『東方仙影譚』第三十七話
魔理沙に連れていかれてるわー
空気の読めない金髪の魔法使い(魔理沙)に手首をガシッと掴まれ、永遠亭の住人たちが「あ、関わらんとこ……」と見事な棒立ちを決める中、俺はリビングから無慈悲に出荷された。
そのまま、なぜか当然のようについてきた170センチオーバーの大きなキメラ姿のルクス(望月ルクス)を連れて、俺たちは永遠亭のある迷いの竹林を抜け、幻想郷でも一、二を争う危険地帯――おぞましい瘴気と怪しい魔法キノコが自生する【魔法の森】へとやってきたのだった。
鬱蒼と生い茂る奇妙な大木をかき分け、森の奥深くに進むと、そこにぽつんと佇む一軒の古びた木造の建物が見えてきた。魔理沙の自宅であり、何でも屋でもある『霧雨魔法店』だ。
魔理沙が威勢よくドアを蹴り開け、俺たちを中へと迎え入れる。
「ようこそ!」
「……」
俺は一歩中に足を踏み入れた瞬間、あまりの部屋の惨状に完全に言葉を失って直立不動になった。
おい魔理沙!!! 何なんだよこの部屋は!
床が見えないほど足元に散らばる大量の怪しい古文書、棚から溢れそうな得体の知れないカエルやトカゲの干物、そして怪しく発光する謎の液体が入ったフラスコ。外の世界のゴミ屋敷(あるいはマッドサイエンティストの隠れ家)でも、もうちょっと片付いてるわ! 俺をこんな衛生環境が限界突破してる魔窟に招待するんじゃないわよ!
俺がガチの引き攣った真顔で部屋の隅々を見渡していると、隣で深緑色のマントを揺らしていたルクスが、おもむろに床に転がっていた「何か」を見つけ、軍帽を揺らしながら興味深そうに大きな前足の爪を伸ばした。
『コレなんだろう……?』
「あ、それは触ると噛み付いてk」
『いっっっっってぇぇぇ!!!』
魔理沙の親切な警告の後半のセリフが完成するよりもおそろしく早く、リビングの中に、本日何度目か分からないルクスのガチの絶叫(重低音ボイス)が木霊した。
案の定だった。ルクスが触ったその怪しい魔法アイテム(トラップ)は、まるでガチのトラバサミか狂暴な肉食獣の口のようにバチンッ!!! と凄まじい音を立てて、奴の大きな前足のふさふさな毛並みへと強固に食い込んでいやがった。
『なんだこれ! 離れねぇぇ!』
「それしばらく離れないぞ」
ルクスが涙目で腕をブンブンと激しく振り回しながら大パニックになる中、家主の魔理沙は「やれやれ」と呆れたように肩をすくめて、他人事のように実にあっさりと告げた。
おい魔法使い!!! しばらく離れないぞ、じゃねぇよ! なんで自分の家にそんな泥棒除けのガチのトラップが床に普通に直置きされてんだよ!
『グッ……! おのれ、我輩を舐めるなよ! こうなったら無理矢理……!』
激痛に耐えかねた我が自慢の相棒――元・憤怒の魔王サタンが、19話のあの荒々しい魔王トーンの声を響かせながら、もう片方の前足の爪をトラップに引っ掛け、力任せにバキバキと引き剥がそうと魔力を滾らせ始めた。
「無理矢理取ろうとすると肉が離れるぞ」
「ええ……」
俺は床の上で、死んだ魚のような真顔のまま、おそろしく冷え切ったトーンでドン引きの声を漏らした。
おい魔理沙!!! 肉が離れるって何だよ!!!
無理に引っ張ったら、ルクスの腕のふさふさな毛並みと皮膚がゴリッと削げてトラップ側に残るってことかよ! なんだその外の世界のサイコホラー映画並みのおぞましいグロ設定のアイテムは!
『なんだと!? 我輩の気高き肉体が、この安っぽい木箱ごときに毟り取られるというのか……!?』
無理矢理引き剥がすこともできず、ただただ前足の肉をホールドされたまま、巨大なルクスが白目を剥いて床の上でプルプルと震え始めた。
朝一番に不法侵入に脅かされ、自分の家出の過去が暴かれて永遠亭を出荷された直後に、新ステージのゴミ屋敷で怪しい魔法の罠に引っかかって身動きが取れなくなる我が相棒。
俺と望月ルクスの、魔法の森での大冒険(?)の第一歩は、やっぱりタイトル以上の大渋滞とリアルな医療ホラーと共に、これ以上ないほどグダグダな幕を開けるのだった。
よくよく考えるとグロい…




