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『東方仙影譚』第三十五話

伏線回収というのだろうか……作者にはわからない……

『りんご、ごま、マントヒヒ、ひ、ひ、氷河期、木、帰路、ロバ、バス、スズメ、メダカ、過労、売り上げ、げんこつ、積み木……』

 大きなキメラ姿のまま、おそろしく生々しい大人の単語を並べて孤独なしりとりを続けるルクス(望月ルクス)。

 俺が「ルクス……?」とガチで引いている横で、リビングの激しいドタバタは、一杯の温かいお茶と共にようやく少しだけ落ち着きを取り戻しつつあった。

 

 湯呑みから立ち上る湯気をぼんやりと眺めていると、俺の脳裏に、ふと幻想郷に来る前の『あっちの世界』の記憶が寂しげに呼び起こされる。

 サバサバ生きてはいるけれど、俺はまだ、外の世界じゃただの十二歳の女の子なのだ。

「外の世界もう一回だけ行きたいなぁ、父さん母さんに話しつけんと」

 俺がポツリと、だけど確かな決意を込めて呟いた。

 朝一番から不法侵入に脅かされるこの永遠亭の日常も最高に楽しいけれど、なんの連絡もなしに急に異世界に消えちまった娘の身を、あっちの両親がどれほど心配しているかと考えたら、さすがに一度くらいは顔を見せて、ちゃんと現状の「話し合い」をしておかなくちゃいけない。

 すると、食卓の椅子に座り直していた妹紅が、湯呑みを置く手をピタッと止めて、俺の顔をジッと見つめてきた。

「なんでここに来たんだ? 忘れられたからじゃなく?」

「……あ?」

 俺の口から、地獄の底から響くような、おそろしく低くて冷え切ったガチギレが漏れ出た。

 おいもこたん。なんでこの感動的な家族想いのシーンで、東方Projectの根本的なルール(外の世界で『忘れられたもの』が幻想郷に迷い込むという絶対設定)を持ち出して、俺がまるで「両親から存在を忘れられた哀れで不憫な子供」みたいになるような、おそろしく不吉でデリケートな解釈違いの疑問をぶち込んでくるんだよ!

「あー! 妹紅が仙のこと怒らせたー! あーあーあー!」

 隣にいたニートのお姫様(輝夜)が、これ以上ないほど嬉しそうに手を叩きながら、まるで小学校の休み時間にトラブルを見つけたガキ大将みたいなトーンで大はしゃぎし始めた。

「逃げよ」

 妹紅は、俺のガチギレの気配を察知した瞬間、本日何度目か分からない光の速さでの「ヘタレ撤退」を選び、リビングの引き戸に向かってトボトボとダッシュしようとした。

「十字固め!」

「それどこで覚えたの? ……足痛い」

 ――ズドォォォン!!! とリビングの畳に凄まじい衝撃音が響き、妹紅は一瞬にして輝夜によって床に組み伏せられていた。

 おいお姫様!!! 外の世界のプロレス技(寝技)を一体どこで覚えてきたんだよ!

 っていうか輝夜さん! 『十字固め』ってのは相手の腕を極める技であって、なんで技をかけられている妹紅の口から「足痛い」なんていう、完全に極める場所を間違えて下半身を雑に破壊されているバグだらけの悲鳴が飛び出してんだよ!

 床の上でガバガバな関節技をキメられながらプルプル震えている妹紅を見つめ、俺はハァ、と大きなため息をつきながら、お茶をすすって苦笑いを浮かべた。

「いやまぁさぁ……。確かに忘れられてるかもだけど、言えば思い出してくれるでしょ……多分……」

 俺のその、ちょっと弱気でリアルなトーンの独り言に、床で極められていた妹紅は、ふと痛みを忘れたように真面目な顔をして俺を見上げてきた。

「幻想郷に来る前はなにしてたの?」

「……家出」

「失礼しました許してください」

 おいもこたん!!! 床に組み伏せられた体勢のまま、おそろしく光の速さで敬語になって全面降伏するんじゃねぇよ!

 家出って単語を聞いた途端に、これ以上触れちゃいけないガチの家庭環境の闇を察知して一瞬で平謝りモードに入るな! さっきまでのあのヤンキーの威勢の良さはどこへ行ったんだよ!

「なにがあった?」

 輝夜が妹紅の足を極めたまま、紅い瞳をきらきらと輝かせて、ニート特有のド直球な野次馬根性で俺の顔を覗き込んできた。お前は少しは空気を読め! 他人のリアルな家庭の事情をワイドショーの芸能ニュースみたいに楽しそうに掘り返すんじゃねぇ!

『なにも聞いてない、なにも聞いてない……』

 そして俺のすぐ横では、頭に軍帽を被った大きな相棒が、深緑色のマントに身を包んだまま、おそろしく澄んだ低音ボイスでぶつぶつと自己暗示の呪文を唱えながら完全に白目を剥いて現実逃避していた。

 おいルクス!!! お前、さっき27話で「魂のシステム上で結合コネクトさせる、正式な契約なのだ」とか言って俺の心臓と脳に名前を刻み合ったばかりだろ! 主人の過去に『家出』っていうガチの不穏ワードが生えた途端に、一番の巻き添え(を恐れて無関係を装うな!

 外の世界の両親への話し付けを語った直後に、自分のリアルな家出が暴かれ、不法侵入ヤンキーが床の上で敬語で謝罪し、お姫様のガバガバな関節技と相棒の現実逃避がリビングに炸裂する。

 俺と望月ルクスの、幻想郷での居候生活数日目の朝は、やっぱりタイトル以上の大渋滞と気まずさと共に、賑やかなお茶の時間が、本当に、どこまでもグダグダに続いていくのだった。

展開どーしよっかなー

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