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『東方仙影譚』第二十三話

どうも作者の炙りサーモンです。この作品は東方projectの二次創作です。パロディやメタ発言、作者の勝手な解釈などが含まれます。それでも大丈夫という方は次に進んでください。

「……あーあ。そういやルクス、どこ行った?」

 俺は自分の影を見つめ、それから誰もいない部屋の隅々を見渡した。

 昨日の夜、俺の布団のすぐ横で、大きい姿のまま軍帽を被って静かに眠りについたはずの、俺の自慢の従者。その姿が、朝起きたらどこにも見当たらなかった。

「おい、まさか朝一番からまた永琳さんのゲテモノ実験(精密検査)に連行されたんじゃねぇだろうな……」

 嫌な予感が頭をよぎった俺は、大慌てで部屋の引き戸を開け、廊下へと飛び出した。

 永遠亭の広い廊下をドタバタと走り回り、リビングや診察室を探してみるが、どこにも相棒の気配はない。

 万事休すか――そう思った時、廊下の突き当たりにある、普段は使われていない空き部屋の奥から、聞き覚えのある低くて澄んだうなり声が漏れ聞こえてきた。

『うぅぅむ……! 人間とは、確かこのような構造だったはず……! 変われ、我輩の肉体よ……!』

(ルクスだ!)

 間違いない。空き部屋の中で、俺の従者が何やら必死に気合を入れている。

 俺はホッと胸を撫で下ろしつつ、一体朝っぱらから何をしているんだと、部屋の引き戸をそっと数センチだけ開けて中を覗き込んだ。

 和室の中心で、ルクスが頭の軍帽をぎゅっと抑えながら、全身から凄まじい深緑色の魔力を放っている。

 次の瞬間、ボンッ!!! という、どこかの忍者の術のような小気味良い煙が部屋中に立ち込めた。

『はぁ、はぁ……。どうですか、あるじ。今度は上手くいきましたか……?』

 煙が晴れた中心に立っていたのは、いつものアカギツネの顔ではなく、俺とは違う『ルクス自身の人間としての姿』をした、驚くほど端正な顔立ちの男の姿だった。

 顔も、体も、手足の形も、どこからどう見ても完全なる人間。おお、すげぇ! ルクス、本当の人間に化けられてるじゃないか!

 ――と、感動したのも束の間。俺は男の姿になったルクスの頭上に目を留め、思わずスンッとした真顔に戻った。

「ルクス。お前、頭からアカギツネ色の耳がめちゃくちゃピョコピョコ跳ねてるぞ」

『……っ! またですか!?』

 そう、奴の人間変化は、顔や体などのその他は完璧なのだが、毎回なぜか尻尾か翼か耳のどれか一つだけが、どうしても残ってしまうという致命的なポンコツ仕様だったのだ。

 今回は、完璧なイケメンの頭の上に、軍帽を突き破る勢いでふさふさのキツネ耳が二本、情けなく垂れ下がっていた。ルクスは自身の頭に手を当てて、アカギツネ色の耳をシュンと寝かせながら本気で悔しそうに顔をしかめた。

 

 だが、俺はそんなポンコツな耳の可愛さよりも、人間化した奴が身に纏っている「その服装」の圧倒的な格好良さに、すっかり目を奪われていた。

「……。ルクス、あとさ。軍人が着るような、服なんだな。マントカッコいいな」

 頭の軍帽に合わせるかのように、人間化したルクスが着ていたのは、黒と深緑を基調とした、どこかの国の将校が着るような仕立ての良い、気品溢れる軍服だった。さらにその肩からは、風もないのに静かに揺れる、大きな黒いマントが羽織られている。

 その人間の姿は、アカギツネとしての毛並みを思わせる、どこか気品のある暗いオレンジ色の髪。そして、サタンとしての誇りと魔力を宿した、妖しくも美しい紅い瞳。

 完璧な顔立ちに、軍服、そして深緑のマント。頭からキツネ耳が生えていることを除けば、外の世界のラノベの表紙を余裕で飾れるレベルの、恐ろしいほどのイケメン軍人姿だった。

