『東方仙影譚』第三十三話
学校やだよぉ、だるいよぉ、めんどいよぉ
「よし吸おう」
「やらんって」
輝夜の『アリ大喜利クイズ』の見事なハメ技コンボによって、自らの口で「アリです」と言わされてしまった妹紅が、顔を真っ赤にして大慌てで拒絶を繰り返している。
だが、俺の癒やしメーターは、さっきのルクス吸い(キメラ吸い)だけではまだ半分もチャージされていなかった。要するに、もっとこのリビングの空気をカオスにして面白がりたかった。
俺はパイプ椅子からガバッと立ち上がると、妹紅の後ろへと光の速さで回り込み、その白髪の頭を両手でガシッと掴んだ。
「いいから妹紅も吸え!」
「はぁ!?」
俺は十二歳女子の男勝りな腕力をフルパワーで発動させ、抵抗する妹紅の顔面を、隣に直立しているルクスのふっさふさな腹の毛並みへと、思いっきりダイレクトに押し付けた。
『…』
我が自慢の相棒である望月ルクスは、軍帽を被ったまま、またしても魂の抜けた死んだ魚の目で完全に静観を決め込んでいた。おい相棒、主人が不法侵入系女子を俺の腹の毛に生き埋めにしているんだから、少しはリアクションをしろよ。
「や゛め゛ろ゛…」
ルクスの暗いオレンジ色の極上モフモフの隙間から、妹紅のガチのトーンのくぐもった悲鳴が漏れ聞こえてくる。俺は頭を押さえつけたまま、ニヤニヤしながら尋ねた。
「どう?」
「い゛きできな゛い」
至福の癒やしどころか、ただの窒息死の一歩手前じゃねぇか!!!
1巨大な獣の毛並みの密度が高すぎて、不死身の蓬莱人がリアルに酸素不足に陥りかけていやがる。
そんな俺たちのバイオレンスなモフモフ心中を見届けていた輝夜が、おおむろに懐から、おそろしく見覚えのある「木製の古いカメラ」を取り出して不敵に微笑んだ。
「文屋から奪ったカメラで記念写真」
「やめろ゛お゛ぉ゛ぉ゛!!!」
妹紅がルクスの腹に顔面を埋められた体勢のまま、本日最大級の音量で絶叫した。おいお姫様!!! 射命丸文のやつから一体どういう手段(物理)でそのカメラを強奪してきたんだよ! 宿敵の屈辱の窒息写真をばっちり現像して、明日の一面記事にでも載せるつもりかよ!
カシャァァァ!!!!!
リビングの中に、これ以上ないほど無慈悲で鮮烈なシャッター音が鳴り響いた。
次の瞬間、俺の手を振り払ってルクスの腹から這い出た妹紅は、顔を真っ赤にして髪を振り乱し、完全に理性が消し飛んだ顔で文字通り大爆発した。
「○○! マジで! ○○○! ○○! ああああ!!!」
おいもこたん!!! 落ち着け!!!
あまりの怒りと恥ずかしさで、口から飛び出す暴言の全てに外の世界の深夜番組並みの規制音と伏字がブチ込まれてんじゃねぇか! 全年齢対象のなろう小説で俺にそんなガチの罵詈雑言を聴かせるんじゃないわよ!
妹紅がこの世の全ての禁止用語を叫び散らしながらリビングで大暴れしていると、ガラリと引き戸が開き、診察室の後片付けを終えた永琳さんがやれやれと呆れ顔で入ってきた。
輝夜はおもむろにカメラを隠すと、すまし顔で永琳さんの服の袖を引っ張った。
「永琳、妹紅なにしてんの?」
「見ちゃダメです」
永琳さんはおそろしく真面目な保護者の顔をして、輝夜の目を手で覆いながら即座に回れ右をさせた。
おい!!! 珍獣か何かを見るような目で妹紅を見るな! そして「我が家の教育に悪いので見ちゃいけません」みたいなトーンで宿敵の大暴走を子供から遠ざけるような処置をするんじゃない!
「…」
俺はパイプ椅子に静かに座り直し、お茶をすすりながら、一番まともな常識人の顔をしてリビングの修羅場をただじっと静観した。
朝一番から不法侵入に脅かされ、魔王をボコボコにして、挙げ句の果てには俺のせいで不条理な伏字暴言を吐き散らす不死身の少女。
俺と望月ルクスの、幻想郷での居候生活数日目の朝は、やっぱりタイトル以上のグダグダさとカオス(そして教育に悪い伏字の叫び)と共に、賑やかな朝食の時間が本当に、ようやく、終わるのだった。
妹紅さん……?




