『東方仙影譚』第二十八話
どうも作者の炙りサーモンです。この作品は東方projectの二次創作です。パロディやメタ発言、作者の勝手な解釈などが含まれます。それでも大丈夫という方は次に進んでください。
永琳さんの診察室を出た俺は、大きなキメラの姿をしたルクスを連れて、廊下を渡り、魔理沙やもこかぐ達が残るリビングの引き戸をガラガラと開けた。
食卓の椅子に座っていた一同の視線が、部屋に入ってきた俺と、 そして深緑色のマントを羽織ったデカいモフモフの相棒へと一斉に集まる。
その奇妙な沈黙を切り裂くように、俺はリビングのど真ん中でビシッとポーズを決め、大音量で宣言した。
「コントしまーす!」
これ以上ないほどの、直球すぎるメタボケの開幕宣言だった。
引き戸を開けた瞬間に、作者から「仙とルクスにコントさせよう!」という神の電波をダイレクトに受信してしまったのだから仕方がない。
すると、俺の斜め後ろに直立していたはずの、頭に軍帽を被った大きな相棒は、ふさふさのアカギツネの顔を死んだ魚のような真顔へと変え、澄んだ低音ボイスのまま、おそろしく平然と言い放った。
『イエーイ、ウワータノシミダナーアハハー』
驚くほど感情の籠もっていない、完全なカタカナ棒読みだった。
おいルクス! さっきまで診察室でお互いの心臓と脳に名前を刻み合って「我輩の名を託し、その名を受け入れる(ガチシリアス)」とかやってたあの時の熱いパッションはどこへ行ったんだよ! リビングに来た途端に作者の無茶振りに気付いて一瞬で魂を捨て去るんじゃない!
そんな俺たちの、温度差が限界突破しているお笑いコンビの入場シーンを特等席で見せつけられた藤原妹紅は、お茶をすすりながら、実にあっさりと呟いた。
「あ、巻き込まれたんだな」
おいもこたん! 同情するような目でこっちを見るんじゃねぇ!
お前だって二十二話の朝一番で天井にアル○ックのポーズで張り付いて、落ちて脱臼した時に「アー、カタノカンセツガ、ハズレチャッタナー」って完全なカタカナ棒読みを披露してただろ! ルクスのあの魂の抜けた棒読みは、完全にお前のあのボケの被せなんだよ!
妹紅の冷ややかな視線などどこ吹く風で、俺とルクスはリビングのど真ん中で綺麗に並び、ビシッと声を揃えた。
「どうも、新コンビの『ドラゴン・ルーツ』!」
『略して、「D・Roots」でーす。うぇーい』
俺が男勝りに声を張り上げ、隣のルクス(大きいキメラ姿)が深緑色のマントをバサァッと翻して略称を告げる。
名前の格好良さは間違いなく満点だ。二十七話で共有した「望月」の魂の根源を意味する、痺れるような中二病の響きがある。
だが、コンビ名を告げたルクスのキメラの顔はやっぱり死んだ魚のままで、澄んだ低音ボイスによる感情ゼロの『うぇーい』がリビングに寂しく響き渡っていた。
「よろしくお願いします……」
俺は魔理沙たちに向かって、綺麗にペコリと腰を折ってお辞儀をした。
……が、ふと隣を見ると、大きなキメラ姿の相棒は、軍帽を被ったまま、お辞儀もせずにスンッとした真顔で直立不動を貫いていた。
「お前もしろ!」
『バウッ!?』
俺はガバッと身を乗り出すと、ルクスのふさふさのアカギツネの顔を両手でガシッと力任せに掴み、そのまま床に向かってグイッと強制的にお辞儀させた。十二歳女子の腕力とは思えない見事なヘッドロックである。
『……よろしゃす』
俺の手で頭を押さえつけられ、床を見つめる形になった元・憤怒の魔王は、諦めたように、これまた信じられないほど適当なトーンでボソッと呟いた。おいルクス! 魔界の総司令官だった奴が、やる気のないバイトの挨拶みたいな『よろしゃす』で済ませるんじゃねぇよ!
挨拶だけでリビングの空気をガタガタに震わせたところで、俺は一歩前に出て、いよいよ本編のコントのネタ(ボケ)をスタートさせた。
「今日は、あれがあれであれがあれになりました!」
『わからんよ?』
大きなキメラの顔のまま、ルクスが澄んだ声でこれ以上ないほどド直球の正論ツッコミを入れてくる。
うん、ツッコミのキレは悪くない。だけど、漫才やコントとしてはいささかバリエーションが足りない気がする。
「ルクス、ツッコミできる?」
『唐突。でき……ると思う』
「じゃあ俺のボケにツッコミしてよ。三パターンでね」
『押忍』
ルクスは軍帽を直しながら、なぜかガチの体育会系みたいな返事をして身構えた。よし、元・魔王の三パターンのツッコミの技、見せてもらおうじゃねぇか。
「あたいったら天才ね!」
パシィィィン! と、ルクスの大きな前足が、俺の頭を綺麗にハたいた。
うむ、お約束のベタなツッコミだ。じゃあ、次の二パターン目はどう来る?
「永遠の十二歳です」
パシィィィン! と、再びルクスの大きな前足が、俺の頭を同じ角度でハたいた。
……まあ、まだ二回目だからな。本番はここからだ。外の世界の国民的アニメの知識を使った、最高に不条理なラストの三ボケ目をぶち込んでやる!
「俺ピカ○ュウ食べれるよ」
パシィィィン!
――和室の中に、本日三度目となる全く同じ小気味良い乾いた打撃音が響き渡った。
俺は火花が散る頭を押さえながら、目の前でスンッとした真顔のまま大きな前足を引っ込める従者を指差し、叫んだ。
「ワンパターン! ワンパターンしかないよ!!」
おいルクス!!! 三パターンって言っただろ! なんで全部ただの物理頭叩き(ツッコミ)だけで処理してんだよ! 怒るなり、言葉でツッコむなり、魔王らしい別のバリエーションを用意してこいよ!
俺が必死にワンパターンツッコミにキレ散らかしていると、食卓の隅でずっとお茶を飲んでいた妹紅が、ガタガタと両肩を震わせながら、おそろしくガチのトーンで遠い目をしながら呟いた。
「ピカ○ュウが、なにをしたって言うんだ……!」
そっちかよ!!!
妹紅の心配のベクトルが、ルクスのワンパターンさじゃなくて、俺の言った「黄色い電気ネズミの命の危機」の方に完全に向いちゃってんじゃねぇか! さっき朝ご飯の席で「エビとゴキ○リの命の重さ」について哲学的に悩んでいたからって、外の世界のゲームキャラの命まで本気で心配するんじゃないよ!
「ありがとうございました」
俺はもう一度魔理沙たちにお辞儀をし、横を見た。ルクスがお辞儀していない。
「お辞儀しろや!」
俺はまたルクスの頭を掴み頭を下げさせた。もう一回やることになるとは。
『…あざした』
ホントにやる気のないバイトみたいだな。雑すぎだろ。こんなので笑いが獲れるか?
朝一番から不法侵入に脅かされ、心臓に名前を刻んで魂をコネクトした直後に、リビングでやる気ゼロの『よろしゃす』から始まるワンパターン叩きコント。
俺と望月ルクスの、幻想郷に迷い込んでから数日目の朝は、やっぱり昨日以上の特大のグダグダさ(カオス)と共に、幕を閉じるのだった。
読んでいただきありがとうございました!次回はなるべく早く出しますので、お待ちください。




