『東方仙影譚』第二十五話
どうも作者の炙りサーモンです。この作品は東方projectの二次創作です。パロディやメタ発言、作者の勝手な解釈などが含まれます。それでも大丈夫という方は次に進んでください。
「サヨナラ」
天井に張り付いて脱臼した妹紅が、ルクスの虫ボケを見た瞬間に一番まともな常識人の顔をして部屋を出ていこうとしていった。
おい待て。俺をこのモゾモゾ蠢く謎の虫と、大きいキメラ姿の従者の二人きりにするんじゃない。俺はルクスの大きな前足を優しく押し返し、本日何度目か分からない大きなため息をついた。
「いいかルクス。我輩とか主とか軍服とか格好いい設定はいっぱい増えたけど、主人は虫を食べない。これ、外の世界の絶対的なルールな」
『バ、バウ……』
ルクスは大きなキメラの顔をこれ以上ないほどショックそうに歪め、軍帽を揺らしながら深緑色の尻尾を力なく垂れ下げた。そんなに落ち込むなよ、気持ちだけは受け取っておくからさ。
「あー、もうお腹と背中がくっつきそうだ。おいルクス、いい加減リビングに行って何かまともな飯を食おう」
俺は痛む太ももの裏を引きずりながら立ち上がり、大きなルクスを連れて空き部屋を出た。
廊下を渡ってリビングの引き戸を開けると――そこには、お盆の上にホカホカの白米、湯気の立つお味噌汁、 そして香ばしい焼き魚をテキパキと並べている鈴仙・優曇華院・イナバの姿があった。
「あ、仙さん。ちょうど良かった、今朝ご飯ができたところです。魔理沙たちももう席についてますよ」
優曇華のその言葉と、目の前の『100%まともで安全な日本食』のビジュアルに、俺の魂は激しい感動に震えた。モゾモゾ動いてない。禍々しい色もしてない。これだよ、これこそが俺の求めていた本物の朝ご飯だ!
「おう、優曇華。ありがとな、マジで美味そうだぜ」
俺が涙目で食卓の椅子に座ると、すでに箸を持ってニヤニヤしていた霧雨魔理沙が、おもむろに優曇華の顔を覗き込んで、とんでもない爆弾を投下した。
「おい優曇華、知ってるか? エビとゴキ○リって、実は同じ成分なんだってさ」
「朝ご飯の席で一番言っちゃいけない雑学をやめろ!!!」
俺はホカホカの白米を口に運ぶ直前で静止し、光の速さでツッコミを叩き込んだ。おい魔理沙! これから香ばしい焼き魚を食べようって時に、外の世界のネットに転がってる一番最悪なトリビアをドヤ顔で披露すんな! 食欲が秒速で減退しただろ!
すると、さっき「サヨナラ」と部屋を出ていったはずの妹紅が、いつの間にか食卓の隅にちゃっかり座り、湯呑みをすすりながらガチのトーンで呟いた。
「なのになんで、命の重さは違うんだろう?」
深いのか浅いのか分からない、妙に哲学的な疑問を被せてくるんじゃない。お前、さっき二十二話の朝一番で、俺のことをガチのゴキ○リを見るような目で睨みつけてきた目の前のお姫様(輝夜)への当てつけで言ってるだろ! 命の重さの前に、この食卓の空気の重さをどうにかしてくれ!
「はぁ……。あんたたち、朝から相変わらずグダグダね。私は博麗神社からここに来るまでの道中、道草食い過ぎてお腹いっぱいだわ」
さらに、いつの間にか自然に食卓の特等席でお茶を飲んでいた博麗霊夢が、やれやれと呆れたように大きなため息をついた。
「お前、本当の意味で道草を食ってたのかよ!!!」
俺は思わず頭を抱えた。お前、本気で道端の草をもしゃもしゃ食いながらここまで歩いてきてたのかよ! 巫女の野生児っぷりが突破してるだろ!
