『東方仙影譚』第二十七話
どうも作者の炙りサーモンです。この作品は東方projectの二次創作です。パロディやメタ発言、作者の勝手な解釈などが含まれます。それでも大丈夫という方は次に進んでください。
「はい、診察というか処置完了」
永琳さんのそのあまりにもあっさりとした一言で、激痛とハートの鎖のダブルパンチで白目を剥きかけていたルクスは、ようやく解放されて床へへなへなと崩れ落ちた。おい永琳さん、散々うちの従者を悶絶させておいてその引き際の早さは何なんだよ。
俺がジト目で月の頭脳を睨みつけていると、永琳さんは白衣のポケットに聴診器をしまいながら、ふっと知的な笑みを浮かべてカルテにペンを走らせた。
「さて、そんなに睨まないで頂戴。今ので、あなたたちの魂は完璧に『修理』完了したわよ」
「修理……? 結局、今ので何が変わったんだ?」
俺がパイプ椅子に座り直して尋ねると、永琳さんは眼鏡の位置を直しながら、重々しいトーンで説明を始めた。
「いい? 今回の処置で、あなたとルクスの魂を綺麗に『分離』させたの。これでもう、十三話の時のような現象は起きなくなるわよ」
「十三話の時の現象……あ」
永琳さんの言葉に、俺はハッとして隣のアカギツネ色の従者を見つめた。
そうだ。十三話の時、俺が霊夢にやられて本気で死にかけていたあの時……俺の命の危機と連動するかのように、隣にいたルクスの体まで、光の粒になって消えかけていたんだ。あの時は魂が油汚れ(封印)のせいで雑に癒着していたから、俺のダメージがそのままルクスにまで伝染してしまっていた。
「そう。今まではあなたの命が尽きれば、ルクスも巻き添えで消滅する状態だったけれど……今の処置で魂の回路を完全に切り離したわ。だから、今後はあなたがどんなに死にかけても、ルクスの身体が消えかけることはないわよ」
永琳さんの解説を聞いて、俺はなるほどと納得した。これで俺が霊夢にボコボコにされてもルクスまで巻き添えを喰らうことはなくなったわけだ。俺自身の耐久力がペラペラなのは相変わらずだけど、相棒の安全が保障されたのは素真(素直)に嬉しい。
/ 俺が胸をなでおろしていると、床にへなへなと倒れ込んでいたルクスが、静かにその170センチオーバーの大きいキメラの姿を立ち上がらせた。
ふさふさのアカギツネの顔に、深緑色のドラゴンの翼と尻尾。肩には深緑色のマントをバサァッと翻し、大きな前足の爪で軍帽のつばを直す。その紅い瞳には、いつもの丸くなった犬っぽさは消え失せ、魔界の王としての格式高い光が宿っていた。
『……ふむ。それでは改めて契約せねばいけぬな』
「ルクス!? 口調がちょっと、元に戻ってねぇか?」
俺が思わずパイプ椅子の上で身構える。目の前の大きなキメラは、まるで19話で天界へカチコミをかけていた頃のような、おそろしく威厳のある本格的な魔王トーンで、俺を静かに見下ろしてきた。
『我輩とお主の魂は離された。悪魔に名付けをする為には、正式な「契約」が必要だ。ついさっきまではお主の魂と我輩の魂が雑に繋がっていた為、契約と似たような解釈だったのだろうな』
「で、その契約ってのはどーやるの?」
俺がパイプ椅子に座ったまま尋ねると、ルクスは軍帽のつばを深く被り直した。アカギツネの顔にある紅い瞳が、診察室の怪しい照明を反射して妖しくギラリと輝く。
『悪魔との正式な契約とは本来、どちらかが支配者になるものではない。我輩がお主をマスターと認め、お主が我輩に「望月」というファミリーネームを分け合う……。上下関係ではない。同じ名を背負う対等の存在として、互いの魂が宿る「心臓」や「脳」へ直接、互いの名を刻み込み、コネクトさせる。それが、正式な契約の全容なのだ』
「ファミリーネームの共有……。俺の苗字を、お前と分け合うってことか」
