『東方仙影譚』第十六話
どうも作者の炙りサーモンです。この作品は東方projectの二次創作です。パロディやメタ発言、作者の勝手な解釈などが含まれます。それでも大丈夫という方は次に進んでください。
永琳さんから手渡された特製の気付け薬は、驚くほどよく効いた。
まだ左腕の包帯は痛むものの、意識ははっきりしているし、自分の足でちゃんと歩ける。
「よし、それじゃあ出発するか」
俺は永遠亭の玄関前で、一つ大きく深呼吸をした。
隣には、普段通りのピカ○ュウサイズに戻ったルクスが、俺の足元にちょこんと座っている。
言葉を話せるようになっても、このピカ○ュウサイズの時はやっぱり可愛い。……まあ、中身は元・憤怒の七大悪魔なんだけどな。
「おい仙、本当に大丈夫なのか? 無理なら私が代わりに紅白の頭を叩き割ってきてやってもいいんだぞ」
大きな藤色のリボンを揺らしながら、妹紅が心配そうに俺の顔を覗き込んできた。
ぶっきらぼうだけど、本当に優しい奴だ。
「ありがとな、妹紅。でも、これは俺とルクスの問題だからさ。ちゃんと自分の口で誤解を解きたいんだ」
「ふん、頑固だねぇ。まあ、そういうと思ったよ。……行くよ、迷いの竹林を抜けるまでは私が案内する」
妹紅は少し嬉しそうに笑うと、ポケットに手を突っ込んで歩き出した。
俺とルクスも、その背中を追って竹林の深い霧の中へと足を踏み入れた。
――しばらく歩き、鬱蒼とした竹林をようやく抜け、少し開けた場所へと出た。
ここからは博麗神社へと続く、妖気の漂う『魔法の森』の脇を通るルートになる。
その時、上空から「おーい!」という元気な声が響いてきた。
「ん? なんだ?」
俺が声を頼りに見上げると、夜空を背景に、大きな黒い三角帽子をかぶった少女が、魔法の箒にまたがってこちらへ急降下してくるところだった。
「うおっと!?」
目の前に勢いよく着地したその少女は、箒からひらりと飛び降りると、一直線に俺の足元へと詰め寄ってきた。
金髪の三つ編みを揺らしながら、俺の足元にいるルクスを穴があくほど凝視してくる。
「なんだその生き物! ドラゴンなのか? キツネなのか?」
少女は目を輝かせながら、ルクスの翼や尻尾に興味津々で手を伸ばそうとする。
ルクスは警戒するように少し身を引いたが、俺は突然現れた不審な……いや、賑やかな少女を前に、思わず困惑してしまった。
「いや、質問攻めにする前にさ……まず誰なのか教えてくれよ」
俺が苦笑いしながらそう言うと、隣を歩いていた妹紅が、あきれたように少女を見つめて口を開いた。
「あ、魔理沙」
「なんだ妹紅、知り合いかよ」
「まあね。こいつは霧雨魔理沙。人間の魔法使いさ。……魔理沙、こいつは仙。永琳のところで手当を受けてた外来人だ。いきなり突っかかってやるなよ」
「へぇ、お前が噂の外来人か!」
どうやらこの少女は魔理沙というらしい。
魔理沙はニカッと快活に笑うと、今度は俺の顔をまじまじと見て、それから再びルクスへと視線を戻した。
「それにしても、そいつは一体なんなんだ?魔法の森の珍獣か?」
魔理沙が身を乗り出して尋ねたその時、俺の足元にいた小さなルクスが、静かにその紅い瞳を光らせて、厳かに口を開いた。
『我輩は我が主の忠実なる従者です』
その小さな体からは想像もつかない、低く澄んだ大音声が響き渡る。
「……従者?いつの間に?」
さっきは騎士って言ってなかったっけ、と思いつつも……。
まあいいや。
自分の命を賭けて守ってくれたルクスが、魔理沙の前で俺を「主」と呼んで胸を張ってくれた。それが、俺にはたまらなく嬉しかった。
俺は痛む左腕のことを一瞬だけ忘れて、ニッと笑うと、魔理沙に向かって言い放った。
「こいつは、俺の自慢の相棒でキツネとドラゴンのキメラなんだぜ!」
どうだ、とばかりに胸を張って言い切る。
外の世界ではただの影だったルクスが、今はこんなにも頼もしく、そして誇らしい。
「へぇ! 喋る上に従者かよ! しかもキメラとは珍しいな!」
魔理沙は驚きに目を見張りつつも、さらに興味をそそられたようで、ニヤリと面白そうな笑みを浮かべた。
そして、俺たちの進行方向――博麗神社へと続く道を見据えて、ポンと手を叩く。
「博麗神社に行くんだろ? 丁度私も行くところだったから着いて行くぜ!」
