『東方仙影譚』第十九話
どうも作者の炙りサーモンです。最近ちょっと長い気がしますが、お赦しください。この作品は東方projectの二次創作です。パロディやメタ発言、作者の勝手な解釈などが含まれます。それでも大丈夫という方は次に進んでください。
結局、博麗神社での誤解は解けたものの、最終的には俺の滑舌の悪さがすべてをかっさらっていった。
霊夢は「早く帰りなさいよ」とでも言いたげな顔でお茶を啜り直している。
「よし、それじゃあ俺たちは永遠亭に帰るわ。……おいルクス、帰るぞ」
『御意に、我が主』
小さなルクスが俺の足元でぴょこんと跳ねる。
こうして俺とルクス、護衛の妹紅は博麗神社を後にした。なぜか「私も暇だし、永遠亭の優曇華にイタズラでもしに行くか」と霧雨魔理沙まで当たり前のように付いてきている。
夕闇の山道を並んで歩きながら、魔理沙がふと思い出したように、箒を小脇に抱えて俺の顔を覗き込んできた。
「なぁ仙。さっき傲慢の魔王ルシファーの奴が言ってたこと、覚えてるか?」
「ルシファー? ああ、『魂に何かこびりついてる』ってやつ? 油汚れみたいな言い方の」
「そうそれだ。あの時は妹紅のツッコミと、あいつのカタカナ棒読みのせいでギャグみたいになってたけどよ……。あのルシファーが言うってことは、ただの油汚れなわけないだろ。お前の魂、マジで何かヤバいことになってるんじゃないか?」
魔理沙の鋭い指摘に、俺は一瞬言葉を詰まらせた。
「……あー。実はさ、ヤバいっていうか、自分でも不思議な現象が起きてるんだよ」
俺は歩みを止め、自分の胸に手を当てた。
十四話目のあの瞬間――俺が霊夢の攻撃を喰らって意識を失っていた時のことだ。
「俺、霊夢にやられて完全に気絶してたはずなんだ。なのに……なぜかルクスが覚醒して、霊夢の『夢想封印』を無傷で耐え切って、俺を小脇に抱えて永遠亭まで全速力で走ってくれたっていう、ルクス目線の状況が頭の中で全部分かってたんだよな」
俺がずっと抱えていた疑問を口にすると、足元にいた小さなルクスが、ゆっくりと俺の前に進み出た。
その紅い瞳には、いつになく真剣で、どこか遠い過去を懐かしむような光が宿っている。
『――主。それについては、我輩が話します。ルシファーが言った「魂のこびりつき」の正体、確してなぜ主が私の視界を共有できていたのか。そのすべての理由は、私たちが外の世界で出会うよりも遥か昔……魔界での出来事に遡るのです』
ルクスの低く澄んだ声が響くと同時に、周囲の夜の山道が、まるで映画のスクリーンが切り替わるようにスーッと闇に溶けていった。
ここからは、ルクスの語る過去の回想シーンだ。
――今から遥か昔、混沌とした魔界の地にて。
『我輩は七大悪魔の中でも一番地位が高かった』
回想の中のルクスは、今の緑色の可愛い姿でも、今の大人しそうな姿でもない。
燃え盛るような『赤色』の巨躯を誇り、世界を恐怖で支配していた本物の憤怒の魔王・サタンそのものの姿だった。
悪魔の頂点に君臨し、絶対的な力を手に入れていたルクス。しかし、その心境は決して満たされたものではなかったという。
『だが、我輩の強靭すぎる鱗のせいで刺激が足りず、退屈していた』
どんな大魔法を喰らおうが、どんな神の武器で殴られようが、ルクスの無敵の鱗はすべてを無傷で弾き返してしまう。
痛みのない世界。敗北のない日々。最強であるがゆえに、ルクスはあまりにも退屈な永遠の時間を過ごしていたのだった。
『だが、七大悪魔は全員、威厳もクソもなかった』
……酷い話だ。
ルクスが重々しい口調で語る魔界の日常は、俺の想像していた「恐るべき地獄の光景」とは180度違っていた。