俺が思わず頭を抱えていると、それまで優雅にお箸を持っていた輝夜が、おもむろに霊夢の方をスンッとした真顔で睨みつけた。
「お前は呼んでない、霊夢帰れ」
「はーい」
博麗の巫女は湯呑みを置くと、一ミリの躊躇もなく、本当に帰るためだけにここへ来たかのような光の速さでリビングから出ていった。引き際が潔すぎるだろ。
嵐のように去っていった霊夢を見送った後、俺は気を取り直して、さっきの魔理沙たちの「エビとゴキ○リの命の重さ」という最悪な雑談に、おもむろに箸を動かしながら乗っかることにした。
「……。俺ヴィーガンだから、命の重さの違いわかんねーや」
「食ってんやん! 肉!」
妹紅が、俺の茶碗の横にある皿をビシッと指差して、間髪入れずに鋭いツッコミを叩き込んできた。
「肉を食うタイプのヴィーガン!」
「じゃ私は野菜を食べるタイプのベジタリアンですぅ〜」
妹紅はポケットに手を入れたまま、おそろしく小馬鹿にしたようなローテンションな声で、ガッツリと煽り口調のカウンターを被せてきた。おい妹紅! ベジタリアンは普通に野菜を食べる人種だから、お前のその言い回しは1ミリも間違ってないし、何の矛盾も発生してないんだよ! 煽りスキルが高すぎて逆に正論になってるじゃねぇか!
「おいおい仙、肉を食うヴィーガンなんて、外の世界じゃただの『食いしん坊な一般人』って呼ぶんだぜ?」
魔理沙がくすくす笑いながら、焼き魚の身を器用に箸でほぐして口に運ぶ。うるさいな! カタカナの専門用語を使えば、このゴキ○リ雑学の気まずい空気をスタイリッシュに誤魔化せると思ったんだよ!
「主、我輩も肉を食うタイプのびーがんであります!」
後ろで大きい姿(従者)のまま直立していたルクスが、深緑色のマントを揺らしながら大真面目に胸を張って便乗してきた。お前はただの肉食の悪魔だろ、主人の苦しい言い訳をそんな純粋な紅い瞳でサポートするんじゃない。お前が言うとガチで生きた人間とか出荷されそうな不穏な空気(憤怒)になるんだよ。
「つーか、成分は同じでも清潔さが違うんだよ。食えるタイプのゴキ○リいるし」
俺がエビを全力で擁護するために、外の世界のこれまた知らなくていいゲテモノ知識を追加でぶっ放すと、食卓が一瞬にして凍りついた。
「知りたくなかった」
妹紅が、焼き魚を持った手の動きをピタッと止め、本気で嫌そうな引いた顔で呟いた。普段どんなゲテモノ(?)を炭化させて食べてるか分からない不死身の少女にここまで言わせるなんて、外の世界の昆虫食文化の闇は深い。
「今度食べてみようかな?」
すると、隣にいたニートのお姫様が、紅い瞳をキラキラと輝かせながらとんでもない狂気を口にした。
「普通のは食えないからね!?」
俺はガバッと身を乗り出し、ガチトーンで輝夜の手を掴んで引き止めた。おいお姫様! 永遠亭の庭を這い回ってる野生のやつを捕まえてそのまま口に放り込もうとするな! 永琳さんに変な薬を作らせる原因を朝から増やすんじゃないよ!
――そんな怒涛のゲテモノ大喜利が一段落したその瞬間、ふと箸を止めた妹紅が、テーブル席の異様な景色に気づいたようにボソッと呟いた。
「席の比率おかしくね?」
……あ。
言われてみれば、このテーブル席の座り方が完全におかしかった。
俺、ルクス、魔理沙、輝夜、そして給仕を終えた優曇華。
なぜかこちらの片側のベンチシートには五人がギュウギュウに押し込められて肩を寄せ合っているのに対し、向かい側の席には、妹紅がたった一人だけで贅沢に座っていた。五対一。
宿敵である輝夜との物理的な距離を取りたかっただけなのかもしれないが、朝食の食卓でここまで明確な『ぼっち席』を自ら演出している奴を見るのは初めてだった。絵面が完全にいじめられっ子のそれなんだよ。
「はぁ……。もういいから、冷めないうちに早く朝ご飯食べてくださいよ……」
最後は優曇華が完全に永遠亭のお母さんのような呆れ顔で全員のボケを強制終了させた。
朝一番から不法侵入に脅かされ、人間化の特訓で自爆し、挙句の果てには食卓で最悪な雑学や矛盾だらけのヴィーガン論争。俺とルクスの幻想郷での数日目は、やっぱり昨日以上の特大のグダグダさ(カオス)と共に、賑やかな朝食の時間を迎えるのだった。
読んでいただきありがとうございました!次回はなるべく早く出しますので、お待ちください。