「なぁルクス。その姿、めちゃくちゃ似合ってるぜ。髪の色も、その紅い目も、ガチの軍人さんみたいで最高に格好いいぞ」

 俺が素直な感想を伝えると、ルクスは暗いオレンジ色の前髪を揺らしながら、紅い瞳を丸くして、それから一気に顔を真っ赤にさせた。

『あ、主……! 滅多なことを言わないでください、我輩とて恥ずかしさという概念くらいはあります……!』

 耳をパタパタと激しく動かしながら照れる元・魔王。どうやら内面は、俺の影に棲んでいる今の丸くなったルクスのままらしい。

 俺の純粋な褒め言葉に対して、ルクスはマントの端を少しだけ手で整えながら、どこか遠い目をしながら語った。

『まぁ、魔界では悪魔軍を動かす役目でしたからね。天界へカチコミをかける際も、一応は我輩が総司令官として、モチベーションの死ぬほど低い同僚たちを強制連行して全軍を指揮していたのですよ』

 十九話で語られたあのグダグダな戦争の裏には、こいつが軍服を着て必死に指揮を執っていたという、涙ぐましい中間管理職の歴史があったらしい。だが、その事実を理解した瞬間、俺の口からは驚きの声が漏れ出た。

「めっちゃ重要やん」

『は、はい。一応は七大悪魔の憤怒の王ですので……』

 普段は俺のために犬みたいに「バウッ!」「WAON!」とか鳴いてボールを追いかけているからすっかり忘れていたが、こいつ、本当は魔界のトップクラスの超重要人物だったんだな。

『くっ、これではまだ主と一緒に人里を歩けませんね。耳がダメなら、次は……!』

 ルクスは照れ隠しをするように、再び軍帽の上から頭をぎゅっと抑え、全身に深緑色の魔力をたぎらせ始めた。

 

 ボンッ!!!

 和室の中に、さっきよりも一回り大きな煙が立ち込める。

 今度こそ、完璧な人間の姿になれたのか――? 煙が薄くなった中心を見ると、ルクスの頭の上からは、今度はきれいにアカギツネ色の耳が消え失せていた。

『お、おお……! 主、頭の感覚がありません! やりました、ついに完璧な人間化に成功したのでは――』

「いやルクス、下、下」

 俺が死んだ魚のような真顔で、ルクスの足元を指差す。

 ルクスが「え?」と紅い瞳を瞬かせながら自分の下半身を見下ろした、その瞬間だった。

 ――ビターン!!!

 仕立ての良い黒いズボンの後ろ、お尻のあたりから、力強く生い茂った深緑色のドラゴンの大きな尻尾が盛大に飛び出しており、勢いよく畳を叩きつけていた。

『なっ……!? なぜ今度は後ろから……!?』

 ルクスは暗いオレンジ色の髪を振り乱しながら、自分の尻尾を掴もうと犬みたいにその場でクルクルと回り始めた。深緑のマントを翻しながら、ズボンを突き破って生えたトゲトゲしいドラゴンの尻尾を必死に追いかけるイケメン軍人。

「……。うん、考えないようにしよう」

 俺はそっと視線を天井へと逸らし、それ以上深く思考することを放棄した。あのズボンの構造がどうなっているのか、あの立派な魔王の尻尾がどうやって布地を貫通しているのか。深く考えたら負けだ。

『ぬぅぅ、耳の次は尻尾ですか……! ならば、さらに魔力の出力を調整して――!』

 諦めの悪い我輩の従者は、ズボンから尻尾をビチビチと震わせながら、三度目の煙を巻き上げようと気合を入れ直した。

 

 ボンッ!!!

 三度目の煙が室内に充満する。俺が煙の向こうを凝視すると、ルクスの足元からはきれいに深緑色の尻尾の影が消えていた。ズボンも無事だ。

『あ、主……! 今度こそ、今度こそ後ろに違和感はありません! 成功、成功でありますか!?』

「ルクス。お前、背中、背中」

 俺はまたしても、死んだ魚のような真顔でルクスの背後を指差した。

 ルクスが「え?」と自分の背中に手を回しよう(回そう)とした、その瞬間。バサァァァッ!!! と、黒マントを派手に押し退けて、左右の肩甲骨のあたりから深緑色のドラゴンの大きな翼がバサバサと元気よく飛び出してきた。

『はぁぁぁぁ!? なぜ今度は背中から羽が生えるのですかぁぁぁ!!!』

 イケメン軍人姿のルクスは、暗いオレンジ色の髪を振り乱しながら、今度は背中の羽をバタバタと羽ばたかせて部屋の中をめちゃくちゃに荒らし始めた。どこかを隠せばどこかが飛び出す。お前は昔のファミコンのバグ画面か何かかよ。

『お、おのれミカエルの封印……! 我輩の魔力のコントロールをここまで狂わせるとは……! ですが、憤怒の王の意地にかけて、完璧な姿になってみせます!!!』

 ルクスはバサバサと翼を震わせながら、涙目で最後の気合を注入した。全身から、これまでで一番濃密な深緑色の魔力オーラが爆発的に吹き荒れる。

 

 ボォォォォォンッ!!!!!