それは、ある日の魔界でのこと。
「百円拾った」
七大悪魔の首領であり傲慢の王であるはずのルシファーが、地面の泥にまみれた100円玉を掲げて嬉しそうに呟いた。魔王のトップが拾う金額じゃねぇだろ。
「車買えるですわ〜!」
それを見た強欲のマモンが、100円の価値をバグらせながら大はしゃぎしている。100円で車は買えねぇぞ。
「そこのお姉さん! 僕とお茶しない!?」
別の場所では、色欲のアスモデウスが通りすがりの魔界の一般お姉さんをナンパしていた。
「今急いでるんで」
「まあまあそう言わず、なに食べたい?」
しつこく食い下がるアスモデウスに対し、お姉さんは心底ウザそうな顔で、絶対に無理なお題を突きつけた。
「……。富士山」
「ごめん用事が」
日本の最高峰を要求された色欲の魔王は、一瞬で真顔になってスタコラサッサと逃げ出した。お前の色欲はその程度か。
「今日の飯なんだろ」
今日の給食なんだろ、とでも言うようにブブゼルブが呟いている。
「妬ましい……! リア充め……! 一人残らず駆逐してやる……! リア充を……!」
その様子を物陰から見ていた嫉妬のレヴィアタンが、目が血走ったオタクみたいな怨念を滾らせてぶつぶつと呪詛を吐いている。
「一生ニートでいたい」
極めつけは怠惰のベルフェゴールだった。奴は魔王の玉座から一歩も動くことなく、ヨダレを垂らしながら布団にくるまって寝言を言っている。
――威厳、どこ行った?
最強の鱗を持ちながら、周囲のあまりにも締まりのない同僚たちを前に、かつての憤怒の王サタン(ルクス)の退屈とストレスはついに限界を迎えた。燃え盛るような赤色の巨躯を震わせ、サタンは地獄の底から響くような怒号をあげる。
「おい、お前ら……。威厳が足らん! 七大悪魔という自覚が足らん!」
憤怒の王のガチの怒声に、さっきまで100円玉や富士山で盛り上がっていた魔王たちが、一瞬で「……」と静まり返った。
だが、サタンの説教はここからが本番だった。彼はそれぞれの同僚を指差し、キレッキレの正論を叩き込んでいく。
「まずマモン! ルシファーに変な情報を吹き込むな! 100円で車が買えるわけないだろ! そしてルシファー! お前は最高位の王だろうが、100円拾って喜んでないでさっさと魔力を集めに行け!」
サタンの指が、次は物陰のオタク悪魔へと向けられる。
「...そしてレヴィアタン! リア充以外の話をしろ! お前の世界のすべてはリア充への呪いだけで構成されているのか!? アスモデウス! お前の性欲はそんなものか!? 富士山って言われたくらいで即座に諦めるな! あと一般の人間をナンパして誘うな!」
最後に、布団にくるまったままのニート悪魔を容赦なく説教した。
「ベルフェゴール! ニートになるな働け! 魔力集めに行け! このままだとお前、本当にただの魔力切れになって存在が消滅するぞ!…ブブゼルブは…まぁ、いっか」
サタンの鋭いツッコミが響き渡る中、布団の中からベルフェゴールが面倒くさそうに顔を出して、ボソッと不満を漏らした。
「魔力集めに行って欲しいのか、それとも今ここで話を聞いて欲しいのか、どっちかにしろよサタン……」
至極真っ当な反論だった。だが、今日のサタンは引き下がるわけにはいかなかった。さらに声を一段と張り上げて、同僚たちを睨みつける。
「そして、お前ら。――大事な話がある」
サタンが真剣な顔で本題を切り出そうとした、まさにその瞬間だった。
「あ! 僕好みの女の子発見!」
アスモデウスが、サタンの背後の窓の外を指差して目を輝かせた。おい、お前の性欲のアンテナはどれだけ高感度なんだ?