(あ、すっごい。作者ありがとうこれで保険ができる)
心の中で思わず、本日三度目のメタい感謝を作者に捧げてしまった。
なんと言っても、相手はあの狂った破壊力の『夢想封印』を平気でぶっ放してくる理不尽な紅白の巫女だ。
いくら覚醒したルクスと、実力者の妹紅がついてくれているとはいえ、もしまたガチの殺し合いになったらどうしようと、心のどこかで冷や汗をかいていたのは事実である。
そこに、あの霊夢と日常的にやり合っている(であろう)人間の魔法使い・魔理沙が加わってくれるなんて、これ以上の安全牌はない。
「おいおい、勝手に着いてくるなよ、泥棒猫」
妹紅が呆れたようにため息をついたが、魔理沙は「いいだろ、賑やかな方が楽しいしな!」と気にする様子もなく笑っている。
「いや、俺としては大歓迎だよ。よろしくな、魔理沙」
俺が笑顔で言うと、足元の小さなルクスも、魔理沙に向かって静かに頭を垂れたのだった。
こうして、霧雨魔理沙を加えた俺たちは、博麗神社へと続く山道を並んで歩き始めた。
「なぁ仙、お前がさっき言ってた『外の世界』ってのは、どんな場所なんだ? 変わった魔法道具とかがたくさんあるのか?」
魔理沙は歩きながら、興味津々といった様子で俺の顔を覗き込んできた。流石は魔法使い、未知の知識には目がなさそうだ。
「いや、魔法なんて一つもないよ。車とか飛行機とか、機械が動いてるだけの、普通の退屈な世界さ」
「へぇ、魔法がない世界か。逆に想像がつかないな」
魔理沙がふむふむと顎に手を当てた、その時だった。
彼女の視線が、俺の左耳で小さく揺れるピアスにピタリと止まる。
「ん? 仙、お前左の耳だけにピアスをつけてるんだな。それ、外の世界の流行りか?」
(うっ、またその話題か……!)
永遠亭での、あの永琳さんとのやり取りが脳裏をよぎり、俺は思わず顔が引き攣りそうになった。隣を歩く妹紅が、あからさまにそっぽを向いて、少し耳を赤くしているのが視界に入る。
「あー、いや。ただのお気に入りだったんだけどさ……。さっき永琳さんから、外の世界の古いジンクスで『女性が左だけにピアスをつけるのは同性愛者のサイン』だって聞かされて、今ちょっと恥ずかしいところなんだよ……」
俺が半目になりながら白状すると、魔理沙は一瞬、目を丸くした。
「へぇ! 同性愛者のサイン! 境界を越えてそんな概念が幻想郷に入りかけてるのか」
魔理沙は驚くかと思いきや、むしろ知識として面白いとばかりにニヤリと笑った。
「いいじゃないか、そういうの。幻想郷じゃ人間も妖怪も関係なく、惚れた腫れたで生きてる奴らばっかりだからな。お前が誰を好きになろうが、誰も気にしやしないぜ」
「いや、だから本当に知らずにつけてただけだって!!」
顔を真っ赤にして弁明する俺を見て、魔理沙は「分かってる、分かってるよ」とからかうように笑っている。
俺は少しふてくされながら、自分の左耳に触れた。
「でも、外の世界では普通にファッションとしてだな」
俺はため息混じりに言った。
しょうがない。
今では外の世界でそんなジンクスを意識している奴なんて当たり前にいないし、ただのお洒落アイテムだ。
それに、何より……。
(このピアス、外せないし)
ただの飾りだと思っていたのに、幻想郷に来てからなのか、なぜか俺の左耳からどうしても外れなくなってしまっている。
外の世界の消えかけた概念。そして外れないピアス。
何か不穏な理由があるのか、それともただの歴史の悪戯なのかは分からないけれど、今の俺にはどうしようもなかった。
「ふーん、ファッションか。外の世界の人間ってのは、お洒落にもいろいろと不思議な理屈を持ち出すんだな」
魔理沙はピアスの深い意味までは追求せず、純粋に外の世界の文化として納得したようで、それ以上はからかってこなかった。サバサバしたこいつの性格には、本当に救われる。
「ほら、無駄口叩いてないで足を動かしな。見えてきたよ」
前を歩いていた妹紅が、親指で山道の先を指し示した。
うっそうとした木々の切れ間から、夕暮れの光に照らされた、見覚えのある赤い鳥居がぽつんと姿を現した。
博麗神社だ。遠いなぁ…。
読んでいただきありがとうございました!次回はなるべく早く出しますので、お待ちください。




