『東方仙影譚』第二十六話
どうも作者の炙りサーモンです。この作品は東方projectの二次創作です。パロディやメタ発言、作者の勝手な解釈などが含まれます。それでも大丈夫という方は次に進んでください。
「はぁ……。もういいから、冷めないうちに早く朝ご飯食べなさいよ……」
優曇華の母親のような呆れ顔での強制終了が響き、俺たちはようやく、カオス極まりない朝食の時間を終えた。
外の世界のモラルやらゲテモノ昆虫食の闇やらで頭はいっぱいだが、優曇華の作ってくれた飯は五臓六腑に染み渡る美味さだった。ごちそうさまでした。
ふぅ、と一息ついてお茶をすすろうとした、まさにその瞬間だった。
ガシッ。
背後から、まるでおそるべき捕食者にロックオンされたかのような、冷ややかで強固な手つきで俺の肩が掴まれた。
「よし、診察」
耳元で囁かれたのは、座薬兎の師匠であり、月の頭脳でもある八意永琳さんの、有無を言わせぬお医者様の声だった。
あ、やべぇ。忘れてた。昨日、博麗神社でもらい事故を起こした俺の魂のアンテナだの、左耳の外れないピアスだの、これからガチの精密検査(という名のゲテモノ実験)をやるって言われてたんだった。
「うわーたーすーけーてー」
襟首を掴まれてズルズルとリビングから引きずり出されそうになりながら、俺は食卓に残された魔理沙や妹紅、そして我が自慢の従者に向かって、全力で気の抜けた救難信号(SOS)をあげた。誰か! 宿敵同士で5対1のぼっち席をやってる場合じゃねぇ! 主人公が怪しいマッドサイエンティストの部屋へ連行されようとしてるんだぞ!
すると、軍帽を被った大きい姿のルクスが、深緑色のマントを翻して大真面目に胸に手を当て、低く澄んだ声のまま静かに言い放った。
『主よ、骨は拾います』
「え? 俺死ぬの!?」
おいルクス!!! そこは魔界の軍を率いていた圧倒的な魔力で永琳さんを止めるか、せめて「主をお離しください!」って格好よく助けに入るところだろ! なんで診察室に入る前から俺が死ぬこと前提で、おそろしく不吉で未練のない忠誠心を誓ってんだよ!
俺の悲痛な叫びも虚しく、引きずられたままバァン!! と診察室の引き戸が閉められた。
頼みの綱のルクスも、なぜか付き添いの保護者みたいな顔をして、軍帽を被ったまま神妙な面持ちで俺の隣に並んで直立している。お前も諦めて中に入ってくるんじゃねぇよ。
白衣を翻して医者用の椅子に腰掛けた永琳さんは、カルテをトントンと机に整えると、おもむろに引き出しからおそろしく太くて黒いチューブのような「怪しい機械」を取り出し、不敵に微笑んだ。
「よし、じゃあまずは胃カメラしよう」
「普通三十五歳からじゃなかったっけ!?」
俺はパイプ椅子からガタバシッと立ち上がり、光の速さでツッコミを叩き込んだ。おい永琳さん! 胃カメラって、外の世界じゃ普通は健康診断とか人間ドックで、四十代とか、若くても三十五歳を過ぎたあたりのおじさんおばさんが涙目になりながら飲むやつだろ!
何で俺みたいなのが、朝ご飯を食べ終えた直後の寝起き一発目にそんなハードすぎる内視鏡検査を喰らわなきゃいけないんだよ! 喉が死んじゃうわ!
だが、そんな俺の必死の抗議に対し、八意永琳さんは首を傾げて実にあっさりと呟いた。
「わかんない」
「おい? 月の頭脳? おい?」
俺はガチの恐怖で冷や汗を流しながら、思わず目の前の賢者の肩を掴んで前後にガクガクと揺さぶりたくなった。わかんないって何だよ! お前、億単位の年月を生きてる月の最高頭脳の一角だろ! なんで外の世界の胃カメラの推奨年齢だけ急にガバガバの有識者(仮)になってんだよ!
