『東方仙影譚』第三十話
なんか、もう、注意書くの大変になってきた…。
「一時間後、色欲の悪魔アスモデウスがそっちに着くだろう。覚悟せよ……」
魔界の伝書鳩が運んできたベルフェゴールの汚い手紙には、そんなおぞましいガチの宣戦布告が書かれていた。
魂の契約を終えた直後を狙ってやってくる、七大悪魔の一角。俺とルクス(大きいキメラ姿)の命を奪うためのカウントダウンが、今この瞬間から始まってしまったのだ。
リビングの空気がガチのシリアスに凍りつく中、俺は食卓のお茶を一気に飲み干すと、隣に立つ相棒を見上げて真顔で尋ねた。
「今からでも入れる保険ってありますか?」
『………ない(わかりませんが)』
ルクスは軍帽を深く被り直したまま、感情を1ミリも交えずに即座にバッサリと切り捨てた。
おい相棒!!! そこは「我輩が命に代えてもお主を守る!」とか魔王らしい頼もしいセリフを吐くところだろ! 外の世界のあの有名なテレビCMのセリフで必死に生き残る道を模索した相棒に向かって、1秒で絶望の判決を下すんじゃねぇよ!
――そして、非情にも一時間が経過した。
ガラララララァァァン!!!!
永遠亭のリビングの引き戸が、今日何度目か分からない凄まじい勢いで蹴破られた。
立ち込める魔界の怪しい霧の向こうから、ピンク色の禍々しいオーラを纏った、妙に中性的な男が姿を現す。
『僕の子猫ちゅわぁ〜ん!』
「うっわ、キッッモ」
俺は光の速さでパイプ椅子ごと後ろに下がり、ガチのトーンで嫌悪感を露わにした。
おい待て。何だその外の世界の平成の深夜アニメの悪役みたいな、絶妙に生理的な嫌悪感を煽ってくるキツすぎる挨拶は! 『ちゅわぁ〜ん』の響きだけで鳥肌が限界突破したわ!
すると、色欲の悪魔アスモデウスは、俺のド直球な暴言にハッと我に返ったように、わざとらしく自分の額をペチッと叩いた。
『あ、いけないいけない。コアを獲りに来たんだった』
「う〜わ、だっっっっっっる」
俺の隣で腕を組んでいた妹紅が、この世の全ての面倒くさいものを煮詰めたかのような、おそろしく冷めきったローテンションな声を響かせた。
分かるよもこたん。殺し合いをしにカチコミに来たくせに、自分のキャラ作りに夢中になって目的を素で忘れてる敵とか、戦う側のモチベーションが一番削がれるタイプだよね。
そんな敵味方ともに最高にグダグダな空気が漂い始めたリビングに、今度は背後の窓からパサァッと白い巫女服を翻して、誰かが颯爽と着地した。
「どうもすけだちいたす」
「漢字にしてくれよ霊夢!!!」
俺は間髪入れずに、いつの間にか戻ってきた博麗の巫女へと叫んだ。
25話の朝ご飯の席で「お前は呼んでない、帰れ」って輝夜に言われて『はーい』って光の速さで帰ったくせに、何でバトルが始まりそうな絶妙なタイミングでひらがな棒読みで戻ってきてんだよ!
「とにかく助けに来たわよ」
霊夢はお祓い棒を肩に担ぎながら、何事もなかったかのようにすまし顔で言い放った。
「都合良すぎでしょ、部屋行こ」
「輝夜!?」
食卓で優雅にお茶を飲んでいた月のプリンセスが、まるでテレビのチャンネルを切り替えるかのような超絶ドライなトーンで立ち上がり、そのまま自分の部屋に向かってトボトボと歩き始めた。
おいお姫様! 霊夢の登場があまりにもご都合主義のメタ展開だからって、物語の当事者のお前が「付き合ってらんないわ」とサボって引き籠もろうとするな!
――そんな永遠亭の住人たちの自由すぎるチームワーク(?)を前に、それまでヘラヘラしていたアスモデウスのピンク色の魔力が、突如としておぞましい黒紫色の「激流」へと跳ね上がった。
『……おい。僕だって、殺るときは殺るんだからね?』
「は…?」
リビングの空気が、一瞬にして鉛のように重くなる。
さっきまでのふざけたオネエ口調のまま、しかし声のトーンだけが地獄の底から響くような「本物の魔王の殺気」へと完全に切り替わっていた。あまりの圧倒的な威圧感に、引き籠もろうとした輝夜の足がピキリと止まり、霊夢や妹紅も一瞬でガチの戦闘態勢へと表情を引き締める。
キモくてダルいだけの男かと思ったら、こいつ、本当の本当にシャレにならないレベルの怪物だぞ……!
「なんでこーなるんだよぉぉぉ!!!」
俺はリビングのど真んで頭を抱え、本日最大の大音量で天を仰いで絶叫した。
味方の主戦力(輝夜)はボイコットしようとするし、ご都合主義で戻ってきた霊夢たちの前で、敵のオネエ悪魔は急にガチの魔王モードで部屋を消し飛ばしそうなくらいの威圧感を放ち始めるし!
俺と望月ルクスの新章バトルは、やっぱりタイトル以上の大渋滞と恐怖の落差と共に、最悪の空気の中で、火蓋が切られるのだった。
読んでいただきありがとうございました!もう少しで、夏休みが終わってしまう…。学校ヤダァ




