?」
俺はゴキ○リじゃなかったことにホッと胸を撫でおろしつつ、その丸い物体をジト目で睨みつけた。
「確か、このボールを七個全部集めるとドラゴンが出てきて……」
「それ別作品!!!」
俺は間髪入れずに、本日最大級のボリュームで特大のツッコミを霧雨魔法店の中に響かせた。
おい魔理沙!!! 集めると願いを叶えてくれる龍が出てくるあの有名なジャンプ漫画の秘宝じゃねぇか! コンビ名が『ドラゴン・ルーツ』だからって、本物のドラゴンを呼び出すシステムを外の世界のガラクタから引っ張り出してくんじゃねぇよ! 著作権的に色々とアウトだろ!
「冗談だよ。これのここをこういう風に押せば外の世界に転移できるぞ」
魔理沙はニカッと笑うと、ボールの上部にある小さな突起のような部分を指差した。
どうやら本当に、外の世界の電波や魔力を応用して作られた、異世界(現実)への転移装置だったらしい。いよいよ、俺のいた元の世界へ帰るための具体的な手段が、目の前にカチャリと提示されたのだ。
「戻って来れる?」
俺は少しだけ男勝りな口調を崩し、床に座り込みながら、目の前の魔法使いを真っ直ぐに見つめて尋ねた。
話し付けに行くだけだからな。あっちで両親とちゃんと話をしたら、俺はまた、このルクス(大きいキメラ姿)のいるグダグダでカオスな幻想郷の日常に戻ってきたいんだ。
「あぁ、一回やったことあるからな」
魔理沙は帽子を直しながら、頼もしく胸を張ってあっさりと答えた。
朝一番から不法侵入に怯え、魔王を撃退し、家出の過去が暴かれて魔法の森のゴミ屋敷に出荷された直後に、別作品のボケを挟んで、ついに外の世界への切符(転移装置)を手に入れた俺たち。
俺と望月ルクスの幻想郷での居候生活は、やっぱりタイトル以上の大渋滞と恐怖(ゴキ○リ)を乗り越え、ついに物語の最大のクライマックスへと、ストーリーの歯車が動き出すのだった。
もう三十八話かぁ