俺はパイプ椅子に座ったまま、うーんと天井を見上げた。戦国武将や忍者の家系にもあって、外の世界じゃ普通によくいる、俺のあの苗字。
「望月、って普通にいる……よね?」
『望月……。良い響きだ。我輩の心臓に刻むに相応しい、気高き名なのだ』
ルクスは大きなキメラの顔を少しだけ和らげ、俺の苗字を愛おしそうに、だけど強い覚悟を込めて静かに呟いた。
「ルクスは、普通に『ルクス』だけでいいの?」
『あぁ。お主がくれたその名こそが、我輩の真名と並ぶ、魂の識別コードだからな』
「で、名前を呼ぶだけでいいの?」
『いいや、仙。こっちに来い』
「え?」
ルクスに手招きされ、俺はパイプ椅子から立ち上がって奴の目の前へと歩み寄った。デカいモフモフのキメラが、深緑色のマントを揺らしながら、俺の目線に合わせてその大きな上体をゆっくりと屈めていく。
『魂は心臓か脳に宿る。いや、どっちにも宿っている、という方が近いか。額を合わせるのだ』
「こう?」
俺は少し背伸びをして、ルクスのアカギツネ色のふさふさなおでこに、自分の額をコツンと正面から重ね合わせた。ルクスのおでこは毛並みがふかふかしていて、どこか温かい。
『あぁ。そしてそのまま互いの魔力を流すのだ』
「魔力?」
『イメージでいいのだ。魔力を扱うのはイメージだけでいいからな。熱が全身に巡り、我輩の体に移動するイメージを持て』
なるほど、イメージか。俺は目を閉じ、自分の体格の内側に眠るエネルギーを意識した。じわじわとした熱い塊が、心臓から脳へ、そして額を通じて、目の前の大きな相棒の身体へと真っ直ぐに流れ込んでいく様子を思い描く。
「OKできた」
『早いな』
額を合わせたままのルクスが、軍帽の下から紅い瞳を丸くして本気で驚いたような声を漏らした。だが、奴はすぐに表情を引き締めると、魂の最深部を震わせるような厳かな声で告げた。
『名前を同時に言うのだ。お前は「俺の名前は望月仙。俺の名前をサタン、又の名をルクスに託す」と言え』
「おう、名付けのときは?」
『又の名をルクスのところで名付け完了だ。行くぞ』
二人の魔力が額を通じて完全に混ざり合い、診察室の空気が激しく明滅し始める。俺とルクスは同時に息を吸い込み――互いの心臓と脳へ、その名を直接叩き込んだ。
「おう、俺の名前は望月仙。俺の名前をサタン、又の名をルクスに託す」
『我輩の名はサタン。我輩の名を望月仙に託し、望月仙から名を授かり、その名を受け入れる』
キィィィィン!!! と、耳鳴りのような美しい魔力収束音が鳴り響き、俺の左耳のピアスが、 そして二人の心臓が、まるで新しい命を得たかのようにトクンと熱く脈打った。
魂のネットワークが完全に対等な相棒として結合し、承認された。望月仙と、望月ルクス。その名前が、お互いの存在の証明として、魂のキャンバスに消えない刻印となったのだ。
俺はおでこを離し、自身の胸に手を当てて、ふぅ、と長い息を吐き出した。
「これでいいの?」
『ああ』
ルクスは大きなキメラの姿のまま、満足そうに軍帽を揺らしてフッと笑った。
……。
……いや。
「シリアス展開なっちゃった」
俺は我に返り、診察室の天井を見上げておもむろに頭を抱えた。
読者の皆様、本当にすみません。タイトルの【シリアス?大違い。】という伏線を、翌話の後半でさっそくガチの格好いいシリアスイベントで自ら全否定してしまいました。
でも大丈夫です、中身はただのグダグダ日常コメディですので(※本日何度目か分からないメタ謝罪)。
こうして、魂を直され、ファミリーネームを分け合う本当の相棒となった俺たちの、幻想郷に迷い込んでから数日目の朝は、おそろしくスタイリッシュな契約の完了と共に、幕を閉じる(?)のだった。
読んでいただきありがとうございました!次回はなるべく早く出しますので、お待ちください