「あ! 金持ってそうな小悪魔発見ですわ〜! 奪ってやるですわ〜!」
便乗するように、マモンまでがギラギラした目を光らせて窓辺へと突撃していく。
――ガシャアァァン!! と、魔王の城の立派な窓ガラスが、二人のボケのせいで派手に叩き割られた。
「話を聞けぇぇぇぇ!!!(憤怒)」
憤怒の王の限界突破した咆哮が、城の天井をビリビリと震わせる。あまりのガチギレっぷりに、窓から飛び出そうとしていたアスモデウスとマモン、そしてルシファーたち全員が、一瞬でその場に正座した。
「「「「「すみませんでした」」」」」
最高位の七大悪魔たちが、まるで担任の先生に怒られた小学生のように声を揃えて謝罪する。完全にサタン(ルクス)が魔界のオカンと化していたのだった。
完全に静まり返った玉座の間で、サタンはようやくコホンと一つ咳払いをし、本来の魔王らしい不敵な笑みを浮かべて本題を切り出した。
「最近刺激が足りないだろう? だから……天界と戦争をすることにした」
天界との戦争。世界を破滅へと導く、憤怒の王にふさわしい超特大スケールの計画だった。この壮大な提案を聞けば、いかに締まりのない同僚たちとはいえ、今度こそ悪魔としての血が騒ぐはず――。
「断固反対!!! 俺の仕事はぐーたらすることだ!」
布団に包まったままのベルフェゴールが、ものすごい勢いで大声をあげて全力の拒絶を叩き込んできた。
「黙れ小僧!」
「白くて大きい犬…」
ベルフェゴールは威圧されるどころか、ジ○リ映画の元ネタを正確に察知して、ボソッとメタすぎるツッコミを被せてくる。
「うるさい! 誰が山犬の娘を育てた巨大な白い犬だ! 劇中の名シーンをこんなクズニート悪魔への説教に消費させるな!」
サタンの怒声が響き渡る中、隣でずっと泥まみれの100円玉を見つめていたルシファーが、深いため息をつきながら立った。
「もう勝手にしてください」
「あぁ、僕好みの女の子がぁ……」
「あぁ、私の金ヅル(金持ってそうな小悪魔)が……」
マモンまで、強奪し損ねた小悪魔への執着をネチネチと引きずっていた。金ヅルって直接言うな、強欲の悪魔としてのオブラートが完全に溶けてるぞ。
天界との最終戦争という一大決戦を前に、やる気ゼロのニート、無関心な首領、ナンパ未練男、あるいはせこい強盗。この世の終わりみたいな覇気のなさに、サタンの怒りの炎が文字通り大爆発した。
「異論は認めぬ! すぐに準備しろ!」
――お前ら全員、強制連行だ!!!