すると、永琳さんは俺のパニックっぷりがよっぽど面白かったのか、クスッと上品に笑って機械を片付けた。
「冗談ですよ、胃カメラなんてしません」
「冗談にも程がある!!!」
俺はパイプ椅子にどさりと座り直し、思いっきり胸をなでおろしながら叫んだ。心臓が止まるかと思った。俺のメンタルを、そんなリアルな医療ホラーで弄るんじゃない。
すると、永琳さんは楽しげにクスッと笑ったあと、今度は引き出しから、全体が怪しくエメラルドグリーンに発光している特製の「聴診器」を取り出した。
「ふふ、じゃあ今度こそ本題の診察よ。その左耳のピアス――ルクスの魂の核と結びついた『魂のアンテナ』の周波数を調べるわ」
「周波数……? 聴診器でそんなもん調べられんの?」
「ええ。この聴診器はね、アンテナの魔力を逆探知して、繋がっている相棒の『魂の本音の周波数』をリアルタイムで音声化できるのよ。ちょっとじっとしていてね」
永琳さんはそう言うと、聴診器の片方のあて布を俺の左耳のピアスにそっと押し当て、もう片方のコードの先を、隣で直立不動のまま軍帽を被っているルクスの胸元へと真っ直ぐに突き立てた。
『……っ!? 賢者殿、いきなり我輩の胸に何を――』
「はい、音量を最大まで上げるわよ」
永琳さんが聴診器の横のネジをカチカチと回した、その瞬間だった。エメラルドグリーンに光るコードを通じて、診察室のスピーカーから、まるで地獄の底から響くような地鳴りのごとき「ルクスの魂の声」が、尋常じゃない重低音で爆音ブレイクした。
『アァ!? 痛ってぇじゃねぇか! 賢者殿、我輩の魂を主から引き剥がそうとすんじゃねぇよ!』
「うおっ、急にめちゃくちゃガラ悪くなったな!?」
俺はスピーカーの爆音に耳を塞ぎながら、思わずパイプ椅子から飛びのいた。いつもの「あ、はい」とか言っている素直な従者の面影はどこへやら、十九話で天界にカチコミをかけていた頃の、本物の憤怒の魔王サタンの荒々しい口調が完全に復活していやがった。
「あら、ピアスにこびりついたミカエルの封印(油汚れ)をこの聴診器の音波で削り落とそうとしたんだけど……ルクスの魂のコアに直接干渉しすぎて、防衛本能がガチで反発を始めちゃったわね。よし、もっと出力を上げるわよ」
マッドサイエンティスト八意永琳は、フッと不敵な笑みを浮かべると、装置のツマミを容赦なく限界までグイッと回した。ジジジジジ!!! と、俺の左耳のピアスから凄まじい火花が散り、隣に立つイケメン軍人姿のルクスの全身が、激しい拒絶反応でビリビリと震え始める。
『グッ……! おのれ、我輩のコアに直接響く不快な音波だぞ! 魂がすり潰されそうな激痛なのだ! 止めろゴルァ!!! 診察室ごと粉砕してやるからな!!!』
スピーカーの向こうのサタンは、激痛のあまり19話のあの荒々しい魔王の口調に完全先祖返りし、凄まじい咆哮を上げながら暴れ始めた。ルクスの全身から溢れ出た深緑色の圧倒的な魔力が、診察室の壁や床をバチバチと破壊し始める。ただただ純粋に「痛すぎてブチギレている元・憤怒の魔王」が、目の前の永琳さんを本気で消し飛ばそうと、その巨大な前足を明確な攻撃の意思(故意)と共に振り上げた。
――その、殺意を滾らせた瞬間だった。ドクン……! と、俺の左耳のピアスが、まるで心臓のように不気味に脈打った。
『ガッ……!? ぁ、動か……ぬ……!?』
振り上げられたルクスの前足が、永琳さんの鼻先数センチのところでピキリと完全に凝固した。それどころか、奴の全身を縛り付けるように、淡いピンク色の「ハート型の光の鎖」が虚空から何重にも飛び出し、元・魔王の巨体をこれでもかとガチガチにロックしていく。
「あ、これ……ミカエルのハートの封印か!」
俺はハッとして叫んだ。そうだ、十四話目で霊夢に向かって力を放った時は、俺が霊夢にガチで殺されかけていたから、とにかく俺を助けるために、霊夢を引き離す目的だけで必死に力を使ったんだ。あの時は誰かを傷つけるための『殺意(故意)』じゃなくて、純粋な『主のための防衛行動』だったから、封印は発動しなかった。
だけど今、ルクスは激痛のあまり「診察室ごと粉砕する」という、明確に永琳さんたちを殺しかねないガチの攻撃の意思を持ってしまった。だからこそ、ミカエルの奴が施したあの雑な封印が、最悪のタイミングで強制セーフティとして作動しやがったのだ。
『おの、れ……っ! 激痛の、上に……身動きすら、取らせぬ, というのか……! なんという、鬼畜な、天使なのだ……!』
ルクスは大きい姿のまま、全身をピンクのハートの鎖でギリギリと締め上げられ、激痛と拘束のダブルパンチで完全に白目を剥いてプルプルと震えていた。
「いや、自業自得だけど絵面がめちゃくちゃ可哀想なんだけど!? 永琳さん早くその怪しい聴診器外してあげて!!」
俺が本気で大慌てで叫ぶ中、永琳さんはそんなルクスの暴走も、ハートの鎖による強制フリーズも、最初からすべて計算通りだったかのように冷徹な手つきで作業を続けていた。
そして、プルプル震えるルクスの胸から、何事もなかったかのようにパッと聴診器のコードを引き抜く。
「はい、診察というか処置完了」
『……へ?』
次の瞬間、ルクスの体を縛り付けていたハートの鎖がシュンと霧のように消え失せ、散っていた火花もピタッと収まった。
あまりのあっさりとした幕引きに、白目を剥きかけていたルクスは、大きい姿のまま「あ、はい」と言わんばかりの間の抜けた顔でポカンと固まっている。
おい永琳さん、今ので終わりかよ! 散々ルクスを激痛で悶絶させて魔王化させて、挙句の果てにミカエルのトラップでガチガチに縛り上げておいて、「はい完了」の一言で片付けるな!
激痛と拘束でボロボロになった我が自慢の従者と、相変わらずマイペースな月の頭脳。
俺の幻想郷での数日目の朝は、やっぱり昨日以上の特大のグダグダさ(カオス)と共に、ようやく最初の「医学的処置」を終えるのだった。
読んでいただきありがとうございました!次回はなるべく早く出しますので、お待ちください




