『東方仙影譚』第二十四話
どうも作者の炙りサーモンです。この作品は東方projectの二次創作です。パロディやメタ発言、作者の勝手な解釈などが含まれます。それでも大丈夫という方は次に進んでください。
『主、体堅いんですね』
大きいキメラの姿から完璧な人間へと変化したルクスは、冷え切った死んだ魚のような目で、太も本の裏の筋肉を違えて床に這いつくばっている俺を真上からジッと見下ろした。
おい、その暗いオレンジ色の髪に紅い瞳の完璧なイケメン軍人の顔でゴミを見るような目を向けるな、破壊力が尋常じゃないだろ!
俺が涙目で畳の上で悶絶していると、その時だった。
――バガァァァン!!!!
空き部屋の薄い引き戸が、凄まじい勢いで蹴破られた。
「仙! 敵襲か!? なんだ今の『ゔ、ぶぐっ……』っていう不穏すぎるデカい声は!」
箒を武器のように構えた霧雨魔理沙を筆頭に、正座していたはずの輝夜、側で気配を消していたはずの妹紅が一斉に部屋の中へと雪崩込んできた。どうやら俺が自爆した時の怪しい絶叫が、リビングまで筒抜けだったらしい。
だが、部屋に飛び込んできた魔理沙たちは、床に転がっている俺のことなど1ミリも視界に入っていなかった。
彼女たちの視線は、部屋の中心に深緑色のマントを羽織って堂々と直立している、見知らぬ超イケメン軍人へと一斉に釘付けになった。
「……」
「……」
一瞬にして、空き部屋の中に奇妙な沈黙が流れる。
すると、腕を組んだままの妹紅が、その完璧なイケメンの顔をジロッと睨みつけ、実におそろしく冷めきった声で言い放った。
「誰!?」
ガチトーンの拒絶だった。
顔も体も完璧に人間化してしまっているせいか、昨日まであんなに同情してくれていた妹紅ですら、目の前のイケメンを不審者扱いしている。
すると、深緑色のマントを羽織った完璧なイケメン軍人は、軍帽のつばを指先で少しだけ持ち上げると、いつもの低くて澄んだ声のまま、実にあっさりと答えた。
『あぁ、すまんな。我輩だ』
ボンッ!!!
ルクスが気合を入れ直すと、小気味良い煙が部屋の中に立ち込める。
人間の姿だから伝わらなかったのだと察した奴は、身分を証明するかのように、一瞬にして元の『十四話目のあの大きいキメラの姿』へと戻ってみせた。
煙が晴れた中心に立っていたのは、暗いオレンジ色の髪のイケメンではなく、ふさふさのアカギツネの顔に、深緑色のドラゴンの翼と尻尾が生えた、巨大なキメラの姿。頭には軍帽、肩には深緑のマントを羽織った、いつもの頼もしいルクスだ。
「イケメンだったなぁ」
輝夜が、さっきまで一瞬だけ見えていた「完璧な人間の姿」を思い返し、なんともしみじみとした、心底名残惜しそうなトーンで呟いた。お姫様、あのアカギツネの顔に戻る直前のビジュアルが相当お気に召していたらしい。
「ウソダ……アリエナイ……」
一方で、妹紅はガタガタと両肩を震わせながら、まるで世界の終わりを目撃したかのような顔で絶望していた。
目の前のデカいモフモフのキメラが、さっきまで目の保養レベルの超絶イケメンだったという現実を受け入れられないらしい。オタク特有の解釈違いみたいな拒絶反応を見せるな!
「いやいやいや……」
魔理沙が箒をガシガシと頭に押し付けながら、顔を思いっきり引き攣らせて総ツッコミを叩き込んできた。
「お前、今度は秒速でいつもの大きいキメラ姿に戻るのかよ! なんだその無駄にハイスペックな変身能力は! 設定が急に大渋滞しすぎだろ!!」
魔理沙が箒を頭に押し付けながら絶叫し、妹紅がガタガタと現実逃避の震えを刻む中、部屋の空気は完全にルクスのギャップに支配されていた。
だが、そんなカオスな大騒ぎの最中、俺は未だに畳の上で太ももの裏を押さえたまま、おもむろにぐゥゥ~……とお腹を鳴らし、死んだ魚のような目でぽつりと呟いた。
「腹減った」
これ以上ないほどの、緊張感の欠片もない直球な空腹宣言だった。
朝一番から不法侵入女子たちにビビらされ、自分の体の堅さで自爆し、もうツッコミを入れるだけのエネルギーが完全に底を突いてしまったのだ。
すると、大きいキメラの姿に戻った俺の自慢の従者――ルクスは、アカギツネの大きな耳をピョコッと立て、深緑色の大きな前足の爪をそっと俺の前に差し出してきた。
『主、コレ喰います?』
「あぁ!?」
俺は光の速さで上半身をのけぞらせ、ガチのトーンでドン引きの悲鳴をあげた。
ルクスが「ほい」とばかりに誇らしげに差し出してきたその大きな爪の間には、どこかの庭で捕まえてきたのか、あるいは魔界から持ってきたのか、おそろしく禍々しい色をした謎の生きた「虫」が、モゾモゾと元気よく蠢いていた。
おいルクス! お前、完璧な人間化をマスターして魔界の総司令官だったとかいう超格好いい設定が生えた直後に、主人への恩返しとして生きた虫をプレゼントする本物の野良猫みたいなポンコツに戻るんじゃねぇよ!
そんな俺たちの、朝からグロ動画一歩手前の主従のやり取りを特等席で見せつけられた妹紅は、一瞬にして解釈違いの絶望からスンッと真顔に戻ると、ポケットに手を突っ込んだまま冷ややかに言い放った。
「サヨナラ」
妹紅はそれだけ言うと、一ミリの躊躇もなく、踵を返して空き部屋の引き戸の向こうへとトボトボと去っていった。
あ、待ってもこたん! 置いてかないでくれ!
天井に張り付いて脱臼したお前が一番無茶苦茶だったくせに、ルクスが虫を出した瞬間だけ、一番まともな常識人みたいな顔してフェードアウトしていくんじゃねぇよ!
去っていく妹紅の背中を見送りながら、俺はルクスの差し出すモゾモゾ動く爪の間を見つめ、本日何度目か分からない大きなため息を永遠亭の和室の中に響かせるのだった。
読んでいただきありがとうございました!次回はなるべく早く出しますので、お待ちください