憤怒の王の絶対的な命令によって、魔界の歴史上、最もグダグダで、最もモチベーションの低い『天界への進撃』が決定した。
そのまま、我輩は天界に向かった。
「行くぞ! カチコミじゃああああ!!! (※多分、意味違う)」
世界を揺るがす戦争の始まりの合図が、まさかの極道映画のそれだった。すると、後ろにいたマモンが、親切にも人差し指を立ててメタな解説を挟んでくる。
「カチコミって一方的に攻めまくることですわよ! サタン様!」
「どーでもええわゴルァアアア!!!」
もういちいち突っ込むのも面倒くさくなったサタンは、完全にヤケクソな関西弁のヤンキーと化して、割れた窓ガラスのような声をあげた。
「ねむ」
神聖なる天界の兵士たちが武器を構えて押し寄せてくる最前線だというのに、ベルフェゴールは立ったままいつも通りの二文字を呟いて意識を飛ばしていた。
だが、そんなサタンの前に、天界の軍勢を率いる最高位の大天使が、輝かしい光と共に姿を現した。
「もうしょうがないですね……」
「あぁ!?」
サタンが武器を構えて睨みつけた、その瞬間だった。ミカエルは両手で小さくハートマークを作るような仕草をしながら、実にあざとく言い放った。
「封印♡」
バキバキバキィッ!!! と、サタンの全身に、謎の可愛らしいピンク色の光の鎖が巻き付いた。
「ちょ、ミカエル!?キャラ崩壊してるぞ!?離せ!!!」
どんな最強の攻撃をも弾き返してきたサタンの強靭な鱗が、まさかのハート付きの封印術によって完全に無力化されてしまった。
「封印しましたけど、これだとサタンさんの魔力が強すぎて、すぐに破られちゃいますね。……あ、そうだ。人間界の誰かの影に直接入れ込んじゃえばいいですか」
「人間巻き込むの!?」
「もうしょうがありません」
ミカエルは一切悪びれることなく、そのままサタンの巨躯を人間界の時空の裂け目へと押し込み始めた。身体が引き裂かれ、意識が遠のいていくサタン。彼は必死になって、背後にいるはずの同僚悪魔たちに助けを求めた。だが――。
「金ヅルを……」
「寝よ」
「武器の手入れしないと」
「リア充め……!」
「待っててね! 僕好みの女の子〜!」
「飯…」
誰一人として、時空の裂け目に吸い込まれかけている憤怒の王に手を差し伸べようとはしなかった。
「おぉい!?」
「あーあ、部下にも見捨てられて……」
大天使の哀れみの視線を最後に浴びながら、サタンの意識は完全に途絶え――気づいた時には、外の世界の『仙』という普通の間の人間の魂の影へと、深く深く、油汚れのようにこびりつく形で封印されてしまっていたのだった。
パチッ、と視界が切り替わるように、俺たちの意識は夕闇の山道へと戻ってきた。
ルクスが語り終えたあまりにもグダグダで、あまりにも救いのない魔界の歴史。
俺はしばらくの間、呆然と自分の足元にいる、小さくて可愛い緑色のキメラを見つめることしかできなかった。
「今のルクス丸すぎだろ、なにがあった?」
俺の口から出たのは、そんな純粋な疑問だった。かつてあんなヤンキーみたいにキレ散らかしていた憤怒の魔王が、今では俺のために大きくなって守ってくれている。外の世界で俺の影にこびりついている間に、一体どんな心境の変化があればここまで丸くなれるんだよ。
「無茶苦茶な同僚」
魔理沙は真顔でルクスを見ている。最高位の七大悪魔が全員アホで、大天使ミカエルがハート付きでガバガバな封印をしてくるパワーバランスは、魔法使いの常識を遥かに超越していたらしい。
「哀れなルクスと仙よ……」
一方で、妹紅だけは本当に可哀想なものを見るような目で、俺とルクスを交互に見つめながらポツリと呟いた。
味方に裏切られて理不尽に落とされたルクスと、ただの一般人なのにそこに巻き込まれて「魂の油汚れ」をつけられた俺の不憫さに、本気で同情してくれているようだった。優しい奴だな、本当に……。
『主、そして皆様。これが我輩の過去、そして魂が共有されていた理由です。……まぁ、今ではこの姿も、主の使い魔としての立場も、それなりに気に入っているのですがね』
ルクスは照れくさそうに羽をパタパタと揺らした。
十四話目からの最大の謎だった「ルクス目線の記憶の共有」は、まさかの地獄のオカンと、適当すぎる大天使のせいで起きたもらい事故だと判明した。過去の因縁も明かされ、賑やかな魔理沙も加わって、俺たちは今度こそ、永琳さんの待つ永遠亭への道を笑いながら歩き始めるのだった。
読んでいただきありがとうございました!次回はなるべく早く出しますので、お待ちください。