 部屋が丸ごと真っ白になるほどの特大の煙が立ち込めた。ゴホゴホと咳き込みながら俺が目をこらすと、その中心には、静かに直立するルクスの姿があった。

 頭の軍帽の下から、キツネ耳は生えていない。黒いズボンの後ろから、ドラゴンの尻尾は飛び出ていない。そして黒マントの背中からも、深緑色の翼は突き抜けていない。

 暗いオレンジ色の髪を綺麗に整え、紅い瞳をきらりと輝かせた、非の打ち所がない完璧な人間の姿。

『……あ、あれ? 出ていない……? どこからも、我輩の特徴が、出ていないですぞ……!?』

 ルクスは自分の頭やお尻、背中をペタペタと触りながら、信じられないというように紅い瞳を大きく見開いた。四度目の正直。ついに、ポンコツ従者が『完璧な人間化』を成し遂げた瞬間だった。

「おぉ! ルクスいいねぇ! めちゃくちゃ格好いいじゃん!」

 俺は思わずバンバンとルクスの軍服の肩を叩いて絶賛した。本当に映画に出てくる若きエリート将校そのものだ。

「でもさ、これ、外の世界の街を歩くんだったら、逆に別の意味で目立つな。こんな二次元から飛び出してきたようなイケメンが黒マント羽織って歩いてたら、一瞬で警察に職質されるかコスプレ会場に強制連行されるぞ。まぁ、幻想郷なら服が派手な奴ばっかだから大丈夫だろうけど」

『そうですか。外の世界とは、なかなか生きづらい場所なのですね……』

 ルクスは軍帽を直しながら、ほっとしたように、だけど少し複雑そうな顔で『そうですか』と呟いた。とりあえず、これで相棒の失踪事件(ただの自主練)は解決だ。

 ……が、完璧な軍人姿になった相棒を見ていたら、俺の脳内に、外の世界で見たことのある『ある映像』の記憶が急に引っかかった。

「……。ルクス、軍人足上げダンスして」

『なんですそれは?』

 突然の俺の無茶振りに、完璧な人間の顔になったルクスが、綺麗に整った眉をひそめて首を傾げた。ほら、腕を組んだまま尋常じゃない高さまで片足を交互に蹴り上げる、あのキレッキレのダンスがさ。

「こういうふうに片足をッ……!! ――ゔ、ぶぐっ……」

『……』

 俺は腕を組み、「フッ!」と気合を入れて、お手本として自分の片足を前方へ勢いよく蹴り上げようとした――その瞬間、太もものの裏の筋肉がピキィィィィン!!! と音を立てて悲鳴を上げ、俺はそのまま畳の上へ崩れ落ちて悶絶した。

 痛っっっ!!! 昨日の霊夢の攻撃のダメージ(という名のただの運動不足)が、ここでガチの激痛となって襲いかかってきやがった!

「ほ、本当ならさ……この、蹴り上げた足が、地面と平行な直線みたいになるんだけど……っ」

 俺は畳に這いつくばり、涙目で太ももを抑えながら、必死に主人公としてのプライドを保つために言い訳をした。

『主、体堅いんですね』

 大きいイケメンの姿になったルクスは、冷え切った死んだ魚のような目で、床に転がっている俺を真上からジッと見下ろした。その冷ややかな視線とゴミを見るような突っ込みのスタイルは、さっきの天井の妹紅や、隣に正座していた輝夜のそれと、驚くほどそっくりだった。

 

 朝一番から、他人の部屋の天井で脱臼する不法侵入女子たちに怯え、最後は自分の体の堅さで自爆して従者にドン引きされる。俺の幻想郷での二日目の朝は、やっぱり昨日以上の特大のカオスと共に、幕を開けたのだった。

読んでいただきありがとうございました!次回はなるべく早く出しますので、お待ちください。

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