『東方仙影譚』第二十一話
どうも作者の炙りサーモンです。この作品は東方projectの二次創作です。パロディやメタ発言、作者の勝手な解釈などが含まれます。それでも大丈夫という方は次に進んでください。
「絶対に聞いてないわね、この滑舌不良の野蛮人」
永琳さんは眼鏡の位置を直しながら、深く長いため息をついた。
魂のアンテナだのピアスの核だの、これ以上ないほど重要な話をされたはずなのだが、俺としてはもうツッコミ疲れのせいで、脳の容量が完全に限界を迎えていた。
「はぁ……。永琳さん、とりあえず現状の俺の身体にすぐ死ぬような異常がないなら、今日の診察はここまでにしてくれ。頭がパンクする」
「ええ、そうね。また明日しっかり精密検査をするから、今日はもう休みなさい」
永琳さんの許可が出たので、俺は大きい姿のまま軍帽を被って直立しているルクスを連れて、診察室を後にした。
廊下を渡ってリビングに戻ると、そこにはまだ、優曇華をいじり倒して満足したらしい魔理沙と妹紅が我が物顔でくつろいでいた。
すると魔理沙が、俺の隣を歩くルクスの頭上に真っ先に目を留めた。
「なんだ仙! その化け物……じゃなくて従者、さっきまで無かった格好いい帽子を被ってるじゃないか! どこかの軍人みたいだな!」
「本当だね。仙の帽子ともテイストが合っていて、お揃いみたいじゃないか」
妹紅までが、いつものローテンションな声を少し弾ませてルクスの軍帽に興味を示してきた。
そんな二人の視線を受けて、ルクスは軍帽のつばにそっと手を当て、大真面目に胸を張る。
「だろ? 俺の自慢の相棒だからな。……っと、悪いけど俺はもう限界だ。今日は色々ありすぎて疲れたから、もう寝る!」
俺は魔理沙たちの追撃が始まる前にピシッと宣言すると、ルクスを促して、永遠亭に用意してもらっている自分の部屋へと大慌てで引き揚げた。
「おいおい、逃げる足つきだけは一人前だな」という魔理沙の声を背中で聞き流しながら、部屋の引き戸をパタンと閉める。
布団が敷かれた静かな和室。
ようやく訪れた二人だけの空間で、俺は大きく息を吐き出しながら、どさりと布団の上へ倒れ込んだ。
隣を振り返ると、大きい姿に軍帽を被った従者――ルクスが、静かに直立して俺を見守っている。
綺麗なアカギツネ色の毛並みに、背中と腰からは深緑色のドラゴンの翼と尻尾が生えている。
魔界の元・最高位の悪魔。だけど、今のこいつを見てるとなんだかさ……。
「ルクスさ。犬みたいだね」
『そうですか?』
ルクスは軍帽のつばの下から、不思議そうに紅い瞳を瞬かせた。
俺は仰向けになったまま、天井を見上げて苦笑する。
「もっとさ、親しくしてくれよ」
『……』
「犬みたいに擦り寄ってきてもいいのに」
俺が冗談めかしてそう言うと、ルクスは真面目な顔のまま、深緑色の大きな爪を見つめて重々しく口を開いた。
『我輩が主に甘えたら、主の骨を折ってしまいます』
「力強すぎだろ怖……。ま、でも甘えていいんだよ?」
クスッと笑って俺が許可を出すと、ルクスの瞳が嬉しそうに輝いた。
『バウッ!』
大きい姿のまま、ドラゴンの深緑色の羽をパタパタと揺らし、アカギツネ色の尻尾をブンブンと振る。その必死に喜びを表現する姿に、俺の口元は完全に緩みっぱなしだった。
「キツネじゃなくて犬に見えてきた」
『WAON!』
まさかの外の世界の某イ○ングループの電子マネーの犬の鳴き声を響かせる元魔王。おいルクス、お前外の世界のどこでその鳴き声拾ってきたんだよ。決済完了しちゃうだろ。
「あはは、よし。――ボールってどこあったっけ?」
『……?』
ルクスが大きな頭を傾げる中、俺は部屋の隅の荷物をガサゴソと漁った。
「あった! ルクス、とってこーい!」
見つけたゴムボールを、部屋の壁に向かって勢いよく投げる。
『バウッ!』
軍帽を被った大きい姿のまま、ルクスは弾むボールを目で追いかけ、もの凄い勢いで床を蹴って飛び出していった。
ドタバタと畳を揺らしながら見事なジャンピングキャッチを決めた相棒は、すぐに俺の元へと引き返してくる。
『ほい』
大きい姿のまま、両手で大事そうにボールを俺の前に差し出してきた。
「よーしよしよしよし! いい子だねぇ!」
俺は布団から身を起こし、ルクスのキツネの大きな耳の付け根や頭をわしゃわしゃと全力で撫で回した。
ルクスはしばらくの間、嬉しそうに尻尾をブンブンと振っていたが……ふと動きを止め、自分の大きな爪と抱えたボールを交互に見つめて、我に返ったようにぼそりと呟いた。
『……我輩、なにしてるんだろう』
かつて魔界の頂点に君臨し、天界にカチコミをかけた憤怒の王サタンとしての記憶が、一瞬だけ脳裏をよぎったらしい。我に返るな。今のお前は俺の可愛い犬(従者)だ。
「よし寝よう」
『切り替え早い……』
ルクスのセンチメンタルな哀愁を1ミリも気に留めることなく、俺はコロンと布団に潜り込み、一瞬で目を閉じた。
そんな俺の怒涛のスピード感に、ルクスは呆れたようにツッコミを入れつつも、どこか安心したように小さく息を吐き出した。
『おやすみなさい、我が主』
ルクスは静かに部屋の明かりを消すと、大きい姿のまま、俺の布団のすぐ横に静かに腰を下ろして目を閉じた。
声真似ネタをしたり、七大悪魔が次々と襲来したり、本当に波乱万丈でグダグダな一日だったけれど。
この頼もしくて少しポンコツな俺の従者が隣にいてくれるなら、幻想郷での明日も、きっと悪くない。
俺は心地よい疲労感に包まれながら、深い眠りへと落ちていくのだった。
読んでいただきありがとうございました!次回はなるべく早く出しますので、お待ちください。




